伝説と葉っぱ
クリフォトが降りてきた。
兵士がチャンスだと矢を放つが、何故か矢はバラバラになり、首が一回転して落ちた。
空気が固まり静まり返る。
『まずは、本戦。第一次聖戦、勝利おめでとうというべきかしらね?勇者と盗賊よ』
盗賊…。
『本来なら、ここは強制的に負けイベントになるはずだったんだけど、ちょっとしたイレギュラーのせいでたまたま勝てて良かったわね』
え?負けイベントなんてあるの?
センスを口に当てながらクリフォトがため息をついた。
『まったく、完全に見落としていたわ。盗賊という役職が勇者と同じ舞台に立つなんて変と思ってたのよ』
「何を言っているんだお前!」
後ろに引っ張られていた功太が複数の兵士を腕や腰にぶら下げながら戻ってきた。
ちょっと面白い。
『ナーマスダルフォンがやられてしまった以上、負けイベントにできなかったわ。でも、どうにかシナリオ通りにしないといけないのよね。勇者を一度殺すっていう。
あと、こういう変な脇役の奴もちゃんと役に嵌め込んでおかないと』
いや、本気で何を言っているんだ?
『幸い、ちょうど条件は揃っているし』
クリフォトがこちらを向いた。
『楔も打ちたいから、貴方、ちょっと一度死になさい』
クリフォトがそう言い終えると同時に、背中と胸に凄まじい衝撃が走った。
「ガフッ……」
…ええ?まって何この胸から突き出た白いト…ゲ……。
「ディラ!!!!」
「朝陽!!!」
意識が消失する直前、アスティベラードと功太が俺の名前を呼んだのが聞こえた。
ん?
唐突に意識が戻った。
だが、一面真っ白な空間で、マーリンガンの洞窟に来たのかと思った。
「…おーい!」
試しに声を出してみたが、どこにも響かない。
戻ったわけでは無いだろう。
戻るとしたらアスティベラードと一緒のはず。
「そういえば」
胸を確認したが、何もなっていない。
訳がわからない気持ち悪い。
本当に何もないのかと思って後ろを振り向くと、吃驚するくらい大きな木が立っていた。
真っ白な、空間に溶け込むような大樹。
その下に、誰かいた。
「うわ、びっくりした」
誰もいないと思っていたのに、居たときの驚きはヤバイ。
少しビクッとしたもん。
でも人がいるっていうことは此処から出る術がわかるかも。
「すみませーん!ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが!」
その人のもとへと駆け寄ると、なにか違和感。
でも何が違和感なのかわからない。
男性だった。黒髪の日本人みたいな感じ。ソレにしてはモデルみたいに背が高いし筋肉も凄いけど。
「あの、もしもーし?」
無言。
無視されているのかな?ちょっと寂しい。
「………」
男は無言のまま俺を見ると、ゆっくりと俺に手を差し出した。
その手には葉っぱ。
恐ろしく光輝く葉っぱだ。
訳もわからず首を傾けると、男の口が開かれた。
「俺が気付いたときにはもうどうすることもできなかった」
なんの話ですか?
「君と俺の性質は似ている。だから託せると思う」
「あの、何の事ですか?」
「この葉を食べれば此処から出られるが、その代わり聖戦のシステムに囚われる事になる」
男はあらかじめプログラミングされたキャラクターのように何も映さない空ろな瞳で俺を見ながら話し続ける。
「本当の敵はずっと目の前にある。どうか間違えないでくれ。俺のようにはなるな」
葉っぱを受けとる。
「あの、貴方は誰なんですか?」
答えてくれるか分からないが、問い掛けてみた。
すると、男の瞳がわずかに揺れた。思い出すかのように。
「俺は、シャールフと呼ばれた、ただの人間の残骸だ」
シャールフ!?
「君は、俺よりも強い。きっと君なら、この下らない戦いを──」
全てを言い終える前にシャールフは消えた。夢だったのかと思うくらい呆気なく。
だけど、手には葉っぱが残っている。
「………」
食べれば此処から出られる。だけど、システムに囚われる。
「…でも、出ないわけにいかないし。なんとかなるだろう」
葉っぱを齧る。
その瞬間、からだ全体を何かの力で満たされた。
「ディラ!!目を覚ませ!!!」
再び目が覚めると泣きじゃくるアスティベラードと、こちらを覗き込んでくる仲間達がいた。
やっぱり遅れてきたのか…。ん?違うな。
俺達が戻ったのか。




