3-5
俺に野球をさせない理由を聞いたよ。しつこく。
そしたら、何と言ったか。
「野球が下手で、惨めな思いをさせたくなかったからだ」
そして
「野球がしたいなんて、一言も言わなかった」
俺は何も言えなくなってしまった。
やはりこいつらダメだ。
そうか、やはり俺は実験台なんだ。
俺の成績が悪くなれば、こいつらは俺を簡単に捨てるような奴らだ。
昔、野球部にはしごきがあったって?
今そんなことすれば、高野連から出場停止を食らうぞ。
それとも、お前たちがやれと言ったことで、俺が惨めな目にあうのはいいのか。
俺が野球部の練習を横目で見ながら帰るとき、どんなことを考えていたか、知らないだろう?
卓球部で馬鹿にされながらも、死なずに卒業できた。それは目標があり、時間制限があったからだ。
その目標をつぶされたとき、俺がどんな思いでお前らの言葉を聴いていたか、わかるか?
部長の俺がブラスバンド部で陰口を叩かれ、ただの平部員からあごでこき使われていたのは、惨めな思いじゃないとでもいうのか?
高校受験のときに志望校を聞かれたとき、野球の強いところばかりを選んだ。そのとき俺が何を考えていたか、知らないだろ?
俺が野球やりたいと自己主張したとき、どうしてやめさせるんだ?
やはり、自分たちの駒じゃないと気がすまないんだな。
お前たちは大学に行っていない。
だが、部活が関係あるのか?
野球を経験していないと、ただの草野球にも入れないんだ。
草野球にもセミプロみたいなのがいて、当然野球経験者も多い。中には草野球リーグみたいなもので優勝するため、厳しく練習しているところもあるときく。
俺に野球をあきらめさせたのは、お前たちが大学にいけなかった不満を、俺を使って解消しようということじゃないのか?
外面では俺のことを思って、といっているが、ただ自分たちのストレス解消と見栄のためじゃないのか?
中学受験なんてよくわからなかった。それなのに、苦しい目にあってまで俺に何をさせようって言うんだ?
幸せな将来?
今の世の中にそんなのがどこにあるって言うんだ。
俺が問い詰めても、ダメだった。
同じことしか言わない。
俺がどんなに苦しい思いで中学時代を乗り切ったか、まるでわかっていない。自分たちの主張ばかり。
「プロは厳しい。上には上がいる」
なぜプロが出てくる?
高校野球にプロなんか関係ないだろ?
そこまでの実力があると思うか?
やりたい部活をやるというだけなのに、なぜプロが出てくるのだ?
高校三年間だけ野球をして、甲子園を目指したいというだけなのに、どうしてただユニフォームの袖に手を通すだけのことができない?
こいつらは、俺の就職にまで及んだ。
結局こいつらは俺を公務員にしたかったらしい。
どうしてこいつらの言うことばかり聞かなければいけない?
「どうして公務員がいやなの?」
こう聞かれたことがある。答えはこうだ。
「お前らが勧めるから」
勧められたことをやって、ろくな目にあったことがない。
おまけに野球部に入りたい、といわなかった、という言葉まで聴いた。
今親にこういったら、そんなこといってない、と答えるだろう。
そんな連中だ。
期待している?
馬鹿か。
ではなぜ、俺は高校受験のときにあれほど追い詰められていた?
それまで受験勉強なんかしてないような奴らが、一年のころから勉強している俺を追い越し、合格している。
割に合わないんだよ!
どこの企業に面接に行っても
「あやしいところにつとめるなよ」
つまり、一流企業や公務員でない限りどこも怪しい企業ってところか?
「おとこらしいしごとにつきなさい」
なんですかねそれ。
いまや自衛隊のポスターでも女性が出てくる時代だぞ!
わかったよ。
つまりは、俺は公務員、特に警察官以外ダメだということなのだろう?
そして、俺は就職浪人。公務員試験も全滅。
警察官の研修、厳しいらしいな。
中学野球も『ヘタだから』とさせてもらえなかった俺が、なぜ警察官の訓練に耐えられると思うのだ?
親が言っていた、今でも笑える話がある。
「警察官は公務員だから、9時から17時まで働いて、土日は休める」
多分、市役所と間違えているんだろう。
警察こそ年中無休、24時間勤務の元祖じゃないか。
親戚とか、警察官が多かった。
一次試験に受かれば、コネで入れると言われたが、俺はその一次試験も合格しなかった!
そこまでが走馬灯のように……。




