第六話 喫食
次の日から、本格的に生活環境を整える作業が開始された。そして、それに伴って再び、文化の違いが問題として浮上してくることにもなった。
「――おいしくない、ね」
「そう、ですわね」
これまで「星の舟」から持ち込んできた保存食ばかりを食べてきたリオナとフィオナは、フードプレートで摂る初めての食事に手をつけて開口一番、このように率直な感想を述べた。「ご意見は何なりと」と言っていたハルカも、さすがにこれには憮然とした表情を見せる。
「お気に召さなかったのは、どういったところでしょうか?」
「ええ……何と申しますか……」
「ケミカルな感じ?いかにも作り物くさい、というか……ハンバーグを食べてるのか、崩れかけたスポンジを噛んでるのか、よくわからなくなってくるような。味も、食感も」
これ以上ないぐらいにけなされている皿の上の料理を見ると、まさしく僕が最初に食べて感動を覚えた一品がその批判の対象だということに気づき、仰天する。
「長きにわたる文化的分断が、味覚にも差異を生んだ――そういうことだろうか」
父さんの見立てにも、少々申し訳なさそうな顔をしつつ二人はかぶりを振る。
「たぶん、そういう問題とは違うと思います――単純に、本物には勝てない、というか」
微生物を含む大気中の成分と水だけで料理ができる、と聞かされたときは、子供のように瞳を輝かせていた二人が、今はあからさまに意気消沈しているのを見ると、かえって申し訳ないような気持ちがしてきた。
「えーと……この森って、動物は住んでるんですか?草食動物なら、ベストなんですけど」
おそるおそる、という調子で、誰にともなくリオナが問う。
「小さなネズミ、小鳥――それから、小型の鹿。食肉として活用できそうなところでいうと、これら三種がいます」
食肉という単語の物騒な響きに、背筋を冷たいものが駆け抜けていく。いや、待……動物……殺……!?
「鹿はいいね。まあ、実際のところ、食べてみないとわからないけれど」
「そう大外しはしないでしょう。それでは――ハルカさん、小型というのは、具体的には?」
「はい、おおむね体長一m弱の――」
いよいよ話が恐ろしい方向に向かいだしたので、僕はあわあわと手足をばたつかせつつ、三人の会話に割って入る。
「ちょちょ、ちょっと待って――動物を、狩る、って?何の罪もない、あの鹿を――?」
僕の抱いている抵抗感がまるで理解できないというように、双子の姉妹はめいめい首をかしげる。
「いや、何て言ったらいいのかな、その――」
「命を奪う。そして、それをありがたく『いただく』。長きにわたり、人類が行ってきた営みではあるな」
静観を決め込んでいた父さんが、顎(にあたるであろう、カメラの下部あたり)に手を添えて、考え込むような仕草を保ちつつ口を開く。まあ、歴史的に見ればそうではあるだろうけれど、少なくとも僕はそんな野蛮な行為の果てに糧を得た経験などしたことはないし、それは父さんだって同じだろう。どうしてこんなにもすんなりと、こんな展開を受け入れることができるのか、少なからず理解に苦しむものがあった。
「どのみち、今あるフードプレートも永久に使い続けられる保証はありませんし、少なくともリオナさん、フィオナさんのお口に合わないことは確かなようです。人類の未来、ということを考えるならば、かつてのように自然との共生を図る――その方が、長期的には望ましいことになるかもしれません」
この切り替えの早さはやはり人工知能ならではなのだろうなと思いつつ、完全に孤立無援の状態に陥ったことを悟って、たまらず天を仰ぐ。
「――僕はまだ、もうちょっと使い続けてもいいかな、プレート」
少々の猶予と引き替えに迎合する意向を示した僕に、姉妹は安堵感のにじむ笑顔を見せた。




