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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第8章 燈火の星
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第10話 タッグチームとは

「お命を頂戴いたす」


「不憫なバケモノだ。娘に調教されて性格まで変わっちまって」


 フジ・カケル/アブソリュート・アッシュ 身長一七四センチメートル 体重六七キログラム BMI 22.13

 VS

 松田将門/アブソリュートマン:XYZ-マウンテン・エンカ 身長二八〇センチメートル 体重五〇〇キログラム BMI 63.78


 おぉ……大地を揺らし、疾走する大地! アブソリュートマン:XYZ! マウンテン・エンカ! その体重差は約七倍! だが、メジャーリーグにおけるイチローは、王貞治の圧倒的パワーによる通算本塁打の1/7程度しか本塁打を放っていないが約十一倍の盗塁数を誇る! パワーがすべてではないのだ!


「セエアッ!」


 華麗なフォームのレッグラリアットがカウンターで喉笛に炸裂! だが動かざること山の如し! そして動けばスケールは地殻変動! 上半身を傾けるだけでバスケットボールのブロックじみてフジは地面に叩きつけられ、山が舞った。


「マウンテン・スプラァーッシュ!」


 天地回転……いや、地と地に挟まれたフジ・カケル! 将門はダッシュの勢いをつけて跳躍し、そのままボディプレスを狙っているのだ。


「ッ……」


 膝剣山……。普通の相手ならば膝を立てればカウンターになる。だが硬質の肌と歩くだけでマンホールを跳ね上げる重量では膝が耐えられない。じゃあバリアーの杭を立てるか? ……賢明ではないだろう。そしてもう回避は間に合わない。


「あああ! くそったれ!」


 バリアー展開! 弾力を持たせたハニカム構造バリアーの緩衝材で自らを包み込んだ。

 ぷちっ。


「セエエエエエエ!?」


 五〇〇キロの山が墜落した衝撃で丸の内線、総武線、中央線が緊急停止し、瓦礫が近くのビルの三階程の高さまで舞い上がって窓を汚した。衝撃波で防護フェンスは暴風に晒されたように変形し、やがてネジが吹き飛んで分解された。

 地形が落ちてきて地形が変わった。


「……」


 将門が体をあげると、そこにフジ・カケルはもういなかった。特大のボディプレスとバリアー緩衝材の反発によって地盤に穴が空き、フジは御茶ノ水の地下水路へと落ちていったのだ。そして、その穴の近くに立った将門も無事ではない。脆くなった地盤に巻き込まれ、同じように暗い水路へと落ちていった。


「返せなかったらここで終わりか」


 フジは覚悟を固めた。今、無防備に落ちてくる将門。この好機に対し何も出来なければ負けるしかない。体格差を理由に隙だらけの敵への攻撃を躊躇していては何にもならない。姉貴、狐燐さん、プラ叔母さん。みんな小柄なのにメチャクチャ強い。あのマインだって……。

 一七四センチ六七キロは決して大きな体ではなく、アドバンテージにはならない。だが鼎と協力した増量を、ブレイズとの戦いで見出した技を、立派な体で使いこなす。


「セエアッ!」


 万有引力と空気抵抗に任せるまま、重心がバラバラで落下していた将門の中のベクトルがすべて揃った。そしてその矢印は急カーブを描き、汚れた水の中へ強か叩きつけられた。設計者であるみゆきの想定以上のインパクトにより、硬質の背中にぴしりと小さな亀裂が入った。


「……よし」


 何が起きたのか? 答えは簡単、投げたのだ!

 フジの守りを支えるのはゴア族カンフー守りの奥義。超能力を用いない近接戦闘において鉄壁だが、その鉄壁を盾に攻撃を受け流し、アブソリュート拳法で投げる技術……。現状ゴア族カンフー守りの奥義とアブソリュート拳法の両方を修めている人物がフジしかおらず、さらに守り主軸の中で見出したカウンター技術の奥義……“合気”!

 将門の体重五〇〇+フジの体重六七に、落下の勢いとフジの筋力を加算して投げ飛ばす!

 成った! これにより、フジの防御技術はより盤石に!


「厄介だな」


 クレーターの縁で深淵を除いていたみゆきは舌打ちした。フジ・カケルにはΔスパークアロー、カミノフルとそれなりの技があるが、近距離戦においては守り偏重で決定力に欠けていた。今の合気もフィニッシュホールドにはならないが、合気に腰が引けて距離を取れば光の矢を放ちやすいし電撃の槍を投げやすい。


「セエアッ!」


「ザオラッ!」


 互いに一度は水の中を転がっている。そして立ち上がり、交わす拳は飛沫を飛ばす。

 青の戦士の飛沫は素早く鋭く突き刺さり、着弾点でクラウンになる。それが一打分のモーションで五か所発生! それを受けても全く動じぬ動く山はどっしりと拳をハンマーじみて振り下ろし、地面を殴ると土俵じみた汚水の冠が描かれた。


「セッ!」


 パンク状態の時は効果テキメンだったローリングソバットは、派手に敵を濡らすだけで技の反動でフジが弾かれ、ばしゃんと上半身から水に突っ込んでしまった。好機と見た将門は走り込み、再度のマウンテン・スプラッシュを狙う。この体勢、この距離、この体格差……合気で返すにも限度がある。フジは余裕を持って離脱し、ハイジャンプで地上に戻って矢を番えた。


「Δスパークアロー!」


 地上から地下水路まで一直線に落ちる稲妻はエレベーター表示じみて降下しながら空気を焼き、貫かれたマウンテン・エンカは皮膚に含まれる鉱物と電撃が反応して電球めいて発光し、石のように光のない目で射手を睨みつけた。電撃が効いているかどうか確かめる術はなかった。


「あのウスノロは上がって来れねぇんじゃねぇのか? それともまたお得意のタイプチェンジか? なぁ? バカ娘」


「これはタッグマッチだよ七光り。そっちのタッグパートナーが早々にダウンした役立たずなだけ。わたしにはこれがある」


 みゆきがビッとポージングすると汚れた水がフジのつむじを打った。見上げると、そこには地下水路と直結された穴……ポータルだ。娘がポータルを開き、父を運んでみせたのだ。


「マウンテン・スプラァーッシュ!」


「バカの一つ覚えめ。もう当たらねぇぞ」


 フジは余裕を持って回避し、意地とメンツで将門はこれ以上タイプチェンジしないとやや危険な博打を打った。鈍重な相手は無理に向き合わねば躱すのは容易、今はすべての起点になるみゆきを倒すべきだった。


「セアッ!」


「フィリアッ!」


 切れ味鋭い足刀が出迎え、フジはみゆきもパワーアップしていることを認めた。努力もしているし、そもそもこいつは精神状態が正常ならばシンプルに強いとしか表現出来ない程強い。格闘、超能力、挑発。ジェイドをモデルに再定義された新世代型の万能アブソリュートマンだ。理想と精神さえまともなら伝説になれるアブソリュートマン。そう惜しまれるところも、くしくも母マインと同じだ。

 フジの攻撃は次第に後手に回り、みゆきの手数と前向きにかかる重心が増えていった。押されているのだ。

 だがフジは合気が成ったことで自らの体重移動もはるかに巧みになった。後退で生じた後ろ向きの矢印を巧みに旋回させ、下半身から上半身への移動で向きを変える。そして!


「セエアッ!」


 投擲のようなフォームで渾身のパンチを撃ち込むのだ!


「セガ……エエエ……?」


「ありがとう、パパ!」


 突然目の前に将門が現れた。足音も気配すらもなかった。そして不意に出現した山の将門を思いきり殴ったフジの拳に痛みと熱が発生。おそらく骨に損傷が生じている。痛みに呻きながら足元を見ると、ドクロマトリョーシカの縁取りのポータル……。つまり、みゆきはポータルを使って父を転送し、身代わりにしたのだ!


「俺様の名前を言ってみろ!」


 フジは負傷を気取られないように配慮しながら吼え、瓦礫をバリアーで金継ぎして作った幾分美化された自分の胸像を将門の脳天に落とし、ようやく将門のモヒカンがぐしゃりと折れた。だがこの状態で合気が使えるかはいささか不安だ。馬鹿げた救いだが、巨体ファイターでもディエゴ、ディグニー、頑馬のように一二〇キロ以下の相手ならば使えただろう。だが将門から感じた重さは三〇〇キロ超。よっぽど場が整わなければ決まらないはずだ。


「セオラッ!」


「アシェ……?」


 ここからはみゆきに接近してもあのバカ娘はポータルで父を盾や武器に使う。加えて負傷。フジは電撃重視のプランに変更し、将門目掛けて雷撃を落としたが聞こえたのはタッグパートナーの虫の息の呻きだった。


「犬養……?」


「電気をただの都合の良い武器だと思ってない? 違うんだよフジ。電気は高いところに落ちる! 電気は伝導体を流れる! そしてわたしの展開する棘荊(キョッケイ)は鉄! 棘荊で避雷針を作れば、あそこに閉じ込められているイツキちゃんのところに電気が流れるって訳さ!」


 あそこと指さされた鉄のイバラの繭。イツキはまだ出てこられないようだ。そもそも内部がどうなっているのかもわからない。有刺鉄線めいたイバラに全身を拘束されているのか、内部は空洞なのか。だが、少なくとも不用意な電撃はタッグパートナーを害してしまう。


「Δ……」


「おっとフジィ……。避雷針に誘われないような強念力なら避雷針よりも推進力なんて思っているなら大間違いサァ。すでに! 半径数十メートルに張り巡らされた棘荊は、接地した状態で電撃が発生した瞬間からすべてをイツキちゃんのところへ送る! でもそろそろ必要かもね? 心臓マッサージの電気が……」


「……」


 フジは電撃混じりの光の矢を解除し。目を閉じてしばし考えた。

 将門には打撃が通らない。合気で流しても決定打にはならないし、負傷した手では合気も難しい。電撃は封殺された。

 みゆきを攻撃しようにもそもそもイカれた強さの上に二八〇センチ五〇〇キロの鉱物をポータルでぶん回す大馬鹿野郎(オオバカヤロウ)だ。

 そして自分の考えが甘かったことを恥じた。イツキをタッグパートナーと認め、切磋琢磨してきた。だが今の自分はイツキが自力でこの苦境を打破出来ると微塵も計算していない。イツキと共に技を磨き、タッグパートナーと呼んでいるのに連携のことは何も考えていなかった。一番大きな敗因はチームワークだったのだ。……ここで負けるなら、敗因はそうだろう。ここから勝てれば反省点に留まる。


「ブッ殺してやるぜ、XYZ」


 フジは負傷した左手にバリアーの包帯を巻き、XYZを倒す決意を新たにした。


「やっちゃってよ! パパ!」


 将門はまたもや愚直に突撃! そしてフジはローキックを撃ち込んだ。当然山は崩れない。だが、みゆきによる調律が不完全なXYZ……もしくはこの形態は、この状況、つまり足元に敵がいればこの技を選ぶようアルゴリズムめいているのだ。


「マウンテン・スプラァーッシュ!」


「ハイいただきィ!」


 躱して背に飛び乗り、顎に手を回して……。背筋の限りに背を反らす!


「キャメルクラッチィ!」


「ザオ……オオオ!?」


 打撃が効かないならば関節技! 手綱を思いきり引かれた駱駝(キャメル)の如く将門は反り、柔軟性に欠ける皮膚がバキバキと割れ始めた。だがマウンテン・エンカの持ち味は硬さと馬鹿力! 関節技を受けに回れば弱点と化す硬さよりも馬鹿力が上回り、背筋vs背筋の対決は徐々に将門が押しはじめ、体勢が戻っていく。


「よかった……」


 みゆきは安堵し、指を立てた。親指と人差し指、二本の指が描くVの字。そこから穢れた白の呪いが発射される。


「君を過小評価していなくて本当によかったよ、フジ。ヴァーチウム光線!」


「過小評価だろうがッ!」


 キャメルクラッチを諦めて跳躍し、援護射撃のヴァーチウム光線をバリアーで防いだフジは再び将門に騎乗! こうも密着されてしまうとポータルで父を救うことももう出来ない。青の戦士は瞬く間に敵の両腕をチキンウイングで極めながら圧倒し、人体の都合上抵抗のしようのない一方的な攻撃に将門は痺れた。


「パロ・スペシャル!」


「ザ、ザオ……ザァアアア!?」


 まずい、これはやられる……。関節の向きがフジにとって有利過ぎる。みゆきは父の初実戦で性能を確かめつつある程度の成功体験を植えるつけるという目的を諦め、目玉の短剣アンクラウンを抜いた。その時だった。


「アシャアアアアアアア!!!!」


 棘荊の繭を素手で引き裂き、聖女イツキが羽化した。爪の間に刺さった棘は綺麗なそれを剥がし、白い肌は赤い肉と黒い血、青い腫れでズタズタになっている。そういえば聞いたことがある! イツキの二人目の師匠アブソリュートミリオンは、挑発や被弾といったトリガーすらもなく唐突にブチギレ、技巧も何もなくただひたすらに、むやみやたらに敵を攻撃し始める癇癪持ち。その癇癪がイツキに遺伝されてしまったのだ。むやみやたらは真似出来ない。そういう性格なのだ。


「アシャアアアアアアア!!!!!」


「それでもまだわたしを倒すには至らないがね」


 棘荊の繭から飛び出してきた聖女にジャンピングボレーキックを見舞ってフッ飛ばした宿痾の子は父の様子を確かめた。ちょうどクライマックスだった。


「セオラァッ!!」


 バキィ!

 将門の両腕の骨がパロ・スペシャルで完全に破壊された。そして痛みで気が遠のき、将門は顔面から地面に突っ込んで動かなくなり、ぷらりぷらりと両腕が力なく垂れて動かぬ墓標になった。


「もうくたばったのかチキン野郎。クリスマスにはまだ早いぞ」


 みゆきは頭を抱えた。


「ピーィギィィィィィィィィィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!?????????????」


 この世のものとは思えぬ悍ましい絶叫を発し、宿痾の子は得物を地面に叩きつけ、頭を掻きむしりながら地面を転がって身をよじり悔しさに悶絶した。完全に正気を……いや、ヒトとして最低限の体裁すら喪失して赤子でもやらない駄々をこねたのだ。もやは戦意はなかった。人間としての思考力すらないのだ。


「よくやった、犬養」


「……ありがとう」


 ほとんど傷のないフジ、傷だらけのイツキ。それでも戦いの趨勢を決めたのはフジだった。


「マジで思ってるぜ」


 ただ、反省点はある。


「いつぞや姉貴も言っていた。あいつらでもまだまだ強くなれると。なら俺たちはもっとだ」


 “VSバイオレット・カンパニー 総力対抗戦”

 1stステージ 第1・2試合

 〇フジ・カケル & 犬養樹イヌカイ・イツキ(パロ・スペシャル)松田みゆき & 松田将門●

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