第61話 蒲田行進曲
銀褐色の輪が開き、中からいかにも裕福でモラトリアムな女子大生……みちかめいた背景を想起させるお嬢様風の女性と、全身をシンプルに固めた質素な女性が現れた。
お嬢様風の女性……望月鼎は恐れるように薪悟から意図的に視線を逸らし、斃れるみちかの様子を窺った。もう一人の女性は薪悟を一瞥した後にみちかに歩み寄り、彼女が触れるとみちかの呼吸は安定した。治癒能力だ。
「ブレイズさん」
「誰だ?」
「犬養です。上野の地下でお会いしましたけど」
「あの派手な怪盗の人?」
「普段のわたしはユニクロオンリーのコーディネートです。むしろこっちが本当のわたし」
塩や水のようにさらりとした飾り気のない美貌、表情。だがその目は不器用に何かを訴えかけてきた。やがてその顔は激しい渋面となったが、自分に対する嫌悪感は感じ取れなかった。
「ここからが正念場ですよ」
「残る相手はディエゴ、フジか。確かにハードだ」
「違います。トーチランドという組織をご存知ですか?」
「トーチランド……。知らないな」
「リーダーはアブソリュート・マイン。昔わたしが属していた組織です」
「あぁ?」
マイン。マインの存在が明るみになったのはこの一年余りだが、調査が進むにつれてその悪辣さが周知されていった。特に薪悟やみちかのような若いアブソリュートマンにとっては、マイン亡き今でもアブソリュート最大のスキャンダルと認識されている。悪のアブソリュートマンなどいないはずだったのにいた。むしろマインの存在そのものよりも、悪のアブソリュートマンはいないと主張してきた自分の種族の欺瞞……そうした体制への怒りと反抗、不信は若者の習性や特権のようなものだ。
「トーチランドが解散した後、わたしは大阪の通天閣にてかつてトーチランドで親友だった人と戦いました」
「君が勝ったのか」
「勝ちました。……そこからですよ、辛いのは」
勝利による完全なる断罪。自分が正義であるというお墨付き、相手に反論を許さない徹底制圧。それにより得られる自己肯定感、陶酔は凄まじい絶頂を伴う。フジがウラオビ・J・タクユキ、金田一蔵之介を倒した時はそうだっただろう。
因幡飛兎身はウラオビや金田一級のド悪党だったが、彼女を倒してもイツキは辛いままだった。一応は名義上の正義に鞍替えしたイツキの罪悪感、マインが死んでもなおマインを継ぐべく悪事を重ねるヒトミ。イツキはまだ勝利による絶頂を経験したことがない。あのDD興業オスカーに勝利しても彼の美学を否定しつつも一定の理解を示した上に自分の勝利を肯定出来ない。敵の無念、変わる自分。これは本当に辛いことだ。フジにタッグパートナーと認められ、ミリオンに愛弟子と可愛がられ、メッセら探偵に全幅の信頼を置かれて鼎に許されてもなお、未だに通天閣から落ちていく瞬間のヒトミの顔を夢に見る。
「……」
薪悟もイツキの言わんとすることを察した。じゃあみちかが勝てばよかったのか? 今、戦いが終わるや否や鼎とイツキがみちかのために現れた。薪悟は鼎とイツキのことを良く知らないし、みちかから聞いたこともない。Z飯店が解散したこの数十日でここまで慕ってくれる友達が出来たのか? みちかの勝った辛さにもこの二人は寄り添ってくれたのだろうか? じゃあ俺には誰がいる? 勝ったのは俺なのに。
「これでいいんだ」
孤独で強くなったことは正解ではないとフジもみちかも言っていた。一方で誤りと断ずることもなかったが、邪道のやり方なのだろう。一方でフジは葛藤が人を強くするとも話した。孤独、葛藤。自分には誰がいる?
彩凛……。彩凛に対する未練、依存はある。だが彩凛に慰めてほしいとか励ましてほしいとは思わない。彩凛は薪悟とみちか、両方の肩を持つ。それにフられたのは自分の責任だ。だから彩凛によくしてもらえる権利はない。……ないのだ。
「薪悟……」
「みちか」
「おめでとう」
意識の戻ったみちかはぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら悪鬼の形相でそう告げた。悔しくて悔しくてたまらない。出来ることなら今すぐにでも再戦したいという表情だ。鼎とイツキ、二人のブレーキがなければ実際みちかはそうし、死ぬまで続けただろう。
「わたしの敗因は……。基礎の不足……。そして結局はZ飯店への想いが強すぎたからだ」
イツキに肩を貸され、機能しない右足を引きずってみちかは退場していく。
「彩凛のことも、Z飯店のことも……。わたしはまだ、孤独を糧に強くなるという薪悟を肯定することは出来ない。やっぱりそんなの悲しすぎる。でも既に薪悟は孤独で自分を強くするという自己定義をZ飯店と彩凛抜きで済ませている。わたしは……結局Z飯店最強というもう存在しない集団での自己定義と、彩凛への恩返しを目的に戦っていた。だから勝てなかった」
指摘されたら辛いから、とでも言うようにみちかは虫の息でまくしたて、時折嗚咽を漏らしながら涙で澄んだ顔の血を拭った。ただの女の子だった。二人も友達が来てくれたおかげでもう戦士としての仮面が必要ないのだ。
「薪悟」
「なんだ?」
「またやろう。次は勝つ」
そのみちかはぼろりと糸の切れた人形の如く力なく崩れ、急遽鼎に支えられた。あれだけ綺麗で高級そうなお洋服の鼎は血と泥で汚れるのも厭わずみちかを支えたのだ。そしてみちかを突如手放したイツキは表情を戦士のものに一新し、構えつつ右手で腰に触れて顔をしかめた。武器を持ってきていなかったのだ。
「キエエエ……」
みちかを支えたまま奇声を発し、歯をガチガチと鳴らして恐怖する鼎の反応は鏡。自分の背後に何かいる……。薪悟が振り返ると、そこには巨大な何かが立っていた。そして頭上には学校の身体測定で使う身長測定器じみた横棒が突き出していた。
「ディエゴ・ドラドデルフィン」
完全に丸腰のイツキは右足を高く振り上げてマサカリじみて振り下ろして踏み鳴らし、現状使える唯一の武器であるゴア族カンフー攻めの奥義の精神的スイッチを入れてこめかみに冷や汗を浮かばせた。負傷したみちか、薪悟で勝てる相手ではない。当然イツキ一人で勝てる相手でもない。イツキの中にある選択肢はたった一つ。自分が時間を稼いでみちかのポータルで全員に逃げてもらい、その後に自分は自分のポータルで逃げる。それだけだ。
「ナイスファイトだったぜ」
暴君はキューバ産の葉巻を五本同時に咥えてガスバーナ―で火をつけ、軽薄に手を叩いた。そのリーゼントは以前程高くは感じなかった。余裕の軽薄というよりも虚勢。鈍感な薪悟でも見破れたし、DD興業倒産のニュースは知っている。だからこそ怖いのだ。ヤケクソになったディエゴがすべてを道連れに消えようと思えばフジもメッセも旧Z飯店メンバーもみんな殺される。元よりディエゴはケダモノだったが、今は野卑で別の意味で危険なケダモノだった。
「今は嬢ちゃんたちに用はねぇ。消えろ。俺はブレイズに話がある」
「……」
「消えろ」
ブレイズは殺されるのだろうか? だがそこまではもうイツキの手に負える範囲ではない。抵抗することなく大人しくポータルを開き、ガチガチに震える鼎とディエゴにすら噛みつきそうなみちかをすぐに千歳烏山の自室に送った。
「いいのか? みちかも犬養さんも攫う予定だったんだろう?」
「やつらの優先順位は低い。テメェに話がある。……いや、特にはねぇ。だが晩飯でも付き合わねぇか?」
「今の俺がメシや酒を楽しめるように思えるか? さっきまで肩に剣が刺さってて歯にヒビが入ってる」
「フッ……」
「何がおかしい」
ディエゴはサッとリーゼントを撫でた。……。ディエゴの手の動きに応じてリーゼントの光沢や空気の孕み具合が変化する。今までのリーゼントはまるで金属だった。リーゼントの強度が下がっている。そしてリーゼントはディエゴのテンションによって強度が変化する。彼なりに、DD興業倒産は堪えたのだ。
「フジ・カケルvs紅錦鳳落を知っているか? あの戦いでフジは紅錦の手の甲に噛みつき、そのままぶん殴られて一気に歯が三本も抜けた。殴られまくって全身ボロボロになりながら紅錦に勝ったフジは、その後に現れた碧沈花とラーメンと海鮮チャーハンとビールをやった。口から血をぼどぼどにこぼしながらな。あぁ、そうか。じゃあ次はいつテメェとメシを食えるかわからねぇな。俺を倒さなきゃテメェはフジと戦えねぇのになぁ?」
「わかった。行く」
「よし。ラーナ、適当な所へ送れ」
ブーツストラップを象ったポータルが開いてまずはディエゴがくぐり、薪悟が続く。開いた先からはじんわりと温泉のように嗅覚にしみ込むオツな香り。焼鳥屋だった。上を見上げるとアーケード。
「蒲田か」
「蒲田じゃ不満か?」
「不満じゃない。俺たちがよく集まっていた赤羽と空気が似ている」
ただ、ゴージャス好きのディエゴやラーナらしくはないチョイスだと感じた。DD興業のオフィスは六本木の超高層ビル。毎晩六本木や赤坂に繰り出していたはずのディエゴが庶民的な蒲田というのは意外だった。自分に合わせたとも考えづらい。
「親父、空いてるか?」
「あぁん!?」
「ヒ、ヒエエエ……」
焼鳥屋の親父は縮み上がって幽霊のように青い顔で後ずさりし、何かに躓いてがちゃんと音を立てた。女将さんはカタギとは思えない眼光でディエゴを威嚇し、すぐにでも包丁を手に取れる位置に移動した。上野での件、DD興業倒産のニュースは思った以上に社会に知られているようだった。
「最低限のマナーを守ってくれるというのなら、空いてる席に座りな」
「フッ、こういう時に女は強いな」
ディエゴが籐の椅子に座り、テーブルを挟んだ向かい側に薪悟も座った。リーゼントはテーブルを横断し、もしディエゴが何か食べるために頭を下げたら薪悟に当たったことだろう。そうだ。つまり、ディエゴ・ドラドデルフィンは誰にも頭を下げないのだ。
「乾杯だ」
「どうも」
ホッピーとホッピー。割れた歯に酒が染みる。以前のステーキ屋では遠慮してしまった薪悟は、奢ると言っている人間、それも大人に遠慮することこそメンツを潰すのだと今になってようやく理解した。まずは失った血を補うべきレバーを頼み、後はディエゴが適当に注文した。みちかのアッパーを食らった顎で肉を嚙み切るのはだいぶ骨が折れた。
「悪くねぇ戦いだったぜ。ハァ……。テメェはマインを知っているか?」
「マインについて知らないのはむしろ俺だけなのか? 今日だけで二回も聞かれたぞ」
「マインはいい悪党だったぜ。見た目はガキすぎて、そそられるだけで犯罪になっちまうくらいの若作りだったが最低のクソババアだ。やつには随分とキャッシュで出資してもらったよ。それでDD興業もデカくなったし、配当も随分返したが……。マインの資金源は偽札作りだったからあの金が本物だったのかもわからねぇ」
「マインはアブソリュートマンを憎んでいたのか? マインもアブソリュート人のはずなのに怪獣やゴア族とばかり関りを持ち、俺たちアブソリュート人はマインのことを一年半まで存在すら知らなかった」
「やつはむしろアブソリュートマン大好きばあさんだぜ。やつは初代アブソリュートマンを信仰していた。文字通りの信仰。初代以外にアブソリュートマンはいらないとまで思っていた。だからマインは初代を超えて最強になっちまったジェイドをブチ殺して初代をこの世の最強最正義であると再定義しようとし、初代が唯一会話するミリオンへの嫉妬で狂ってミリオンとその子供まで皆殺しにしようとしてた」
「俺は……そこまでは思っていない」
だが、確かに薪悟も初代の信仰者だった。初代を模倣した無様なファイトスタイル、初代が無口だから自分の無口も正当化される。もう順番はわからない。初代が無口だから自分も無口になったのか、自分が無口だから初代を信仰したのかもわからないのだ。初代アブソリュートマンという歴史に燦然と輝く金字塔に毒されているという点ではマインも自分と同じ穴の狢なのかもしれない。
「そのマインによると、理想のアブソリュートマンの定義は強いフィジカルで敵を圧倒し、カッコよさを備えた技を一つか二つ、あとは喋らず敵を倒せ。……だそうだ。塩レスラーだな」
「俺のことじゃないか」
「テメェも塩だったもんな。ただしさっきの勝負は相手が良かったし、テメェの必死のパッチが拮抗した感じを演出出来ていた。ただしチャクラムが一発も当たってねぇのは残念だ。俺も塩みてぇなもんだ。王様気取りで最強すぎて、DD興業でディエゴ・ドラドデルフィンは無敗。誰も勝敗を気にしねぇ。挑戦者がどれだけ食らいつけるかだけだ」
らしくない自虐。最強気取りの王様気取り。かつてのZ飯店における自分のようなアトモスフィアを感じ取った薪悟は、自分の心境に驚くような変化を感じた。まさか、共感や同情しているというのか? あのディエゴ・ドラドデルフィンに。災害じみた大怪獣、自分勝手で傍若無人な暴君。間違いなく悪と断ぜられる悪党だ。そのディエゴは確実に弱っている。
まず、イツキとみちかを攫わない理由として優先順位といった。優先順位とは選択を迫られた時につけるものだ。いつでもすべてを選べて手に入れられるディエゴの辞書に優先順位なんてものはなかったはずだ。そしてDD興業の倒産により六本木でも飲めず、無敗の怪物は部下が敗れたことで倒産という社会の仕組みに半殺しにされている。その境遇に同情と共感を覚えたのか? そうだ。Z飯店が解散し、かつての仲間だったみちかに挑まれた。それは辛いことでもあったし、負けたみちかのもとにはすぐに友人が現れたことに嫉妬した。ディエゴは部下が負けたせいでDD興業が潰れた。同じだ。同じ孤独だ。今となっては自分の孤独を分かってくれるのはディエゴだけとも思ってしまうくらいに孤独に苛まれている。そしてディエゴは、他人から簡単に共感されるような人間は凡人といっていた。強くなった自負、ディエゴの弱化。まだ差はあるが、目線が近くなっているのだ。
「じゃあ俺がガチで挑んだら?」
「……」
「俺とガチでやりませんか?」
ジョッキを持ったままずいっとディエゴの方へと上体を詰め、顔を覗き込んだ。さっきのみちかと同じく、戦士でも暴君でもないただの男の顔だった。負けたことのない男……実際には大昔にアブソリュート・キッドに負けているが、ディエゴはそれすらも誇っていた。誇れない負けを喫したのははじめてだったのだろう。あまりにも長く、高く積み過ぎた勝利の塔。それが崩れてしまったのだ。落下の衝撃も激しく、瓦礫も重いことだろう。
「弱いディエゴ・ドラドデルフィンじゃ困るんですよ。俺はディエゴ・ドラドデルフィンを倒し、実力を証明したら挑戦を受けてやるとフジに言われているんです」
「……疲れちまったんだよ。たった数日だ。DD興業が潰れてたった数日。あのカス共……。スティング、シャオシャオ、オスカー……。カス共め。残っているのはラーナだけだ。そのラーナもいなくなってくれたらDD興業のことなんて綺麗さっぱり忘れ去ることが出来たのにな。何度も消えろと言ったのによ」
「ラーナさんは世界一いい女なんでしょう?」
「まぁな」
「じゃあ手放そうとするのがおかしいんじゃないですか? あんたとラーナさんでオオカミ王ロボとブランカなんでしょう? 頼みますよ、ディエゴ・ドラドデルフィン」
「そのオオカミ王ロボの最大にして唯一の弱点がブランカだっただろう」
「弱点の一つや二つで倒せるのがディエゴ・ドラドデルフィンですか?」
「テメェ……。さっきから挑発してんのか? マイクパフォーマンスも塩レスラーだな」
ラーナ。オオカミ王ロボの妻ブランカ。王者の威厳が唯一通用しない存在。やっぱり女性は強い。ディエゴはラーナ以外にも愛人や女はいると明言していた。今ではそんな女性たちと遊ぶ金も体力もないだろうが、それでもディエゴのそばで愛し続けるというのがラーナの、二重の意味での報いなのだ。今は上下関係が逆転し、ディエゴはラーナの尻に敷かれている。
……彩凛を恨むつもりはない。だが自分のもとから彩凛は去った。だから今の自分は上野でスティングに勝利し、フジに共闘を許され、ディエゴに大ダメージを与えた。みちかにも勝てた。そして今、ディエゴはラーナからの愛ゆえに弱っている。もしもディエゴのもとに誰も残らなければ、失うものも過去のしがらみもない魔獣としてディエゴは再起していたことだろう。
やはり、孤独が人を強くするのだ。ディエゴに共感や同情することも間違っていた。
だって、ディエゴにはまだラーナがいるじゃないか。
「それでも乗ってやるよ。ああ、わかったぜ」
「ただしガチでやってくださいよ」
「ああ、ああ、わかったわかった」
投げやりな返答。……これ以上落胆させないでくれ。だが、腐っても鯛だ。薪悟もまだディエゴに飲まれている。敵として強大すぎる程に強大、フジに挑むための通過点に過ぎないのに、薪悟もかっこよくて強いカリスマチャンピオン、ディエゴ・ドラドデルフィンの姿を求めている。
「明々後日、大みそか。芝公園はどうだ?」
「わかった」
タフガイぶった薪悟はぐいっとレバー串を横に引き、一気に丸ごと全部食べた! ディエゴに強い姿を求めるだけではダメだ。自分もそれなりの誠意を示さなければならない。そしてディエゴもそれを感じ取ったようだった。
「フッ……フッフッフ。ザ・ディエゴ・ドラドデルフィンが、ザ・ブレイズを、芝公園で泣かせてやる。しばこう、エーン! ってな」
「くだらな」
この時、芦屋薪悟は本当に不覚をとった。弱さでも強さでもなく、人間としてのディエゴ・ドラドデルフィンに親近感を持ったのだ。強いことを求められないからこその強さ……。もしかしたらディエゴは、気が弱っているだけで戦闘能力自体は下がっていないのかもしれない。
「じゃあ今度はマジで面白いものを見せてやろう」
ディエゴは飲みほしたホッピーの大ジョッキの縁をすべて口に密着させた。子供の時分に薪悟もやったことがある。あのまま口で息を吸うとジョッキは口に吸いつき、丸い跡が口の周りの残るのだ。
「ドドアッ!」
パァンッ!
ディエゴは逆に息を吹き込んだ! 常軌を逸した肺活量により、一瞬にして凄まじい空気圧がジョッキを襲い、内部から弾け飛んでガラス片になり、粉砕されたパーティクルと同時に店内に飛散した。すかさず女将が飛び出て、二人の退場を宣告した。ディエゴは自慢のクレジットカードではなく現金で支払い、悪童じみて笑っていた。
「出禁になっちまった。次の店、行くか?」
「いや、今日はもう体がキツイ。だが大みそか……」
大みそかは自分がボロボロにしたディエゴに付き合ってもらう。……ではダメなのか? わからない。孤独を糧に強くなることが正しいのかどうか、その答えはきっと大みそかに見つかるはずだ。
「楽しみにしておく」




