十二話 エテュミアさんのぶらり街中探検録
俺は部屋の鍵を受け取ってから、宿の中にそれなりの量が貼られている張り紙に部屋の位置と部屋番号の割り当て図があり、鍵に彫られている部屋番号と照らし合わせて部屋を探す、ということに気がつかないまま、数分間ほど宿の廊下内を彷徨っていた。
そうして十分ほど廊下を彷徨った後、張り紙に気づいて自分の部屋の位置を理解し、つい先程自室に入ったところだ。
アホとか言うなし。
『アッハハ、アホだねぇ。』
俺の中の鳴宮さんが笑いながらそう言った。
アホって言うなって思った直後に、アホって言うなっていう流れを完全に無視して俺にアホって言いやがってー!
うわ、無駄に複雑な言い方しちった。
思っただけのこととかは、他の人からしたら分かるはずのないことでしょーに。
正しく言い直すなら、アホって言うなって思った直後にアホって言われた。カナシー。ってとこか。
「アホとか言うなし!」
俺はそう言い放った直後、思った。
あれ、俺が今さっき思ってたこと全部ムダなんじゃね?と。
その通り。
俺が早速いつものをやってる間に、鳴宮さんは言葉を返してくる。
『ハイハイ。それで、これからはどうすんの?今から明日まで過ごすにはまだしばらく時間が余ってると思うけど。』
確かにそうだ。
今はまだこの世界では昼飯前の時間だろう。
今日この世界で起きたのは、岩の上で寝ていて寝苦しかったこともあり、ほぼ日の出と同時だった。
ちょっとしたことはあったが、この街に着いてからはまだ一時間と少ししか経っていないのだ。
それに、時間も時間であり、昨日の雑草…少食も相まってか、それなりに腹が空いてきた。
このまま何も食べない、というのもキツイし、この宿では朝夕しか食事は出てこないらしいから、どうしたものか。
「やっぱし腹ごしらえとかに出かけた方が良いよなー。でも、飯とかどうすれば良いのか知らねーから、街の探索って感じになるか?」
『ふーん、そう。まあ、食事は大体なんでも良いから、そういうのは任せとく。一応、こっちで見とくから用があったら呼びなよ。』
鳴宮さんは俺の言葉を聞いた後、そう言い放ってから、足早…と感じる速度で戻っていった。
全く、鳴宮さんったら…テキトーなんだからー。
鳴宮さんも俺にそう言われるのはきっとひどく心外なことだろう…。
そんなことはさておかせて頂いて。
今からは街の探索になるなら…フフフ…。
「エテュミアさーん?ちょっと良いかーい?」
俺がそう言うと、慌てたような声が聞こえてくる。
『は、はいっ!どうしましたか…?えっと、何かご用ですか…?』
どうやら、エテュミアさんは俺から突然声をかけられたことに驚いたようだ。
まあ、確かにそうかも。
街の探索とかの時、エテュミアさんと交代しようっていうのは、俺が思ってただけでエテュミアさん自身にも伝えてないからな。つまり、超見切り発車。
とりあえず、俺は部屋を出て施錠し、鍵をポーチにしまった後、廊下を歩きながら言った。
「今から街をご飯探しがてら探索しようと思うんだけど、エテュミアさんに代わっても良いかーい?」
俺がエテュミアさんにそう言うと、エテュミアさんはひどく取り乱して答えた。
『わ、私が…今からですか…!?ちょ、ちょっと待ってください!まだ心の準備が…。』
「だ、大丈夫大丈夫。少なくとも宿屋から出てからだから、たった今、この瞬間からって訳じゃないよ。」
『な、なるほど…です…。』
俺はそう言ってから、廊下を歩いていた。
話を聞く限り、エテュミアさんは突然で驚きこそしたようだが、特に交代すること自体を強く拒むことは無いようだ。
多分、交代すること自体に抵抗はあまりないのだろう。
俺の予想できる限りで、他に躊躇う理由があるとすれば…人見知り、とかか?
俺もエテュミアさんと初めて話した時とかは…まあなかなかにヒドかった。
俺が何も言っていない間には、エテュミアさんの方から何かを話し始めることは、全くと言って良いほど無く、ずっとおどおどしていた。
簡単な話題を振ってようやく少しだけの会話が成立する、そんな感じだったのだ。
しばらくして、エテュミアさんも俺との会話に少し慣れ始めた頃から、エテュミアさんが小さく呟いた言葉に俺が反応しても、逃げられたりすることはなくなった。という具合だ。
聞いた話によれば、相手が自分のことで気を悪くしないかを過剰に気にしてしまって、他人と会話する時不安になってしまうのだという。
そんなレベルでエテュミアさんは人見知りが激しい。
まあ、俺も今よりもっと小さい頃はちょいとばかり人見知りしがちな所があったから、その気持ちは分からないこともない。
だけど、多分エテュミアさんは他の人と話をすること自体は好きに思っているように感じる。ただ、それが人見知りという彼女自身の気質によって活かされることがあまりに少ないというだけで…。
なんか説明臭くなった気がするが、俺としては是非他人との交流に慣れて欲しいところだ。
俺の中に居る時なら、仮に逃げ出してもリビングから自分の部屋に戻るような不自然ではないことかもしれないが、俺達以外の他人から逃げる、なんていうのは不自然かつ明確に失礼なことだから、彼女も積極的にそうすることはないはずだ。
多少荒療治かもしれないが、それくらいの方が良いのかもしれない。試してみる価値はあるだろう。
そう思いながら俺は廊下を抜け、受付のカウンター辺りに戻ってきた。
「あらあら、早速お出かけかい?」
「はい、そうッス。ハンナさん。ちっと小腹が減っちまったんで、どっかに飯でも、と。」
先程からも同じようにカウンターに座っていたハンナさんは、俺の姿を見て尋ねてきた。
それに俺が答えると、ハンナさんは再び答える。
「そうだねぇ。この時間なら大通りの方にいくつか出店が出てるハズだよ!その辺りなら、腹ごしらえに丁度いいんじゃないかい?」
ほう、そんなものがあるのか。
ファンタジー世界の飯も少し気になったところだ。
エテュミアさんに細かいところは任せるつもりだが、一度はそれっぽいものにお目にかかりたいところだ。
「なるほど、情報ありがとうございます!とりあえずそっちの方に行ってみるッスよー!」
「はいはい、行ってらっしゃいな。」
俺とハンナさんはそんな会話をしつつ、俺は扉を開き宿から出た。
今、宿の前の通りはそこまで多くの人通りは無い。
今ならここ交代しても問題ないだろう。
「よーし、エテュミアさん。代われるかーい?」
『は、はいっ!頑張ります!』
「あっはは。そう肩肘張りすぎないで。」
俺がそう答えた直後、瞬きをするのと同時に視界の高さがそれなりに低くなっていた。
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「え、えっと、どうしましょう…?」
私は思わずそう呟いてしまっていました。
冷静に考えられてたら、多分すぐにご飯を食べに行こうって考えれたと思います。
でも、この時は多分、他の人の目線が気になって緊張してたのかもしれません…。
ほんとは誰も見てないのかもしれないけど、お外だとなんだか他の人の目が気になっちゃうんです…。
『そーだねー…。今ってお腹減ってない?』
「い、言われてみれば、確かに…えっと、ご飯を食べに行くんでしたよね…?」
『うんうん、そうッスよ。大通りに出店が出てるとかなんとか。行ってみるッスか?』
確かに、さっきエルくんと女将さんがそんな話をしてたような…。
くぅ…きゅる…。
お腹が鳴っちゃいました…。
へ、変に思われちゃったら嫌なので、早めに向かい始めることにします。
私はそう思ってから、話に出ていた大通りに向けて歩き始めました。
『今、なんか可愛い音したね。』
「むぅ…。」
エルくんのそういうお話にはどういう風に反応したら良いのか分からないです…。
な、何となく、すごーく恥ずかしいかもって思っちゃったので、ちゃんとお返事はできなかったですけど…。
もしかしたら、ちょっと意地悪だったかも…。
それから私は、恥ずかしさを誤魔化すみたいに、さっきよりもちょっと速く歩き始めました。
『あ、ごめん。怒っちゃった?』
「そ、そんなことないです!ちょっと恥ずかしかっただけなので…?」
怒らせちゃったって勘違いさせちゃうのは嫌…だけど、そのまま恥ずかしいって伝えるのも嫌…。
結局、良い感じの言葉が出てこなくてそのまま伝えることしかできませんでした。
『あー、可愛いー。』
「むぅ…。」
ほんとに、そういう所です…。
そういう感じのお話をしながら、もうちょっとの間歩いていると、女将さんとのお話で出てきた大通りに出ました。
今は、ギルドに行く時にも通った噴水のある広場に居ます。
確かにお話で言ってた通り、ギルドに行ってる途中の時にはまだ無かった、移動式の屋台のようなお店がここから見えるだけでもいくつかありました。
この辺りでは、冒険者さんみたいな武具に身を包んだ人がかなりの人数居て、ワイワイと賑わってる良い感じの雰囲気の場所です。
その辺りから、お腹ペコペコな私の鼻をくすぐるみたいに、良い匂いがしてきてるような気もします。
み、みんなにもどんなご飯が良さそうか聞いてみましょうか…。
「え、えっと、どんな感じのご飯が良さそうですか…?」
『うーん、俺は今なんか肉系の気分ッス。』
『一応、野菜とかも食べてバランスを気にしても良い、とは思うんだけど…。』
『僕は何でも良いと思う。力がちゃんと出せるように最低限気にしてたらあとは何でも良いかなって感じ。』
聞いてみてからこう思うのも変かもしれないですけど、ご飯を何にするのか、っていうお話では他の人の考えはあんまり参考にはならないのかもです。
結局は、自分が何を食べたいかを一番優先するべきなのかもしれません。
でも、今自分が何を食べたいのかもあんまりイメージできないので、他のみんなの気分も参考にしてみるのも良いのかも…?
・・・まずは色々なものを食べて、自分が何を食べたいのか知って行くのが大事そうです。
「うみゅぅ…難しいです…。」
『そうッスねー。とりあえず、色々見て回ってみて、良いのがあればそれを食べるって感じが良さそうなんじゃないッスか?』
「確かにそうかも…も、もうちょっと見て回ってみます!」
私はエルくん達とそうお話してから、改めて通りを歩き始めました。
それにしても、色々なお食事があります。
大体は屋台で簡単に用意できるようなものなんですが、それでもお肉が焼ける匂いだとか、色々なものを焼いてるジュ〜って音だとかは、お腹ペコペコな今ではすごーく気を引かれちゃいます。
見てみる限り大体のお店では、串に刺したお肉とか野菜とかを焼いて、お塩を振ったりして味付けしたものを食べてるらしいです。
そういうのにもちょっぴり興味はあるんですけど、今はなんだかいまいちそんな気分じゃないような気もしてて…うむむ、複雑な気分…。
「うみゅ…。」
気がついたら道の片隅を歩きつつ、頭に人差し指を当てながらそう呟いてしまってました。
その私の姿に、なんとなく周りの人の目線が集まっているような気がしたので、ちょっと急いで歩くのを再開しました。
そんな風に歩いていたら、気づけば噴水の広場からも随分離れて、屋台の数もまばらな所まで来てしまっていました。
この辺りは建物も少なく、畑が広がり始めている街と畑の境目みたいな場所です。
ちょっと進みすぎたのかもしれないから引き返そうかな、とも思ったんですが、そこまで来た辺りにたった今準備中の屋台が目に入って来ました。
今はお昼時をちょっと過ぎたくらいのお時間なので、沢山の人に売りたいって思うならちょっとお店を準備するのが遅いようにも思いました。
そういう好奇心もあって、私はその屋台でご飯を食べようかなって思って、歩いていきました。
私がそう思いながら歩いて行っている間も、その屋台の人はまだ準備を続けてます。
じーっ…。
私は屋台のすぐそばまで歩いて行ってから、じーっと何をしてるのか見てました。
ほ、ほんとは、何のご飯の用意してるのか聞いてみたいなって思ったんだけど、これまでにお話したことない人に話しかけるのって、すごーく勇気が要ります…。
この時の私はそれができるだけの勇気が無かったので、何かお喋りするでもなく、じーっと見てることしかできませんでした。
そうやって私がじーっと見てると、屋台の準備をしてるおじちゃんさん?が、私の方を見て言いました。
「そうずっと見られてちゃこっちは気が散っちまうな。ほれ、見てるだけじゃなくてこっち手伝え。」
「は、はい…っ!」
その時の私はそう咄嗟にお返事しましたけど、私にとっては急すぎて、ちょっとの間なんのことか分かってませんでした。
ですけど、おじちゃんさんが手伝ってって言ってたのと、手押しの荷車から幾つかの道具を用意しているみたいなのが見えたので、なんとなくお手伝いすることにしました。
おじちゃんさんは、一つ一つ荷物を指差して私に指示を出します。
「ソイツはこっちだ。あと、これは開いて中身をそこに置いといてくれ。」
「わ、分かりました!」
とてとて…。
「良いな。よし、ソイツもこっちに頼む。それとアレもだ。アレはあまり揺らさないようにな。」
「ふえぇ…。」
とててて…。
こんな感じで、十分くらい慌ただしく屋台の準備をお手伝いして、それが一通り完成した頃、私はおじちゃんさんが荷車から取り出していた椅子に座って一休みしてました。
「ぽへぇ…。」
そうやって一息ついてた私の横で、おじちゃんさんはお店の準備が全部終わったみたいで、準備した鉄板に油を引いて熱し始めたみたいです。
ジュ〜って大きな音を立てながら、湯気混じりの油煙が立っているのが分かります。
煙はほんの少しの距離を立ち上ってすぐに見えなくなってしまいますが、その代わりと言うかのように、私達の周りには油の良い香りを残して行きます。
なんとなく、周囲の穏やかな景色や、熱された油が立てる音、風と共に吹き抜けていくのと同じように鼻からすーっと抜けていくような油の香りから、食欲をそそるような良い雰囲気を感じたような気がしました。
それはそうと、一体何のご飯を作ってるんでしょう…?
お手伝いで体を動かしたのもあって、そろそろお腹ペコペコなのの、限界近くにまでなっちゃってます。
それからは、お腹が減って疲れてきちゃったので、そうやって椅子に座ったまましばらくぼーっと待ってました。
なんとなく足をぷらぷらさせたりしながら、ご飯ができるくらいまで待ってると、おじちゃんさんが私に声を掛けてきました。
「嬢ちゃん、ありがとよ。お陰で今日は随分早く店が開けたぜ。こいつは礼だ。お代はいらねぇよ。」
おじちゃんさんは、そう言いながら私に焦げ茶色の香ばしい匂いを放つ麺料理が乗った、平らなお皿とフォークを渡して来てくれました。
出来上がりの見た目から、エルくんの世界で言うところの、焼きそばとか、パスタとかみたいな料理がイメージに近いと思います。
「あ、ありがとうございます!えっと…おじちゃんさん…?」
「んだそりゃ?まあ、どういたしまして。ってか。」
私はそうやってお話して、手を合わせてから、渡されたお皿に乗ってる麺料理をまずは一口分、口に運んでみました。
「いただきます、です。」
私にはちょっと熱くて塩味が強いようにも感じましたが、濃いめの旨味がほかほかの麺から立ち上る湯気に乗ってすーっと鼻から抜けて行くのと同時に、飲み込んでいる間の口に残った味の感じが良い後味を残して、食べ終わった後も満足感の残る一品、っていう感じのご飯でした。
たまには、お外で食べるご飯も良い感じかもです。
「えへへ〜。」
「喜んでもらえたみてぇで良かった。さて、そろそろアイツらも来る頃だと思うが…。」
おじちゃんさんは私の分以外にも、沢山のご飯を用意し続けながら、噴水のある広場へ続く道を見ながらそう言いました。
もしかしたら、このお店の常連さんがこれから来る時間だったりするのかも…?
私がそう思っていると、広場へ続く道の方から、冒険者さんみたいな人達や普通の衣服を身につけた街の人達が、それなりの人数の人達が歩いてきてるのが見えました。
ここは街の外れの方っていうことを考えれば、すごーく沢山って言えるくらいの人数かもしれません。
それと、心なしかこっち向かってる人達は男の人の割合が高いような気もします。男の人の方がこのご飯の味がお好きなことが多いのかもしれません。
その人達は迷うことなく、一直線におじちゃんさんの屋台に向かって来ました。
その人達が、屋台の目の前まで来て次々におじちゃんさんに尋ねます。
「おっ!オヤジさん、もうやってます?」
「いやー、珍しくこの時間から広場の方にまでオヤジさんの飯の匂いがして来てましてね!」
「へへっ、待ちきれなくて来ちまいました!人数分、もうありますか?」
いつもより早い時間に始まったのに、こんなに人が一気に沢山来るってことは、常連さんが沢山ってことだよね…?
もしかしたら、ここの屋台は隠れた名店だったのかも知れません。それならラッキー、です!
私がそう思っていると、おじちゃんさんは常連さんに向けて、大きく声をかけました。
「もうとっくにお前らの分はおかわりまで用意してある!ほれほれ順番だ、とっとと並べ!」
おじちゃんさんはちょっぴり荒々しく声を上げましたが、常連さんはまるでいつものことのように、返事を返しつつ、流れるような動きで列に並び、順番にご飯を買っているようでした。
私はそれを横目で見ながら、ぼーっとご飯を食べ続けていると、常連さんの内の一人が私の方を見てから、冗談っぽくこう言いました。
「あれっ、オヤジさん。そこの子、どうしたんです?もしや!誘拐とかじゃないですよね?」
おじちゃんさんはその言葉に対して、それがよくあることみたいに笑いながら返事をします。
「んなワケあるかよ、バカバカしい。準備してる時こっち見てたから手伝ってもらったってだけだ。お前らもコイツに感謝しとけ。コイツのお陰で今日の開店が早まったんだからな。」
お話の中で出てくる冗談にしては、言葉にちょっと棘があるかも…?って思ったけど、お二人とも無理して笑ってるとかじゃなくて、ちゃんと笑ってるように見えるので、気心の知れた仲ゆえの空気感っていうものなのかも知れません。
私はまだ、そういう感じにお話できる人は居ませんが…。
そう思いながら、もぐもぐとご飯を食べ続けていると、私の方に常連さんの内の何人かが近づいてきました。
「オヤジさんの開店準備、手伝ってくれたんだって?ありがとな!」
「オヤジさん、飯はウマいんだが毎日開店が遅くてなぁ。」
「そうそう!開店する時にはもうすんげぇ腹減っちまってんだよ。でもウメぇから他の店には行けねぇんだよな。」
常連さん達は、そう言ってからも色々とお話をしてくれてます。
私は、お話したことのない人から、一度に沢山話しかけられて、嬉しくもありましたけど、それ以上に緊張してて、なんにも言葉を喋れませんでした…。
私のお手々には今、ご飯のお皿とフォークが握られているので、この場所を離れるに離れられないまま、あわあわしてたらそれを見兼ねたのか、おじちゃんさんがこう言いました。
「そう何人も詰め寄ってやるな。嬢ちゃん困ってんだろ?ほい、オメーらちょいと距離を置く!んで、ちっと黙って嬢ちゃんに返事させてやれ。」
おじちゃんさんが常連さん達にそう言うと、常連さん達は、「すいません!」って言いながら、私からちょっぴり距離を置いて、静かに待ち始めました。
きっと、おじちゃんさんはこの中のみんなから好かれてるんだなって思います。
作ってるご飯がおいしいだけじゃなくて、こうやって他の人のこともちゃんと見れてるからこそ、こんなにみんなから大人気なんだろうなって思いました。
そ、それはそうとして、ここまでお膳立てしてもらったのに何も言わないっていうのはすごーく失礼な感じになっちゃいます…。
緊張するけど、何か言わないと…。
「さ、さっきはちゃんとお返事できなくてごめんなさい…。えっと、皆さんが喜んでくれて私もすごーく嬉しいです!」
私は、ちょっとぎこちなかったかもしれないけど、精一杯の笑顔でそう言いました。
私がそうやってお返事すると、ちょっとの間を置いた後、常連さん達もお返事してくれました。
「良い子だな。」
「ああ、可愛い。」
「ほんわかしてる。」
「えっと、ありがとうございます…?」
と、突然褒められたので、ちょっと驚いたのと恥ずかしさで変な言い方になっちゃったような気がします…。
こういうこと言うのってエルくんだけかと思ってましたけど、もしかしたらそんなことも無いのかも…?
「むふー、ごちそうさまでした、です。」
私は、自分の分のご飯を食べ終わった後、手を合わせて小さくそう言いました。
でした、です。っていう言葉選びはちょっと変だったかも…?
私自身はご飯を食べ終わった後も、美味しそうにご飯を食べながら他の人とお話してる常連さん達を見てました。
あれ以降は会話らしい会話は特に無くて、皆さんがご飯を食べ終わった後まで、そのまま待ってました。
その間は誰とも、特に何もお話してないんですけど、他の人が楽しそうだったり、嬉しそうだったりするのを見るのは、私にも幸せな気持ちが分けてもらえてるみたいでかなり好きです。
そうやって何となく椅子に座って待ってる間に、常連さん達の賑やかさを聞きつけたのか、常連さん以外に何人もお客さんが来て、おじちゃんさんの屋台は大盛況だったみたいです。
おじちゃんさんも、予想以上にお客さんが来たことにちょっぴり慌てながらも、さらに沢山のご飯を作ってました。
さらにもう少し時間が経って、お昼時の時間を過ぎた頃、お客さんも常連さんももうみんな帰っちゃって、新しくお客さんが来ることもなくなりました。
そんな時、おじちゃんさんが一息つきながら口を開きました。
「ふいー、今日はいつもよりも随分と客が多かったな…。随分疲れちまったぜ。」
「えっと、お疲れ様です。おじちゃんさん。」
私がそうやってお返事すると、おじちゃんさんは私に返事を返してきます。
「おう、ありがとな。そうだ、作り過ぎた分持ってけ。嬢ちゃんのお陰で売り上げと余りの量が増えたからな。」
おじちゃんさんはそう言って、私に余ったご飯を差し出して来ました。
私のお陰っておじちゃんさんは言いますが、私は開店前のお手伝いをして、ちょっと常連さんとお話しただけで、あとはぼんやりしながらご飯を食べてただけなので、さらにご飯を受け取るのはちょっぴり悪い気がします…。
「い、良いんですか?売り物なんじゃ…。」
「ははっ、今日はもうちょうど店仕舞いなんだ。つまりソレは余りもん。俺一人で食い切れる量じゃねぇから、持って帰って家族とでも分けて食ってくれ。」
おじちゃんさんは笑いながらそう加えたので、私はそのお言葉に甘えることにして、差し出されたご飯を受け取りました。
家族と分けるのはちょっぴり難しいかもって思いましたが、どういう反応をされちゃうか分からないのでおじちゃんさんには言わないことにします。
「えっと、後でまた美味しく頂きますね。ありがとうございます!」
私は受け取ってから、ちゃんとお礼を伝えながら頭を下げました。
こういう、簡単なお礼とかもちゃんと言葉にするのが大事です。
そうした方が、怒られたりする不安が少なくなるんじゃないかって少し前にルーサーさんから教えてもらったので。
私も、目の前の人がなんて思ってるのかはしっかりと言葉にしてくれる方が、分かりやすくてありがたいって思います。
「それじゃあな。気をつけて帰れよ。」
「え、えっと、おじちゃんさん。またね…?」
「おう、またな。」
そのお話を最後に私はおじちゃんさんの屋台から離れて、貰ったご飯をポーチにしまってから、噴水のある広場の方へ、来た道を引き返すように歩いて行きました。
お昼を過ぎて、太陽さんもちょっとずつ傾いてきてます。
まだそんなに遅い時間ではないんですけど、あと何時間か経つくらいで夕方、宿屋さんのご飯の時間になると思うので、それくらいまではお外を探検してても良いのかも?
私は来た道を戻りながらそう思いました。
でも、このままこの道をまっすぐ戻って行ったら、宿屋さんに帰りついちゃうよね…。
それだと時間がすごーく余っちゃうから、ちょっとだけ寄り道しちゃおうかな…?
私は、表の通りの途中から横に曲がる裏路地に入って行こうとします。
「えっと、寄り道…しちゃいますね…?」
その時なんとなく、普通の帰り道から外れるのが不安だったので、気がついたら小さい声でそう呟いていました。
『行ってらっしゃウェーイ。』
私のその言葉に、エルくんもボーッとしてる時みたいな喋り方でそう呟いているのが聞こえました。
言葉選びもちょっぴり変な感じだったけど、多分、「行ってらっしゃい」って言いたかったんだと思います。
私はそう納得して、そのまま裏路地に入っていきました。
裏路地は表の通りと違って建物の間を通ってることもあってか、ちょっぴり薄暗いです。
暗いのはちょっと怖いけど、冒険してるって感じも増してるようにも思ったので、ちょっとわくわくです!
私はそう思いながら、裏路地を歩いて行ってました。
「んぅ…?」
その時ふと、後ろの方に何かの違和感を感じた気がしたので、私は後ろを振り返ってみます。
ですけど、振り返った先には特に誰も、大したものも何もない普通の道しかありません。
『どした?なんかあった?』
突然振り返った私の姿を見てたのか、エルくんが私にそう尋ねました。
「な、なんでもないです…?」
私は、エルくん達に心配をかけちゃうのは良くないように思ったので、そう言いました。
『それ言ってると、十中八九なんでもなくないような気がすんだよなぁ…。嫌じゃなければ言ってくれない?』
た、確かに、一回不安な感じにさせたのに、それを「なんでもない」なんて簡単な言葉だけで納得してもらうのは、すごーく難しいことだよね…。
「えっと、さっき後ろの方に何かが居たみたいな感じがして…?で、でも!なんにも無かったから、多分気のせいかもです…?」
『あー、なるほど?ほんとになんにもなけりゃ別に気にすることもないか。問い詰めたみたいで悪かったッスね。』
「き、気にしないでください!疑問に思うのも仕方なかったって思います!ので!」
私はちょっと慌てて、エルくんの謝罪をそう制止します。
実際、エルくんの疑問は当然のものだったと思うし、それで悪いことをしたって思われるのは、私も釈然としません。
これから先は、可能な限りごまかしたりせずにちゃんと説明するようにしましょう。
私はそう思いながら歩いていくのを再開しました。
何度か道を曲がったりしながら歩き続けていると、さっきまでとはまた別の通りに出てきました。
「あっ、通りに出ました!」
そうやってしばらく進んでたら、これまでに来たことのない通りに出ました。
通りの反対側には、エルくんが街に入る時に橋を渡って越えた川が流れていて、なんだか穏やかな雰囲気を感じます。
人通りもちょっぴり少なくて、私にとってはゆっくりできそうな場所だなって思いました。
丁度よく、家屋を背にして川を正面に据えるような位置に設置されているベンチがあったので、そこで座って休もうと思います。
そう思ってベンチに向かって歩き出した時、どうしてかまたお腹が減ってきてるってことに気がつきました。ちょっと前にもご飯を食べたと思うんですけど…。
でも、このままもうちょっと待ってたら、またお腹が鳴っちゃって恥ずかしいような気がするので、ちょっと早いけどもう一回ご飯を食べちゃおうと思います。
丁度、おじちゃんさんからご飯を分けてもらってたので助かりました。
そう思いながら、私はベンチに座りました。
ベンチに座った後、ポーチにしまってたおじちゃんさんのご飯を取り出して、手を合わせるとエルくんは言います。
「いただきます。」
『あれっ、さっきご飯食べてたッスよね。お腹空いちゃった?』
「は、はい…。普段はそんなことないと思うんですけど…。」
私はご飯を食べながらそうお返事すると、エルくんはこう返してきました。
『なんだか小動物みたいで可愛い。』
「ふみゅ…?」
わ、私は普通にご飯を食べてるだけなんですけど…ほんとにそれだけでかわいいものなんでしょうか…?
やっぱり私にはよくわかりません。
それからは、静かにもくもくとご飯を食べ終わります。
「ごちそうさま、です。」
ご飯を食べ切った後、手を合わせてそう言ってから、私は改めてベンチに深く座り直しました。
ちょっとずつ太陽さんは傾いていますけど、今はまだお空が明るいくらいで、体が光に照らされてぽかぽかしてます。
なんだか力が抜けちゃいそうな感じです。
今はご飯を食べた直後なのもあって、気のせいかちょっとだけぼんやりうとうとしてくるような気がします。
陽の強さも気持ちいい感じだし、もうしばらくここで休んでいきましょう…。
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「んぅ…。」
うっかり、目を閉じてうとうとしちゃってました…。
もうちょっとでしっかり寝ちゃってたかもしれません…。
お外で寝ちゃったら風邪を引いちゃうかもしれないので、うっかり深く眠っちゃわないように気をつけないと、です。
そういえば、あれからどれくらいの時間が経ったんでしょうか…?
私は目を開くと、そのままの流れでなんとなく周りを見回しました。
今、太陽さんはそれなりに傾いてて、周りは夕日の橙色に染まり始めています。そろそろ宿屋さんに戻った方が良い時間かもしれません。
だけど、何人かの道を行く人が立ち止まって私の方を見てるような…。
わ、私に何か変なところでもあるんでしょうか…?
そう思って自分の身だしなみを確認するように、視線を動かしてみると…。
にゃーん…。
「わっ…。い、いつの間に…?」
私の周りに視線を向けてみると、いつの間にか私のお膝の上に一匹の猫ちゃんが丸まっていて、地面では私の足を枕みたいにして、わんちゃんが寝転がって居ました。
それとベンチの上にはもう一匹の猫ちゃんと、肘掛けには2、3匹の小鳥さんが止まってました。
た、確かにこんなに沢山の動物さん達が集まってるのはすごーく珍しい感じかも…。
そ、それはそうでも、視線が集まってくるのはすごーく恥ずかしいです…。
は、恥ずかしいから周りの人の方を見るのは一旦やめます…。
そう思って、周りの人達から視線を外してから、なんとなく今お膝の上で丸まっている猫ちゃんを優しく撫でてみます。
ごろごろ…。
私のお膝の上で猫ちゃんは、背中を撫でる私の手のひらが動く度に嬉しそうに喉を鳴らします。
かわいいです。
それから続けて、前にエルくんがテレビを見てた時とかに私も見たことがあったので、猫ちゃんの顎のところを人差し指でくすぐるみたいになでなでしてみます。
ごろごろごろ…。
すごーくかわいいです。
でも、もしかしたら…今はちょっと助けてほしいかもしれないです…。
だ、だってこのままじゃ、ここからずーっと動けません…!




