少しずつ離れてく
鼻息荒くやって来たガンウッドが俺に向かって手を伸ばしてくる。
はぁー、もー、そろそろ反撃しても良いかな?
そう思って矢を生成しようとした瞬間。
「!」
ガンウッドの手をクレイの盾が遮った。
「なんだこの大男は…、いつ現れた」
「あの、実はずっと居たみたいですよ…」
「は?」
クロイノに跨がったアスティベラートとノクターンがガンウッドの背後に着く。
「特になにもしてなかった奴が自分等の仲間に突然なにしてんだアア?」
「今回はドルチェットに同意」
ガンウッドに狙いを定めていつでも剣を奮えるようにしている気配のドルチェットと、人間に戻っているジルハが横に着く。
ここでようやくガンウッドは今までのようにいかないことに気が付いたのか不機嫌そうな顔になった。
その時、クレイを退けるように功太がガンウッドの前に立った。
功太がクレイを退けたことにガンウッドが嬉しそうな表情になる。
「ガンウッド…」
「勇者様!やはりあなた様は私のみか──」
ガンウッドが言い切る前に、何故か功太が力一杯ガンウッドを殴り飛ばした。
ゴロゴロ転がり止まったところで、ガンウッドは何が起こったのか分からないという風に呆けた顔で功太を見上げた。
功太の仲間も何が起こったのか分からず呆然としている。
ちなみに俺もこんなこと功太がするなんて思ってもみなかったから驚いていた。
ふー、と満足したような功太がこっちを向く。
地味に怖い。
「毎回すまないな」
「いや、いいけどさ…」
作りかけの矢を消して功太をチラ見した。
やっぱり気のせいじゃなかった。
ここに来て功太の顔付きというか、気配が少し変わっている。
何かあったのか。
「ねぇ、なんかあった?悩み事とかさ…」
この世界に来る前はよく俺に相談事をしてきた奴だったから恐る恐る訊ねてみた。
功太はこちらを見ずに。
「別に…。今までのようにしてたら駄目だって気付いただけだ」
そう言うと、功太は何故か俺の仲間を見た。
「いい仲間だな…」
なんで突然そう言ったのか分からなかったけど、空気が重いから冗談めかして「良いだろう?」と言おうとした瞬間、上からパチパチと拍手が響いてきた。
クリフォトだ。
『ふーん、やるじゃない?』
ゆっくり下降していき、地面に降り立った。
扇子を口元に当てて笑っている。
『あと少しで全滅できたのに、ざんねん。まさかあそこで反撃してくるなんてね』
ざんねんという割には残念そうな顔をしていない。逆に楽しそうに笑っていた。
「悔しい?」
『ふふ、いーえ』
パチンと扇子を閉じた。
『でも、今回の聖戦はとっても勉強になったわ、良くも悪くも、ね』
「?」
一瞬クリフォトの視線が明後日の方向へと向いた。
なんだ?
そちらを見ても何もない。
が、ん??
『素材にした魔女の死体も、まぁー、役には立ったけど大したことなかったわね』
その言葉で功太の仲間達の顔色が悪くなった。
というか、え?なに?死体??
『次はもっと強くて面白いの連れてきてあげるわ。覚悟してなさい』
煙のように消えるクリフォト。
静かになった空間には泉から湧き出る水の音が聞こえるのみ。
もう少ししたら強制転送されるだろう。
それまでガンウッドがあのまま静かでいてくれるのが一番良い。
「朝陽、ひとつだけ忠告しておく」
「ん?」
「国は、というか、多分世界中の上の人間ほとんどの奴らがお前の持っているその神具を狙っている」
功太がエクスカリバーを指差す。
「僕達にもその武器の回収が命じられているけど、ソレはお前を選んだんだって理解しているから僕は従わない」
「功太…」
それは助かる。
しかし功太の仲間は聞いてなかったみたいでとても驚いているけど。
今の功太とても恐いから口を挟めないんだろうな。
ていうか、本当なんだな。
功太の仲間達冷や汗だし顔色悪いし。
ドルチェットなんか未だに尻餅着いてるガンウッドに「チッチッチッ」と舌打ちしている。
「でも気をつけて。あいつらはどんな手を使っても君から奪おうとするだろうから」
「うん。忠告ありがとう」
次の瞬間には景色が変わったが、その直前に見えたのは昔の功太の小さな笑みだった。




