厳重体制
町の近くに馬車を停め、クレイはジルハを呼ぶ。
偵察のためだ。
「ジルハ、一緒に来てくれないか?」
「わかりました」
すぐに装備を整えるジルハの後ろで、ドルチェットもやって来る。
「自分は?」
「ここでお留守番を頼む」
「ちぇー」
ずっと馬車のなかで暇そうにしていたから動きたかったんだろう。
ふと見るとノクターンも空を見上げて暇そうにしている。
「ドルチェット」
「ん?」
「せっかくだからノクターンのロエテムを鍛えてやったらどうだ?もちろん壊さないように使うのは木剣で」
そう提案するやドルチェットの表情が明るくなる。
「そうだな!!おーい!ノクターン!!」
ドルチェットがノクターンの元へと向かい、手合わせの提案を始めた。
一方その頃ディラはというと、マーガリンを呼び出し何かを相談していた。
アスティベラードは【影落とし】の練習。
相変わらず自由な奴等だ。
「よーし、さっさと行ってこよう」
北部、外ガイエン・エアーボート街。
名前が長いのはこのエアーボート街と呼ばれるものが複数存在するから。略して言うならば北外エアーボート街かそのまま北外と呼ばれている。
「やっぱり厳重だな…」
「ですね…」
通常ならばエアーボート街は開かれた街で、門番がいても緩いのだが、恐ろしい数の兵隊や教会関係者がうろついていた。
そこを通る人達もそのただ事ではない気配を察しているらしく空気が固い。
こちらもアオゾア国境通過のようにディラに隠れてもらえば良いのだが、問題はそのあとだ。
「中に入ります?」
「入る。前と違う手続きならディラにずっと馬車に隠れてもらう作戦は通用しなくなるかもしれないしな」
現に国境通過の際、あの男は何かしらのスキルを使っていた。
何のスキルかは分からなかったけど、恐らく【探索】或いは【嘘発見】などのものだ。
即座に【誤魔化し】【信用】でなんとかなったが、案の定盗聴機を仕込んでいっていた。
馬車の揺れで自然と外れたように装って道に棄てたが…。
ガントレットシールドを外して折り畳み鞄にしまう。
代わりに出したのはとあるアクセサリーだ。
それをポケットにしまう。
「ジルハ、おれちょっと変装用の物資を調達してくる。ここで待っててくれないか?」
ほんとうはもう使うつもりはなかったが。
「はい、わかりました…けど…」
「ちょうどこの近くにおれの知り合いがいるんだ。ひどい人見知りだから挨拶がてらにな。すぐ戻るよ」
ジルハはそのまま門の様子を観察を継続し、クレイはめんどくさくもその知り合いの場所へと向かった。
近くの町で甘いもんでも土産で買っておけば良かった。
ぐったりとしながらジルハの元へと戻る。
手にはしっかり目的のものを抱えて。
「…くそ…、めんどくささが加速してやがった…」
あれば甘いもんでも駄目だったな。
まぁでも目的は遂行できたし、いいか。
「お帰りなさいクレ──うわっ!どうしたんですか!?殴られたんですか!!?」
「ああ…、ちょっとな…」
レベルが上がったんでそこまで痛くはなかったが、ボコボコ殴られた。
それで気が済んだあいつが潔く交渉に応じてくれてくれたんで良かったが…。
「あの、これどうぞ」
「ん?これディラのじゃないか」
マーリンガンさんの高性能魔法具をジルハがクレイに手渡した。
あまりにも酷い傷でなければ五分の間に完治してしまう恐ろしい品物だ。売るとするならば贅沢しなければ一生暮らしていけるほどの額で売れる程の価値。
「ボクが雨で具合悪くしてたときに貸してくれてたんです。凄いですよね、それ」
そんな危険物をホイホイと他人に貸し出すディラはお人好しにもほどがある。いや。恐らく価値を知らないんだろう。
腫れた場所にあてがえるとあっという間に腫れが引いた。
すぐさま服とカツラで変装すると門へとすすんだ。
何事もなく中へと入れた。
「凄いですね、このカツラ。風が吹いても取れないんですね」
「高い魔法具だからな。汚すなよ」
そう言えばジルハはすぐさまカツラから手を離した。
といってもそれより高いものを手渡してきたんだけどな、君。
一通り巡ってわかったことがいくつかある。
まず、今まで通りの緩い状態ではない。ほぼ全ての通りに兵士がいて、仮面やフードを強制的にむしりとられる。
抵抗すると連行される。
しかも酷いことに馬車は飛行船を使うなら街に入った瞬間に隔離され、次の街につくまで教会の管理物になるらしい。
そうなるとディラは5日から7日馬車にクロイノと一緒に籠っているって?
もし探索系魔法使いに見付かったらどうなる?
おれ達も顔を覚えられたら本格的に動けなくなる。
「これじゃあキツいですね」
「そうだな…。………正規ではいけないかもしれない…。一旦戻って作戦を練ろう」




