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モブ顔勇者は世界を救わない  作者:
過去世界編
18/20

出来損ないの意地

 鋼の剣を振り上げたデバル。それをただ黙って見ている俺に容赦のない一撃が飛来する。

 殺意の気配を読み切り、右へと滑る様に回避する。

 たった一撃だ。聖剣でも魔剣でも駆動剣でもない。たった一撃で、空間が割れ砕け、俺は奈落へと落下しかけ突如として張られた結界に足がつく。


「楽しみだからな、早々に死なせるものか」


 結界を張ったのはデバルだ。四角い結界を闘技場の様に展開している。


「駆動剣、第七…」

「ソレはもう見た。お前達自身の本気で来い『停滞せよ』」


 デバルが指を弾くと、駆動剣の動きが止まった。

 いや、止まったというより、駆動段階が一定に保たれてそれ以上ギアが上がらない感覚だ。エンジンをどれだけふかしても動かないそんな感じ。


「クソッ…」

「どうした?勇者の出来損ない。力を出し切って私を倒すんだろう?」


 デバルの視線が俺に突き刺さる。クソが、煩わしい。


「ラキ…鎧を解除しろ。アイツに半端な力は逆効果だ…なら…」

「剣纏を使うのですか?しかし…あれは…」

「今はそれしか、術がない。命を削っても勝てないなら、今度は命を《《捨てる》》しかない」

「…御意、クラウス様の勝利を祈っております。では…」

「すまないな、こんなことに付き合わせて。帰ったらセロハに文句を言ってハルカにハグしよう」

「いいえ。私はいつでもクラウス様のためならば、ですよ」

「ははっ…。行くぞ!」


「『技法固着セット、剣纏・黒影』」


 剣に黒い影、ラキの影を纏わせる。たったそれだけの、技術。

 傍から見ればそう見えるだろう。だが実態はそんなものではない。


「聖剣の猿真似か?本気で来い…と…。なに…?」


 バキバキという音と共に駆動剣が姿を変える。剣というよりは太刀に近い姿だ。

 名を呼ぶとするならば『神断かみたち

 技として放たぬ、本来の姿。いつかの約束のために鍛え上げた命の武器。

 ひう、と、太刀を回し、大きく息を吸った。両手で構え口を開く。


「俺の名はクラウス。ツヴァルヘイグ猟兵団所属の猟兵だ!三代目勇者?…違う、出来損ない?…違う!!俺は未来から来た、たった一人の人間だ!」


「ラキ!『神殺し』を最大展開!!アイツを神と仮定して、こいつを振り抜く!」

「御意!」

「アイツは敵だ、過去に何があろうかとかそんなもん知ったこっちゃない。成り損ないだぁ?知らないね!こっちは元の世界に戻りたくて踏ん張ってきたんだ!仲間と一緒に、裏切られてもここまで来たんだ!今更なんだよ!何が、初代勇者だ!昔の人間のアレコレなんて興味がないね!」


 大声で心を叫ぶ。


「吠えるじゃないか、人風情が…!」

「お前に見せてやる。猟兵の戦い方ってやつを!『技巧固着セット三重体ドッペルゲンガー』!!」


 俺の姿はブレて、三人に分かれる。これは剣の力じゃない。純粋な技術である。むかしある猟兵に習った技だ。あの時は分身も出せなかったが、今なら出来る。


「『心技抜刀ソウルトリガー仮想加速アクセル超加速トップギア!!』」


 これもまた別の猟兵から習った技。あの時は意味も理解できなかったし放てなかった。

 これは分身だけに仮想の速度を付与する。そして放たれるは極限の三撃。

 光とほぼ同じ速度になった分身と、一直線に跳んだ俺の一撃が重なる時、その技は完成する。


「『加速限界アクセルレイター』」


「凄まじい技術だ…だが…足りないなぁ!」


 これでも届かない。デバルは自分の剣で防ぎ切った。

 極限の一撃…だが…。これは布石に過ぎない。猟兵の戦い方の。


 パリ、という音と共に、デバルの剣に着いた刻印が発動する。

 これは雷撃の術式。マナを持たない俺がラキの命から削り出している、疑似魔法。

 一瞬の雷撃がデバルの動きを止める。当たり前だ。ハルカとジアの緋術を模倣しているのだから。これくらい威力がなくてはいけないのだ。

 物理が通らないならば、魔法を打ち込めばいい。どこかの誰かの受け売りだが。

 その命、全てを賭けて、魔法を放つ。俺が砲身となり、ラキが弾丸となる。

 俺達は見ている。ハルカの緋術を。この剣で受けている。

 模倣は可能だ。


「『模倣術式稼働コピーオリンパス風神王の聖剣グラフィリード・シャリオン』」


 刀身と俺の体を砲身に、ラキの命を弾丸にして、超質量の緋術を放つ。

 勿論、俺の体にも細工をしている。こんな時のための事象基臓の欠片だ。


 デバルが剣を振るうときには飲み込んでいた。


「『駆動し、敵を討ち滅ぼせ!』」


 だからこその欠片だったのかもしれない。

 通常ではあり得ない緋術の使用方法に体が持たない。あちこちから悲鳴が上がっている。

 だけども、ラキの命もかかっている。この程度で死ぬわけにはいかない。


「うおぉおおお!!!」


 射出された緋術は、真っ直ぐに大口を開けたデバルの元へと飛翔する。


「舐めるな!この程度で私は!死ぬわけがぁ!!!」


 デバルは鋼の剣を前へと突き出し、恐らくありったけのマナを込め、緋術を防ごうとした。しかしそれは無駄な事だったようだ。

 マナを纏った鋼の剣は強大な質量に耐え切れず、罅が入り、砕けてゆく。


「うぉぉ!!!こんな事で!こんな、結末など…うぉおおおお!!!」

「消し飛べ、魔王!」


 緋術はデバルに接触した瞬間に破裂し、デバルの体をマナの風が飲み込んでいく。

 そのまま、何か叫んでいたデバルは一瞬で塵と化し、余波で結界が崩れ去った。


 俺はそれだけを確認し、意識を手放すことを選択する。

 落ちていく体と何とか残っている結界に手を伸ばして、俺を繋ぎとめるラキを最後に見た。


「クラウス様!あなただけは、死なせない!!」


 その声を俺の意識は記憶している。

 確かにラキの物だった、だが、俺の記憶はそこで閉じ、意識は真っ暗な闇の中に溶けていった。

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