出来損ない対成り損ない
俺は出来損ないだったとしても、奴が魔王だとしても。諦めはしない。
「『駆動剣、起動』第一法から第五法までを全力駆動…!制御装置解放」
「さて、どう来るか…」
デバルは俺を見つめたまま気味の悪い笑みを浮かべている。
俺は駆動剣の出来る限りの強化を全身に掛けた。第五法を使用しているからか、刀身は赤く染まりつつある。解放した制御装置にコードを入力し、駆動剣の本来の力を使用する。そう、事象基臓だ。
欠片でも、歪曲兵器は魔王に対してこそ有効なはずだからだ。どれほどの再生能力を持とうが、絶対の障壁を張ろうが、これの前には無力となるはずだ。
「『駆動剣、形態変化…疑似聖剣駆動…!』」
「やはり、ソレに頼るしかないよなぁ…?つまらんな、死ね。終末技巧!」
デバルの周りから黒い墨のような靄が吹き出し、騎士の姿をした殻のような鎧が姿を現す。中身は黒い靄で、何もないように見える。
何体も溢れ出す様にこちらに向かってくる。動きはぎこちない操り人形の様だ。
「たしか…セロハは…『聖剣解放』!!」
セロハの様に、ネロの様に。
俺は光に包まれ赤く発光する駆動剣を構え、思いっきり横に薙ぐように振り抜いた。
発せられた赤い閃光の衝撃波が殻の騎士達を直撃する。
殻の騎士達は光に触れた瞬間、粉々になって塵と化した。
「ほう、軍勢を破るか」
「これが軍勢?舐め過ぎだろ!…もう一撃!!」
今度は縦に斬り裂く。空間が少し歪み、赤い閃光の衝撃波は一直線に、デバルへと向かう。
デバルはそっと右腕をあげる。
「『防御陣形』…破って見せろ」
黒い靄が今度はデバルの真正面に吹き出し、殻の騎士達が、幾重にも、幾百にも細く重なった様態で姿を現した。まるで壁だ。
赤い閃光の衝撃波がその壁に衝突したあと、壁に阻まれギリギリと拮抗状態にある中で、俺は次の手を打つ。
「『駆動剣・滅却式』」
デバルは壁の後ろにいる。赤い閃光の衝撃波は依然として、壁に阻まれてはいるが、デバル自身の目線は隠れていて、こちらが何をしているのかは見えない。
滅却式は第五法解放時にのみ使える、高速の斬撃である。通常はラキの影に隠して、溜めの時間を作るのだが、今回に限っては、事象基臓を解放しているために、溜め時間はほぼない。この状態の滅却式は滞空させることが可能で、俺は何発も空を切った。
九回ほど空を斬った後、赤い閃光の衝撃波が掻き消えた。壁は残っている。
だが。
こちらの用意も整った。
「滅却式・極圏、解放!!!」
凄まじい速度で一気に九つの極圏が解放され、デバルの壁に撃ち込まれる。
壁は最初の一撃が直撃した瞬間に断ち斬れた。後は八つの斬撃が、デバルの肉体に当たる。たとえ鋼の肉体であろうが、歪曲兵器は有効に働くはずだ。
デバルは壁が消えた時点で、防御の姿勢を取っていた。斬撃が当たるごとに服が切れて後ろに押されていく。反撃する隙などあたえない。
「『聖剣解放』!!!」
飛んでいく斬撃の後ろから、駄目押しの一撃を放った。
赤い閃光の衝撃波は滞空する斬撃と融合して、赤い光の線になった。
「『合技・神太刀』」
赤い光の線は一瞬で凄まじい速度になり、推され気味のデバルに数発の光線が直撃する。
地面ごと直撃したためか、土煙が舞う。
やったか?いいやまだだ。魔王がこれしきで沈むものか。
「『第六法、焼却界炉、開門』」
体が焼けるように熱い。事象基臓の発生させているマナを吸い取って、肉体に強制的に循環させる。ミシリと筋肉が動き、渾身の力で駆動剣を握る。
強化した体は長く持たない。出来るのであれば第九法を使う前に仕留めたい。
地面が抉れるほどの跳躍をして、デバルがいるであろう場所に、一撃を押し込めた。
「『焼却界炉+滅却式、合技・炎討』!」
爆炎の柱が地面から空に向かって噴出した。ネロのお墨付きの必殺技だ。
極熱の地獄の柱、通常の魔物ならば一撃で骨すら残らない。
でもまだ、足りない。
「『焼却界炉・魂封鎖』」
爆炎の柱から数本の楔が極熱の中にいるデバルに絡みついた。
感覚はある。だが致命傷を負っているようには思えない。
その時、一瞬の殺気を感じて後ろに飛んだ。
突如として炎討が爆散し、中からボロボロになった衣装をまとい、煤けて片腕を失ったデバルが現れた。
「なかなかやるじゃないか…今までの非礼を詫びよう。すまなかったな」
「これでも…駄目なのか…?」
「良い線にいたが、少し足りなかったな」
気付いた時には遅かった。
駆動剣の防御結界をたったの一撃で破った拳が、ノーガードの腹に打ち込まれた。
血が腹の底から上がってくる感覚の後、血を吐いた。そのまま弾き飛ばされ、空間を閉じている結界に叩きつけられる。
「ガハッ…」
「次は技を使わせない。戯れはもう終わりだ」
「いいや、まだ…だ!」
駆動剣の駆動は続いている。事象基臓で強制的に潰れた内蔵の時間を戻し、俺は立ち上がる。
駆動剣を支えに立ち上がった俺は刀身を地面に突き刺し、大きく叫んだ。
「『第七法・極夜天』ラキ!来い!」
この空間外にいるラキを呼ぶ。
地面に移る影が大きく躍動し、波打つ。
影が伸びあがり、人型になり形を成した。
「ラキャイスペータ、ここに…」
「遅いぞ、何をやってた。まあいいか、一緒にアイツを倒すぞ!」
「御意」
「魔人か?裏切り者がここにも一人か…何をしたのかは分からんが戦闘に水を差すとは…」
「俺達は二人で一人なんでな、今度は本気でやってやる!」
「そうか、今までは遊びだったと?」
「本気だったさ。だが次は二倍の力で、いや百倍の力で行くつもりだ」
「面白い組み合わせだな。あの時の私の様に…、愚かで滑稽な姿。魔人と人類種は相容れぬ存在だというのに」
「それはお前の場合だろ。俺は、俺達は違う。魔人も人類種だ。姿が違ったって変わらない人なんだ」
「ほざけ。私の前で戯言を…!」
「行くぞ、魔王。絆の力ってのを見せてやる!」
「『影纏外装』『呪層展開、極夜天開催』」
ラキが鎧となって、俺を包む。俺は掌を地面に押し付けて、影を引き延ばした。
空間を影が覆う。空間の光が完全に閉じ、真っ暗闇になった。
だが、人物像だけはハッキリと見える。
「これは真なる敵にしか効果がない。俺の、俺達のとっておきだ」
「…腕が再生しない?!」
「今、この世界は影によって支配されている。影にも腕がないなら、再生は出来ない。そういう決まり事の世界なんだ」
「小賢しい真似を…」
「じゃあ行くぞ。まずは『偽装弾体』『全弾起動』」
七体の偽装弾体がパシャリと音を立てて場に顕現する。
ラキ一人を核とするわけではない。極夜天の効果で、全てに意識がある状態の分身である。
そしてこれら全ての弾体に駆動剣第七法までの強化効果が乗っている。
「『七鬼夜行』行け!ラキ!」
弾けるように一瞬で散開した分身達はそれぞれの方向から、デバルに迫る。
その手には聖剣に似た剣を再現して。
「舐めるなぁ!『終末技…』」
デバルが魔法を唱えようとした瞬間に七体の分身の剣がデバルに突き刺さる。
「がっ…」
「まだだ!『黒鈺』!!」
剣を刺した分身たちは返しの付いた銛のような姿に変わり、デバルの体を抉り貫いた。今度こそ致命傷だ。
だが。
「良く見せた人の子。ならば私も…本気を出そうとしようか」
残った腕で、パチリと指を鳴らしたデバル。消えていく黒い影の結界。何が起きたのか理解できなかった。
「私はね、魔王と名乗ってはいるが、偽物なんだ。成り損ないの元勇者。それが私だ。来い、魔剣」
空間がズレたような感覚の後、目の前にはただの鋼の剣が呼び出されて、デバルの手に収まった。
「今から見せよう。元勇者の力を。本来の初代勇者の力をな」
デバルの腕は再生している。
言っている言葉の意味が分からなかったが、デバルからは急激に圧が増した。
極夜天が解除されるなどありえない事態だ。事象基臓を駆動させているのに。
「お前が、マナを持たぬ異邦人だという事は聞いている。さて、始めようか。純粋な暴力の時間だ」
「では、成り損ないの力、見せてやろう」
デバルはゆっくりと鋼の剣を振り上げた。




