この後こっぴどく怒られた。
炎を口から生み出しながらベートは思った。
さあ、どうでる?と。
炎の威力を弱める気はない。
あちらには盾職の人間がいるが、盾が発動している限りこちらに向かって攻撃をしてくることは恐らく無いだろう。
何せこちらに向かって攻撃をしてくるということは、炎の中に身をさらすことと同義だからだ。
だからベートの炎を何とかして消さぬ限りひたすら膠着状態が続くというわけだ。
といっても、そうなった場合、勝つのはベートだ。
なんせベートは此処の主。
魔力は切れない。
切れることがないのだ。
一人を犠牲にして攻撃に転じるか。
それとも魔力切れを信じて願い叶わず全滅するか。
水晶は未だに右手に持っている。といっても体格が大分変わってしまったので、指先で摘まんでいる感じだが。
まぁ、どう頑張っても何かを犠牲にしないことには突破できないようになっているし。
アレフは優しいから簡単に門を開いてくれたようだけど僕はそんなに甘くない──。
ビシリ、と、嫌な音が耳に飛び込んできていた。
「え?」
水晶に矢が突き刺さっていた。
破壊には至ってないけど、間違いなく矢が突き刺さっていた。
「ええええええ!!!? なんで!!?一体どっから!?」
矢が飛んできたと思わしき場所に目を走らせても誰もいない。
魔法を使った形跡も見られない。
それなのに何故矢が飛んできたのか??
オオオ、と、獣の咆哮が響き渡る。
ビリビリとした感覚。
威嚇にも似た咆哮は時として人やモンスターを怯ませる事もできるが、今のベートは生き物としての上位種であるドラゴンだ。
怯みもしないし麻痺もしない。
ただの士気を上げる鬨の声か。
だけど、ベートがそうじゃないと気が付いたのはそのすぐあとだった。
「うりゃあああ!!!」
『!!?』
すぐ目の前に獣人の男が出現した。
しまった。炎を止めてしまっていた。
いや、それにしては早くないか?
こんな短時間で通達できる高度ではないというのに。
下では女剣士が剣を振りかぶった体勢で、こちらを見て笑っていた。
剣にスキルの痕跡。
まさか、人を飛ばしてきたのか!?
獣人は【ダブル】らしきスキルでもって二人に分身し、こちらに攻撃を仕掛けてきた。
しまった!!巨大化しているから動きが鈍くて防御が間に合わない!!
次の瞬間には視界が黒と赤に包まれた。
「ヨッシャアアア!!」
ドルチェットが雄叫びをあげた。
その上ではベートであるドラゴンが痛みに吠えていた。
目の周りの細かい斬擊は先ほど分身したジルハが付けたものだ。
ドラゴンは回復能力が高い。
きっとこの傷も瞬く合間に治ってしまうだろうが、これはただの時間稼ぎにすぎない。
落下していくジルハが、己の分身を足場にベートから離れる。
その瞬間に、ベートのすぐ真下にやって来ていたアスティベラードが照準を定めた。
「やれ、クロイノ」
時間を掛けて魔力を溜めた一撃がベートへと放たれた。
先ほどよりも二回りほど太い光の柱がベートの上半身へとぶつかる。
焼ける臭い。だけど、思った以上のダメージは入ってないように見える。熱に強いドラゴンの特性なのか?
だけど、それすらも時間稼ぎ。
アスティベラードの後ろでは、目的のものへと狙いを定める者がいる。
ギリギリと弦が鳴る。
重ね掛けの【攻撃力向上】【攻撃力増大】【貫通】スキル。
先ほどの【風乗り】で放った矢も、いつもならば岩を破壊する程の威力を持っていた。
なのに、距離があって威力を削がれたとしても刺さったのが先っぽだけであるのを【千里眼/見極め】で確認して、もっと溜めなければいけないと判断した。
矢の連続射撃も考えたが、こっちの方が確実。
「クレイ、結構な反動が来るかも。気をつけて」
「分かった」
ノクターンがクレイの後ろへと避難する。
そろそろか。
限界まで引き絞った弦が、矢が指先から解放された。
その瞬間に全ての魔法やスキルの効果が発動。
矢なのに爆発したかのような音を発して矢が解き放たれた。
衝撃波が三つ、連続で発生して体がバラバラになるかのような衝撃が襲い来る。
まるでロケットだ。
こんなに魔力を溜めた矢は初めてで、あの、ここまで衝撃がくるとは完全に予想外だった。
衝撃波が発生したのち、白い線が無音で水晶を通過した。
その一秒後。
水晶が砕け、ついでにベートの姿が大きく歪み、矢の当たった箇所の壁が破裂し、さらには俺たちまで矢の軌道を始点に発生した衝撃波によって吹っ飛ばされたのであった。




