袖の下
山道を抜け、景色が開けた場所に目的の街が見えた。
ヘバル街。山を削った場所に張り付くように発展した街だ。
「なんだが馬車では移動が大変そうな街だねぇ」
どうやって上下するんだろう。坂道も上がりきれなさそうだ。
ブリタニアスオンラインでは見ない街で、全く想像がつかない。
その疑問にクレイが答える。
「滑車に重り付けて上げ下げするんだと。その重りの数で代金が決まるから、出来るだけ車体を軽くした方がいいんだ」
「ふーん」
「なら鐵馬とロエテムは自力で降りた方が節約になるな」
俺の作ったオモチャで遊び飽きたドルチェットがその道具を置いて言う。
「というかやけに詳しいな。知り合いが住んでいたりしたか?」
ドルチェットの問いにクレイは「まあね」と答える。
「街の入り口は三ヶ所。一番上と真ん中と一番下。今回は真ん中のエリアで宿を取って、ダンジョンへと行くぞ」
フードを深く被り、出来るだけ気配を消す。
コツは、自らを石と思い込むこと。
「いいぞ、通れ」
何事もなく通過。
手配書出ている筈だけど、こんなにセキュリティガバガバで良いんでしょうか?
口から駄々漏れていたその言葉にアスティベラード。
「みんな関心がないからな」
と。
そうだよね。
でも教会連中は探し回っているらしいから気を付けはします。
「馬車は此処に預ける。鐵馬は解体して鍵付き金庫に保管。あとついでに管理人にチップを渡すように」
クレイの指示に挙手。
「チップ??」
「上乗せしておけば安全性は上がる。定価の半額上乗せなんだが、さらにその半分を預ける時、そして仕事が終わったときに残った半額を渡すと伝える。やってみろ」
お金を渡されて、背中を押された。
店の中に入ると引き出しが一杯の部屋の真ん中に受付がある。
「らっしゃい!お預けですか?」
でっぷりと太った男性だ。
「はい。一台お願いします」
「ふーん。おい、チャキ!見てこい!」
「は、はい!!」
店の端で働いていた青年が慌てた様子でやってくる。
「えっと、お預かりのものは?」
「馬車です」
「大きさを見ても良いですか?」
馬車の大きさによって値段が変わるらしい。
店の外に出ると、既に鐵馬が畳まれて箱の中に収納されていた。
「? 馬は?」
「馬はお預けしないので」
「ほーん。ふんふん。小型ですね。この箱は?」
運転手側の腰掛けになるように固定された鐵馬収納箱を指差された。
えーと、クレイはなんて言うようにしろって言ってたっけ?
ああそうだ。
「工具入ってます。修理用の」
「なるほど」
長旅する奴は自分で修理する奴とかもいる。
「じゃ、このくらいで」
クレイの言っていた適正価格。
「では」
その手に提示された金額を乗せ、仕舞おうとした瞬間に店主に見えない位置で彼の裾にチップを入れた。
「!?」
驚く彼にコソコソとささやく。
「…ささやかなモノですが、くれぐれも傷一つなく丁寧に預かってくださいね。受け取りの際に綺麗なままだったらもう半額差し上げますので…」
青年が生唾を飲み込んだ。
「よろしくお願いいたします」
「はい!任せてください!」
すっげー。悪人になった気分。
「お前才能あるな」
「ども」
ドルチェットに誉められたが微妙な感じ。
そんな複雑な感情を溢したら。
「安全や信頼が金で買えるなら買った方がいい」
とのこと。
しかもみんな頷くのよ。どんな殺伐とした世界??
うーん、日本がいかに平和だったか。
「で?なんだかんだ言って同じような手腕で売るんだろ?それ」
手に持ったホップバルーンで作った羽根つきを指差すクレイ。
はいその通りです。
高く売れるのなら売れた方がいいです。
前を歩いていたアスティベラードが足を止める。
「娯楽屋だと」
「子供用の娯楽だったらいいんだけど」
店のなかを覗いてみるとオモチャが置いていた。
此処にするか。
「すいませーん!ちょっと見てみたいものがあるんですけど」
周りのオモチャの金額を見比べつつ交渉を始めた。
手のなかで小銭が音を鳴らす。
なかなかの値段で売れた。
「行って帰ってくるだけで一日掛かるな。宿は取らないでおくか」
「そうだね」
宿代勿体ないし。
地図を広げ、目的地を確かめる。
「行けるなら、近場のここを行って、もう一つの方も行きたいが」
クレイの願望にアスティベラードが呆れる。
「シャールフでさえ2つ潜りは不可能だったのだぞ。無理だ」
「………」
まぁ、願望は願望ということで。
「取り敢えず行こう。気を引き締めてね」




