旅再び
「それではお世話になりました」
「うん気を付けて」
「マーリンガンもギックリに気を付けて」
「変なところで爺扱いをするなバカ者。お前こそ仲間に迷惑かけるなよ」
「へーい」
バイバーイ!とおばあちゃん達とマーリンガンに手を振って出発した。
ガチャガチャと後ろから全身鎧の人形が仲間に加わり、新しい旅のスタートというわけだ。
「ノクターンさん?」
「はい…、なんでしょうか…?」
ここ最近のノクターンの顔が明るい。
自信に満ち溢れていた。
「後ろの人形に名前とかあるんですか?」
「名前…ですか…」
ノクターンは人形を見て、少し考えると一つ頷いた。
「ロエテムといたします…」
「ロエテムってどういう意味?」
「夜空の切り込み…、流れ星の事です…」
「綺麗な名前だね」
「ありがとうございます…」
流れ星か。凄い似合っているな。
「む。私のトクルも素敵な意味であるぞ」
「どんな意味?」
「双子の女神の名前だ。素敵であろう」
「凄いね」
「であろう!」
嬉しそうなアスティベラードの肩にいるトクルがドヤヤン顔。
鳥顔なのに器用。
「取り敢えずそのままダンジョン近くの街にいくぞ。教会が無いのを祈るが、ディラは念のためにフード被っておけよ」
「うーす」
新調した服のフードを被る。
「いや、今じゃない。街についたらな」
フードを外した。
「そういえば金は足りるのか?」
ドルチェットの質問にクレイは首を横に振る。
「正直心許ない。本当なら一つ二つクエストを発注したいところだが…」
「俺だよね?」
問題は。
図星の顔された。
手配書が出回っているかもしれないし、迂闊に動けない。
それでもお金はいるのだ。
「あの、提案なのですが、ディラさんは外で待ってもらってボクらだけで発注とかはどうですか?」
「それでうまくいけばいいが、万が一おれ達も顔バレしていた場合、最悪人質にされる恐れもある」
「めんどうだなー」
本当に教会が嫌いになってきた。
「あ」
「どうした?」
そうだよ。要は俺だって気付かれなければいいじゃん。
「俺、隠密スキル持ってた」
しばし沈黙。そして。
「「早く言え/わんか!!」」
クレイとアスティベラードに怒られた。
三日掛けて森を抜けると、開けた所に目的の街が現れた。
セルスト街。
作りはブルーレインと同じだが、水が豊かなブルーレインとは違い噴水などのお洒落なものはない。その代わり陶器屋が多い印象だった。
近くに良い土が取れる所があるのだろう。
「甘い臭いがする。お菓子があるの?」
「それは家の木の臭いだ」
「そうなんだ」
てっきり美味しいお菓子にありつけるかと思ったのに残念だ。
フードを深く被りつつ【隠密】スキルを発動する。
対象は仲間以外全て。
おかげで影が極限まで薄まって誰にも不審がられない。
「まさかディラさんが隠密スキル持っているとは思いませんでした。でも、弓兵なら持っている方もいるんでしょうね」
このパーティーでの【隠密】スキル保有者であるジルハが嬉しそうにしている。
「ジルハよりは範囲も精度も低いけどね。もしかして【背景】スキルとか出てたり?」
「いやいや、まだですよ。もしそのスキルが習得できればもっと戦いやすくなるんですけどね」
【背景】とは空間に溶け込む事に特化した特別なスキルだ。
このスキルを発動すれば、個を認識できなくなり、そこにあるのが当たり前という洗脳に掛かって視界から除外される最高で最悪のスキルだ。
プレイヤーキル必須のスキルとも言われてたし。
俺も何度かあれで無駄に殺されたんだよな。
でもあれが仲間が持っているのならば最高のスキルという諸刃のスキルなのだ。
俺も欲しいけど、残念ながらあれは【暗殺者】や【斥候】【観測者】などの裏の職業でしか発現しない。
弓兵も会得できれば良いのに、【隠密】などが関の山だ。
それでも確実に【隠密】スキルは効いていて、今のところバレてはいない。
「にしても画像が荒いなぁ」
壁に貼られた俺の手配書を見る。
写真のような絵だ。見る限りこれはこの間のものだろう。首もと血だらけだし。
「通報者には30万マルダ…」
なかなかの金額じゃないか。
と、何処かの漫画の主人公の気分になってみた。
「思ったよりも優秀だな、その【隠密】スキル」
「そりゃボス戦の為に死に物狂いで修得したからね。簡単には破られませんよ」
それこそ【千里眼】とか【見極め】とか、観測系の魔法じゃなければやり過ごせる。
「じゃあ試しに道具屋に行ってみるか。これで大丈夫そうなら街でブラブラしてても良いだろう」
ということで、クレイと共に途中で狩ったウサギと雉を持って道具屋へと行ったら、なんの問題もなく買い取ってくれた。
「よゆーだった」
「でも油断するなよ」
「分かってるよ」
少しだけ膨らんだ小銭袋を持ちながら皆の元へと帰った。
宿を取り、地図を広げる。そして俺の特性地図筒をセットすると、すぐさまクレイが手を使ってズームした。
え、そんなスマホみたいにスワイプできるの?初めて知ったんだけど。
「この街から谷の方へと向かうとマーリンガンのいうダンジョンにつく。潜るものが居ないから鋪装された道がないらしいから、安全そうな所を探して迂回して降りるか、ロープでゆっくり降りていくかだ」
だが、谷には降りられそうな道も、人目でわかる安全そうな所もない。
迂回するなら相当時間がかかりそうだ。
「…2日で降りられるか?」
アスティベラードが地図の谷を見ながら言う。
「盾職の狂人は、地面に叩き付けられる前に地面にスキルを発動するらしいが、残念ながらおれにはまだ無理だ」
「それ聞いたことあるよ。狂っているよね」
でもそれやるやつが結構いるのも事実。
「何しているのだ?」
魔法具の入った袋を漁る。
「こんなときに役に立つものがあったはずなんだよね。あ、これかな」
取り出したのは【地獄糸】という魔法具。
「なんだその見た目の悪いのは」
形が蜘蛛なので見た目の悪いのは認める。
これでロープ出せたら良いんだけどと、スイッチを押して発動させるとワイヤーが出てきた。
これ、糸の太さは調節できないんだな。
「見なかったことにしてください」
袋に戻した。
「せめて飛び降りるにもダメージを少なくできるものがあれば良いんだけどな」
「そんなスキルあんのか?」
皆で思案している最中唐突に閃いた。
「ねぇ、一応俺、そういうことできるスキルあるんだけど、高所恐怖症の人とか居ない?大丈夫??」




