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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
49/134

5-4

 ブラスバンド部。

 冬だったか。部はあるイベントで演奏することになった。

 そのとき、俺は一人だけ外に出されたんだ。もちろん、下手だったから。

 練習は女子部の学食で行われる。もちろん皆さん上手ですよ。

 別に不満はなかった。下手だったんだから仕方がない。

 特に、俺のパートは低音だったから、目立たないが全体のペースを乱してしまうことになる。

 しかし、冬だったからな。学食の近くにある体育館で、一人で練習することになる。そこしか場所がないから。

 外に出されたのは俺一人。

 いいんだ。

 不満はない。

 それにしても、寒いな。楽器が、北風で冷たくなっている。

 学食から聞こえてくる演奏曲。本当は、男子部は参加しなくてもいいのだが、部内での総意で参加することになった。


「おいS、これ片付けてくれ」

「自分でやってよ」

「いいからやれよ。おい、もっと早くしろよ、早くしろって言ってんだろ。オラ、速く、速く。おせえんだよ、もっと速くできないのか」

 くそ、むかつく。

「なにぃ!むかつく?ふざけんなっ!俺は速くしろって言ってんだっ!だったら速くすればいいんたいっ!おらっ、はようせっ!」

 こいつ、ぶっころしてぇっ!


 このほかに、一気にブラスバンド部に入ってきた奴らがいたな。

 俺が何度も「やめとけ」といったのに、入部してきた。しかも、そいつらは教室で俺を馬鹿にしている奴らだった。

「部長が入部を認めないのか?」

 こう押し切られて、結局入ってきた。

 だが、不平不満を俺にぶつけ、サボってばかり。女子部からはどうなっているのか問いただされ、古参の部員たちからはつきあげられる。

 そいつらを参加させようとしても、全く無視。強制連行させようとしても、途中で逃走を企てる始末。

 もちろん、責任を取らされたのは、この俺。

 だが、そいつらはすぐにやめていった。

「S、お前の言うとおりだったよ」

 こういって俺の労をねぎらう奴もいた。こいつはちゃんと練習にきていた。俺がやめたとき、こいつはこう言っていた。

「S、やめて正しかった。よかったね」

 この後、俺に続いて立て続けに何人もやめた。

 途中入部の奴、実力のある経験者の後輩、最古参の部員というふうに。

 結局、ブラスバンド部は俺と対立していた奴の手に渡った。この場合、俺は追い出されたと、言ってしまっていいものだろうか。


 俺は電柱に手をつき、息を吐いた。

 息が白い。手で額をぬぐう。手の甲に汗がつき、それが湯気になっている。

 どこかの民家から話し声が聞こえてくる。


 はやくおふろにはいりなさい。

 エエー、もうちょっといいじゃん。


 そういえば、俺は何日風呂に入っていないんだ。

 着替えた記憶もない。

 今、俺はどんな顔をしているんだ?

 汚い面がさらに汚くなっているだろう。

 そんなことより、寝場所を見つけなければ。かなり無駄な時間を費やしてしまった。

 瞬きすると、目の前に色々な奴の姿が出ては消えていく。

「あいつら、ぶっ殺して……」

 首を振った。

 今のせりふを忘れなければいけない。

 あれだけ殺したあとで、またやる気か。

 反省してから、舌の根も乾かぬうちに、またも。

 病気なのか?

  殺したい衝動がどこらからかくる。

 馬鹿か?

 もうやめろよ。どれだけ殺せば気がすむんだよ。

 俺は歩き出した。

 胸の中に何かがくすぶっていた。

 気持ち悪い。

 空き家とぼろアパートが続く。

 小さな窓から光が漏れるだけ。

 人の気配はない。静かだ。外灯の光もくすんでいて、それほど明るくない。

 そんな中、目の前に一箇所だけ明るいところがあった。コインランドリーだった。

 屋根と壁がある。今日はここで寝よう。足が自然と速くなる。


 コインランドリーは百円シャワーと一緒だった。

 洗濯機四つと乾燥機二つ。

 安物の背もたれのない椅子が二つ。シャワーは四つあった。コインランドリーの中にあったのはそれだけ。

 狭いスペースの中にそれだけのものが入り、無駄な空間がほとんどなくなっていた。当然ベンチなんてない。

 しかし、俺には十分だった。

「今日は久しぶりゆっくり眠れるぜ。シャワーも浴びてみるかな……あっ、ダメだ。着替えがない。くそっ」

 そうぼやいたが、表情が緩んでいるのがわかる。

 入り口のドアに俺の手配書が張られていた。

 が、誰かに落書きされていた。なまずひげや仙人みたいなあごひげが生えていたり、頭にやしの木が生えていたり、ほほに渦巻きがあったり、何か言っていたりしていた。

 フキダシの中はこうだった。

『彼氏募集中。や ら な い か』

 俺は同性愛者じゃないぞ。どこの馬鹿だ。

 手配書をよく見てみると、隅っこに小さな字で

『殺さないでください』

 あきれながらも俺はいすに座り、荷物を降ろす。

 足が棒のように動かせなかった。筋肉が張っている。両手で片足ずつもみほぐしていく。

 荷物をずっと背負いっぱなしで、肩も痛い。

 誰もいないことを確認し、銃をリュックの中にしまった。久しぶりに軽くなった肩を上下させる。

 筋肉の中に針金でも入っているような痛みと同時に、筋が小さな音を立てる。首も痛い。

「今、誰かと喧嘩になったら、俺は負けるな」


 イヤ、ソンナコトハナイ。


 俺は見回してみた。

 誰もいない。

 それはわかっていた。

 それなのに、どこからともなく声が聞こえてきた。

 ただの、気のせいなのか? それとも幻聴だったのか?

「疲れているんだ」

 最近、ろくな場所で寝ていないからな。体力が落ちてきているんだろう。

 これから、寒くなってきて、外で寝ていられなくなる。

 それに加え、食事も水しか飲んでないのと同じだ。コンビニでおにぎりひとつでも食えば違ってくるだろうに。

 腹が減りすぎると、胃の辺りが痛くなってくるんだよな。


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