何かがおかしい
ふっ、と、ナーマスダルフォンの頭のリングが高速回転し、それが一気に広がって空を覆っていく。
「夜になった…」
広がっていた青空(といっても何故かくすんだ色だったけれど)が夜空へと変貌したのだ。
すご。このモンスター、自分の得意な条件を自ら発現できるのか。
意図的に夜にしたってことはきっとそういうことだ。
『さぁ、よいこは眠る時間ですよ。寝ない稚児は母が美味しく食べてあげましょう』
ナーマスダルフォンの口が大きく開かれた。
「ん?」
口の中に宝石みたいな核が見えた。
お?もしかしてあれが弱点か?
げぇ、あそこまで上がらないといけないのか。
キイイイイイイイイイ、と甲高い音がする。
光線か?
いつでも避けられるように身構えた。
だけど、その音は突然四方八方へと霧散した。
「え?」
なんだ?
「ぎゃああああ!!!」
「!!?」
功太の方から誰かの悲鳴が上がる。
「なん──!!」
首筋に凄まじい痛みが走る。
『キキキ、美味い美味い…』
背中に誰か張り付いている。
あまりの痛みに創造した矢で突き刺そうとするとそれはすぐに離れた。
確認するとソレは人の形に近くなったハーピーだった。
口許は赤く染まっている。
いったい。首痛い。肉えぐられた。噛まれた箇所が燃えるように痛い。
『その血、覚えたぞ…』
そう言うやハーピーはサリリスダルフォンの方へと飛び上がっていく。
周りのハーピーも同じように人間の肉を咀嚼してはナーマスダルフォンの方へと飛び上がっていく。そして、信じられない光景を見た。
近くに来たハーピーをナーマスダルフォンが鷲掴むと、それを口に運んで噛み砕いたのだ。
ゴリゴリバリバリ。
ごくん。
すると、ナーマスダルフォンの功太の攻撃によって赤く爛れていた脚が治っていった。
「これは、ヤバイな」
フレンドキルで回復できるのか。
首から血が流れるのを手で押さえながら考えた。あのハーピーはやっぱり全滅させておけばよかったと。
もしかして吸血鬼ってあれの事だったのか。
ポケットを探るも目的のものがない。
「あれ?あ、そうだ今持ってないんだった」
治癒の魔法具はアスティベラードの所だ。
「アイツが勇者だから、メインストーリーの主人公だからって引き立てようとしたけど、これは無理だな」
【千里眼/見極め】【千里眼/見通し】
悪いけど、個人プレイさせてもらう。
弓をつがえ、射った。
矢は途中で【雨状放射】で分裂し、周りのハーピーごとナーマスダルフォンの上半身に攻撃を加えた。
『ぎゃ…』
初めてナーマスダルフォンが小さく悲鳴を漏らした。
一本目に突き刺さったらしい。ザマーミロ。
『母は、母が母を母に母に母に母に母に母に母に、ハハニ、テヲアゲマシタネ。セッカク顔ハコノミダカラ“母”ニシテアゲヨウトシタノニ、ワルイコハイリマセン』
「!!」
髪が全て蛇になった。
それが一斉に襲い掛かってきた。
落ち着け、ちゃんとやれば倒せるはずだ。
体のスレスレを蛇が通過していく。身を捻り、撃ち抜き、穴を開け、凍らせ、そして駆け上がりつつ顔に狙いを定めて矢を射った。
『ああ!!また!!また母に手をあげてっ!!』
顔を狙われるのが嫌らしい。
『いい加減になさい!!』
翼がはためかされた。
吹き荒れる暴風に体が飛ばされないようにする事しかできない。
もうほんとこれ嫌い!!
「あああ!!」
功太の声が。
光の帯が回転し、片翼を切り落とした。
『ぎゃああああ!!!あああああ!!!』
身を捩り叫ぶナーマスダルフォン。
飛び上がって来た功太が近くに着地した。服に血が付いているが、怪我をした訳じゃなさそうだ。
「お前には色々聞きたいことはあるけど、まずはこれを倒してからだ」
「…そうだな!」
気まずさはまだ少し残っているけど、ようやく協力してくれるらしい。これで、安心して弓を引ける。
「口の中に弱点がある。どっちがいくか?」
「前回は僕に譲ってくれたからね。今回は朝陽に譲るよ。補佐は任せて。君が引き付けてくれていたおかげで仲間にたくさん補佐魔法を掛けて貰ったから、ね」
「おーけー!!」
功太の剣が金と茶色に輝いていく。
ブリテニアスオンラインの武器の特徴はそれぞれに仲間を遠くに飛ばす機能が付いている。タイミングや加減が難しいが、功太とは長い付き合いだ。
「来い!!」
「おうさ!!」
距離を取り、功太の構えた剣へと飛び乗った。
功太がスキル【人間ロケット】を発動。
「おりゃあああああ!!!!」
打ち上げられた瞬間、衝撃波。体に襲い来るGがスキル効果で掻き消された。
『悪い子悪い子悪い子だわ!!悪い子は母が食べて中に閉じ込めます!!反省なさい!!』
飛び上がってくる俺に向かってハーピーが襲い掛かってくる。だが。
射ち放った矢がハーピーを射ち落としていく。
功太の指定した目的地に到達した為、バシュンと【人間ロケット】の効果が消えた。
口が大きく開かれ、飲み込まれる。
暗くなった視界に、突然宇宙空間のような景色が広がった。
上と下から格子のようなものが飛んでくるが、そんなの気にも留めずに目の前の核に集中した。
結界が張られているが、そんなの関係ない。
エクスカリバーに意識を集中し、射ち放つ。
結界の表面に矢じりの先が突き刺さった。間髪いれずに全く同じ場所。寸分たがわずに射ち込んでいく。二発。三発。
ヒビが広がる。
四発五発。
矢じりが埋まる。
そら、終わりだ。
六発目で矢が核を射ち抜いた。
『があぁぁああああぁああッッーー!!!稚児が母を殺め……────』
ボンと景色が元に戻った。
いや、ナーマスダルフォンの頭が弾けとんだ。
ボロボロ崩れて消えていく。
砂になって、さらに砕けて溶けていく。
『…ふん。なるほど…』
黒い砂は消えた。
「穴も小さくなってきた」
あれが完全に閉じたら元に戻るだろう。
「朝陽!」
功太が駆けてくる。
そういえば話がどうとか言ってたな。
なんとも言えない顔で、瞳が不安げに揺れている。
そのすぐ後ろに功太の仲間達もやって来た。
ルカと呼ばれていた子が怪我をしていた。ああ、あの子の血か。
「勇者さま!!」
ガンウッドの声を無視して功太が更に近付いてくる。
「お前…、たくさんの人を殺したっていうのは本当なのか?」
思考停止。
「え?」
何ソレ知らない。
そんな俺の表情にはてなを浮かべる功太。
「お前が拉致されたって聞いた奴。俺が聞いた話だと、朝陽の活躍の報告を知った王が僕と同じように召し上げようと遣いをやったって、それなのに朝陽が額に見たことのない呪いを掛けて他の者達を弓で射殺したって…」
なんだそりゃ!!?
いや確かに額に肉とは書いたけど!!
「待ってなんの話!!?俺は突然毒を盛られてガチガチに拘束されてれんこ──「勇者様あぶない!!!」
クロイノが実体化して突進してきた。
「ディラ。無事だったのだな!」
クロイノの上にはアスティベラード。かっこよい。いいな、それ。
「なんだこのモンスターは!!」
ガンウッド達が功太を引き離しながら武器を構えた。
功太が何かを話そうとしているが掻き消されるくらいに罵られる。モンスターを連れて頭おかしいとか、さすがは人を殺してものうのうと生きているだの。
棚上げすぎて正直引く。
てかどさくさ紛れに強姦の冤罪も聞こえたんだけど気のせい??
そんなガンウッドにアスティベラードが遥か上から冷たく見下ろす。
「ディラがボスと戦っている最中、後ろでただ震えていた子ネズミ共が何をほざいておる」
凄まじい美貌と圧力に思わず後ずさるガンウッド。
いえーい!アスティベラードさん流石だぜ!
クロイノから降りて更ににじり寄ろうとするのを止める。
待て待て待て。
功太も頬を赤らめながらも怯えちゃっているからストップ。
「だいたい貴様ら、はじめからこちらの話も聞かずに」
「!!? アスティベラード!!」
瓦礫から光るものを見て慌ててアスティベラードを押し退けると矢が飛んできた。
弓で打ち落としたが、危ないじゃないか!しかも完全にアスティベラードの心臓を狙っていた!!
「勇者様の敵だ!!」
「離れてください勇者様!!どうか我々にお任せよ!!」
「この人殺しめが!!死んで償え!!」
わらわらと瓦礫の影から生き延びたらしい兵士達が現れてきた。
「貴様ら…」
アスティベラードから殺気。
もう、俺は功太と話したかっただけなのに。
『醜いな、人間ども』




