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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
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5-3

 中学時代、俺は部活をサボったことがある。その回数は二回ほど。

 いきたくなかったから。

 これが理由の全てだった。

 だが、それまで俺はサボらず毎回練習に参加した。

 サボりたくてもサボれない。

 その理由は、理由を聞かれると答えられないからだ。俺だけかもしれないが、理由を聞くというより、取調べをするという感じだった。

 狭い部室で俺を中央に座らせられ、主要メンバーがざっと取り囲む。部内で一番権力を持った奴が目の前にいる。

 もちろんキャプテンも。

 あるとき……確か春休みだった。

 俺は寝坊してしまい、部活に遅刻してしまった。

 今日は仮病で休もうと思っていた。しかし、行きたくない旨を告げると、親は理由を聞いてきた。

 部が嫌いだから。

 こんなことを言うと、どういう風にとさらに突っ込んで質問される。

 どういう風に、と詳細を聞かれると、俺はどう説明していいものかわからなくなった。どういう風に言えばいいのかわからなかった。

 言葉が思いつかず、説明できなかった。

 あれもこれもと言うべきことが次々に押し寄せ、結局記憶が互いに打ち消しあい、何もいえないまま。

 それが面倒で、理由をはっきりさせず、言葉を濁し続けた。何でもいいから言うべきだったかもしれない。要領を得ず、説明はできなかった。

 俺は家から出された。追い立てられるように、部活に行かされた。

 既に練習は始まっている。何が待ち受けているかわからず、ただ恐怖だった。自転車に乗り、学校に向かう。

 ただ、憂鬱だった。

 到着しなければいいのに。

 このまま時間だけが過ぎてしまえばいいのに。

 そればかりが頭の中にあった。

 どうしてこんな苦しいことを続けなければいけないのか、全くわからなかった。皆がやっているから、やらなければいけない。この強制力は強く、俺は疑問を提示することさえ、当時は考えられなかった。

 いやだ、いやだ、いきたくない、いきたくない、このまま消えてしまいたい、卓球なんかしたくない、あの連中と顔を合わせたくない、どこかへいきたい、一人になりたい、つらい、つらい、全て投げ出したい、いやだ、いきたくない。

 そう考えているうちに、学校が見えてきた。

 次の角を右に曲がれば学校に到着してしまう。

 俺はその交差点で自転車を止め、ハンドルを握り締めていた。

 いくべきか、そうでないか、迷っていた。いきたくない。だが、行かなければいけない。

 このまままっすぐ進めば、学校に行ったことにできる。

 今は授業がない。学校をサボったことにはならない。春休み中なので、警察に補導されない。

 いい気候だった。快晴で、こんな日にいやなことをして一日つぶすのなんか、ばかげている!

 しかし、いかないと……。

 いや、やめた。

 卓球なんか中学でおしまいだ!

 もう、一生やらないぞ!

 卓球なんか、この地上からなくなってしまえばいいんだっ! こんなつらい目にあってまで、どんなことを学べるというんだ!

 一生するわけじゃないのに、どうしてさせられなくちゃいけないんだ! 

 したい奴だけすればいいんだ!

 やめだ! 卓球なんか、もう、やめだ!

 俺はハンドルをまっすぐ前に向けたまま、ペダルをこいだ。そして、そのまま帰る時刻まで当てもなく自転車を進めた。

 それでも、解放された気にはならない。

 明日も、あさっても、その次も、その次の次も、引退まで部活は続く。今日だけうまく逃げられたって、地獄は続く。


 中学での部活は必修だった。

 卓球部をやめても、帰宅部というわけにはいかない。必修クラブというものがあり、それに所属しなければいけない。

 しかし、それに入っている奴はほとんどいなかった。部活をやめて必修クラブに移るという奴もいなかった。

 俺は耐えかね、やめると言い出した。

 この中学の俺の学年でただ一人。一年の春には何人かいたらしいが、二年の秋、新人戦の前に言い出すものは、俺だけだった。

 顧問は教室に部員を集め、部員から事情を聞いた。

 俺はやめてくれ、と思った。こんなことをされたら部内での俺の立場がますます悪くなる。それに

「部内でいじめはあったか」

と、きいて

「はい、ありました」

と、当事者たちが答えるわけがないじゃないか。

 俺はやめたかった。部活なんて無理矢理させられるものじゃないだろう。

 そのために顧問に相談したのに。

 ここで、学園ドラマなら、部員たちは自分たちの態度を反省、全て丸く収まるだろう。最近はそうでもないか?

 しかし、部員たちの『やってない』という主張が通り、顧問は俺に説教し始めた。いつの間にか加害者と被害者が逆転している。

 ここでも、俺の口下手が災いしたわけだ。

 顧問の説教は俺の耳を素通りした。

「どうして卓球が嫌いなんだ」

 何かを嫌うのに、理由なんかいるのか?

「野球部だったら、もっとひどい目にあったかもしれないぞ」

 そりゃそうかもしれないが。

「……だって、皆からからかわれていたが、最後までやりぬいたじゃないか」

 人のことはどうでもいいんだ。そいつはやりたくてやったんだろ?

 俺は無理矢理させられ、やりたいことを横目で見ながらやりたくないことをしている。

「耐えることも勉強なんだ」

 皮肉だが、そうだな。

 その通りだよ。おかげで、色々わかったよ。

 たとえば、やりたいことをさせず嫌いなことを押し付けたらどうなるか、とか。部活なんか何の役にも立たないこと、とか。人は激しく何かを嫌うことができること、とか。いやなことを強制して我慢させればさせるほど忍耐力が落ちていくこと、とか。嫌いなことはどんなにがんばっても上達しないこと、とか。

 顧問の説教が終わると、俺は部員たちの前に引き出され、謝った。お騒がせしてすみませんでした、と。


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