パスダンジョン【ギーメル】
下りてきてすぐにノクターンが気分を悪くした。
「なんですか…?この激しい悲しみ…」
「悲しみ?」
怒りじゃなくて?
「…胸くそ悪い。早く行くぞ」
アスティベラードがカツカツと音を立てて門らしきところへと歩いていく。
その後ろに続くドルチェットも苛立った様子。
「なんだかボクら男性陣と女性陣で感じているものが違うみたいです。ディラさんとクレイさんはどんな感じですか?」
「激怒してる」
と、俺。
「怒り狂ってる」
と、クレイ。
「ボクは嫌悪感です。みんな微妙に違うみたいですね」
「何でだろう」
精神攻撃系だったら嫌だなぁ。
「何があるか分からないから取り敢えずディラ」
「ん?」
「昨日選別しておいた魔法具を渡してくれ」
「アイアイサー」
袋から取り出した魔法具を手渡す。
といっても旅に使うものメインだから役に立つとは思えないんだよな。
クレイには回復用の魔法具。
ジルハには光を屈折させて姿を消す魔法具。
アスティベラードには目眩ましの発光弾が出る魔法具。
ノクターンには魔力回復薬を可能な限り詰め込んだ水筒型の魔法具。
ドルチェットには。
「………」
「なんだよ、早く寄越せ」
「……いまいちどれが良いのか考え付かなかったんだよな…」
「は?」
悩んだあげく選んだのがワイヤーが出る魔法具。
一番難しい。
ちなみに俺は適当に弓の先にナイフに変化する魔法具をくっつけた。
基本的にスキルがあるしね。
「ディラ早くしろ」
「待って待って」
ドルチェットに急かされて扉のようなものの前に立つ。
扉っていっても、岩に彫られたハリボテなんだけど、勘がここだと言っている。
「お邪魔します!」
怖いのでノックする感じで弓で戸を叩くと、目の前に『ギーメル』の文字が浮かび上がり、なにか巨大なものが目の前に落ちてきたような衝撃と音で体が軽く浮いた。
『愚かな羊どもよ…』
景色が突然切り替わり、上からとんでもない圧がのし掛かる。
「うっ…!!?」
耐えようとしたが、ますます重みは増すばかり。
「どうしたんだ!?お前ら!」
ドルチェットが困惑した声を上げた。
男性陣が重圧に堪えかねて膝をついて強制的に項垂れる姿勢を取らされている横で女性陣は何もないようで焦っていた。
遂に耐えきれなくて膝を付いてしまった。
視線を落とした床が岩の床ではなく、よく磨かれた黒い大理石の床になっている。
『お主らの中に神に仕えるものは一人だけですか…。なんと悲しい』
何とか顔を上げた。
顔が分からないほど深くベールを被った女性が椅子に座っている。
手には書物。黒と白の柱が二本、遥か上まで聳えている。
天井は見えない。
足元の床には大きな三日月が、白い大理石で描かれていた。
『私はギーメル。ただ一人だけを受け入れ、他を拒絶する。それが理。
それは心静かな者でなければいけません。
それは神に仕えるものでなければいけません。
それは慈しみを持つものでなければなりません。
それは受け入れる器を持つものでなければいけません』
言葉が突き刺さってくる。
なんだこれ、ものすごく痛い。
体中が太い針で突き刺されているような。
「………これか…、ベートが言ってた痛いってやつ…」
気を付けるもなにも、何も出来ないじゃないか!!
てか魔法具も意味ない!!
「……おい、なんだこれ。盾が効かねぇ…」
「マジかよぉ…」
クレイが背中側に盾を出しているがなんの効果も無いらしい。
物理攻撃ではない。
だからといって魔法攻撃でもないのだ。
点穴が見えない。
「お前…、ディラ達に何かしておるだろう!?今すぐ解け!!」
『忌み子よ、そうわめくものではありません』
「!!」
ガクンとアスティベラードの体から力が抜けたように地面にへたりこんだ。
「くそっ!!なんだよ!!」
ドルチェットもか!?
「……ひぃ…」
そんな中でノクターンだけが体の自由が利くらしいが、あまりの恐怖に動けないでいた。
『ほう、貴女ですか。私に選ばれたのは…』
ギーメルが静かに立ち上がり、ノクターンの方へとゆっくり歩み寄っていった。




