シャールフ勇者伝★
クレイが考え込んだ。
「お前が嘘つく感じはしないからな。まぁ、信じるぜ。実際服を赤くして戻ってきたんだ。それに嘘つくメリットも無い」
「そんなので得するの当たり屋くらいだよな」
賠償金のアレ。
「馬に轢かれて得って、相当なドM野郎だな」
と、ドルチェット。
そうか此処では賠償金ないのか。文化が違ったな。
「ていうか、前の勇者伝にもこういうことあったって言ってたよな」
「うむ」
アスティベラードが力強く頷く。
「子供の時より何度も何度も読み返したゆえ、間違いない」
同じく頷くノクターン。
「あの…ワタシもアスティベラードの意見に同意します…。本当に…、本が擦り切れるまで読み返しておりましたので…」
「余計なことを申すでないわ。あほう」
「はい…すみません…」
凄いなアスティベラード。
相当なシャールフファンだ。略してシャールファン。
「本当に聖戦と言ったんですか?その、えーと」
「クリフォトだ。クリフォト」
「そう、クリフォト」
確かに聖戦と言った。
「後はー、なんかシンショクがどーたらとか。ワケわからんかった」
その言葉にクレイが盛大に溜め息をついた。
「こりゃ本物だな」
「ですね」
「だからさっきから私が言っておろう!」
「ディラ。本当に勇者伝を知らないんだな。子守り詩の方もか?」
「全然全く存じ上げません」
アスティベラードからの情報のみです。
「はぁー、えーと、ノクターン?」
「はい…?」
突然クレイに話し掛けられて挙動不審のノクターン。
「職業、魔術師だけど前職業は語り部だったよな?」
「……お恥ずかしながら…、夜の語り部でございました…」
「まだ物語は覚えているか?」
「ええ…、骨の髄まで染み込んだ物語は忘れる事はありません…」
「悪いが、ディラに語ってくれないか?子守り詩の方でいいから」
「わかりました…」
スス、とノクターンが身嗜みを整え始めた。
「え?俺これから子守唄聞かされるの?子供じゃないのに?」
「いいから聞けって。もしかしたらお前にとっての予言になる可能性もあるんだから」
えええ。怖いなぁ。
「それでは…、……すぅ…」
ノクターンが静かに語り始めたのはシャールフという一人の男の話だった。
昔々の大昔。
ここにいる誰もが産まれる前のお話。
世界の中心にある世界樹セフィロトに、六つのリンゴが実りました。
キラキラ光るそのリンゴは、世界を渡す鍵なのです。
世界が“かえる”その時に実る聖なるリンゴです。
セフィロトの民はこれをもぎ取り、リンゴを鳥に変えて飛ばしました。
リンゴが選んだ国はジャパル。
砂漠の中のオアシスに作られた黄金の国でした。
リンゴが選んだ国で勇者が喚ばれます。
喚ばれたのは一人の青年でした。
鐵の髪に黄金の瞳。
弓に選ばれた彼を人々はシャールフと呼びました。
シャールフは鷹のように遥か先まで見通し、放った矢は岩も砕き、遂には島喰らいと呼ばれる砂漠の主を弓矢一つで真っ二つ。
勇者、シャールフは聖戦へと赴いた。
瞬きの間に終わる聖戦は世界を懸けたものでした。
勇者が負ければ土地が死ぬ。
そうはさせぬとシャールフは、神具を集め、仲間を得た。
一つ二つと涙を飲み。
三つ四つとで力を得。
五つ六つとで人を越え。
七つ八つとで技を極め。
九つ十で世界を巻き込み。
最後の聖戦に至った彼ら、もはや人ではありません。
神の代行者と誰かが言った。まさしくそうだと頷いた。
そんな彼らと渡り合う敵も弱くはありません。
勇敢な勇者、シャールフは、己の命の矢を作りあげ、敵に向かって放ちます。
矢が真っ赤に燃え上がり、大きな火の鳥となりました。
火の鳥は真っ直ぐ飛んでいき敵の胴を貫きました。
敵の影さえも燃やし尽くし、世界の危機は消えました。
ああ、ついにシャールフがやったと人々は喜びましたが、シャールフの姿がありません。
そうです。シャールフは火の鳥となって敵を貫いたのです。
勇敢な勇者、火の鳥となったシャールフ。
彼の魂は鳥となって空を翔ているのでしょう。
「……これにて…、御仕舞い……」
……………。
アスティベラードを見ると、目をつぶって物語の余韻を味わっていた。
他のみんなも、ああ、これこれ。という感じで聞いている。
やめてよ俺なんかをシャールフと同列にするのやめて!ハードル高すぎる!!
「これ、実話?」
「実話と言われている。何せシャールフが敵の女神を燃やし尽くしたといわれる跡があるからな。大きな谷が未だに燃えておるのだ。メラメラと」
「あー、自分それ知ってるぜ。シャールフの谷だろ?元々は深淵覗きの谷って言われていたところ」
「今は像が建ってるよね」
シャールフの。と、ジルハが付け足し。
「お前の話を聞くと、その聖戦とやらが本物の可能性はありはする。ただおれが不信感ありありなのはお前が勇者ではないのに参加しているっていう点だ」
クレイの指差し。
「本当に接点無いのかぁ??」
うーわ、クレイの目にハッキリと『隠し事してんだろ?吐けやオラ』と書いてある。
えー、でもこれ関係あるの?友達ってだけだぞ?
それか一緒に召喚された件とか──
「うおっ!!??」
いつの間にか目の前にアスティベラードと黒いのが俺を覗き込んでいる。
「貴様、嘘をついているのはバレバレだ。全て顔に出ておる。吐け、今すぐ」
「………」
こわいこわいこわいこわい。
冷や汗めっちゃ出てくる。
「それとも後ろのこやつに無理やり吐かされたいのか?」
あ、むり。
「実は勇者と一緒に召喚されました。そして勝手に勇者の武器引っこ抜きました」
潔くゲロった。




