出来損ないの意地
鋼の剣を振り上げたデバル。それをただ黙って見ている俺に容赦のない一撃が飛来する。
殺意の気配を読み切り、右へと滑る様に回避する。
たった一撃だ。聖剣でも魔剣でも駆動剣でもない。たった一撃で、空間が割れ砕け、俺は奈落へと落下しかけ突如として張られた結界に足がつく。
「楽しみだからな、早々に死なせるものか」
結界を張ったのはデバルだ。四角い結界を闘技場の様に展開している。
「駆動剣、第七…」
「ソレはもう見た。お前達自身の本気で来い『停滞せよ』」
デバルが指を弾くと、駆動剣の動きが止まった。
いや、止まったというより、駆動段階が一定に保たれてそれ以上ギアが上がらない感覚だ。エンジンをどれだけふかしても動かないそんな感じ。
「クソッ…」
「どうした?勇者の出来損ない。力を出し切って私を倒すんだろう?」
デバルの視線が俺に突き刺さる。クソが、煩わしい。
「ラキ…鎧を解除しろ。アイツに半端な力は逆効果だ…なら…」
「剣纏を使うのですか?しかし…あれは…」
「今はそれしか、術がない。命を削っても勝てないなら、今度は命を《《捨てる》》しかない」
「…御意、クラウス様の勝利を祈っております。では…」
「すまないな、こんなことに付き合わせて。帰ったらセロハに文句を言ってハルカにハグしよう」
「いいえ。私はいつでもクラウス様のためならば、ですよ」
「ははっ…。行くぞ!」
「『技法固着、剣纏・黒影』」
剣に黒い影、ラキの影を纏わせる。たったそれだけの、技術。
傍から見ればそう見えるだろう。だが実態はそんなものではない。
「聖剣の猿真似か?本気で来い…と…。なに…?」
バキバキという音と共に駆動剣が姿を変える。剣というよりは太刀に近い姿だ。
名を呼ぶとするならば『神断』
技として放たぬ、本来の姿。いつかの約束のために鍛え上げた命の武器。
ひう、と、太刀を回し、大きく息を吸った。両手で構え口を開く。
「俺の名はクラウス。ツヴァルヘイグ猟兵団所属の猟兵だ!三代目勇者?…違う、出来損ない?…違う!!俺は未来から来た、たった一人の人間だ!」
「ラキ!『神殺し』を最大展開!!アイツを神と仮定して、こいつを振り抜く!」
「御意!」
「アイツは敵だ、過去に何があろうかとかそんなもん知ったこっちゃない。成り損ないだぁ?知らないね!こっちは元の世界に戻りたくて踏ん張ってきたんだ!仲間と一緒に、裏切られてもここまで来たんだ!今更なんだよ!何が、初代勇者だ!昔の人間のアレコレなんて興味がないね!」
大声で心を叫ぶ。
「吠えるじゃないか、人風情が…!」
「お前に見せてやる。猟兵の戦い方ってやつを!『技巧固着・三重体』!!」
俺の姿はブレて、三人に分かれる。これは剣の力じゃない。純粋な技術である。むかしある猟兵に習った技だ。あの時は分身も出せなかったが、今なら出来る。
「『心技抜刀、仮想加速、超加速!!』」
これもまた別の猟兵から習った技。あの時は意味も理解できなかったし放てなかった。
これは分身だけに仮想の速度を付与する。そして放たれるは極限の三撃。
光とほぼ同じ速度になった分身と、一直線に跳んだ俺の一撃が重なる時、その技は完成する。
「『加速限界』」
「凄まじい技術だ…だが…足りないなぁ!」
これでも届かない。デバルは自分の剣で防ぎ切った。
極限の一撃…だが…。これは布石に過ぎない。猟兵の戦い方の。
パリ、という音と共に、デバルの剣に着いた刻印が発動する。
これは雷撃の術式。マナを持たない俺がラキの命から削り出している、疑似魔法。
一瞬の雷撃がデバルの動きを止める。当たり前だ。ハルカとジアの緋術を模倣しているのだから。これくらい威力がなくてはいけないのだ。
物理が通らないならば、魔法を打ち込めばいい。どこかの誰かの受け売りだが。
その命、全てを賭けて、魔法を放つ。俺が砲身となり、ラキが弾丸となる。
俺達は見ている。ハルカの緋術を。この剣で受けている。
模倣は可能だ。
「『模倣術式稼働・風神王の聖剣』」
刀身と俺の体を砲身に、ラキの命を弾丸にして、超質量の緋術を放つ。
勿論、俺の体にも細工をしている。こんな時のための事象基臓の欠片だ。
デバルが剣を振るうときには飲み込んでいた。
「『駆動し、敵を討ち滅ぼせ!』」
だからこその欠片だったのかもしれない。
通常ではあり得ない緋術の使用方法に体が持たない。あちこちから悲鳴が上がっている。
だけども、ラキの命もかかっている。この程度で死ぬわけにはいかない。
「うおぉおおお!!!」
射出された緋術は、真っ直ぐに大口を開けたデバルの元へと飛翔する。
「舐めるな!この程度で私は!死ぬわけがぁ!!!」
デバルは鋼の剣を前へと突き出し、恐らくありったけのマナを込め、緋術を防ごうとした。しかしそれは無駄な事だったようだ。
マナを纏った鋼の剣は強大な質量に耐え切れず、罅が入り、砕けてゆく。
「うぉぉ!!!こんな事で!こんな、結末など…うぉおおおお!!!」
「消し飛べ、魔王!」
緋術はデバルに接触した瞬間に破裂し、デバルの体をマナの風が飲み込んでいく。
そのまま、何か叫んでいたデバルは一瞬で塵と化し、余波で結界が崩れ去った。
俺はそれだけを確認し、意識を手放すことを選択する。
落ちていく体と何とか残っている結界に手を伸ばして、俺を繋ぎとめるラキを最後に見た。
「クラウス様!あなただけは、死なせない!!」
その声を俺の意識は記憶している。
確かにラキの物だった、だが、俺の記憶はそこで閉じ、意識は真っ暗な闇の中に溶けていった。




