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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第7章 アブソリュートマン:ニュージェネレーションスターズ
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第53話 フジ・カケルvsディエゴ・ドラドデルフィン ③

「あの……シカリさん?」


「アッハイ」


 地球が誇る屈指の人見知りイツキは、知らない女性に耐性のない根暗のシカリに勇気を振り絞って話しかけた。……。そしてしばしの間が流れた。コミュニケーション能力不足にもよるが、この二人だけは戦いの中で殺害という選択肢を持ち、それを最終手段ではなく選ぶことも多い。実際にシカリはこれまでに三十人以上のガスパー星人を殺害し、イツキも少なからずガスパーを殺害している。だがそれは間違っていないということは歴史が証明している。“確殺”の誓いを立てて英雄になったアブソリュートミリオンもいる。それでも内気な二人が話せたのは、殺人者のシンパシーがあったのだろう。


「敵が変なことを言っていました。わたしがフジを地下までポータルで運んだと。……何を勘違いしていたんでしょうか?」


「ポータルで運んだのは俺だ。上野地下宝物殿はネガ・エウレカでコーティングされていて、ポータルを通すことが出来ない。でも犬養さんはマインの超能力を継承しているから、マイン由来のポータルなら通れると敵が勘違いしたんだろう」


「じゃあシカリさんはどうやってフジを地下へ?」


「原付の二段階右折のようなもの。宝物殿へ繋がる廊下はコーティングされていないからまずは縦軸でその深度まで移動し、あとはステルスを使ってDD興業の後をつけて宝物殿に入った。あとはフジがさもポータルで参りましたよ! ってな風に演出して、ステルスを解いた。結果的に犬養さんにいらない注目が集まることになったけどな」


「じゃあシカリさんは、間近でディエゴを見ている」


「ああ、真後ろで息を殺し、フジを解き放つまでなんとかな」


「……どうでしたか、ディエゴは」


「まぁ普通に戦ったら死ぬでしょうね。フジでも」


「……」


「だからといってブレイズと共闘してどうなるかってレベルでもない。隙がないんだ。考えていることはシンプルだ。殴って倒す、奪って入手する、嗤って嘲る。そこに迷いがないから隙がない。フィジカルは言うまでもないだろ。犬養さんはジェイドやレイを知っているんだろう?」


「ええ」


「俺はあの二人のことをよく知らないけどさ、敵からしたらあの二人はそれくらいの絶望感なんだろうな」


 シカリの言葉からは薄っすらと死の覚悟が漂っていた。

 地下でフジとブレイズが負け、ディエゴが地上に戻ってくれば手負いのイツキとメッセ、スタミナと武器の切れ味と弾薬を消費したシカリ、比較的軽症だがやはり手負いのエコーとブランクと足のハンデが不安要素のディグニーしかいない。勝てるのか? 否。シカリはこの戦力でジェイドかレイを一人でも迎え撃てるのかとイツキに聞いているのだ。言うまでもなく不可能である。


「でも俺たちは逃げられないぞ、特に俺と犬養さんは」


「なんで?」


「ポータル適合者は俺たち二人しかいない。全員が撤退を決めるまで、俺たちも逃げられない。俺たち二人が真っ先にポータルで逃げれば残りは見殺しってことだ」


 ああ。やっぱり。イツキは完全に悟った。シカリはディエゴに勝つことを諦めている。それでも逃げないのはポータル適合者の使命と、フジとブレイズへの祈りゆえだ。逆説的に使命と祈りのためなら死んでもいいという刹那的な覚悟だ。


「英気を養おう」




 〇




「おいブレイズ」


 チャンピオンベルトを外して完全なる臨戦態勢のディエゴ・ドラドデルフィン。彼を目前にしてフジは一歩前進し、気だるげにため息をついた。


「今日は早く帰りてぇだろ?」


「なんでだ?」


「お前さん……。今日はクリスマス・イヴだぞ。パトラちゃんと過ごす日じゃあねぇか」


「あー……。別れた」


「別れたァ? 俺たちみんな小学生時代はパトラちゃんが好きだったんだぞ。中高でもそうだったんじゃねぇのか? そいつらに殺されるぜ。……俺のせいか?」


「お前のせいじゃないよ」


 半分はフジのせいだった。Z飯店の赤羽の不始末のケジメとしてフジが現れた時、ブレイズが謝罪と責任の取り方を誤らず、パトラがZ飯店をどう変えようとしているかを汲み取っていれば今夜は二人でケンタッキー・フライド・チキンとコージーコーナーで普段より少し豪勢なディナーでも食べたことだろう。フジがZ飯店を壊さずとも、ブレイズが変わらなければいずれこうなっていた。きっかけがフジだったにすぎない。


「俺の彼女……。鼎。よくイタい女だとかタヌキだとか言われるが……。今日はあいつの誕生日でもあるんだよ。ブレイズ。ちょっとは成長したお前さんに、一つだけ教えてやるぜ」


 赤羽の戦いの際、フジはブレイズに対し完全無言を決め込んだ。救いがたき鈍感であるブレイズには、憐れすぎて何一つ言葉をかけることも出来ないし、何か糧になることを言ってしまってもいけない。あまりの愚鈍に、アブソリュート・ブレイズというアブソリュートマンのキャリアはあの日の赤羽で完全に断絶させねばならないとさえ思っていた。だが今は少し見直している。だから話したいこともある。


「お前さんとはちょっと違うが、俺も俺が大事だ。俺は自分の命が惜しい。死にたくねぇんだ。来世が虫だろうとまた生まれてきたいし、来世が虫になる程の悪行を積んででも死にたくねぇ。今世で虫ケラ扱いされても俺は生きたい。意地張って死ぬくらいならプライドなんて虫のエサにしてやる。そして必ず鼎のところに帰る。だから……」


「わかった」


 ブレイズが変わったきっかけはパトラという恋人の喪失と、自分で自分を定義して生まれたプライドだった。フジにもそうやってプライドを獲得して強くなった時期もあるのだろう。だが今は捨てられる。同級生だったはずなのに、やはりフジの背中は遠い。

 そして意図は読み取れた。ここでディエゴに負けて死ぬくらいなら、ブレイズとの共闘に抵抗はない。


「彼女自慢は終わったか?」


「自慢に聞こえたか?」


「まずはお前の彼女の鼎を採点してやるぜ。見た目はGoodだ。自分に合うお化粧、衣服。コンセプトが決まってる。全体的に曲線的なフォルムでタヌキ女好きにはたまらねぇぞ。そして胸がデケェ。こだわりとプライドが高そうだったな。だが自分に自信がなく、理想の自分とのギャップに苦しんでいる。だから高慢ちきにはならないが、自分に合う化粧と衣装の組み合わせを見つけた成功体験から甘えるのが上手い。気分の浮き沈みは激しいが、あとはそのデリケートな自尊心を上手く転がせばお前にぞっこんになるぜ」


「ハァーン? 時折死語が混じってるからボケ親父のたわごとにしか聞こえねぇなぁ? てめぇが多感な時期にハマってたラブコメってなんだ? 『うる星やつら』か? 悪いな、俺はもう深田恭子がコスプレした東京電気のCMでしかラムちゃんを知らねぇ世代なんだ」


「次に彩凛は……」


「もうやめろ。そろそろガチでやろうぜ」


「そうだな」


 挑発を終えたディエゴは大型のクマのように腕を振り上げ、何度も脇を締め直して肩の可動域を確認し、リーゼントから湯気を吹いた。そして沸点に達し、がばぁっと口を開いて熱気を発散した。攻撃でも威嚇でもなかったが、寒い上野地下宝物殿が一瞬曇った。


「ドドアッ!」


 暴君の突撃! だがまだこいつは本気を出していない。宇都宮での初遭遇以降、ディエゴはまだ本気を出したことがないのだ。出せるはずもない。耐えられる相手がいない。


「真正面からぶつかる気はもうねぇぞ」


 ブレイズに自慢するようにフジは十八番のバリアーを三つ作り出した。板状のものが二枚、バランスボール状の弾力に富んだものが一個。板バリアー二枚で弾力バリアーを挟み、突進を受け止めた!


「ドドエ?」


 板バリアーの弾力バリアーが衝撃を吸収して破損はない。さらにフジが押し込むことで弾力は増幅されてディエゴへと跳ね返った! さすがのディエゴも自分のパワーには勝てない。無様に千鳥足で後退し、バランスを保とうと努めた。そして!


「セエアッ!」


 世界に一つだけのドロップキックが決まっていくゥ! 深さ、高さ、鋭さ! ディエゴの顔面に靴底の模様を刻み、尻餅をつかせた。あのディエゴからダウンを奪ったのだ! 効いている……。先のエルボードロップといい、顔面に的確に当てれば効いてはいるのだ。こいつは痛みを感じない鉄人でも、殴っても壊れないゴーストでもない。攻撃を当て続ければ倒せるのだ。


「よっし」


 そしてこのドロップキックは縁起物だ。これがクリーンヒットした後は好調が続く。そして、これはまだ試していない方法だ。


「こいつはどうだ!?」


 フジはディエゴの足をとり、複雑な形に関節を極めて後方へ倒れ込んだ。足4の字固め! ディエゴ相手に関節技はまだ誰も試みてはいなかった! だが足の異常な太さ、筋肉量……。すぐに返されることはわかっている。タップしないこともわかっている……。だがサブミッションが効くとわかれば、もっと効果的に敵を破壊する技を、例えば問答無用で腕を破壊するクロスアームブリカー等をかけ直すだけだ!


「ドッフ……。俺と足を絡めていいのは女だけだぜ」


「痛いのか? ヘソを触るのも女だけか?」


「あぁ!?」


「雷様に持っていかれちまえ!」


 足4の字固めをかけて倒れたままフジがディエゴを指さした。その指の間にはアーク放電が迸り、空気が破裂して目も眩む閃光が上野地下宝物殿を裂いた。大出力の電撃がディエゴの避雷針……リーゼントに落ち、フジは一瞬暴君から力が抜けるのを感じた。足の筋肉と靭帯が少しずつ軋んでいくのも感じ取れる。


「……ッ」


 しかしフジは自ら技を解き、技の反動で痛む足に無理を言わせてバックステップで慎重すぎる程慎重に距離をとった。フジが離脱する一呼吸後にディエゴは足を大きく動かしていた。もし離脱が遅れれば、足4の字固めごと足を破壊されていただろう。カウンターのセオリーも何もなく、筋力のみでだ。


「クソガキ……ッ」


 起き上がったディエゴはいよいよ暴れ狂う暴君一歩手前だった。電撃をまともにくらったリーゼントの一部が焼け落ち、灰や煤が顔に積もっていた。それを手で乱暴に拭うと吊り上がった目と怒りに歪んだ口を強調する隈取となり、いよいよ怪獣じみた形相でフジを威嚇した。


「ドドアッ!」


「シッ!」


 大振りのパンチをダッキング! 躱せない速度ではないが、確実にディエゴのギアが速度を中心に上がっている。無意識のうちにかかっていたリミッターが段階を踏んで解除されつつあるのだ。危険な兆候……強い敵を倒して兄姉に迫りたい野心もあるが、全力のディエゴとまともにやりあえば死ぬ可能性が大いにある。矛盾と葛藤だ。


「鼎……。ハッピーバースデー、そして、メリークリスマス!」


 雷の力を天に帰すような雷撃混じりのアッパーカットがディエゴの顎にクリーンヒットォ! リーゼントが分度器めいて円弧を描き、ディエゴはまた半歩後退し、砕ける程に拳を握り締めて堪えきった。ディエゴ自身が苦しみ始めている。こんなガキにやられる自分ではないはずだ。フジの好調とディエゴのコンディションが釣り合っていない。

 好機!


「セエアッ!」


 もう一度稲光を纏い、質量を持った雷撃がサイドキックで暴君を蹴り飛ばした。ディエゴはオーパーツの詰まった木箱をいくつも破壊して木くずに塗れた。


「もう一発食らっとけ!」


 再度の落雷! 雷撃、格闘、雷撃、格闘の波状攻撃! ついに木くずに火が着き、ディエゴは業火に包まれた。……そしてその中でディエゴは呼吸し、あまつさえうんざりするようなため息さえついていた。

 ぼさり、と燃えカスを振り払いながらディエゴは炎をバックにゆっくりとフジの方へと歩いて来た。そして自分の心臓のあたりを拳で何度も叩き、自分の体に何かを訴えかけていた。


「おいアッシュ。お前、強化形態はさっき使い切ったんじゃなかったのか?」


「お前さんがそう思っていただけだろ。まだ使えるぜ」


 実際、強化形態を使い切ったように見せていたのはブラフだった。だがこの後に残された強化持続時間は相当に短く、発動しない方がマシである。


「ディレクトってやつか。それがある限り実質使い切ることはねぇもんなぁ」


「試してみろ」


「そうするぜ。ドドアッ!」


 ……。


「……フジ?」


 フジは後方へ数十メートルもフッ飛ばされ、壁面に磔になって目を口を歪に開いて痙攣していた。やがて走った亀裂に従って壁ごとフジは崩れ落ち、四つん這いになって週末赤羽午前二時の酔漢の嘔吐のように血を吐いて小刻みに震えた。


「ようやく体が温まってきたぜ」


 フジを殴り飛ばした暴君は満面の愉悦を湛えていた。ようやく目覚めかけているのだ。ディエゴ・ドラドデルフィンのスピードとパワーが……。


「次はお前の番か? ブレイズ……」

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