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バカと狂人の凡奇譚  作者: 五十音
序章 定められた運命の始発点
13/26

十三話 冒険の足がかり:前編

 俺は朝日の差し込む部屋のベッドに寝転がりながら思い出す。

 あれから、エテュミアさんはわたわたとしながらちょっとずつ膝や足の上に乗っていた動物達を優しく逃していた。

 だが、エテュミアさんがまたベンチから立ち上がるのにはあれからさらに小一時間ほどが掛かってしまっていた。

 猫を一匹を逃し、その次に犬を一匹を逃がそうと手を伸ばせば、最初の猫がまた元の位置に戻っている、なんていうことが何度もあったからだろう。

 正直、エテュミアさんがそんなに動物から好かれる体質だったのには驚きだ。

 というか、動物って警戒心が強いイメージがあったから、初対面の筈のエテュミアさんにあそこまで懐いてるってのは、正直有り得ることなのかと疑ってしまいたくなるようなことだけど、なんか和む景色だったし細かいことは別に良いや。

 その後宿屋に戻る時、交代するのを忘れたままエテュミアさんが宿屋に入っちゃって、「ま、間違えました!」って言ってから慌てて宿屋から出るエテュミアさんはちょっと面白可愛かったですけどね。

 と、前回の振り返りは一旦こんなところにしておこう。

 現実の方では最近、こっちの世界で少しでも早く遊ぶために早寝することが多くなったからか、元の世界の朝、学校の支度をする時間に起きることが前よりも苦痛では無くなった。

 その点は学校生活の能率も上げれているという良い変化かもしれない。

 そのことに気付きはしたものの、昨日の学校は特に何も無い普通の日常だったんだよな。

 昨日も例に漏れず、定井達と共通の趣味であるゲームの話題について熱く議論を交わす…なんていう変哲ない学校生活を過ごしていただけだった。

 何かを始めたからと言って日常にすぐに変化が現れるとは限らないわけか。

 俺はベッドに仰向けに寝転がって、左足を右足の上に組みつつ両手は後頭部と枕の間に挟み天井を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。

 その視線の先にある天井は俺の自宅のものではなく、特別豪奢さを纏うこともないどこか簡素なもの、つまりここは夢の中の世界で、視線の先に広がるのはハンナさんの宿屋の天井というわけだ。


「さて、と!」


 俺は組んだ足を解いてから両足を少し持ち上げ、その足を下げる反動を利用して上半身を起こした後ベッドから起き上がり、地面に立ち上がってそう言った。

 窓枠から差し込む柔らかい日の出の陽光はついさっき起きたばかりの俺の目には少し眩しすぎると感じるものだが、同時に新たな一日の来訪を歓迎するだけの快い気持ちを誘出するような暖かな力を感じる。

 今日は冒険者ギルドの試験がある日の筈だ。

 とりあえず、腹が減っては戦はできぬ、だ。朝ご飯をハンナさんから食べさせてもらうとしよう。

 俺はそう思ってから、眠い目をこすりながら部屋の扉を開け、昨日の夜ぶりに宿屋の中の食堂に向かう。


「おはよーございまーっす。」


 人の居るような物音のする食堂の扉を開きながら俺はそう言う。

 食堂はそこまで広いという訳ではないが、俺の他にも宿泊者らしい人々が既に何人も居るようで、彼らが使っているカトラリー類がキンキンと食器をつつく音や、各々が会話している声が聞こえてくる。

 俺はそんな中、机を避けて奥に進んでいくと、その姿を見つけたハンナさんが俺に声をかけてきた。


「あら、おはよう!ほら、アンタの分も出来てるよ。持っていきなさい!」


 俺がその声のする方を向くと、ダイニングで料理をしたり、中身が空になった食器を洗ったりなど、慌ただしく動くハンナさんの姿が見えた。

 ハンナさんの隣には、食器を受け渡しするために使われている置き場があり、そこに一人分の食事が乗った盆が置いてあった。

 ハンナさんから盆を取るように促された俺は、歩いて受け取り口に向かって歩いていく。


「ありがとうございます!頂きますねー。」


「おいしく食べておくれよ!終わったら、私に渡しに来てくれれば良いからね!」


「了解ッス!」


 そんな会話をしている間に俺の後ろにもう一人、朝食を受け取るために人が並んだのを横目で捉えた俺は、列の先頭で陣取らないように少し急いで盆を持って横にずれてから、どこか空いている席がないかと周囲を見回す。

 だが、今はちょうど朝の朝食時のようで、この食堂がほとんど満席になるほど人が溢れてしまっている。


「あんま席空いてねーか…?おっ、一個空いてる!」


 食堂の盛況さに思わずそう呟きながら周囲を見回すと、この食堂の一角に一つだけ誰も座っていない席があった。

 その席は壁の側に位置しており椅子が二つ、テーブルを挟んで向かい合うように設置されている二人用の席だったが、まあ別に一人で座っても良いだろう。他の席全然空いてねーし。

 そう考え、席に狙いをつけた俺は、他の誰かに席を取られてしまわないように速歩きでその席を確保し、食事に手を合わせる。


「んじゃ、頂きまー…。」


「すみません。」


 早速食器を手に取り飯に手を付けようとしたが、朝食の一口目は俺のすぐ隣からかけられたその言葉によって遮られてしまった。

 俺はその言葉を聞いて、手に持った食器を下ろして声のした方に視線と言葉を返す。


「はい?なんスかー?」


「食事の邪魔をしてごめんなさい。相席させてもらっても良いかしら?他の席がどこも空いていないの。」


 俺の見た先には、俺と同い年くらいの年齢で、長い髪を頭の後ろで括った黒目黒髪の少女が立っていた。

 少し冷淡で抑揚の少ない、落ち着いた声でそう言う黒髪の少女に、俺は向かい側の席に手先を向けこう返事をする。


「良いッスよ。どーぞどーぞ。」


 俺のその答えに、黒髪の少女は落ち着いた声のまま、短く言葉を返す。

 俺はそれを特に気にすること無く…というより、一度お預けを食らった食事に手を付けることをこれ以上我慢できそうになかったので、今は会話より先に食事を始めることにした。


「感謝するわ。」


「んじゃ改めて、頂きまーす。」


 黒髪の少女が向かい側の席に着くのを視界の端で見ながら、俺は改めて手を合わせて食事を始める。

 皿に乗った温かいパンを口に運び、その後スープを口に含む。

 うむ、ウマい。パカパカと。ウマ。パカラッパカラッ。

 俺は心の中でいつものをやりつつ、飯を食い進めていく。

 そして次は野菜が盛り付けられたサラダに手をつける。が、俺は正直野菜はそこまで好きではない。

 それでも、他の人がわざわざ作ってくれた料理を残したり、文句を言ったりするような礼儀知らずでもない。

 嫌悪感は無くならないが、それ以上に食べ物を粗末にしたり、作り手への冒涜をしたりしてしまうのはそれ以上に嫌だ。

 俺はそう思いながらサラダを一口分、口に運ぶ。

 口に入れてから分かったことだが、サラダにドレッシングのような味付けがされているのは助かった。

 うむ、これならよりウマく食える。うん、ウマ。草食だし、ウマ。ずきゅんどきゅん、ばきゅんぶきゅん。これは少し違うか。

 いつものを、某スナック菓子のようにやめられないし止められないまま、俺は飯を食い続けていく。

 その間、俺と目の前の黒髪の少女は会話一つしないまま、黙々と飯を食い続けている。

 知ったこっちゃねーと思うが、なんだかこれだと俺が一人で無限に脳内実況してる変な人みたいに思えてならない。うん、ほんとに知ったこっちゃねーな。

 そんなことを思ってしまってから、俺はなんとなく会話の無い雰囲気に耐えきれず、思わず口をついて言葉が出てしまった。


「あ、そうだ。ちっとお話良いッスか?」


 俺は自分の口の中にまだ食べ物が残っているのも気にせず、そう言った。

 向かい側に座る少女は咀嚼していた口の中の食べ物を嚥下してから、返事をしてくる。


「何?」


「そっちは冒険者やってるんスか?」


「いいえ、まだよ。」


 向かい側に座る少女は吐き捨てるように、短く俺の言葉に返事を返した。

 俺が思っていたよりもずっと淡白な返事に、一瞬反応が遅れてしまったが、特に気にせず会話を続ける。


「まだ、ってことはその内やる予定はあるってことッスよね。俺、今日この後試験を受けに行くんスよ。」


「そう。」


 相変わらずお返事が短いですなぁ。

 まあ良いや、とりあえず俺は言っときたいこと全部言っとくとすっかな。


「まあ、そっちもこの後試験だったりするならさ、一緒にがんばろーぜ。」


「ええ。」


 短い。

 フッ、そっちの短い返事に合わせてこっちも感想を短くしてやったぜ。

 ハイ、無駄ー。

 自分のことながら、良くわからない思考をするものだね。ほんと、バカなんじゃないかな?オレ。

 その会話を経た後は特に会話も無く、お互い黙々と飯を食べ終えた。


「ごちそうさまでしたー!いんやー、ウメェ!」


 俺がそう言った後、向かい側に座っている少女の盆に視線を向けると、その少女も既に全ての食器を空にし、カトラリー類は皿の上に置いて、ハンカチで口元を拭っていた。

 それを見る限り、食事を終えているようだったので、俺は少女にこう声をかける。


「あ、そっちも終わってるッスか?んじゃ、そっちの盆も返してくるッスね。」


「ええ、ありがとう。」


 俺はその言葉を聞いてから、右手に俺の盆を持ち、空いた左手で黒髪の少女の盆を持ち上げ、席から立ち上がる。

 そのままの足で、ハンナさんの方に盆を返しに歩いていった。


「ごちそうさまです。超ウマかったッスよ!またお願いしまーす!」


「ええ、ええ!そうでしょう。アンタも、若い内に色々頑張りなさいよ!」


「ん?はい。頑張るッスよ!」


 なんか、よく分からない返事をされたが、とりあえず普通に返しておこう。

 ハンナさんとそう簡単に言葉を交わしつつ俺は二人分の盆を返し、元の席の側に戻ると、少女の姿は既に無かった。

 どうやら、もうこの場には居ないようだ。

 俺もこれからの試験のため食堂を後にし、人目の外でポーチから取り出したワイルを背負ってから冒険者ギルドに向かう。

 この宿屋の向かい側にはすぐに冒険者ギルドがある。

 やっぱりここ、立地最強だな。

 俺はそう思いながら宿屋の玄関を出て、冒険者ギルドに向けて歩き出すと、さっきの少女がちょうど冒険者ギルドに入って行こうとしているのが見えた。

 俺もその後に着いていくようにギルドの中に入っていった。

 昨日入った時と何ら変わらぬ、喧騒に包まれたギルドの中を進み、俺は今回は受付に並ぶ列にまで進んでいく。

 その中でも、さっき話をした黒髪の少女が並んでいる場所と同じ受付の列に並んだ。


「お、やっぱそっちもこれから試験ッスか?お互いベストを尽くしましょーか。」


 俺はさっき話した黒髪の少女の背に、呑気に声をかける。

 俺の言葉を聞いた少女は首を少し回して顔が半分見える程度振り返りつつ、呟くように返事をしてきた。


「ええ、お互いね。」


 そういう風に話している間に列が進み、少女の番にまで進んでいた。

 どうやら、今回の受付はそんなに時間がかからないらしい。


「はい!今日はどういったご用でしょうか?」


「試験を受けに来た、ツルミよ。受付を頼んでも?」


 受付の女性の明るい声での対応とは対照的に、とても落ち着いた声色で返事を続ける。

 ほー、そういえば名前聞いてなかったけど、ツルミって名前なんだなー。

 なんか日本人っぽい名前のようにも感じるが…もしかしたら、この前俺は名乗るのに不自然でないであろう名前を考えたが、不要な心配だったのかもしれない。

 ま、もうエルクって名前で紙書いたから、それは今更どうしようも無いんだけどね。

 俺がツルミさんの後ろでそう思っている間に受付の女性は言葉を発する。


「畏まりました、ツルミさんですね!まもなく試験が開始しますので、あの扉の奥の試験会場へお進みください!」


 受付の女性は俺から見て左にあと3つほどある受付の窓口、その更に向こうにある扉を指差して答えた。

 ツルミさんはその言葉を聞いてから、返事を返す。


「分かったわ、ありがとう。」


 ツルミさんはその会話を最後に、列から外れさっきの話にあった扉の方に向かっていった。

 っと、次は俺の番だな。


「お次の方、どうぞ。」


「はい、俺も試験を受けにきました!エルクって言います。」


 俺は元気よくそう答える。

 正直、俺は本番に弱いタイプで今から試験だ、と身構えてしまえばなんか、ド緊張ですんごいミスをしそうだから、気楽に行こう。

 まずは元気さを引き出す!いぇあー!


「はい、エルクさんですね。確認できました!あちらの扉の先へお進みください!」


「ありがとうございます!」


 受付の女性はさっきと同じ扉を指差しながらそう言った。

 俺は元気に返事をしてから扉の先に歩き出す。

 よっし!今から試験だ。

 ・・・どんな試験だ?

 ・・・ペーパーテストはありませんように。あったら絶対俺終わる。

 あっはっは!気にしない気にしなーい!

 俺はうっかり思い至ってしまった最悪の可能性について見て見ぬふりをしながら歩き、指示された扉の先へ進んで行く。

 その扉を越えた先は、中庭のような場所に繋がっていた。


「・・・ここって街だったと思うんだが。」


 中庭のような、と言った理由は、中庭の奥の方には木々が森のように生い茂り、そこの中央が森を切り開いたように整えられた道が続いていたのだ。

 あと、全然端っことかそういうのが見えない。

 これって中庭って言っていいのか?

 裏庭と言うべきか…なんか森に続いてるけど。

 ここは一応街の中だったとは思うが、もしかしたらギルドの裏はすぐ森があったのかもしれない。どういう構造の街?

 俺はそう思いながら裏庭に歩いていった。

 裏庭には、二羽ニワトリが…違う。ツルミさんなど、他の受験者のような人が複数居るようなので、多分ここが試験場で合っていることだろう。

 俺は軽く伸びをしながら、地面の硬さを確かめるように右足で地面を軽く踏みしめる。

 少し草が茂っており、素早く動こうとしたら足が取られることがあるかもしれない。

 良くも悪くも普通の草原のような、自然な環境だと言えるだろう。

 俺がそう思っていると、周囲に声が響く。


「よぅし!今から冒険者試験を始める!準備は良いな!」


 その声がする方へ視線を向け直すと、そこには四、五十代ほどの年齢に見える隻腕の男、昨日話をしたバトラカスさんが立っていた。

 あ、そういえば昨日、バトラカスさんが「明日の試験の時間、また会おう。」って言ってた気がする。

 多分昨日の時点で言っていた言葉の真意は、彼自身が試験官として俺達を担当する、ということだったのだろう。

 俺がそう思っている間にも、バトラカスさんは話を続ける。


「まずは、魔術適性が未測定の者への測定を行う!未測定の者は準備をしろ!」


 魔力適性…あぁ、確かに昨日書いた紙にそういうのあった気がする。

 今になるまで完全に忘れてたけど、俺、魔力適性は未測定だって書いたんだった。

 はぁ、嫌なこと思い出しちまうぜ…。

 あーもう、何かの間違いで何かの属性に適性ありってことになんねーかなー!?

 ダメー。

 知ってたー。

 ほら、ストレスでいつものが普段よりも多く発動してます。

 こりゃーもう異常事態だ。

 ほんの少しのストレスとトラウマによって析出したいつものおふざけを心の中で繰り返している間に、別の職員から他の受験者が名前を呼ばれ、別室へ通じる扉の先へ移動していった。

 とりあえず、俺も呼ばれるまで待つとするかね。

 俺は背中を建物の柱に預け、他の受験者が別室に呼ばれていくのを眺めていた。


「ねぇ、一つ聞いても良いかしら?」


「ん?なんスかー?」


 俺がそうやって待っていると、気付けば俺の隣に立っていたツルミさんに話しかけられた。


「手の内を暴きたいという訳では無いのだけれど…貴方は剣を扱うのよね?」


 ツルミさんは俺が背負った、俺の背にある剣の形をしているワイルを見ながらそう言った。


「え?あ、はい、そうッスけど…。」


 俺はそこまで口に出してから思った。

 あれ、なんかテスト直前の俺とやってること似てね?と。

 今、俺は遊びの延長の感覚で居られているからこそ、学校のテスト直前のような100%の緊張ではないが、学校のテスト直前はマジでずっと定井達の話の輪の中に居る。

 そうしたら、少し緊張が緩む気がするからな。

 それになぞらえて考えるとするなら、ツルミさんすんごい緊張してるのではないだろうか…。

 んじゃ、事実がどうあれちゃんと話をした方が良さそうだよな。

 ま、本当はどうなのかは知らないけども、そう仮定しても困ることはないだろう。


「剣に触れ始めたのは最近なんで、あんまし腕には自信が無いんスよー。」


「そうなのね。魔法の方は何か経験は?」


 パリン。

 心が割れた音です。


「無いッスね…。」


 泣くな…泣くなよ俺…!


「やっぱり、魔法の経験者はそう多くないみたい。」


「あ、そーなんスか?自分、そんなに魔法関連の話を聞いたことが無いもんで。」


「ええ。通説としては、適性のない属性魔法は習得が難しいとされるから、それをわざわざ極めようとする人は多くないわ。」


 俺は適性の有無以前に魔力がそもそも…まあ今はいいや。

 適性のない魔法を極めようとする人は多くないという話は少し興味深い。

 俺としては、多くの属性を扱える方が手札が増えて良いとは思うのだが、それ以上に適性の有無が魔法の習得に大きな影響を及ぼすのだとするなら、その話も納得だ。

 そうだとすれば個々人の魔力の適性というのはそのままその当人の今扱える、または将来習得する魔法に直結するそれなりに重要な情報だということになりそうな気がする。

 それならわざわざ一人一人別室で魔力の適性を測るのも分かる。

 だが、ルーサーの話では適性は飽くまでも成長の目安だって言ってた気がするし、アルサス君も、適性が無かったはずの火属性魔法で簡単な火おこしくらいはできてたから、クオリティを問わずに使うというだけなら適性のない属性の魔法も使えるのかもしれないし、もしかしたらルーサーは適性の無い属性魔法の効率的な鍛錬方法を知っているのかもしれない。

 分かったこともあるが、分からないことも依然多いな。

 それで言えば、試験のために書かされた紙の中にあった、特殊能力というのも認識が曖昧すぎる気がする。

 ルーサーから習った、『気』も特殊能力なのか、それとも訓練で習得できる技だから技能だとかそういう別枠のものなのか。

 分かんないからもう良いや。

 思考もそこそこに、俺はそのままツルミさんに言葉を返す。


「なるほど、ッス。ちなみに、そっちも剣を使うんスよね。」


 俺はツルミさんの腰に提げられた一振りの剣を見ながらそう言った。


「ええ、そうよ。経験は…。」


「次は…ツルミさん!居らっしゃいますか!」


 ツルミさんがそう続けようとすると、それを遮るかのように職員の声が響いた。

 どうやら、話をしている間にツルミさんの番まで進んでいたようだ。


「あ、ツルミさんの番みたいッスね。頑張ってくださいって言うと変かも知らないですけど、頑張ってください!」


 魔力の適性を測るだけだから頑張るも何も無いかもしれないが、まあ、社交辞令ってことで。


「すー、はー。ええ、貴方もね。」


 ツルミさんは深呼吸をしてからそう返事をする。

 深呼吸をしていたようだし、緊張していたのかもしれないという予想は多分当たっていたのだろう。外れてても細かいことは知らん。

 俺はそれからは一人で待つのを再開した。

 今のところ適性の測定には一人につき五分もかかっていない。

 あとどれくらいで俺の番なのかは分からないが、このペースならそう長く待つこともないだろう。

 それから少し経った後、ツルミさんが別室から戻ってくる。

 やっぱし普通ならそんなに時間はかからなそうだ。普通ならね。

 残念ながら俺は普通の枠からは外れてしまうのだが。

 そう思いながら、別室への扉の側に立っている職員が次に誰の名前を呼ぶのかをボーッと眺める。

 ツルミさんという話し相手がこの場を離れたことで動きを失った喉と口の寂しさを誤魔化すように、空を眺めたまま更に数分が経過すると、周囲に先程と同じ職員の声が響く。


「次はエルクさんです!いらっしゃいますか!」


「はーい、今行きまーす。」


 俺は柱に着けた手で壁を押す反作用で、預けていた背中を柱から離し、そのまま職員の立っている別室への扉まで歩いていく。


「んでは、よろしくお願いします。」


「はい、ご案内します。こちらへどうぞ。」


「オネシャスね。」


 俺は、ボケかどうかも分かりにくい中途半端なボケで返事をしてから、職員の先導に付いていく。

 こういう、ゲームでしか見ないような石造りの建物の中を歩いていると、俺の生きてる世界とは違う場所にいるんだなと改めて実感できる。

 ま、どの道現実ではそうそう見れないような景色だ。

 ちゃんとついて行きながらしっかりこの雰囲気に浸るとしますか。

 俺は頭の後ろで両手を組みながら、職員さんに少しの間付いていく。ツイテクツイテクー。

 その後、職員は少し進んだ先にある一つの扉の前で立ち止まる。


「こちらの扉の先にマスターがいらっしゃいます。そちらで適性を測定なさってください。」


「りょーかいッス。ありがとーございます。」


 職員は扉の手を向けつつ俺にそう言った。

 俺はその言葉に返事をしてから、話に出た扉に手をかけ、押し開こうとする。


ガツン。


()っつ、イットイズ。」


 引き戸だった。

 俺が顔面を扉にぶつけたのとほぼ同時に、背後で職員の笑いが吹き出した音が聞こえてくる。

 俺は恥ずかしさをおくびにも出さず、気を取り直して扉を引いて開けようとした、その時。


「入っていいぞ。」


 今度は中から聞き覚えのある声、バトラカスさんの声が聞こえてきた。

 ノックしたんじゃねーんです。過失による頭突きです。

 俺は恥からの二段切りを喰らった。


「失礼しまーす。」


 気にしたら負けだと自分を納得させ、そう言いながら扉を開き、部屋の中に入っていく。

 部屋に入ると、奥に立つバトラカスさんから声をかけられた。


「おう、お前か。昨日ぶりだな。気分はどうだ?」


「気分としては悪くないッス。自分アホなんで、大体いつでも晴れやかッス。」


 俺はいつもの調子で返事を返す。

 まあ、実際こっちの世界では今のところ常にワクワクドキドキが止まらないので間違ったことは何一つ言ってない。

 俺のその返事を聞いて、バトラカスさんは笑顔で言葉を続ける。


「そりゃぁ良いことだ。結果もきっと気分と一緒に良い方へ上がってくれるさ。それじゃあ、この球に手を置いてくれ。光った色によって適性のある属性が違うんだ、やってみろ。」


 バトラカスさんはそう言いながら、台車の上に乗った、両手で抱えるくらいの大きさの透明な球を指差した。

 ルーサーのヤツは片手に収まるくらいだったが、それよりはかなり大きいものだ。

 俺は球に視線を向けつつ、バトラカスさんに返事をする。


「あっはは、きっとそうッスよね。んじゃ、失礼してー、と。」


 俺は既に結果を知ってるから、バトラカスさんの言葉に少し心苦しさを感じる。

 まあそれはさておかせて頂いても、触れなきゃ始まらねーからサッサと済ませちまおう。

 俺はそう思いながら球に手を近づける。

 すると…。


「なんだこの色…こんなのは見たこともないぞ…?」


「なぁにこれぇ…?」


 バトラカスさんと俺は思わずそう呟いてしまった。

 なぜなら、俺が今触れているこの球は曇天の空か、火の上に立つ煙か、それらを彷彿とさせるような灰色に濁ってしまっているのだ。

 ルーサーの時の結果が正しいものと信じるならば、俺は魔力そのものが無いためそもそもこの球は光らないはずだ。

 それに、灰色なんて色は少なくともルーサーの説明の中には属性として存在していなかった。

 この球の作用もルーサーのものと全く同じかどうかは分からないが、バトラカスさんの反応を見るにこの球であっても灰色というのは普通の反応ではないことが分かる。

 ・・・どーしよ?


「おい、お前は何か知ってるのか?」


「いや、さっぱり。心当たりも特に…?」


「まあ、そうだよな…。」


 バトラカスさんと俺はどうにもできないまま思い悩む。


「一旦、手を離してもらえるか?」


「うぃッス。」


 俺はバトラカスさんの指示を受けて、球から一旦手を離した。

 すると、球は何事も無かったように元通りの透明な姿に戻る。


「こっちの作用には不具合が無いのか…?どれ、試してみるか。」


 バトラカスさんはそう言いながら、今度は自身の手を球に添える。

 すると、球は赤色に染まった。

 ルーサーからの基準で考えるなら、火属性だっただろう。

 それが正しい反応を示しているのなら、この球の方には不具合がない、ということになる。

 おっと?もしかしたら俺、怪しまれるか?


「問題なく動作してるみたいだが…もう一度頼めるか?」


「ヘーイ。」


 俺はバトラカスさんの指示に従い、再び球に手を添える、が、やはり。


「なるよねー。」


 球はさっきと同じように、もう一度灰色に濁ってしまった。


「うむ…どうやら無理そうだな。もう良いぞ。」


「うぃーす。これってどういう結果になりそうッスか?」


 俺は球から手を話しつつバトラカスさんにそう聞いた。

 バトラカスさんは俺の言葉を聞いてから、難しそうな表情で顎を掻きながら返事を返す。


「そうだな…コイツは『測定不能』ってことになるかもしれねぇ。前例はあんま聞かねぇし、ったく…書類にはどう書いたもんか…。まあ今はいい、これで測定は終わりってことで良い。」


 バトラカスさんは紙にサラサラと文字を書きながら俺にそう声をかける。


「あっはは…まあ了解ッス。んじゃ、もう戻る感じッスかね?」


「ああ、測定もお前で最後だ。俺もそっちにすぐに向かう。」


「了解ッス!そんじゃ、先に戻っとくッスねー。」


 俺も軽く返事を返してから部屋を出て、廊下を一人で歩いて戻って行った。

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