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モブ顔勇者は世界を救わない  作者:
過去世界編
12/20

敵意とその対処法



 グラスティアに向かうのは転生前の世界にあった様な車モドキだ。馬車じゃない。


 ゴトゴトと揺れる荷台の上で、俺達は他の兵士に紛れて向かい合わせで座っていた。


 不意に兵士の一人が俺に話しかけてきた。年齢は今の俺よりは上に見える。



「災難だったなぁ君も。こんなに早く補充兵になるなんてなぁ。俺も退役軍人の筈なんだが、前線がそれだけヤバいってことなのかもしれんなぁ…」


「いえ。俺は…」


「その歳だと新兵だろう?親は大層悲しんだろうな」


「俺は孤児ですから。親はいません」


「そうだったか。すまんな」


「いえ」



 ハルカは法術士として二台目の荷台に乗っている。ラキは俺の影の中だ。


 この車モドキはグラスティアの発明品らしい。


 ハルカも前に言っていたが、今の時代は現代よりも科学技術が発展しているように思える。


 この車モドキも、夜の国を照らしていた街灯も、全て法術を科学技術でカバーして作られているように思えた。


 ソレにこの『駆動剣』もそうだ。明らかに場違いの歯車だけではない、俺の前世の記憶の技術力から見てもオーパーツの技術が使われている。ジアの発明品はこんなんばっかりですごいと素直に思う。


 兵士の武装は基本的には法術を撃ちだすための拳銃のような武器だ。自身のマナ総量に合わせ持つ銃の大きさは変わる。


 俺のような剣使いや、ハルカのような杖使いは時代遅れとされているらしい。


 それもそうか。相手は魔法を行使する魔族なのだ。遠距離からドカドカ撃ってくる連中に接近して戦う意味がない。わざわざ危険域に踏み込む理由はない。



 ガタタと荷台が揺れ、車モドキが止まった。ブザーが鳴り、兵士たちの動きが固まる。



『戦闘態勢、戦闘態勢!魔族の集団を確認!これは演習ではない!』



 敵だ。少なくともこの時代では。


 兵士達が次々と荷台から降りていく。俺も後に続き地面へと降り立った。


 目の前に巨大な竜を従えた角の生えた人型の魔族達がいた。まるでゴミを見るような目で、こちらを見下ろしていた。


 こちら側の兵力では勝てない可能性がある。それだけの差があるのだ。


 竜が唸り声をあげる。この時点で何人かの兵士は戦意を喪失していた。ある意味では当たり前か。


 相手は竜を従えているのだ。こちらは豆鉄砲部隊しかいないのだから、そうなっても仕方ない。



 だが。



 俺は諦めきれないし、逃げられない。可能性が少しでもあるなら、戦う意志がある。


 それが呪いであったとしてもだ。



 剣を鞘から抜き、構えて小さく呟く。



「『駆動剣、起動』」



 体に高揚感が湧き、体が強化される。


 だてに事象基臓の欠片が内蔵されているわけではない。起動させれば、即座に法術が起動し、使い手を強化する。九つの機能が搭載されている。



『駆動剣 別名、玖法剣』



「『駆動剣、第二法、展開。防御機構変成精製』不朽の盾よ、味方を守護せよ!」



 兵士全てに防御法術が張られる。これで竜の攻撃を一度くらいは防げるだろう。


 まぁ、万が一だが。


 ハルカが駆け寄ってくる。目配せし、配置につく。ラキが俺の手足を覆い、鎧の様に変質した。



「ハルカ、ここで緋術は使うなよ。まだ魔族に見せるには早すぎる」


「分かってるわ、とりあえず、強化を全員に掛けるわよ!」


「頼む。竜は俺が仕留める!ハルカは兵士と協力して、魔族を抑えてくれ!」


「了解。じゃあ行くわよ!『全体強化!』」



 強化が掛かった瞬間、俺は竜に突撃した。竜とて生物だ。神じゃない。首を落とせば終わりだろう。


 明らかに魔族達はこちらを舐めてみている。今こそが勝機である。


 当たれば即死の火炎弾を竜が咆哮と共に撃ち出した。躱せば味方に当たる。そうすれば一瞬で全滅だ。


 だから。


 俺は駆動剣を思い切り振りかぶり、火炎弾を斬り裂いた。火炎弾は二つに分かれ、即座に消滅する。俺は核を斬ったのだ。


 全ての魔法には核が存在している。そこを突けば、どんな魔法だってこの通りだ。


 竜は驚いたようでまた火炎弾を放とうと、マナを吸収しだす。


 だが遅い、遥かに遅い。


 俺は走るを止めず、そのまま竜に突っ込んでいく。放たれかけている火炎弾の横を通り過ぎ、伸びきっている首に剣を振るった。剣はバターでも切るように、すっぱりと竜の首を落とした。マナの収縮をしていた火炎弾が霧散する。


 魔族が驚き戸惑っている間にハルカに強化された兵士達が魔族を囲んでいた。


 魔族は両手をあげて降参ムードになっている。


 一人の兵士が引き金に指を掛けたのを俺は見逃さなかった。



「ストップ。戦闘は終わりだ。相手を余計に殺す必要なんてない」


「こいつらは魔族だぞ!俺たちの敵だ!」


「相手に戦闘の意志はない。不要な殺しは控えるべきだ」


「ガキが!竜を殺したからって図に乗るなよ!」


「その竜に腰を抜かしていたのは誰だったかしらね」


「なッ!?」



 ハルカが割って入った。確かにこいつは腰を抜かしていた兵士の一人だ。



「今の俺なら、ここにいる兵士全員を皆殺しにも出来る。それをやらない理由は分かるか?」


「お前はどっちの味方なんだ!?」


「今のところはどちらでもない、ただ命が惜しいなら軽率な行動は控えてもらう」


「クソッ…分かった、従う。実際にお前は竜を倒しているからな…」


「分かってくれてよかったよ。この魔族達はここで解放しよう」


「はあ?馬鹿かお前は!後ろから撃たれるかもしれないんだぞ!他の戦場で出会う可能性だってある、仲間を殺される可能性だって!」



 分かっているが、魔族は割と気高い気質がある事を俺は知っている。


 少なくともこの魔族達は今後、人類種を突発的に襲いはしないはずである。



「なぜ、なぜ貴公は我々を逃がす…?」



 囲われた魔族の中で、最も地位が高そうな男が疑問を持って口に出した。



「逃がしたわけじゃない。宣伝だよ。この地域には勇者以外にも竜を簡単に殺す化け物がいるっていうな。それに…無益な戦闘で無益な殺しはしたくない」


「甘い男だな、貴公は…」


「甘いのが取り柄なんでね。分かったらとっとと行け」


「…貴公の名は?」


「クラウス」


「覚えておこう。この借りもいつか必ず返す」



 逃げていく魔族を後ろから見送り、兵士達を荷台に戻す。


 車モドキが動き出し、再び一行はグラスティアを目指す。


 なにも兵士達全員が魔族否定派ではなかったようで、クラウスの判断に賛成した者もいたようであった。勿論、否定派も多いが。


 兵士達は皆、あの状況を前に生き残った事が不思議でならなかったようで、皆、クラウスを畏怖の念を込めて見ていた。


 ある者は俺の事を『竜殺し』と呼び、またある者は『化け物』と呼んだ。


 俺は別に気にすることもなく、小さい小窓から、外を眺めていた。



 それから半日近く揺られて、景色が真っ暗になったころ、車モドキは停車した。


 目的地である、大国グラスティアに着いたのだ。


 荷台から降りた俺を待っていたのは途轍もない景色だった。


 城塞都市と呼ばれるだけのことはある。数十メートルはあろうかという壁が、都市を覆っていた。しかもただの壁ではない、魔法を防御するために常に防御法術が掛かり続けているのだ。しかし前線のわりに、壁に傷はなく、戦いの気配もない。



「凄まじいな。これがグラスティアか…」



 呆けていると、俺の周りをグラスティアの兵士が取り囲んだ。


 遠くから一人の女性が歩いてくる。白い鎧を着ていて白髪で赤い目。


 まさか。


 彼女が初代勇者?ジアが、セロハって言ってたっけか。



「お前が、竜を殺したのか?まだ子供じゃないか…」



 年齢的には四十代後半くらいだろうか。結構いい歳のおばさんだ。


 だが、鎧の隙間から見える傷痕が、彼女が歴戦の勇者だという事を示している。



「貴方が、勇者?」


「喋ることは許可していないぞ、竜殺しの新兵」



 一瞬だった。女性は何の予兆もなく、俺の首に剣を当てていた。少し動かせば切れてしまう距離だ。



「何のつもりですか?」


「喋るなと言っている。お前がどうやって竜を殺したかなどどうでもいい。使えるか使えないかが問題だ。なんでも魔族を逃がしたらしいな?答えろ」


「逃がしました。殺し合いを俺は望んでいないからです」


「なぜ、魔族にも慈悲を掛ける?」


「同じ、人類種だからです」


「…まあいい。こいつを特別牢に連れていけ。荷物は取り上げなくていい」


「…」


「話はそこでゆっくりと聞く」



 そう言って女性は剣を鞘に戻し、去っていった。


 俺は兵士たちに乱暴に掴まれてそのまま建物の中に連れていかれた。


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