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旧・脇役無双~この弓はエクスカリバーである~  作者: 古嶺こいし
この弓はエクスカリバーである

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マーリンガンの奇行

『怯えるな。臆すな。……ふむ』


 ギーメルがノクターンの頬に触れ、さらりと髪を鋤く。


『そうでしたか、元は語り部、そして今は魔術師。しかし、生来は巫女でしょう?』

「…………ぁ、なんで…」


 ギーメルはニコリと笑う。


『分かるのよ、私。女でも教皇ですから。…そうねぇ、本当は不信者を叩きのめせる能力を与えたいけれど…。ふふっ』


 怯えるノクターンの肩にギーメルが触れる。


『貴女は随分優しいみたいだから、これをあげましょう』


 恐怖で動けなくなっているノクターンの肩に触れているギーメルの手が柔らかく輝いた。


「え、これ…」


 ノクターンの目が見開かれる。


『大事に、そして大切に使いなさい…。これは自然では発生しない特別な、私からの贈り物です。でも気を付けなさい。与えられるものは持っているものだけ、絶対に自分を磨り減らしてはいけませんよ』


 ギーメルはノクターンから離れ、椅子へと戻る。


『貴方達は遣えるものではありませんが、特別にあなた方にも一つだけ贈り物をします。神に感謝を』


 呼吸も辛くなるような痛みから解放されていき、突然左手首に突き刺されるような痛みを最後に全て消えた。


「…動ける」


 恐る恐る立ち上がってみた。


 先程の痛みが嘘のように、体は軽く快調になっていた。

 逆に怖い。


『あなた達、左腕をご覧なさい』

「?」


 左腕?


 促されるままに見ると、服の中が軽く透けて左腕に白い菩提樹の葉っぱと渦巻いた枝の刺青みたいなのが見えた。

 確認するや服の透けは元に戻って見えなくなったが。


『それは特殊なスキル、【ギーメルの教え】です。どんなに酷い傷でも、それが例え瀕死状態だとしても一度だけ全てを一番良い状態に戻すことができるもの。しかし、それは他人にしか作用しません。気を付けなさい』

「あ、ありがとうございます」


 なんという棚ぼた。


 ギーメルは再びノクターンに微笑みかける。


『大丈夫ですよ、貴女は間違っていません。最後まで望むままに動きなさい。……ああ、そういえば、そこの異界の子よ』


 異界、俺かな?


「はい」


 ギーメルは真っ直ぐ俺を見ている。


『貴方は唯一、このアウルトの全てのパスを受けました。なので、これはささやかな報酬です』


 目の前に光る玉が落ちてきて突然俺の目の前で弾けて燃え上がった。


「うわあ!!!」

「ディラ!!?」


 同時に体も燃え上がり、クレイが慌てたように消そうとしたが消えない。というよりも。


「熱くない??」


 炎なのに熱くも痛くもなかった。

 クレイも傷付けることなく、俺の様子で危害はないと分かったみたいだが、どうすれば良いのかとおろおろしている。


 そのうちその炎はゆっくりと体に溶け込むようにして消えていった。


『喜びなさい。これで貴方はこの星の精霊との繋がりを得ました。使いどころを誤ってはなりませんよ、その火は破壊と再生の証。その目で見極め、決めなさい』


 火がすっかり消え、クレイは大丈夫かと訊ねてきた。


「うん、なんともない。…どうした?」


 何故かアスティベラードとノクターンが目をキラキラさせていた。

 なんだろう。


『これにて試験は終わりです。愚かな羊どもよ、あるがままに、しかし見誤ることのないよう気を付けて進みなさい』


 空間の輪郭がボヤけ始めた。

 え?今回は戦いはなし?


「あの、戦ったりとかは?」


 つい訊ねてしまったが、ギーメルは呆れたように口許を袖で隠しながら答えた。


『おやおや、この異界の子は好戦的なのですねぇ』

「いえ、あのそういう訳では」

『まぁ良いでしょう。以前来た子も戦うものと思い込んでいたようですし』


 以前来た子って、もしかして功太か?いや、もしかしたら正体不明の赤い髪の人かもしれない。


「あの!その人は、金髪か赤髪でしたか!?」

『いいや、その者は灰色をしていましたよ。ふふふ、私の姿を見て大層驚いていました』

「灰色」


 誰だ。


『ああ、そうです。忘れていました。めんどくさいですが、これも頼まれ事です。手を出しなさい』

「??」


 なんだろうかと手を出すと、なんだか親しみのあるデザインの魔法具が手の中に現れた。


『マーリンガンというものが、あろうことかパスの門番を使って転送してきたのです』

「マーリンガンが!!?」


 一斉にどよめきが起きる。


「そんなことできるんですか」

『愚か者。本来ならできるはずがないものです。今回は多目に見てるだけですので、次やったら何かしら対価を取ります』


 ですよねー。


 頭の中に額に笑顔でピースサインのマーリンガンが浮かんで消えた。

 本当に規格外っていうか予想外の人だよアンタ。


 手の魔法具に紙が細く畳まれて折られている。後で読めってことかな。


 空間はすでに白く霞んできている。


『さて、そろそろお別れです。最後まで生き残れるよう、私はここで祈っていますよ』










 パツンとシャボン玉が割れたような音と共に景色が元に戻った。


 目の前には扉を模して彫られた岩の壁。

 元の場所だ。


「なんだか肩透かしを喰らった気分だぜー」


 大きく欠伸をしながらドルチェットが言う。

 それをジルハが(たしな)めた。


「バカ。むしろ戦わなくて良かったって思わなきゃ。だいたいあの状態で君は動けたのか?」

「…………」


 ドルチェットが黙ってしまった。

 無理だろうね。だって俺も動けなかったし。


「ま、これですんで良かった。なんでか体力もなんもかもを回復させてくれたし、儲けたと思おう」

「だな…」


 クレイの言葉にドルチェットが同意する。


「!」


 ノクターンが静かに自分の手を見ていた。

 何をされたんだろうか。


「ふふふふ。良いものを見た。クロイノよ、あの女に封じられて見られなかったお主に後で教えてやろう。私はまたあの者の伝説に触れたぞ」


 アスティベラードは頭半分出ているクロイノに嬉しそうに話し掛けていた。

 ていうか封じられていたのか。どうりで姿が見えなかったわけだ。


「ディラ」

「ん?」


 クレイが上を指差す。


「ひとまず上に上がろう。打ち上げてくれ」

「オッケー!」

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