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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第7章 アブソリュートマン:ニュージェネレーションスターズ
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第58話 芦屋薪悟vs淀川みちか

「お前とこうやって過ごすのははじめてだな」


「そうだね」


 もうちょっとかっこよくしようよ、と彩凛に選んでもらったスタジアムジャンパーとジーンズ、ツーブロックとちょっとイカついヤンキー風の恰好のブレイズ。

 とにかくオシャレ好きでオリーブ色のモッズコートにホットパンツ、ワークブーツにシニヨンとロンドンの不良娘風のロゼ。何より彩凛がこのコーディネートを褒めてくれた。

 どちらも若者の煩悩に甘美すぎる程に応え、すべてを満たす原宿では自然な組み合わせだ。


「彩凛以外とデートするのははじめて?」


「そうだ」


「潔いね」


 変わらない仏頂面。からかいがいのない男だ。だが今のブレイズは朴訥ではない。愚鈍なデクノボーではなく、明確な根拠に裏打ちされた仏頂面と最低限の言葉。上野の地下で結局ブレイズはディエゴに負けたが、それでも確たるアイデンティティを打ち立てたのだ。そして、ロゼが負けたスティングに勝ったと聞く。敵との星取表を並べれば、今のブレイズはロゼより強いということになる。


「そもそもお前が誰かと二人で行動すること自体がはじめてじゃないのか? 耕平とも愛波ともあまりウマが合わなさそうだし」


「彩凛とは二人で遊んだよ。わたしが『ジョジョの奇妙な冒険』にハマった時、彩凛が空条徐倫でわたしがジョルノ・ジョバァーナのコスプレをして写真をSNSにアップして、いっぱいいいねをもらった。徐倫がかわいい! かわいすぎる! ってさ。薪悟はそんな風に、誰にでも羨まれるような恋人にフられたんだよ」


「……」


 からかいがいがないのもそうだが、これは一つのテストだった。ブレイズは孤独を武器に強くなったと聞く。彩凛にフられ、Z飯店を失い、Z飯店のメンバーが解散後に新しい人間関係をはじめたというのにブレイズにはそんな気配がない。これでいいと思っているのだ。彩凛にフられたことも、幼馴染が解散したことも、孤独という追い風のためなら歓迎すべきこと……なんて考えているなら大馬鹿野郎(オオバカヤロウ)だ。

 これ以上付き合っていると自分のためにも薪悟のためにもならないと断腸の想いで別れた彩凛。その悲しみや苦しみを、もし薪悟が自分が強くなるための犠牲になってくれてありがとうなんて思っているならどんなに汚い手を使ってでも倒す。目突きや金的も辞さない。

 Z飯店を失って強くなったことは、まぁ……。順当ではある。悲しいことだがみちか自身の枷も外れ、ブレイズのためにもなった。残酷だが、友人や人間関係は定期的に更新、メンテナンスが必要なのだ。だが貧困故に高校どころか中学もロクに通えず、小学校時代からの付き合いのZ飯店しかいなかった薪悟には多少の同情の余地はある。だが働き始めてからも更新しなかったことは、やはり薪悟の問題なのだ。


「もういろいろと忖度なく言うね。Z飯店の善良なる部分の魂とリーダーは間違いなく彩凛だった。わたしたちがあの子に大人であることを強い、あの子はそれに応えすぎてしまった。だからZ飯店を壊して改革しようとした。Z飯店の悪しき部分の魂とリーダーは、やっぱり薪悟だよ」


「言っちゃ悪いが、フジを超えたいと思った俺の夢を勝手にZ飯店全員の夢だと共有したのはお前たちだ」


「それを言われちゃ何も返せないけど……。でもここで無抵抗で謝る程の平和主義、無抵抗主義者だったならフジには勝てないだろうし、わたしにも勝てない」


 彩凛が選んでくれたコーディネートを続ける薪悟。彩凛が褒めてくれたコーディネートを選んだみちか。そうだ。Z飯店は彩凛が支えていた。誰か彼女を顧みたか? 彩凛は精神が大人で強くて心が広いから大丈夫だと皆が思っていただけ、彩凛は元からこういう性格だから甘えられると皆が勘違いしていただけだ。


「へぇ……」


 原宿に飾られる俳優やアイドルのブロマイド。そこにはあのアブソリュート・アッシュのものもあった。だが、彼の兄姉であるアブソリュート・レイ、アブソリュート・ジェイドのものよりは値段が安い。


「代々木公園に出たらやろう」


「ああ」


 人の密度が異常だった竹下通りを抜け、高架の山手線を臨みながら歩いていく。やがてその向こうに、先程とは違う趣の喧噪、そして暮れた冬の銀杏の小道。ロゼは意識して足早に、一歩先に行った。


「さぁ、ブレイズ」


 緊張や雑念、バキバキとした根性を抜き、Z飯店が誤認していた呑気で能天気な天才肌に戻るために天を仰いでゆっくりと深呼吸し、振り返った。……やはりここまで来て隠すことは出来ない。何よりもロゼを興奮させ、快感をドープするものはやはり困難と、ブレイズよりも修行不足でありながらそれでも彼より強かった天賦の才能と好戦性。結局自分の根性が試され、それを根性で乗り越えるという決して天才ではありえないシチュエーションが彼女を燃えさせるのだ。その目を見て改めて、いや、はじめてブレイズは知った。アブソリュート・ロゼは天才だ。

 ならば、その天才に蓋をしていた責任はとる。そしてZ飯店最強という裸の王様に祀り上げられていた屈辱は雪ぐ。


「わたしが先に跨いだその線は! JR山手線。その線より内側はまだ“輪”だ。“輪”じゃダメなんだ。もうZ飯店はない。そこを跨げばもうZ飯店じゃない。この戦いはZ飯店最強を決める戦いだけど、Z飯店という過去を清算するための戦いだよ。もう彩凛も友情も、時間も守ってくれない現実を決める戦いなんだよ。わたしたちが! “個”であるための戦いだ!」


 ……。ブレイズはまだ跨いでいない。それでも来るとわかっている。ロゼは異空間に収納していた細剣レギーナレイピアロゼを抜刀! フライングはどこまで許される? すぐにでも刀身をオーラで強化したいぐらいだ。


「誤解はしないでほしい」


 ブレイズはゆっくりと歩きだし、線の上で両の拳でゆっくりとグーパーを繰り返し、握力の調整をしていった。以前のブレイズのままならば、ここから来るのは初代アブソリュートマンを模倣した空手チョップだ。だがそれであのスティングに勝てるはずがないし、フジがディエゴ相手に共闘を許す……頼るはずもない。


「だが俺はお前を倒してもう一段階強くなる」


「わたしを倒してまた孤独になるのかァ!? 甘く見るなよブレイズ。わたしたちが過ごした十五年は、この何分か何十分かの戦いでひっくり返すことも全否定も出来ないものだ」


「お前に話す必要はない」


「それが甘えてるって言ってるんだよブレイズ。もういい。無口なお前に期待したわたしが間違っていた。ただ、甘く見るなよ。でも甘い環境がわたしの成長を妨げていた」


「俺が言いたかったのもそれだ」


 ブレイズが線を超えた。それを認めた瞬間、ロゼの肺の中の空気はすべて弾けて軽快に言葉となった。


「“フェノメナルワン”!」


 色付きの突風が向かい風となって彼女を覆い、その色と同じロゼピンクの炎が両目に燈ってメラメラと燃えた。今までで最大の火柱! 炎の先端は頭頂部のはるか上で激しく揺れ、彼女の内なる激情とただならぬテンションを物語っている。レギーナレイピアロゼは同じ色のオーラでコーティングされてさらに気高く輝き、旧Z飯店の影の最強は空に浮かぶ月を突き刺した。


「“ストーンコールド”」


 静かに……静かに強化形態を宣言したブレイズの両掌の上でレッドとイエローを往復した炎は色に応じて何度も大きさを変え、やがてサンライトイエローの円盤に収束してその中心にブレイズは手を這わせた。激しく回転する円盤はまるで丸鋸。だが遠心力すら完全に制御し、高速回転する円盤の形は全く崩れず炎がほつれることもない。長年Z飯店最強と謳われてきた男の静謐なプロキシウムチャクラムは空に輝く太陽よりもずっと静かに、それでも強い光を地面に落とし、日光を上書きしていた。

 お互いに強化形態を発動。……。もうZ飯店に未練はないはずだった。あるとすれば……。


「彩凛……」


 ブレイズが右のチャクラムを振りかぶり、間合いを詰めてくる瞬間にロゼの脳裏をよぎったのはやはり彩凛だった。Z飯店への未練、報い、献身。それはすべて、彩凛のためのものだったのかもしれない。

 こんな戦いをすれば彩凛は悲しむだろうか? 悲しんだ。絶対に。だが、彼女自身が慣れあいのZ飯店を変えねばならないと決意したのだ。今は悲しみつつも受け入れてくれるだろう。フったが、ブレイズのすべてを嫌いになった訳ではないし、彩凛は人の不幸を願う人でもない。

 さようなら、彩凛。人生で最大の親友。


「バルダァッ!」


 やはりだ。やはりブレイズの初手は、初代アブソリュートマンを模倣した空手チョップ。だが今は模倣ではない。ブレイズのすらっと長い腕、腕力。そこにチャクラムによるリーチと攻撃力の増大を加算すれば、十分に驚異的な攻撃なのだ。このプロキシウムチャクラムに至った理由が初代の模倣を続けるためかどうかはわからないが、少なくとも今のブレイズはそれを正解にしている。むしろブレイズだけの型に昇華されている。


「リラァッ!」


 ロゼは全腕力を込め、レイピアで薙ぎ払った。オーラを用いたコーティングにより、そのリーチと強度は武器の見た目とは全く別物になっている。それでもレイピアとチャクラムの接触の瞬間は、ブレイズが普段働く工事現場での作業のように目を保護する特別な道具が必要なくらいの馬鹿げた火花が散り、滝のように流れ落ちた。


「リラァッ!」


 チャクラムを振り払い、ヤクザキックで押しのけようとしたが、まるで大樹の幹のようにアブソリュート・ブレイズ、不動!

 舐めていた……。アブソリュート・ロゼ、舐めていた! シンプルな攻撃だったが、ブレイズを支えている腕力! キックを耐えた体幹! これは鍛えたものではない。ロゼが親からの潤沢な仕送りで机に向かったり、オシャレをしたり、博物館や美術館で芸術を独学で学んでいる間も、こいつは欠かさず現場で働き続けていた。朴訥といえばそれまでだが、休むこともなく働き続けた。こいつにはそれしか選択肢がなかった。だが! その経験が彼の基礎を途方もなく強くしている! デクノボーと呼ばれることを美徳とする程宮沢賢治に傾倒したブレイズは、本当に雨にも負けず、風にも負けず、強くなってしまったのだ。……今まではその朴訥に辟易もしてきた。だが今は、愚直だからこそブレイズを怖く思った。ようやく自分を強くする術を知ってしまったブレイズが、愚直かつ朴訥にその道を進み続ければどうなってしまうのか、と想像して。


「思ってた以上に大事な戦いになりそうだ」


 センスか、反復か。

 自由か、朴訥か。

 オリジナリティか、定型か。


「Z飯店最強なんてなんて小さかったんだ」


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