第48話 プロレスラー ②
「おい、いつまでもタヌキ寝入りはやめろクソガキ」
ごつん、とディエゴは靴の先でフジの肩を蹴った。まるで反応がない。まるっきりにKOされているか、もしくはそれ程の練度のタヌキ寝入りか。後者であるならば賞賛に値する。それ以外に生まれてしまった時点で、一生羨み続けるしかない宇宙最強アブソリュート人という種族の血。今までに伝説と呼ばれた戦士は威風堂々たる戦いで救いを与え、フジの兄姉に至ってはその伝説すら超越し、存在自体が現象のような域に達している。その中で負けないためだけにプライドを捨ててここまでタヌキ寝入りに徹することは容易ではない。少なくともブレイズでは出来ないだろう。
「……」
「テメェが死んでねぇことはわかってるんだよ。じゃあいつまでそうしている? テメェの回復が終わるまでか? それとも俺が去るまでそれで凌ぐか?」
「……」
「じゃあよぉ、俺がブレイズと戦っちまおうかなぁ? ブレイズが俺に勝っちまったらどうしよう?」
「安い挑発だな」
フジの全身に走る血の筋、眼球や眉間に浮かぶ血管はすべて導火線だ。あっという間に着火し、爆発するだろう。
ディエゴを止めねばならない。地上がどうなっているかわからないが、ここで自分が負けると地上で戦っているはずのメッセもイツキもディエゴ一人に蹴散らされ、拉致されてハーレムに放り込まれてしまう。
自分の格を見せつけばならない。ブレイズは強くなったようだが、まだ自分には及ばない。多少強くなったからって簡単に超えたと思われては困る。
「テメェの同級生はだいぶいい試合をしたぞ。タヌキ寝入りで見てねぇだろうがな」
「見てはいない。だが聞こえたし、感じた。まだまだだ」
「ああ、まだまだだ。テメェが今まで倒して来た敵……。ウラオビや金田一には、ブレイズではまだ勝てねぇ。だがブレイズがここにやってきた時と今ではレベルが違う。その伸びしろをちゃんと理解出来ているならば、とてもじゃあねぇが侮るだけなんて出来ねぇよなぁ。超えられたくないという恐怖でブレイズを認められないのなら間違いだ。迫りつつある現実を恐れろ」
「だが俺が上だ」
「今はまだ、な」
「挑発か? 本音か?」
「テメェが俺に勝ったら、テメェに都合がよかった方だったということに口裏を合わせてやるぜ」
「じゃあ見せてやるよ。強化形態とはどう使うものなのか!」
ばちぃん! 天井の上に約二〇〇メートルの地盤が存在するにもかかわらず、超自然の落雷が青の戦士に落ち、フジのマント代わりのウインドブレイカーが巻き上がって全身に稲光が纏わりついた。顔面の筋肉が危険に強張り、収まりきらない雷撃が発露し、そしてそれを強引に体内に押し込め、今にでもフジが電撃で自爆してしまいそうな凄まじいエネルギーだった。ぱちぱちと電撃が弾ける以上に空気が数段張り詰め、ブレイズは静電気か興奮か、髪が逆立つ錯覚を覚えた。
これがアブソリュート・アッシュの強化形態オーバー・D……。
だがフジを倒すためにシカリとパトラが研究した通りならば、この変身はあまりにもリスキーだ。
「フジ!」
「なんだ?」
「分が悪い」
「勝手に言ってろ」
Z飯店メンバーの研究成果として、アブソリュート・アッシュの強化形態は他の戦士のそれと比べて極端に性能が低いという結論に辿り着いていた。
代名詞であるバリアーが使用不可、当然バリアーの矢を撃ち出す必殺技Δスパークアローも使用不可、身体能力と電撃の出力は劇的に上がるが、最大持続時間九十秒という刹那的すぎる時間制限、そして九十秒を使い切ると強化形態解除の上にしばらく弱化……。つまり九十秒で敵を倒せないのなら使うべきではない。そしてディエゴを相手に足りる時間ではない。
「ガアアアアアッ!!!」
ケダモノじみた怒声を残してフジは消えた。そしてフィルムを何枚か抜いたように、ディエゴの横っ面に超高高度ドロップキックを叩き込んで巨木の幹を揺らしながら再びブレイズに認識された。そして揺れるディエゴの側頭部をしっかりと掴み、屈伸運動で顔面に両膝蹴り!
「死にやがれ!」
次の瞬間にはフジとディエゴの距離約三メートルを繋ぐものは、幽かに残る電光だけだった。そして青の戦士が指を向けるとディエゴの全身に電撃が走り、フィラメントになって発光した。
ディエゴが数秒硬直するのを認めたフジはさらに数歩後退して慎重に間合いを保ち、興奮を抜くように深呼吸して強化形態を解除した。制限時間ではなく自分の意思による解除だった。
「ちょいぃっと凝りがほぐれたぜ」
ディエゴは口から上がる黒煙を器用にリング状に変え、首をぐきぐきと鳴らして充血した目でフジを凝視した。余裕のセリフは変わらないが、ディエゴのテンションも確実に上昇している。出血もある。黒煙もある。まったく効いていないわけではないのだ。
「溜池山王の結構強めに揉んでくれる整体、教えてやろうか?」
「もちろん、姉ちゃんがつくんだろうな?」
一方のフジには余裕が戻っている。驚く程の平常心……。狡猾な生意気さ。ブレイズには今の攻防がそんなにフジに追い風になったようには思えなかった。
既にブレイズには結論が出ているのだ。フジは負ける。そして自分が戦っても負ける。二人で力を合わせればディエゴに勝てるかもしれない。
だが、それはブレイズとフジ、二人の人間の尊厳を傷つける。だが、勝てば悪の怪獣を倒すことを使命とするアブソリュートマンの尊厳は守られる。
どちらを取るかだ。
どちらであるべきなのだ? つい今、ブレイズは自分で自分を定義した。そこにはアブソリュートマンという属性もなく、芦屋薪悟個人の定義だった。
「随分といい顔になったな。今、何があったんだ?」
「強化形態を使っただろ」
「それ……。強くなる以外にも何かあるんだな。教えてやれよ、ブレイズに」
「……」
「ケチケチするな。施してやれよ」
「性格変化だ。アブソリュートマンの強化形態には外見変化、性格変化といったデメリットが伴う。修行すりゃ克服出来るがな。俺は外見変化はほとんどないが、性格変化が著しい。強化形態に入るととにかく興奮して後先考えずに敵に襲い掛かるしかねぇ」
「テメェの親父にそっくりだな。ミリオンもいろいろ考えてるくせに、結局最後はバカでけぇ声をあげながら襲い掛かる」
「強化形態になれば弱気が吹っ飛ぶ。メンタルにキックを入れて弱気、逃げ腰を消し、解除することでクールダウン。これで俺のメンタルは平常に戻る」
「聞けて良かったな、ブレイズ。出力が上がるだけが強化形態じゃねぇ。そして! 強化形態がすべてじゃあねぇ!」
今日のディエゴの一番の大声だった。今までのような軽口じみた説教や演説ではなく、本当に心の底から出た主張だった。それは強化形態一つで戦況をひっくり返してしまったブレイズにより深く突き刺さり、にわかに感じていた全能感が静かにたしなめられていった。
「強化形態は手段に過ぎねぇ。俺にはねぇ。それでも強化形態を持つテメェらに勝てる。強化形態を許されない星人や怪獣……。ごまんといるぜ。だからと言ってテメェらアブソリュートマンは伸びしろと上振れがあるから有利だなんて思っているなら、今すぐ体に教え込んでやる。スーパーサイヤ人だけが戦力だと思うなよ」
ディエゴは腰のチャンピオンベルトを丁寧にさすった。それだけでディエゴの熱気で純金のベルトのバックルが曇り、ずいぃと指で栄光の“DD”のレリーフをなぞると血、汗、脂、泥、ほこりのすべてが線を引いた。激闘も食事も区別なく……仕事も生活も区別なくこのベルトと過ごした証だ。大事にしまったり飾ったりして手入れするだけがすべてではないのだ。むしろこの汚れがディエゴとベルトを密接に繋げていた。
「テメェらには選択肢がある。一人ずつが一人の男として、最強の男である俺に挑むか。もしくは二人同時にアブソリュートマンとして、悪の怪獣を止めるために使命を全うするか。選べ」
……。
ブレイズは何も言わなかった。だが今までのような指示待ち、後手、遠慮、躊躇、チャンスの譲渡ではない。今までディエゴと戦っていたのはフジなのだから、今はフジが選ぶ番だ。
「決まってる。一人ずつ戦う」
フジの眼差しが一段と、また一段と鋭くなり、レンズに一瞬びかりと通電した。
……。
既にフジはブレイズを侮ってはいない。ブレイズはもうただの不出来な凡人ではない。だがまだ自分には力で劣り、ディエゴ・ドラドデルフィンという大物を仕留めるには実績も足りない。ブレイズを侮る、追い越されたくないという気持ちは少なからずあるが、フジもブレイズを見習って他人を理由にせず自分がどうしたいかで選んだ。
「よし、わかった」
ディエゴはベルトの留め具を外し、ついにチャンピオンベルトを持って腕を水平に伸ばして手を離した。がしゃあん。DD興業の至宝である栄光のチャンピオンベルトは雑に手から落とされ、冗談のような爆音と同時に下敷きになった宝物殿の木箱を中身ごと木っ端みじんに粉砕した。凄まじい質量を持ったベルトだったようだ。それこそ、ディエゴでもなければ巻けない程の重さの……。
「何故俺がサッカーをやめてプロレスをはじめたかわかるか」
「強さに直結するからだろう?」
「それも一つだ。だがサッカーの頂点に与えられるものは金メダルなんだよ。プロレスはチャンピオンベルトだ。つまり、そういうことだ。サッカーは最強じゃなくても銀メダルか銅メダルを与えられる。プロレスでは最強に与えられるチャンピオンベルトのみ! 最強以外に与えるやるものは一つもない!!! ……で? テメェはチャンピオンベルトもなしに敢闘賞や技能賞で満足か?」
「このクソ野郎……ッ」
ディエゴの主張は特段に誤ってはいない。ディエゴの美学はそれはそれで美しいものだ。だがディエゴにそのつもりはなかっただろうが、アブソリュートマンにも事情があり、もう最強争いをすることが出来ない。あってもジェイドと初代とレイを除いて、という狭いスケールだ。それでも兄に価値がない、とでも言うべき演説は癇に障った。
「じゃあこのデクノボーに新人賞はくれてやるか?」
「傲慢だな、アッシュ。テメェも俺から見りゃまだまだ十分にケツの青いルーキーだ。まぁいい……。一人の男として戦う以上、俺もベルトを賭けてやろう」
〇
戦況は悪くない。地上の上野で最も平常心を保っている一軍戦士オスカーは周囲を見渡し確認した。雑兵のガスパー・シールズの統率を最も乱すシカリはラーナとの牽制合戦で忙しくガスパーへの攻撃は不可能。凶暴だったはずのエコーは随分と牙を抜かれ、三人の二軍戦士と睨み合っておりガスパーを減らすことは出来ない。ディグニーなる尼僧は静かに立っているだけでガスパーが怯み、士気が下がって彼女を攻撃出来ないがディグニーも立っているだけだ。メッセとシャオシャオの死闘は……。互角になるだろうが、シャオシャオが敗色濃厚になってから介入すればいい。
「ガスパー・シールズ! 無理をする必要はない。ディエゴが戻ってくるまでこの場所を死守すればいいんだ。何人か、二軍の三人を援護しろ。まずはエコーを討ち取れ! あいつが暴れ出すと厄介だぞ」
「……」
しかし、状況を楽観視する何人かのガスパー・シールズはだらしなく座り込み、マスクの隙間からタバコを吸ってウサギ耳の装飾から煙を噴き出してメンチを切るようにオスカーを観た。スマホでアプリをいじっているものもいる。
「なんでアンタが命令してるんだ?」
「不満か?」
ガスパーはあえてオスカーを挑発するように首を傾け、無造作に煙を吐いてスマホをタッチした。リスペクトのかけらもなかった。
「シャオシャオさんやラーナさんならまだいいぜ。見ているだけでエロいし、褒めてもらえればどうにかなっちまいそうになる。仮にそれが、俺たちをコントロールし、搾取するためのお世辞や方便でもな」
「キーキッキッキ。それにスティングさんはメシも奢ってくれる。スティングさんは俺たちを信用して、ガスパー応援団としてあちこちに連れて行ってくれる。アンタは?」
「アンタ、ジョバーだろう? 負けレスラー、噛ませ犬。ラーナさんが言ってたようにお情けで一軍にいる清掃員だろう? 何でアンタが仕切ってんだ? アンタが道場でリアクション芸の練習したり、床を磨いてる頃に俺たちは戦場にいるんだぜ」
予想はしていたが、この態度にオスカーは少なからず苛立っていた。ジョバーというポジションであるため人望もリスペクトもないことは覚悟していた。だがこの場においてガスパーがオスカーへの軽侮を理由に働かないのはかなりリスキーだった。エコーの着火、シャオシャオ敗北で上野のイニシアティブは失われてしまうのだ。
「俺のことは別にそう思ってくれてもいい」
「ああ、だから考えは改めねぇぜ」
「だがディエゴ、ラーナ、シャオシャオ、スティングのためと思って働いてくれないか? 頼む」
「っていうかさぁ。ディエゴ社長が地上に戻ってきたら敵は全員ディエゴ社長一人でどうにか出来ちまうんじゃねぇか? ……いや、それよりさっきからアンタ、社長のことをディエゴディエゴと呼び捨てにしているが、何様だ? 鬼のいぬ間にって……バロォ!?」
座ってタバコを吸いながらオンライン花札をしていたガスパーの頭部が断末魔と同時に消えた。真っ赤な肉片と血、骨片に代わり、完全に粉砕されて風に流されて消え、胴体は仰向けに倒れて痙攣すらしなかった。
「バロバロバロバロォォォォォ!!! 誰だ! 誰がやりやがった!」
斬首ッ!
ナタを持って立ち上がった次のガスパーの喉元にぴっと赤い線が引かれ、そこから首だけが重力に従って滑り落ち、落下の衝撃でマスクのウサギ耳の装飾がへし折れた。
「敵襲! 全員警戒しろ!」
「うるせぇジョバー! 仕切んなクソ! 仲間が死んだんだぞ!」
「だから備えろと言っているんだ!」
まるで波紋を立てずに水面を歩くように静かに淑やかに、馬鹿げた怪盗ルックの女が右手に携えた銃のシリンダーを回しながらオスカーに向かって真っすぐに歩いて来た。遠くから歩いてきているはずなのに、気付くものはすぐに襲い掛かって銃殺され、気付かないものはすぐ真横を通られても気付かなかった。
「犬養樹か」
オスカーは焦りを完全に排除し、得物のモップをトワリングして端から端まで自分の神経の支配を行き渡らせ、ごつんと柄の先で地面を突いて精神的なスイッチを入れた。
「……」
無口な女。二十を少し超えたくらいの年齢だが、今までに発した言葉は十歳児より少ないだろう。
だが体つきはしなやか、今は馬鹿げたマスクに隠されている顔はさらりとしたクールビューティー。ディエゴに献上する価値のある女だ。くわえて先程ネガ・エウレカを貫通して地下までフジを届けたと思われる高性能ポータル、マインの遺品である神器級武器Aトリガー。ここは自分がしっかりと仕留めなければならない。ここで自分がイツキに専念することで、ガスパーの空気が引き締まるのならあえてガスパーの指揮からは手を引く。
「お前、何故このタイミングで出てきた?」
「……?」
「お前がフジを地下まで運んだんじゃないのか? ならばお前はずっと上野にいたはずだ。何故今だ? まさか、俺がガスパーに舐められるタイミングを見計らって出てきたのか?」
「そう思っているなら、そう思っているといいよ」
「そうなんだとしたら、少し燃えてきたぜ」
実際イツキがこのタイミングで出てきたことは本当にどうでもいいことだ。だが舐められるタイミングを狙われたのなら少し燃える。その程度だ。
イツキは引き金に指をかけた。
Aトリガーだ。
「アブソリュートミリオンの力! “鏖”の弾!」
“鏖”の弾は私淑する師ミリオンの斬撃を再現し、着弾と同時に相手を木っ端みじんに斬り刻む! しっかりと狙いをつけて狙撃することで、先程のガスパーのように人間の頭部くらいは跡形もなく消せる威力を持つ。
「オクァ!」
オスカーはその弾道を完全に読み切り、モップを大きく斜めに振り下ろす! ……。何も起きない。オスカーがバラバラになることも、モップがチップになることすらもなかった。これは明らかに何らかの超能力……。イツキの対応がやや遅れた。
「へいへいトロいぜ!」
流麗なステップで間合いを詰め、柄の先端でイツキの鳩尾を強打した。だが、さすがは地球人最強のフィジカルエリート……。肉の薄い場所を突いたはずなのに骨の強度が尋常ではなく、怪獣でもタイミングが悪ければ呼吸困難で気絶する一撃をイツキはフィジカルだけで耐えきった!
「もう一発!」
決まったァ! 効果的な一撃! 軽快に弾けるような非常に美しいフォームのサイドキックはずっしりと響くインパクト! ワイヤーアクションめいて大袈裟にフッ飛ばされ、地面を滑ったイツキは隙を敏捷性と技術でフォローしながら即座に立ち上がり、オスカーの格闘家としての技術が極めて高いレベルにあることを理解した。
「アシェェッ!?」
隙はフォローしたはずだった……。だが、イツキの体の自由は制限され……具体的には束縛されていた。体のあちこちに紐状のものが絡みついて締め上げられ、肉感的に肌に緩やかな隆起を作っていた。引き剥がそうとしても肌に食い込むばかり、それどころかぽつぽつと痛みが散在していた。
「タコ!?」
それはタコであった。真っ黒なタコが……。イツキの体に纏わりつき、春画じみてたわわなバストも引き締まった太ももも含め、官能的に彼女の全身を拘束していたのだ。八本の腕で関節も完全にロックされ、走って逃げることも武器でタコを攻撃することも出来なかった。動けば動く程体が軋んだ。
このタコがオスカーの超能力……なのか? 唯一自由な首を動かし、オスカーを見ると先程までと得物が変わっていた。モップだったはずが、同じ長さの棒になり、汚れを拭うモップヘッドの部分が丸ごとなくなっていた。まさか……。あのモップヘッドがこのタコだったのか!?
「俺は臥纏怪獣モポルポだ。俺とそのタコ……オクトパセリは二人で一組! そしてオクトパセリは汚れ、超能力、すべてを拭い、墨に変換し……」
「その墨が可燃性ってこと……ある?」
「まさにそうだ」
かつて、駿河燈はイツキにそういう武器を与えていた。イツキが憧れていた東京ドームのビールのお姉さん。そのビールサーバーじみたタンクを可燃性の墨で満たし、バラまき、着火する。それがイツキの最初の戦い方だった。燈が、このモポルポという怪獣を知っていたとしか思えない。
「お前はマインの弟子でもあったな。あいつが昔大阪に住んでいた頃、外庭やウラオビを招いてモポルポでタコ焼きパーティをしたって噂があるが……。所詮は噂……。所詮は噂だよな?」
「さぁ。わたしは知らない。燈さんはわたしたちにはたくさんお料理は作ってくれたけど、タコ焼きは食べたことがない」
「そうか。ならよかった。ならお前に恨みはないな。だが再起不能になってもらう!」
ちちり、とオクトパセリの目に小さな火花が燈り、イツキに密着したままオクトパセリは可燃性の墨ごと自爆した。爆風で舞い上がった黒いタコは力なく浮遊しながらオスカーのモップの先端に戻り、ジョバーはまたモップを回してポーズをとった。
「パセリ。花言葉は、“勝利”!」




