↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかえり人類  作者: 志野 友一
第二章 帰還
PR
22/46

第七話 狩猟

 そんなわけで、最初の「狩り」はその日の午後から早くも行われる運びとなった。

 午前の数時間は、狩猟道具を準備することに費やされた。ナイフを使って木の枝を切り、その先端にナイフを合成繊維のひもで括りつけ、槍を作る。さらには、仕留めた獲物をそのまま運んでこられるように、ひもを幾重にも交差させた網を編む。そうした作業を、ハルカに材料を求める以外は誰の手も借りることなく、リオナたちは瞬く間に終えてしまった。

「慣れたもんだなあ……何というか、その……」

「わたくしたちの星では、誰もが当たり前にしていたことですので」

 なおも拒否反応を示さずにいられない僕に対し、フィオナはそろそろうんざりしていそうな反応を返してくる。野蛮人、などと蔑むつもりはもちろんないけれど、やはりそうすんなりと慣れられる話でもないことは確かだった。

「まあまあ、実際、経験してもらえばわかるよ。ボクたちが、こんな前時代的なやり方を、わざわざ続けることの意味が」

 槍の出来具合を手と目で確かめながら言うリオナの表情は、自信に満ちあふれているように見えた。

 ハルカがシ・シ=デビルの掃討にも用いたという光線銃(レーザーガン)の力は、あえて借りないと二人は宣言していた。曰く、どんな銃器の類であっても獲物の肉に不要な熱をもたらし、それが味の劣化につながるのだという。銃を作ったハルカ自信も述べたように、正直に言ってその主張はだいぶ眉唾ものではあったけれど、いずれにせよ慣れたやり方でやりたいというのが二人の意向だった。

 何であれ、間もなく地球上では七万数千年ぶりに、人類による狩猟が再開される。そうした状況にあってなお、僕はその当事者の一人に自分を位置づけられないまま、指をくわえて傍観する以外のことは何一つできずにいた。


 最初の一頭、まだ成体に至っていないと思われるオスの個体は、リオナとフィオナが計十回あまり槍を突き刺したところで、早々に地面へと倒れ込んだ。

「うん、出だしは上々だね」

「そうですわね。見たところ、新地球にいた鹿と、そう遠くない種のようでもありますし」

 喜々として言葉を交わす二人は、実のところ見事な手際でその鹿を仕留めていた。けれども、彼女たちの狩猟スキルが高いことよりむしろ、獲物の側の警戒心のなさが――外敵のいなくなった地上で何万年も暮らしてきたことからくる森の支配者然とした行動規範、あるいは人類を敵と見る発想すらどこかに忘れてきたような慢心、いやむしろ珍客を興味深げに眺めに来るような余裕によって、大きな隙が生まれていたことの方が、狩りの成功をもたらす大きな要因になっているように見受けられた。

 彼は単に、僕らと仲良くなりたかっただけなのかもしれない。そう考えると、ますますもって暗澹たる気持ちにならざるを得なかった。


 そんな僕の心の内などお構いなしに、仕留められた鹿はこれまた目を見張るような速さで皮をはがれ、解体され、そして調理されていった。

 姉妹が異星から持ち込んできた金属製の調理器具が、石を積んだだけのかまどに置かれ、くべられた薪に種火が放り込まれる。薄く敷かれた油がジュワジュワと音を立て始めるが早いか、リオナは厚めに切った肉を二枚、調理器具へと投入した。

「へへっ、いい匂い」

「期待が高まりますわね」

 ハルカが海岸まで車を走らせて採ってきた岩塩と、これまた新地球からもたらされたらしい香草由来のスパイスが、なるほど確かに良い香りをもたらしている。けれども、やはり僕からすると、生の肉が焼けていくときに発する臭気のせいで、トータルではマイナスの評価を下さざるを得ないものがあった。

「どうしたの、苦い顔して?」

 僕を心配するような声をかけつつ、リオナはいかにも慣れた手つきで調理器具の取っ手を握り、ガコガコと音を立てて揺さぶる。

「いや、その――やっぱりほら、生まれて初めて見るものやら、嗅ぐニオイやら――なかなかちょっと、カルチャーショック、みたいな」

 おかしな表現で返しつつ、僕はそれでも口中に滲み出てくる唾液の存在に気づいて、少なからず衝撃を覚えた。

「エイジもほら、やっぱり一緒にどう?」

 指し示す先には、ところどころ刃物が入っただけで、まだかなり原形をとどめたままの鹿の死骸がある。胃の方からすっぱい臭いがこみ上げてくるのを押しとどめつつ、僕は無言で首を横に振った。

「そうかー、残念」

「まあ、それならわたくしたちでありがたくいただきますわ。ねっ、お姉さま」

 どちらかといえば分け前を減らさずに済んだことへの安堵が透けて見える笑顔で、二人は仲良く肉にかぶりつく。僕はたまらずそこから目を背けつつ、こうした状況に今後どう折り合いをつけていくべきかという、答えの出ない自問自答を続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。