鐘の音
「そうか!そうか!見えておるのか!!」
どうしたって言うくらいの素晴らしい笑顔。
今日一日の不機嫌顔が嘘だったのかと思えるほどの。
褐色の肌に墨色の髪、恐ろしい程整った顔から生まれる笑顔は素晴らしいものだ。それが自分に向けられているものだと思えばこれ以上ない喜びだろう。
「………みえてます。こっちめっちゃ見てますよね」
だけど、小さい虫を観察する猫のごとくアスティベラードの後ろから覗き込んでいる黒いのが気になって正直それどころではない。
「どうだ?こやつを見てどう思う?」
「どうって…」
「可愛かろう!」
黒いのを見る。
…かわ…いい??
アスティベラードの期待に満ちた目。
黒いのに視線を移す。
頑張れ俺。こういうときはまず見方を変えるんだ。
シルエットで判断。シルエットで判断。シルエットで判断。シルエットで判断!!!!
「猫っぽいですよね…。羽のついた…」
「!!!」
アスティベラードの周りにキラキラの幻覚が見え始めた。
正解か?
「~~っ!! さすがはシャールフに似た男!! のう、本当の名前はシャールフとかではないのか??」
「違います違います」
ディラも違うけどシャールフはもっと違う。
「アスティベラード…さすがに無いです…」
ノクターンさんいつからそこに?
「いつからそこにいた」
「…わりと、初めから…」
影が薄すぎて気が付かなかったのか、それともそういう魔法を使ったのかは知らないけれど。
「……」
その事にアスティベラードはムスーと不機嫌になり、地面を蹴り始めた。
拗ねてんのかな。
「そんなのわかっておるわ…。ただ、ちょっと期待しただけだ。 …はぁ、つまらん。私は戻る」
そういうや俺とノクターンを残してアスティベラードが居酒屋へと戻っていく。その間、黒いのが俺を見ながらアスティベラードに付いていくのが、本当にちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
その時、アスティベラードの肩に乗っていたトクルが俺に向かって来た。
目の前で「ケイケイ!!」と威嚇され、アスティベラードへと飛んでいく。
なんなんだよもー。
「あの…、アスティベラードが失礼しました…」
藤色の髪のノクターンが俺に頭を下げた。
アスティベラードよりも黒い肌がまだ震えている。
「シャールフって、誰すか?」
「ワタシ達の国に伝わる…素晴らしい英雄の名前です…。シャールフ・アルチェ…。砂漠の主を矢一つで二つに裂いたと言われる…、前勇者です…」
なんでまだそんな凄い方と俺を結び付けたんだか。
「前勇者?」
「…? あまり伝承はお読みになりませんか…?」
「いやぁ、無いですねぇ」
ここに来て一月経ってないもので。
「アスティベラードは…、その…事情は明かせないのですが…結構複雑で可哀想な人なのです…。どうか…、嫌わないで貰えませんか…?
後ろの子も含めて…」
見えているんですよね…?と付け加えられた。
あ、やっぱりこの人も見えているんだ。
「あれなんなんすか?」
「ワタシもよく分かっていないのですが…、呪いの様なものです…。でも、アスティベラードが命令しない限りあの子は動きません…。とても怖いですが…」
「ものすごく同意」
でも。
「最後なんか猫っぽいと思ったら可愛く見えてきたし。嫌いにはならないですよ」
多分ね。多分。
「ありがとうございます…」
ノクターンと一緒に居酒屋に戻り、アスティベラードを見るとフルーツを食べまくってた。
不機嫌顔に戻っている。
が、俺を見ると若干表情が柔らかくなった。笑いを堪えるような、変な表情。
それに気付いたクレイがアスティベラードを見て「!!?」となっている。
「で?どうすんだ?明日以降もこのパーティーで活ど──」
ドルチェットが肉に満足し、芋に手を伸ばしながら話している途中、突然鐘の音のような物が聞こえてきた。
その瞬間、全ての音が消えた。
「え?」
なんだ?景色が。
「森!!?」
何故か森の中に一人でいる。
なんで!?俺今みんなと居酒屋にいたはずだぞ!!?
──キャアアアア!!!!
──誰か助けてくれええええ!!!!
悲鳴!?
「…なんだ、あれ…!?」
空に大穴が空いている。
その中から大量の何かが放出されていた。
「うわああああ!!!!」
茂みから傷だらけの男性が飛び出してきた。背中に気持ちの悪い生き物がしがみつき鋭い爪で傷つけている。
これは訊ねなくても分かる!
すぐに仕留めないと!!
「!? 矢が…っ!」
しまった矢筒を置いてきた…。くそ!!
すぐさま弓を棒状に変え、男性の元へと駆け寄る。
「失礼します!!」
背中に張り付いている気持ちの悪い餓鬼の顔面に叩き込んだ。
「ピギャアっ!!」
首が後ろに折れ曲がって餓鬼が背中から外れた。
地面に落ちてもバタバタと暴れている。
「気持ち悪っ!」
すぐさま弓で餓鬼の胸と頭を潰す。
するとようやく動きが止まり、酷い臭いを放つ泥へと変わった。
「なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ…っ」
なんなんだこれ!!
「はっ!」
男性は!?
ガチガチと震えながらも俺を見るなり頭を下げて「ありがとうございます…ありがとうございます…」とお礼を言っている。
「何があったんだ?」
奥歯をガチガチ鳴らしながら男性が答えた。
「わからない…、突然鐘の音が空から響いてきたと思ったら、空からたくさんのアレが沸いてきて、襲い掛かってきたんだ」
アレとは、さっきのやつだろう。
見た目的にはブリテニアスオンラインで通称コバエと呼ばれている攻撃力の低い低級モンスターだけど。
それにしても怪我が浅いとはいえ広範囲だ。
今まで使うことの無かったマーリンガン製の治癒の魔法具を取り出し翳すと、傷が塞がっていく。
そこでようやく安心したのか、ハッ!と男性が突然顔を上げた。
「あの、すみません!!まだ村の中に家族が!!妹が取り残されているんです!!助けてください!!」
「あの中にか!?」
空からどんどん降ってくる餓鬼。
心なしか悲鳴が多くなってきている気がする。
「分かった。あなたは此処にいてください!出来るだけ茂みに隠れて、動かないように!」
エクスカリバーを掴み、悲鳴の方向へと駆け出した。




