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モブ顔勇者は世界を救わない  作者:
過去世界編
11/20

急成長

 時空転移で夜の国に跳んできて、ジア達に救われてからもう一か月近く経つ。


 ネロに絶剣を渡し、修行を付けてもらっているのだが、ネロの強さは尋常なものではない。今まで出会ってきた中で一番強いといっていいだろう。

 猟兵団の中でいえば、太刀打ちできる相手はゴードか、見た事はないが団長くらいかもしれない。

 ネロは気配が全くないのだ。意味合い的に言えば、殺意がない。

 何処から技が飛んでくるのか見えないのだ。

 俺は今まで相手の気配や感覚で攻撃したり回避したりしてきた。だが、ネロにはそれが通用しない。そして一撃一撃全てが致死性の高いモノだ。それだけ磨き上げられていると言ってもいい。いつの間にか、剣閃が首の近くにあったり、心臓を穿つ一撃を放たれていたりする。二代目勇者の名は伊達ではないらしい。

 ネロによれば、初代勇者はこれを越えているらしく、たった一太刀で魔王をみじん切りにするほど強いらしい。正直、想像できない。


 修行はラキも共に行う。契約しているしパートナーだからなのだが、最初よりは随分と動きが合うようになってきたと思う。それでもネロには勝てないが。

 絶影の他にもちょこちょこと細々した技が増えてきている。戦略の幅が広がっていると言っていいと思うが、ネロにしてみれば児戯らしい。悲しみ。


 ハルカはジアに魔法を細かく分けて解説し、代わりに、法術を教えてもらっていた。

 法術と魔法の違いは、素材の違い。と、ハルカとジアはいう。俺にはよく分からない概念だ。

 魔法は空間のマナを使用し、肉体にマナを循環させてこの世界に呼び出すモノ。詠唱するのが主流で、魔族しか使えない。

 法術は空間のマナを使用せず、自らの肉体に元から存在しているマナを使用するモノ。無詠唱が主流で、人類種しか使えない。

 らしい。よく分からない。

 ハルカはジアに師事してすぐに法術を覚えた。流石、天才魔法使いである。

 魔法と法術を合体させた新たな術式『緋術』と呼ばれることになる術式を二人で開発し奇妙な笑い声をあげて狂喜乱舞していた。

 この緋術は無詠唱で、魔法を威力の減衰なく使用できるという奥義らしい。

 対象を心の中で選択して、視線誘導もなく対象に緋術をぶち込むことも出来るらしい。

 この二人にはついていけないし、ついていくつもりもない。




 それからさらに三か月も経った。

 絶剣の解体は終わっておらず、まだ続いている。ネロによると、事象基臓が思ったよりがっちりと組み込まれているらしく、それが複雑すぎて時間がかかっているらしい。

 修行の方は相変わらずで、ネロの殺意と敵意のない攻撃に苦戦している。

 もう三か月も経ったというのに、あの技術は習得できそうにない。

 ネロはいつも学帽をかぶっているが、これは自分を法術士として見せるためであり、実際はバリバリの武闘派である。

 修行中のネロの得物は木剣だ。ただの木剣の筈なのだ。だが、ネロが持つと、何物でも阻むことすら困難になる剣。それこそ絶剣となる。

 ラキの影の防御すら斬り裂いて見せたこともある。恐ろしい限りだ。


「簡単です。心を無にするんですよ、クラウス。あなたなら出来ます」


 にこやかな笑顔で木剣を振るうネロに、いつも押されている。


「疲れた…」

「まだまだ、これからですよ!まだ若いんだから大丈夫!」

「おじさん臭い台詞だな、ネロ」

「実際もうおじさんですし」

「はあ?」

「言ってませんでしたっけ?僕はハーフです。今現在で唯一の」

「魔族か?」

「正解です。圧倒的な戦闘力を手に入れた代わりに、僕はマナを持たない」

「マナを持たない人間は死ぬんじゃないのか?」

「先生の法術のおかげで、何とか永らえているのです」

「だから絶剣も使えると…」

「そうですね、先生が僕用に作っているのが絶剣です」

「魔族を殺すための武器って聞いてるが」

「僕は先生さえ生きていればあとはどうでもいいのです。あなた達には感謝しています。先生を死地に送らなくて済みましたしね」

「戦場か…」

「はい。いずれはあなた達にもそこへ向かってもらうことになるでしょうね。もうすぐここも、夜の国も戦場になります。いつまでもは匿っていられませんから…」

「兵士に偽装させるのか?」

「まあそうなりますね。ですが安心してください法術の力でクラウスさんとハルカさんは成長させますから」


 意味が分からなかった。


「言葉通りの意味ですよ。お二方の年齢を強制的に成長させます。今のままでは体が技について行かないし、何より幼すぎますからね。大丈夫、夜の国の成長法術は一級品ですよ。ほぼ先生のせいですけど」

「成長法術ってなんだ」

「子供を大人にしてさっさと兵士に変える法術です。外道の秘法とも呼ばれていますね」

「そんなの…だからこの国には子供がいないのか」

「正解です。子供は全て大人になって戦場へ旅立ちましたし。僕は先生の助手だから、特別に免除されてる感じです」

「それで、法術はもう発動しているのか?最近やたら服が小さくなったりしてるんだが…」

「はい!あなたに技を教え始めた時から既に発動済みですからね」


 呆れてしまった。改めて体を見ると、確かにすごい速さで成長している。と、思う。

 服はジアが用意しているから、あんまり気にしなかったが、今考えてみるとおかしい速度だ。

 ネロは笑顔で「夜の国は時間の流れが~」と言っていたがまさかこんな所でこんなことになるとは思ってもみなかった。

 体感的には確かに数年ここにいる感覚なのだが。

 この国は感覚がおかしくなる。ネロの修行のせいでもあるが。


 ネロによると、俺とハルカは六年の歳をとったらしい。という事は十二歳だ。

 今までを考えてみると確かに若すぎるのによく戦ってきたと思う。

 技からくる体の調整はネロが俺に叩き込んだので、何も変化はなかった。

 ハルカは別に気にしてもいないようで、ひたすら緋術の開発をジアと共にやっている。ここら辺はハルカのいいところかもしれない。

 ラキは成長させなかった。というより成長させても姿が変わらないからだ。


 そしてついに絶剣の解体作業が終わった。事象基臓は無事取り出された。

 これで事象基臓は二つになり、絶剣は赤くなることも無くなってただの剣へと変わった。空になった絶剣はジアに返した。



「お前ら、ここを離れる前にいいもんをくれてやる」


 ある日、ジアはそう言って二つの物品を机の上に置いた。

 鞘にしまわれたやたらとゴツイ剣と蒼い宝玉が嵌った杖だった。


「大体想像がつくだろうが俺が創った秘蔵の品だ。剣の方は『駆動剣』といって事象基臓の欠片が埋め込んである。神以外のなんでも斬れる剣だ。其処ら辺の魔王でもすっぱり行くぞ。ネロのお墨付きだからな!」

「はあ…」

「そして宝玉の杖は『緋法杖』とでも名付けた方がいいか?正確には『蒼魔女ブルーウィッチ』って名前なんだが、まあ、ハルカの緋術に合わせて調整してあるから、適当に撃っても破壊力抜群の一撃が撃てる。それにだ、この宝石にマナを溜めて置けるからマナが空間から消滅しても何発かなら撃てる仕組みだ。すごいだろ!」

「最高じゃない!さすが私の師匠ね!」

「よせよハルカ、お前のおかげで法術と魔法はさらに上の領域へと進化できた。それを考えればこれくらいなぁ!」

『ハッハハハハ』

 ハルカとジアの笑い声が部屋中をいっぱいにした。


「そしてだ。お前らとはもうお別れだ。そろそろここにも魔王の手が伸びる。その前にお前たちはここから北東の大国グラスティアを目指せ。そこならお前らの力になってくれる奴がいる。そいつならきっと、お前らを元の時代に送り返せるはずだ」

「僕たちはここに残って魔王を抑えます。もう二度と会えないでしょうが、お元気で」

「事象基臓はお前らに預ける。二つもあれば、アイツでも大丈夫なはずだ」

「アイツって?」

「初代勇者、アルステラ最強の女だよ」

「女?女性だったのか?!」

「そうだ、名をセロハという。俺と同じ白髪の赤い瞳をした女だ。紹介状を書いておく。これがあれば会えるだろう」

「何も急すぎないか?まさかこんなに早くなんて…」

「昔ネロが言ってたろ。ここは時間の流れが狂ってるんだ。外と違う。お前らに成長法術を掛けられたのもそのせいだしな」

「お前らは十分に強くなった。俺とネロが保証する。簡単に負けるなよ」


 ジアにそう言われ、俺達は頷く。

 そうだ、俺達は強くなった。最初の時とは比べ物にならないほどに。

 これで元の時代に戻っても、ベルベット達には遅れは取らないはずである。



 そして旅立ちの日。出兵する兵士達に紛れ、俺達はグラスティアを目指す。

 この旅が歴史を大きく変えていくことになるとは、誰が思っただろうか。



 旧時代において、後に『神殺し』と呼ばれることになる英雄の第一歩になるとは。

 誰も思わなかったはずである。

 あの神すらも。


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