十四話 冒険の足がかり:後編
投稿がまた遅れました。私はバカです。
俺は魔力適性の測定を終え、来た時に通った廊下を歩いて戻りながら思った。
魔力適性が『測定不能』って、なんかすごい強者感があるような気がする。ウレシー。
ってのは冗談として。嬉しいのは本当だけど一応冗談としまして。
なんであんなことになったんだろうね。
俺ってば、そもそも魔力無いからあの球は反応しないはずだ、と思ったんだけど。
そう思いながら歩き、俺は職員に案内された道を戻って裏庭に帰り着いた。
別室に移動する前に背を預けていた柱に、俺は再びもたれかかる。
最近は足の筋肉が張っておってのう。どこかに体重を預けておらねば疲れてしまうのじゃ。
うん、全部ウソ。なんなら今日は逆に全身調子良いくらいッス。
はい、いつものー。今日はちょっと多いね。
そうして待っていると、少し遅れて戻ってきたバトラカスさんが手に木剣を持って裏庭の中央に立ち、こう言った。
「よし、全員揃っているな。次は実技試験に移る!」
バトラカスさんがこの場に居る全員に聞こえるようにそう言うと、ツルミさんを含めたほとんど全員が気を引き締めたような、周囲の空気が張り詰めていくような変化を俺は感じた。
つーか、冒険者で実技って聞いたら俺は腕っ節を連想する訳だが、その予想が当たってるならこれからは運動開始ってことになるよね、魔法が使えない俺とかは他の戦術に頼れないから特に。
それはそうとして、実技が模擬戦闘である、とかなら身構えるのも自然なことだろう。
それで思ったことは、事前の情報収集を全くしていないため、今になって状況から推測するばかりの俺はいい加減な性格だなって思われるかもしれないってことだ。それ正解。
俺がそう思っている間、バトラカスさんは言葉を続ける。
「実技試験では一人ずつ前に出て、俺と打ち合ってもらう。木剣はそこにあるから順番が来たヤツから好きに持って来い。」
バトラカスさんはそう言いながら、手に持った木剣の先で中庭の一角を差す。
中庭の片隅に十分そうな数の木剣が立て掛けられている棚が置かれていた。
あー、試験は木剣でやるのか。
確かにこの場に居る者達は、今から冒険者になろう!という人達な訳だから、ここの全員が剣を持った経験があるとも限らない。
たった今、初めて剣を握る人が真剣を持つというのも危険な話だろうし。
でも、大丈夫だろうか。俺、ワイルしか使ったことないし木剣の重さとサイズ感でちゃんと戦えるのか?
そう一人で思考を巡らせているのを他所に、バトラカスさんは言葉を続ける。
「真剣同士でやりたいってんなら、それでもいいぜ。そっちの方が慣れてるヤツもいるだろうしな。それはそうと、今順番じゃない奴は端によって離れておけよ。」
良かった、一応真剣でやるのもアリらしい。それなら俺も普段と変わらない条件で戦えるだろう。
それと一応、予想していた通り実技試験の内容は模擬戦闘だったようだ。
ただ、少し意外だったのは打ち合う相手がバトラカスさんだってところだ。
なんつーか、バトラカスさんは左腕が無いし、そういうところがハンデになったりしないか?と思ってしまう。
見た目からは戦闘経験豊富そうな感じだと思ったが、本当に今でも戦える、というのは全く予想していなかった。
魔物なんてのが居る世界だし、一般人も魔物から攻撃を受けることも少なくないだろう。
バトラカスさんに関してもその例かと思っていたが、その予想はハズレだったらしい。
「・・・!前に出ろ!」
なーんてことを思っている間にバトラカスさんは、名前は聞き逃してしまったが、他の受験者のものと思われる名前を呼ぶと、それに応えるように一人の受験者が前に出て行く。
「よろしくお願いします。」
「ああ、いつでも来い。」
「それでは、いきます!」
打ち合いを始めた。
とりあえず、いろいろ軽く分析してみるか。
まずは受験者の方だ。受験者の方は言葉遣いからして、真面目な性格をしてそう。
コレ関係ねーな。
改めまして、受験者の方はそれなりに素早い動きで、剣術は少なく見積もっても素の俺以上、と。
受験者側は休むことなく連撃を打ち込んでいるが、バトラカスさんはその攻撃を全てキレーに受け流したり避けたりと、完全にバトラカスさん側の方が技量が上だということが見て取れる戦いぶりだ。
だが、バトラカスさんは今のところ一切攻撃を仕掛けていない。
おそらく、実力を測ることが目的の試験という場であることから、飽くまでも実力を見極めようとしているのであって、勝負として勝ちを狙っている、という訳では無いのだろう。
つまり、今戦っている受験者とバトラカスさんとの間には、大きな熟練度の差がある訳だ。
バトラカスさん、案外恐ろしいお人だ。
俺がそう戦況を分析していると、剣撃を受けながらバトラカスさんが口を開く。
「どうした!?速度が鈍ってきたぞ!」
「くっ…。」
受験者の方は激しい連撃を加え続ける間に体力を消耗したのか、速度が鈍り始めていた。
バトラカスさんは打ち合いの最中ながら、それをしっかりと指摘する。
俺だったら、戦闘の最中には冷静に戦況分析なんかできるか…。
多分、いや、絶対にバトラカスさんは俺以上の実力者だ。
今見せている実力が100%ではないだろうし、尚更。
こんな相手と打ち合うのか…ヤバそ。
それに、順番もさっきの魔力適性の測定と同じだと仮定するなら、俺が最後のトリを務めるわけだが、それが一番キツくないか?
ガクブルガクブル。
俺が一人で震えている間に、打ち合いは最後のヒートアップを見せる。
「よぅし、速度が戻ったな。良い調子だ。」
バトラカスさんもそのことに気付いたのか、感嘆したようにそう言う。
にしても、受験者の方もなかなかやるね。
上から目線っぽく言っちまったが、ほんとにすげーって思ってるのは間違いない。
俺だったら受験者の方すらまともに相手できないだろう。
そう思いながら、さらに観察を続ける。
バトラカスさんは目まぐるしく動き剣をしっかりと見切り、確実に受け流している。
長年の熟練からなる技なのか、俺の目線では一切乱れが見られない。
そして、受験者の方も奮闘虚しく再び剣速が下がってきた。
「はあぁっ!」
最後に、剣を振り下ろすと見せかけ、軌道をずらし下からの切り上げ、というフェイントを挟んだ攻撃を行った。
だが、バトラカスさんはそれすらも見切り、思い切り剣を弾いた後、綺麗に峰打ちを叩き込んだ。
「ぐあ…。」
受験者の方は峰打ちを受け、小さく声を漏らしてからその場に尻餅をついた。
つまり、これで決着!というわけだろう。
受験者の方も、今回は勝てなかったにしてもナイスファイトだ。
バトラカスさんは、持っている剣を肩に載せながら受験者に声をかける。
「攻撃は悪くない。だが、戦いが長引いてから無理に踏み込んだのが良くなかったな。伸び代自体は悪くないだろうと思うぜ。」
受験者の方はその言葉を尻餅をつき、少し息を切らしながら聞いていた。
その言葉を聞き終えてからは地面から立ち上がり、バトラカスさんに言葉を返す。
「ありがとうございましたっ。」
そう言って軽くお辞儀をしてから下がっていく。
まあ、大体流れは分かったな。
複雑なこともなく、ただ普通に打ち合う。ただ普通に、とは言ったけども周囲に剣と剣がぶつかる音が響くほどの威力で打ち合ってたんで、過程はどうあれ食らったら普通に怪我もありえるレベルだ。
多分、回復魔法だとかで死にはしないように対策はされているんだろうが…コワー。
俺がそういうことを思っている間にも順番は進み、次の受験者の試験が始まっている。
ま、こっからはしばらく待ち時間でも良いだろ。
ボーッと見ながら俺の番まで待つとするかね。
「ふあぁ、ネム。」
俺の番が来るのはまだしばらく先だろうと思って欠伸をしてしまったが、俺は決して本番で緊張しないタチだというわけではない。
俺の番が目の前に来てないからまだ大丈夫だ。
だが、俺の番が来た時にはきっとガッチガチに緊張すると思う。そう、つまりただ鈍いだけである。
とりあえず俺は束の間の平穏を噛み締めておこうと思いました。
「貴方の目線から見て、マスターの戦いぶりはどう見えた?」
その時、突然ツルミさんから話しかけられた。
うお、ちょっとビビった。
欠伸のために目を細めて、周りが見えてない間に近づき話しかけられ、驚いてビクッと体も震えました。
そのことに関しては、触れないでいてくれると嬉しいです、ツルミさん。
「あー。まあ、多分なかなか熟練した使い手って感じに思ってるッス。今のが本気な感じもしねーですし。」
「やっぱりそうよね。彼、今は一線を退いているようだけれど、昔は腕の立つ傭兵や冒険者だったのかもしれないわ。」
「冒険者ギルドで働いてるくらいだし、元冒険者だったりすんのかもしれないッスよね。」
俺は他人の剣の腕を見て、対人用か対魔物用かなど、何のための剣術かを見抜けるような熟練度も経験も無いんで、バトラカスさんの過去はテキトーな推測をすることしかできない。
どの道、後で戦うことになる訳だから軽く観察を続けて、得られる情報が無いか探り続けよう。
多分勝つのはムリだけど、爪痕残すくらいは目指しても良いだろ。
俺はそう思いながらしばらく試験を眺めていた。
試験は既にあれから四、五人分くらい進んでおり、残りは多分…。
「次は…ツルミ!前に出ろ!」
ちょうど名前が呼ばれた、ツルミさんと俺だけだろう。
魔力適性の測定もツルミさんの次に俺って順番でラストだったし、この流れは間違いなくトリを飾るのは俺なんだろうね。
さぁて、俺もちっと心臓バクバクしてきましたよー?
自分の番が直前に迫って少し緊張し始めた俺を尻目に、ツルミさんはバトラカスさんの方へ進んで行き、ツルミさんは腰に下げ、鞘に収まっている一振りの剣…いいや、刀に手をかけて言う。
「よろしく頼むわ。」
その言葉を聞きながら、バトラカスさんはツルミさんが持っている武器を見て、バトラカスさんの方も武器を真剣に持ち替えた。
そして、バトラカスさんも真剣を構えて言い放つ。
「おう、いつでも来い!」
バトラカスさんがそう答えてから、ツルミさんは刀を鞘に納めたまま左手に持つ。
刀かぁ…ツルミって名前もそれっぽいし、もしかしてこっちの世界にも現実の方の俺が居た国みたいな場所があんのか?
まぁいいや、観察観察。
今のところで、観察して気になっている部分はバトラカスさんの攻撃だ。今はバトラカスさんの攻撃に関することが全く分かっていない。
それは他の受験者がバトラカスさんと打ち合っても、大体の場合はバトラカスさんが本格的な反撃に出ることは無かったためだ。
バトラカスさんは受験者の攻撃を受け流し、その後にできた隙をついて終了、という感じが多かった印象だ。
今の俺が何も考えず、ましてや『気』を使いもせずにバトラカスさんと正面でぶつかっても、他の受験者と同じ轍を踏むだけで、なんなら誰よりも最短でやられて終了。となってしまうことだろう。
『気』を使わず楽をしたいのも本音だがそれは良くない、そうなりゃマジ不合格でもおかしくない。
俺の持ち味は飽くまで攻撃の回避、それを活かさず戦えば俺の戦闘力は一般人レベルでしかない。
ちゃんと頭は使わねーと。頭突きとか以外で。
つまり、俺がバトラカスさんと渡り合うのに必要なことは、『バトラカスさんから攻撃を引き出すことと、バトラカスさんの攻撃を見切ること』。それか、『バトラカスさんに攻撃行動を取らせない』もアリかもしれないが、正直実現するのは難しそうだ。
一応おまけとして、『短期間で決めれる有効打を打ち込みたい』っていうのもあって良いだろう。
前の二つを必達目標とするなら、後の一つは努力目標、と言ったところか。
そこまで情報を整理してから、俺は試験の観察に再び意識を向け直した。
「それじゃあ、行くわよ…!」
ツルミさんはそう言ってから腰を落とし居合に構えた後、バトラカスさんの正面へ素早く踏み込み、抜刀と同時の一撃を加えようとする。
ツルミさんのその太刀筋は、今日の試験で見た中では最も速いものだった。
だが、バトラカスさんはその刀が体に届く前に剣の側面に這わせ刀を跳ね上げるように受け流し、ツルミさんは跳ね上げられた力に従って、上半身を後ろに反らせるように隙を晒してしまう。
バトラカスさんは一瞬の間も置かず、その隙に追撃として横薙ぎの一撃を加えようとする。
ツルミさんはその攻撃を、跳ね上がる力に逆らわずにバク中をして回避する。
皆さん身体能力がおヤバいようで。
『気』を使った戦いができる間ならいざ知らず、残念ながら俺には、ああいう風な動きができるほどの身体能力は無い。
あの戦いと同じレベルの戦いをするなら、俺も『気』を使わなければならないが、そうすれば俺のただでさえ少ない体力をさらに削ってしまう。
もしそうすると言うのなら、それほどのリスクがあってもなお、賭けるに足る作戦がなければと思う。
さて、どうしたもんか。
俺がそう思案している間もツルミさんはバトラカスさんに攻撃を打ち込み続けている。
格上の相手から攻撃を引き出すにはどうすれば良い?
剣の実力が足りていないなら、何か他にも使える手段を用意しとけたら良いのかもしれないが、それは何があるのか、という話だよ。
それこそ、俺だけじゃムリな気もする。
俺だけじゃ…あ、うん。俺だけじゃ、か。
俺はそこまでの思考を行ってから、口には出さずに、心の中で言葉を発する。
(と、いうわけで!皆さん今よろしい?)
『ハイハイ、まぁ、予想はしてたよ?』
俺の言葉にやれやれと返事を返してきたのは鳴宮さんだ。
『大体言いたいことは分かるけど、一応ちゃんと説明してよ?』
鳴宮さんはめんどくさそうにそう続け、こちらに説明を求める。
まあ、それは元からそのつもりだし別に良い。
(おっけー、簡単に言っとく。正直、皆さんの力を借りたい訳です。俺が正面から挑んでも多分他の人以下の戦闘にしかならないと思うんで。それなら交代して手と品を変えられた方がまだ戦えると思うんス。)
俺が他の人と交代すれば、戦い方だけでなく外見や背丈まで変化する。
他人の目線から見れば、それは原理不明な不思議現象にしか見えないと思うし、初めて戦う敵の意表を突くにはこれ以上ない手段となるだろう。
俺はそこまで考えてから、度重なる考察に疲労した頭を休めるため目を閉じ、天を仰ぐかのように顔を上方へ向け、断続的に鳴る金属音から注意を外す。
(ハァ…ここ数年で今が一番真面目かもッスね。)
キィン…ッ!
そう思いながら一息ついていた俺の耳に突然、金属で金属を打ち据えたような一際大きい甲高い音が入り込んでくる。
音のした方へ顔を向けると、バトラカスさんの振り抜いた剣がツルミさんの手に持っていた刀を弾き飛ばした瞬間が見えた。
今回は刀が完全にツルミさんの手から放り出されており、ここから逆転する、というのは難しそうだ。
バトラカスさんは、俺の予想を肯定するかのようにツルミさんの首元へ剣の切先を突き付けた。
「お前、その年でなかなかやるじゃないか。」
バトラカスさんはそう言ってから、喉元に突き付けた剣を下げる。
その後、大きな息を一つ吐いてからツルミさんは返事をする。
「褒めてもらえて光栄よ。だけれど、私もまだまだ精進を続けるわ。」
そう言ってからツルミさんは、少し遠くに弾き飛ばされた刀を拾いに歩いて行った。
バトラカスさんはその背中を確認してから、今度は俺の方に視線を向け直し、俺に対して声を上げる。
「よーしエルク!お前で最後だ、こっちに来い!すぐに始めるぞ!」
うおお、やべぇ。まだ全然鳴宮さんとかと意見調整できてねぇよ。
だけど、もう呼ばれちまったから仕方ない。
鳴宮さんとの話を切り上げてすぐに向かうべきだろう。
『あのさぁ、わざわざ人目につく…』
(悪い!もう呼ばれちったから今は話せないかも!そんじゃ!)
『はぁっ!?君、そういう軽率な行動の深刻さ…』
鳴宮さんが俺の返事に対して、少し慌てたように言葉を続けているようだが、残念ながら今の俺にはその言葉に耳を貸せる余裕は無い。
とりあえずそれは後で謝るとして、今はこのままバトラカスさんの方へ向かおう。
俺はそう思いながら、バトラカスさんの方へ足を進め始めながらバトラカスさんに返事をする。
「ハイ、分かりました!そっち行きます!」
そう言い終わり、それから数秒ほど小走りで移動してツルミさん達が立っていたのと大体同じ場所に立つ。
その間にバトラカスさんは首を左右に曲げ、関節をコキコキと鳴らしている。
俺はその間、軽く伸脚や腕を伸ばしたりなど、簡単なストレッチをする。
そうしてもう少し時間が経つと、バトラカスさんが口を開いた。
「よし、早速始めるか。全力で来て良い、俺のことは気にするなよ。」
「っと!その前に、一個質問あるッス!」
俺も一瞬、もう始めてもいいかと思ったが、たった今思い出したことがある。
それに関しては、聞いておいた方が良いだろう。
バトラカスさんは、さっきの俺の言葉に対して首を傾げながら言葉を返す。
「ん、どうした?何か気になることでもあるのか?」
「まあ、気になること…と言やぁ気になることッスね。」
正直質問の内容的には大したことでは無い筈だ。
だが、今は試験中且つお互い武器を用いた勝負。バトラカスさんの方は万に一つも無いことかもしれないが、俺の方は一歩間違えたら怪我しかねない。
というか、この状況だと怪我以上に最悪な状況への不安感も高まってしまう。
それにどうせ始まってからでは聞けないことだ、今のうちに聞いておくべきだろう。
「一応の確認ッスけど!この試験での違反行動とかって何スか!」
俺がそう言うと、バトラカスさんは一瞬ポカンとした表情をした後に答えた。
もしかしたら、俺以外の人にとっては周知の事実なのかもしれないが、
「そうだな…簡単に言えば、重篤な症状や後遺症が残るような技はお互いに使わないようにすること。それと…殺しはナシだ。死人が出ちゃあお互い面倒になるってのは分かるだろ?それ以外はまあ…なんでもアリでいいぜ。」
「なるほど、了解ッス!」
「質問は他に無いか?無いならそろそろ始めたいんだが。」
思ったよりもルールは単純で良かった。
細かいとこがなんでもアリなら、こっちもこっちなりに足掻けるってもんだぜ。
「ありがとうございます!こっちもそろそろ準備完了ッスよ。」
俺は最後に一回、左手を添えてゆったりと首を回しながら膝を少し曲げて腰を落とし、首に添えた左手を脱力させてから、背に掛かったワイルの柄を右手で掴む。
「それなら始めよう。良い加減、試験官をやるのにも飽きてきたとこだ。」
「ハハッ、それ、試験官の言うことッスか?ま、いいや。それじゃ、今度は俺が飽きさせない勝負にできるよう頑張りますよ。」
そこまで言ってから、俺とバトラカスさんは剣を構え、見合った。
正直俺はなんとなくで合わせてるだけなのだが、なんか今のところそれがかっこいい感じになってる気がするので、流れでその内戦闘を始めようと思う。
結局のところ作戦は…特にない!最初からフルスロットルで『気』を使って行く!
あと最低限、攻め過ぎず下がり過ぎず、攻撃は必ず回避するか受け流す!
いつものように俺の持ち味を全力で活かす!
以上!
「そんじゃ、行きます!」
俺はそう言うのと同時に、『気』による身体能力強化を発動させると、それに呼応して全身が軽くなるのを感じる。
俺はその言葉を言い終わるのと同時にバトラカスさんの方へ駆け出した。
「むっ!?」
バトラカスさんは少し驚いたように目を見開いたが、そうってだけで俺が止まる訳には行かない。
まず初手では、驚いてる間の不意を狙うくらいしか俺が有効打を与えられる見込みは薄い。
残念ながら、俺とバトラカスさんにはそれくらいの実力差があるということが、さっきまでの観察で見て取ることができた。
だったら俺がやるべきことは、端から全力で飛ばしていくことだ。
「だらぁッ!」
俺は素早く接近し、剣を右下から左上へ切り上げるように振る。
「フンッ!」
ガキィンッ!
今の俺にできる最大限の速攻も、激しく音を立てつつもあえなく弾かれてしまった。
流石にそうだよな、一応これで決める気ではあったが、これで勝負が決まるほどバトラカスさんは弱い相手ではないとも思っている。
俺は、隙を晒してしまわないよう、攻撃が弾かれたことを察知した直後、素早くバックステップし距離を取る。
「やっぱし、流石にこれじゃあ決まらないッスよね…。」
そうして俺はバトラカスさんから一定の距離を取り、一旦身体能力強化を解除した。
既に息を切らし掛けている呼吸を必死に繕いながら体力を回復しつつ独り言のようにそう言う。
それを聞いていたバトラカスさんは少し声を荒げながら俺に言葉を返してきた。
「バカ言え!油断してたらやられる速度だったぞ、焦らせやがって。」
「すんません。でも、戦闘中に油断するような人じゃないってのはなんとなく分かってましたが、一応ッス…ねっ!」
俺は言葉を交わして稼いだ時間で少し体力を回復した後、再び身体能力強化を発動してバトラカスさんに接近し、今度は連続で剣戟を打ち込む。
「ったく、なんて曖昧な太刀筋してんだ…!その癖随分速いじゃねぇか!」
バトラカスさんは俺の連撃を冷静にいなしながら、吐き捨てるようにそう言う。
俺が行う剣戟は、過去に武器をまともに使った経験がないことによって、『型破り』どころか、そもそも全てが『型無し』な不規則そのものの太刀筋となっている。
そこに、『気』による身体強化が重なったことで、遅速入り乱れ、剣の振り方も覚束ない中途半端さながらも、速度だけは一人前以上、そんな不安定の極みのような剣技となったのだ。
だが、ここまでやって俺はようやくバトラカスさんが俺の太刀筋に慣れるまでの間は、普通程度の戦いができる、というレベル。
加えて俺には代償として、このレベルの戦闘を行う間は常に『気』による身体能力強化の発動がほぼ必須であるが故に、俺の体力は通常以上に消耗が激しい状態で戦わなければならない。
だからこそ、さっきのようにほんの数秒だけであっても、身体能力強化が不要なタイミングでは強化を切って体力を回復することが重要になる。
そうなれば俺には必ずどこか隙が生まれてしまう訳だが、そこはあのルーサーが考えた戦闘体系だ、その弱点もある程度は克服できる方法が用意されている。
「だぁりゃぁッ!」
俺は休むことなく、かつ、バトラカスさんがこちらに攻め入る隙も作らないように全力で剣を振り続ける。
今、俺がやっていることは何の捻りもない、根性だけの攻撃の打ち込み。
剣技でバトラカスさんに劣っている以上、これをこのまま続けてもいつかは必ず負けるだろう。
その事実は、僅かな焦りを伴いながら俺の心にのしかかっている。
このままだと負けてしまう、そんなことは俺でも分かる。
だが…。
「速さばっかりは大したもんだ!」
俺の焦りを切り裂くように、バトラカスさんは唇の端を少し持ち上げて嬉しそうに微笑みながら、そう言った。
それも、俺の剣戟をさっき以上に的確に捌きながら、だ。
きっと、俺の太刀筋にそろそろ慣れ始めた、ということだろう。
「だが、ソイツだけで勝負を決めさせてやるほど俺は甘く無ぇぞ!」
バトラカスさんのその言葉を最後に、俺の連撃は途切れる。
俺の剣戟の隙間を縫って、強烈な一撃が俺に打ち込まれたからだ。
俺は咄嗟に剣を構え、左手を刀身に添えて攻撃を受け止めようとするが、それでも俺は余りの衝撃に、後方に吹き飛ばされてしまっていた。衝撃を減らすために、後方へ跳んでいたのも理由の一つかもしれないが、それでも衝撃だ。
俺は地面から足が離れ、体が浮き上がる感覚を感じながら、バトラカスさんの方を見ると、勝負を決めようとしているのか、俺の方へ踏み込もうとしているのが見えた。
俺はその瞬間、敗北する可能性という先程の懸念を鮮烈に思い出す。
負けるかもしれない、だが…。
それで良い。
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コイツとの実技時間を初めてから、まだそれほど時間は経っていない。
寧ろ、今の時点で言えば他のヤツらと比べれば半分以下も経っていないくらいだ。
だが、それでも分かる。
コイツは、他のヤツらよりも強い。
いいや、強いと言うのは違うな…油断ならない、読みきれない、と言うのが近いだろう。
全くもって熟練度を感じさせない剣技もそうだが、それでも俺に攻撃する隙を与えないだけの速さ、動き、立ち回り。
全てが常識外れだ。
コイツはこれまでに一体どんな訓練を積んできたんだ?
敵の動きを的確に見切り先手を取ってこちらの手札を封じてくるから、歴戦の猛者なのかと思えば、その牽制以外の全ての動きがぎこちなく、速度を除いて見れば動きは素人そのもの。
まるで、剣の振り方だけを最低限覚えてから、自分以上の強敵との死線を幾度も潜ってきたような、そんな動きだ。
だが、こんな歪な戦い方を身につけようとすれば命が幾つあっても足りない。
コイツの過去を詮索したり邪推したりする気は無いが、少なくとも俺にとって、コイツは油断ならない使い手であることは良く分かる。
それだけでも十分な不安要素であるにも関わらず、コイツからは何か、それ以上の隠し球があるような気がする。
だからこそ、コイツの剣戟に見慣れ始めた今。
確実に勝負を決めに行く。
「だが、ソイツだけで勝負を決めさせてやるほど俺は甘く無ぇぞ!」
不規則な攻撃の癖を見抜くまでに少し時間を要したが、ようやく隙を作ることができた。
後はこのまま勝負を決めるのみ。
俺は全力で地面を踏み締め、吹き飛ばしたアイツを制圧するために地面を駆ける。
長らく俺は、試験でここまでの力を出すようなことは無かった。
まだまだ荒削りだが、コイツはそれだけの何かを秘めていたということなのだろう。
時間を掛けてじっくりと見定めたいものがあるが、今はすぐにでも勝負を決めたい。
今、アイツの足は地面から浮き上がっており、顔に驚きの表情が張り付いている。
すまんが、このまま制圧させてもらおう。
俺はそう思いながら足を動かす。
「・・さんっ!」
俺は空中に居るアイツが、突然何か言葉を発したことに気づき再びアイツの顔に目線を向け直す。
アイツの顔には先ほどまでの驚きの表情がまだ少し残っている。
だが、その表情はさっきまでのものとは確実に違う。
さっきまでとは違い、今のアイツの頬には笑みが浮かんでいたのだ。
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「鳴宮さんっ!」
俺は誰に聴かせるでもない程度の声で、地面から足が浮いた瞬間にそう言った。
その瞬間、俺の体は形を失ったかのように五感全ての感覚が希薄になり、意識と体の動きが乖離する。
どうやら、鳴宮さんと交代することはできたらしい。
「全く、ホントに話を聞かないヤツだよ君は…。」
ま、こうやってアイツの作戦に大人しく付き合う僕にも責任はあるかもしれないけどさ。
こちらを見定めていたマスターは、突然姿が変わった僕の姿を見て、表情には驚きの色を浮かべたが足は止めていない。
流石、マスターっていう経験豊富そうな肩書きをしてるだけはある、そう簡単に隙を作ってはくれなそうだ。
僕は心の中でそう嘆息しながら空中で体の重心を動かして、拳銃へと変化したワイルの銃口をバトラカスさんへ向けた。
『ちょっ、鳴宮さん!?』
普段はさほど気にしないうるさいヤツが僕の中で騒いでるけど、今ばかりはそれがとても煩わしい。
(うるさい、分かってるっての!)
僕は心の中で吐き捨てるようにエルクに返事をしながら、空中で体を捻り僕の利き手である左手でグリップを握り、しっかりと狙いを定める。
懐かしい感覚だ。
手にかかる銃の重みが、自分の過去の記憶を思い出させる。
実弾を打ち出す機構が魔力を打ち出す機構に置き換わった分軽量化された銃身の軽さは、自分に似合う空虚さだ。
頭とか胴体とかを狙ったら死ぬかもしれないけど、そこ以外なら最悪オジさんが直せるだろうし、もし狙うなら腕か足か…。いや、それでも万が一があったら面倒だし剣を狙おう。
僕はそう思いながらマスターの握っている剣の方へしっかり狙いを定めてから引き金を引く。
その瞬間、辺りに『ダァン!』と空気を揺らす轟音が響き渡ると同時に、銃口から銃弾が射出される。
(この距離だったら多分、銃弾が外れることは無い。ただ問題があるとすれば、この人の対応力がどれ程か、だねぇ。剣で受け止めて手を痺れさせることくらいでもできれば十分、剣を落としてくれたら十二分か。)
僕はそういう胸算用をしながら銃弾を打ち込む。
結果から言えば、僕の予想はそんなに外れたものでは無かった。
僕の打ち込んだ二発の銃弾は彼の剣に両方とも命中した。
昔から使い慣れた銃とは全く違う種類の銃、それをルーサーの元で血の滲むような練習を繰り返して習得した、一発目と全く同じ射線に隠れてほぼ同時に発射される二発目、合わせて計二発の銃撃。
ルーサーから『理論上は実現可能だ、やってみると良い。』と言われ、幾度と無くひたすら練習し身につけた技、それがさっきの攻撃だった。
全く、理論上は実現可能だからって、戦闘中にこっちが問題なく使えるようにできるとは限らないんだ…って、それはこの際別に良い、話を戻そう。
二発とも剣に命中した、そこまでは良い。
ただそれは、剣戟によって銃弾が二発とも弾かれた、という意味での命中だ。
(チッ、この銃弾どんな速度だと思ってんの!?ったく、本当に同じ人間なのかねぇ?)
銃弾の速度に反応したのか、それとも銃口の向きから予測したのか、どちらにせよこの人が自分と同じ人間だとは正直思えない、いいや、思いたくないというのが本音だ。
正直、僕の攻撃に効果があったのかどうか分からないのが少し口惜しいが、残念ながらもうじき足が地面に着いてしまう。
加えてマスターは今も高速でこちらに迫って来ているし、そのマスターの速度に対しては距離を稼ぐのも難しい。
何より僕は、銃弾にも対処できるような達人と相手ができるほど、近接戦闘には優れていないと自分でも感じている。
足が地面に着いたと同時にエルクと交代するのが最も安牌な選択だろう。
(足が地面に着いたら交代するからさぁ、準備しといてよ!)
僕は心の中でエルクに対してそう伝える。
『おっけー、鳴宮さん…!』
(気の抜けた返事だよねぇ、全く!)
存外に気の抜けたように聞こえる返事が帰ってきたが、多分本人は真面目なつもりなのだろう。
それを理解しても少し気になってしまうが、今それを深く気にする暇はない。
あと数瞬で地面に着地し、エルクと交代するとはいえ、変に体勢を乱したまま地面に立てばアイツも攻撃に対応できないかもしれない。
そう思い僕は地面へ一瞬視線を動かして地面を確認し、両足でしっかりと地を踏み締め着地を完了させた。
それと同時に、流れるようにエルクと交代する。
鳴宮さんと交代した俺は、剣の形に変化したワイルを握り締めて腰を落とし、消耗した体力の中無理矢理『気』を漲らせ、視線は前へ向け直す。
そうすれば自然と、俺の目の前に居るバトラカスさんと視線が交わった。
今、バトラカスさんは右頬を釣り上げ、嬉しげな笑みを浮かべている。
その時は無意識だったがきっと俺も、バトラカスさんと全く同じ表情をしていたことだろう。
迫ってくるバトラカスさんは、手に持った剣で斜めに切り上げんとする。
対する俺も着地と同時に身構え、バトラカスさんの斬撃を受け止めるため剣を交差させるような形で剣を振り下ろした。
「ぐううぅぅっ!」
俺は力を緩めないように歯を食いしばりながら、息切れの治らない肺の中の空気を全て吐き出し切るように全力の声を上げる。
それと同時にバトラカスさんの剣と俺の剣が激しくぶつかり、文字通り火花を散らしながら周囲に耳を劈くような甲高い音が響き渡った。
「おおぉぉっ!」
バトラカスさんも俺の全力に応えるように、俺との勝負を決めようとするように声を上げ、互いに目を見開きながら互いに一歩も引かない。
「うおおぉぉーーッ!!」
俺は、単純な力の勝負になればバトラカスさんには敵わないことが分かっていた。
それに加えて、俺の体力から鑑みても今が最後のチャンスに違いない。
だから俺は、地面を踏みしめる足に、バトラカスさんの剣の圧を受け止める体に、ワイルを握るこの手に、全霊の力を込め。
バキィンッ!
振り抜いた。
その瞬間、周囲には硬い物が砕けたかのような音が鳴る。
どうやら、バトラカスさんも俺と同時に剣を振り抜いたらしい。
その少し後に少し離れた場所で『サンッ。』と何かが地面に刺さったような音がした。
「ハア…ハア…降参…ッスよ…。」
俺は剣を持っていない左手を力無く挙げ、そう言った。
俺の右手には、刀身の半分から先の無くなったワイルが握られている。
そして、俺から少し離れた地面、そこに刺さっているのは砕け去ったワイルの刀身の片割れだった。
「だぁっはぁー!ゼー…ヒー…。」
俺はそこまで確認すると、そのまま地面に尻餅をつき、激しく息を切らしながら呼吸を整える。
バトラカスさんは俺の方ヘ歩いてきて言う。
「ま、お疲れさん。正直ここまでやれるとは思わなかったぜ。だが…。」
「ハハッ…、どうもッス。」
俺はそこまでバトラカスさんからの言葉を聞いて、短い言葉だがなんとか返事を返す。
バトラカスさんはそんな俺に続けてこう言った。
「後で色々と聞きたいことがあるんだが、良いな?」
俺はバトラカスさんのその言葉を聞いて、ほんの少し良くない予感を感じ、周囲を見渡す。
すると、先ほどは真剣な表情をしていた周囲の人々は、今は俺の方を見て眉を顰めながらコソコソと話している。
ツルミさんは口を開いてこそいないが、こちらを不思議そうに見つめていた。
「オイ…さっきアイツ、姿が変わらなかったか…?」
「ええ見てたわ!しかも見たこともない武器を使っていたし…。」
「よく見れば、今アイツが使ってる剣もあまり見たことが無いぞ?」
あー…ヤベ。
これは俺でも分かる、流石に悪目立ちし過ぎたかもしれない。
周囲の視線に気付き、内心冷や汗を流す俺を見て鳴宮さんは嘆息しながら俺に言う。
『だぁから言ったの。君、そういう軽率な行動の深刻さをちゃんと把握してないの?ってさ。ま、君は聞かなかったけど。』
「あっはは、やっちったッスね…。」
あぁ、鳴宮さんの声色的に不機嫌そうなのが良く分かる。
それなのになんだか無理矢理協力させちって…うん、この先、反省が必要だ。
(ごめーん…!)
『あー、良いよ良いよ、別にもうやっちゃったことなんだからさ…。』
『ま、まあまあトールさん、エルク君も一応悪いとは思ってるだろうし…多分今後はちゃんと相談してくれると思うから、ここは許して…。』
半分呆れながらも、不機嫌そうな声色で俺に返事を返す鳴宮さんに、丸山オジさんが優しく仲裁しようとしてくれる。
今後からは交代する時はちゃんと、可能な限りみんなとも相談するようにしよ…。
丸山オジさんが鳴宮さんにそうやってちょうど宥めているその時。
『はいドーン!』
『『へぶぅ!?』』
『お疲れサマー!夏の日差しのように燃えてる戦いだったねー。』
不自然な程に明るい声と話題でアルサス君が俺に言葉を掛けた。
なんか、よく分からないが激しく登場して鳴宮さんと丸山オジさんに攻撃しながらだったような気がするが…まあ、それに関してはそっちに委ねよう…。
『え、えっと、お疲れ様…です…?』
今度は、他のみんなの状況を見て困惑したような声でエテュミアさんが俺に声を掛けてくれた。
『あのさぁ!ただでさえアイツが面倒臭いことしてイライラしてるってのに、君のボケにまでは付き合い切れないんだけどーっ!?』
鳴宮さんのその言葉を皮切りに、俺の中のみんなはワイワイガヤガヤと、だけどどこか楽しげな雰囲気で言い争いが始まった。
周囲の人々は今でも、試験時の俺について様々な推測を話しているようだ。
それを尻目に俺は、こちらを訝しげな目で見つめて来るバトラカスさんに今のこの状況、それらへ向けた全ての感情を二文字に集約して放った。
「エヘ。」
「エヘってなんだよ。お前、後でギルドの応接室に来い。」
わーお。




