VTuber事務所の社長は脅迫状が送られてくる
そして羽衣石さんの退職の手続きを社員に進ませることにした。彼女が退職する理由も分かって、それを応援すると決めた以上はもう引き留める理由はない。
「社長」
その呼びかけで倉掛の表情を始めて確認した。倉掛はいつもより真剣な雰囲気で、これから彼女が口にすることはそれほど重要なことを嫌でも感じさせた。
「…どうしたの?」
「脅迫状が届きましたので、警察に対応して頂くことにしました」
「…脅迫状か…」
別にない話ではなかった。会社がそれなりの大きさになれば、脅迫状が届くことも少なくないと思っていた。
本当のところはどうなのか、分からないけど、僕に脅迫状が届くのは珍しい話ではない。特に僕が刺されて入院した日ぐらいから脅迫状は届いていたらしい。
副社長や倉掛はこれ以上、心配を掛けないために秘密裏に対処してくれていたらしい。僕がそれを聞いたのはここ数日の話。
「まぁ…偉くなると恨まれることも全然あるだろうしな」
「逆恨みです。誰が何の目的でこんな脅迫状を送っているのかは分かりませんが、これまで以上に社長に身辺には警護を厚くします」
「え…危ないのは分かるけど、これまで以上に行動を制限される?」
「もちろんします。脅迫状にもしっかりと記載されている通り、犯人の目的は社長に対して危害を加えることです。それなのに社長が好き勝手に動いてもらっては困ります」
「そ、そうだけど…」
「社長がどのように考えようと私があなたをしっかりと管理します。二度とあなたに危害を加えられないように」
まぁ…そうなるよね。
脅迫状が来たからといって必ず、何かをしてくるとは限らない。でも、逆にもちろん何かしらの方法で危害を加えて来る可能性もある。
ここで脅迫状に関する話は一旦切り上げて、別のことについて話すことにした。
「話は変わるけど、羽衣石さんの卒業に関する打ち合わせは進んでいる?」
「はい、担当者からは「明後日にでも卒業に関することをSNSで発表し、最後の日にはLIVEも予定しています」と」
「そうか。話し合いが無事に進んでいるのであれば問題ない。羽衣石さんのやりたいことを最優先にしてこれからも話し合いを続けてと伝えてくれ」
「承知いたしました。そのように伝えておきます」
羽衣石さんのことで僕がしてあげられるのは、やり残したことがないように全てをやらせてあげることだ。多少、金銭が掛かることであっても彼女の最後であれば目をつぶる。
それに全てをやらないと、次の道へと切り替える時に変なしこりを残すかもしれない。それだけは避けてあげたいから。
「ここまで会社にたくさん光景してくれた。だからこそ、会社としては最後の最後まで彼女のやりたいようにやらせてあげることだから」
「…そうですね」
その後はこれからやる予定の大型企画や会社のことなどの報告を受けた。
「これで以上になります」
「そうか。毎度、ありがとう」
「礼はいりません。これが私の仕事ですので」
いつも話が終われば、倉掛は扉の方を眺める。だけど今はずっと僕の方に視線を向けている。
ということは何か、僕に対して話したいことがあるということだ。
「どうしたの?」
問いかけに対して、倉掛は瞬きを数回だけした後に話始めた。
「社長は羽衣石さんと話したんですよね?」
「話した。カフェで一対一で」
「その時に羽衣石さんは何と言いましたか?」
「新しい夢というか、やりたいことができたから辞めたいと」
「そうですか。社長はそれを聞いてどう思ったんですか?」
「どう思った…って…社長としては受け入れるしかないよ。彼女が新しい道に向かって歩んで行こうと決意しているだから。ここで引き留めるような真似はさすがにできない」
「社長、個人としては残って欲しいけど、社長としてはそれを受け入れるべきだと」
「そうだね。あくまで僕は社長だから。これからも一緒に働きたいけど、新しい道を進みたいというのであればそれを受け入れるのも役目だと思っている。彼女自身のことで辞めるのなら仕方ないと受け入れる。もし、それが僕のこと会社のことなら絶対に止めるけど」
僕の言葉を聞いて、倉掛は「そうですか」とだけ呟いた。
なんでこんなことを倉掛が問いかけてきたのかは分からないが、彼女は無駄なことはしない。何か意味があるのだろう。
それにしても脅迫状のこと、羽衣石さんの件と色々と忙しいな。




