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モブ顔勇者は世界を救わない  作者:
過去世界編
10/20

夜の国と現状

ハルカとラキを起こして、部屋を出た。

 ハルカもラキもそこまで驚いているようには見えなかった。

 唯の空間転移だと思っているからだろう。


 木の洞を利用して作ったのだろうか。

 それくらい木に包まれている感覚がある廊下を出て、階段を降りた。

 降りた先はまた廊下だったのだが、いくつかの部屋がある。その部屋の一つから明かりが漏れていた。そこを目指し進む。


「どなたか、いらっしゃいますか?」

「ようやく起きたか異邦人」


 燭台に照らされた一人の白髪の男が一人椅子に座っている。周りには乱雑によれた文字で書かれた紙が積まれていた。


「ここは…」

「夜の国、カルスフィア。お前ら、どっから来た」

「東のゴースティア大陸、中央都市スルドレアから」

「知らない土地だな。ますます怪しいが…。ネロが拾ってきたから見てやった。傷は一つも残ってないだろ」


 言われて体を確認する。アクラやベルベットから受けた傷はどれも魔法でも使ったかのように消えていた。


「これは…」

「高位法術だ。知らないのか…?」

「魔法とは違うんですか?」

「…魔法だと…?お前らやっぱり魔族か!」


 男は剣を抜いていた。こっちは丸腰だ、絶剣もない。

 ラキが咄嗟に影に入り、剣の様に鋭くした影を防御に出した。

 次の瞬間。

 先ほど俺を起こした少年が絶剣を手に間に入った。男の動きが止まる。


「ネロ、退け。こいつらは魔族だ」

「先生、ソレは早合点ですよ。彼らは夜の国の結界内に転移してきたのです。魔族にそこまでの技術はないはずです」

「万が一があるだろう。匿うのはいいがバレればこっちの命もヤバいからな」

「先生は頭が固い。彼らがこちら側の人間でないことは終戦への一歩かもしれないですからね。それにこの剣も、あの勇者の剣とよく似ている」

「勇者の剣と?本当か!?」

「えぇ。恐らくですがこれは絶剣です」

「ソレを早く言え。おい、お前ら、悪かったな。とりあえず座れ!」

「先生、自己紹介しましたか?」

「そういえばしてないな…。俺はジア。夜の国で魔族の研究をしている」

「僕はネロ。先生の弟子です」



 話を聞くにどうやら彼らはこの夜の国で魔族について研究しているらしい。

 俺達はネロが買い物に出た際に満身創痍の状態で発見されたようだ。

 ネロは俺達を戦地から逃走してきた兵士だと最初は思ったらしい。

 だが、勇者の剣と似通った姿の絶剣や、影を展開し威嚇するラキ、それに魔法を使おうとしているハルカを見て、何か違うと感づき、威嚇する二人を落ち着かせ、ジアの研究室兼自宅に運んだようだ。


 この夜の国はガリア神大陸と呼ばれる場所にあり、そのガリア神大陸の場所は俺達が生きていた時間軸でいう所のエンデ大陸の場所にあるようだ。

 魔族という存在は最初からいたわけではなく、どこか別の世界からこのアルステラにやってきたようだと聞いた。

 俄かには信じがたい話だが、千年近く前だしその可能性もあり得る。

 魔族の特徴は身体的なものと、魔法と呼ばれている法術の延長にあるとされる進化の形があるようだ。

 ラキでいう所の角と影がそれにあたる。

 角はマナを吸収しやすくする魔族特有の器官、ラキの影は魔法に属するモノのようだ。少なくともこの時代では。


「で、お前らどこから来た?グラスティアか?イグゼンド?それとも、ガストリアか?」


 ようやく知っている言葉が出た。ガストリア帝国。

 俺の時代で最も古かった大国だ。まさか千年も前からあったとは…。


「いいや、ガストリアはあり得んか。あの国は魔族の国だ。お前達のような半端者では入れんか」

「えっ…」

「知っている言葉が出た反応だな。そうだ、ガストリアは魔族が興した国だ。今から数年前にな。正確に言えば魔王を名乗るある男が、だ」

「魔王は一人なんですか?」

「…。変なところで知識を持っているな。魔王は一人じゃない。何人も存在している。勇者が間引いてはいるが、それも何時まで持つか分からん」

「勇者は死んでいない?」

「当り前だろ、死んでたら人類種は絶滅してるぞ」

「じゃあ、ここは、まだ…」


 口ごもりもにょる。

 ジアはソレを見逃さなかった。


「お前ら未来から来たのか?」

「…いえ。いや…そうですね。貴方から見れば、未来から。でも、少し歴史が違う」

「……お前たちが来たからかもしれんな。俺は昨日、本来なら夜の国からある兵器を持ち出すはずだった。魔族を無力化するものだ。俺が開発した。『事象基臓』という」

「それが戦争の決定的な何かに繋がっていたと?」

「その可能性はある。現にお前達をネロが拾ってきたから、持っていけなかった」

「じゃあ、未来に変化が起こる可能性も…」

「十分にあり得るだろうな。それより、問題はこれだ」


 ジアがテーブルの上に置かれた絶剣を指さす。

 ネロが言っていた、勇者の剣とよく似たモノらしいが。


「これはなんだ?」

「絶剣、っていうらしいですね」

「ソレは分かる。なぜお前が持っている?」

「それは…ある人に貰ったからです」

「これはまだ未完成だった。俺の事象基臓を組み込んで、初めて駆動する。それが絶剣と呼ばれる剣だ。これはまだ、ネロが持っている一本しかない。勇者の剣を真似て俺が作ったものだ。だがこれは使う者を選ぶ。お前は何者だ?」

「え」

「この剣は、マナを持たない人間しか持てない。つまり魔王や魔族、そして俺達人類種以外の存在しか持てない。しかしこの世界にはマナを持たない人間は、今のところネロ以外いない。しかし、未来から来たお前は剣に選ばれている。おかしいだろう?」


 それならなぜ団長は俺に絶剣になったペンダントを渡したんだ?

 あの時点で団長は俺が何者か分かっていたのだろうか?

 マナを持たない異世界人であると。

 俯く俺にジアはもう一度言った。


「お前はなんだ?」

「俺は…」

「まあ、今日はそこまでにしましょう。先生、もういい時間ですし。お昼ご飯ですよ!」

「むっ…もう昼か。はぁ、まあお前が何者でもいい。そう言えば起きてから何も食べてないだろう。食事にするか…ネロ!」

「耳元で言わなくても分かっています。今日はプルガロール牛のランチですよ!」


 ネロが間に入って話をそらした。目配せされる。助かった。


 ハルカとラキは何時の間にかすっかりネロに懐いていた。

 俺はテーブルに置かれた絶剣を降ろし、そこにハルカが料理を置く。ラキは影をうまく使って、それぞれに食器を配っている。


「あとで、お話があります」


 ネロは俺にさりげなく近づいて耳打ちした。


 料理はおいしく満足した。染み渡るとはこのことか。

 食事の後、ジアはラキの影を見せてもらっていた。ハルカもソレに混ざっている。

 ネロはジアに何か言って、俺を連れて部屋を出た。

 そのまま、ネロの部屋に向かう。

 色々な薬が入っているであろう瓶と独特の薬品の匂いがした。別に悪い匂いではない。


「座る場所がないからベッドにでもどうぞ」

「うん」

「早速ですが本題です。貴方が持っている絶剣を少しだけ解体させてほしい」

「ソレは…無理だな。これが無くなったら俺は多分元の時代に戻れなくなる」

「元の時代に戻る方法はいくらでもあると言ったら?」

「なっ…!?」

「事象基臓を使えばそれが可能になる可能性が高いと言った方がいいでしょうね」

「そこまで万能なのか、その事象基臓は」

「まぁ、先生が開発したモノですし、多少のずれはあるかもですがね」


 …悩む。解体して何になるというのか。

 それよりも今、戻ったところで、ベルベットに俺は勝てない。それどころか、ハルカを守ることも出来ない。王国にハルカを連れて行けば依頼は終わるが、ハルカの命がない。


「なにか問題が?」

「解体する代わりに、俺に稽古をつけてほしい」

「ほほう。なぜ僕にそれを?」

「君は俺よりずっと強そうだからかな」

「たはは。見抜かれていましたか。一応二代目勇者と言われているくらいですから。強いですよ」

「やっぱり」


 ネロの立ち方、位置、絶剣の持ち方。

 全て猟兵団の剣士たちに共通するものがあった。

 それにジアが剣を抜いた時の間に入ってくる速度、あれも尋常ではなかった。


「安心してください。解体には数か月はかかりますから。それまでは稽古というか、実戦練習をしてあなたを強くしますよ」

「助かる。ありがとう」

「いえいえ。ところで、あなたは神の使徒で合ってますよね?」

「…え」

「いや、これは勘なんですが、あなたに掛かっている呪いに見覚えがありましてね」


 とんでもない爆弾が放り込まれた。呪いが見えるのはさておき、神の使徒とは…?


「神の使徒?」

「反応が薄いですね。なら巻き込まれた側か…あなたも苦労していますね」

「神とは…?」

「人類種側でいうなら、靄のような化け物の事です」

「化け物?人型じゃなく?」

「人型?そうか姿を変えているのか…それならまだ、可能性はあるな…」

「何の話をしている?」

「あなたはまだ、操り人形じゃない。かける可能性があるってことです」

「操り人形って…」

「まあいいです。そのうち話します。時間軸が違えば、神の干渉も薄くなるものです。だから、まだまだあなたには強くなることも出来るってことですよ!」


 ネロは少し興奮気味に話す。俺は若干引いていた。


「残念ながらまだこの夜の国から出すわけにはますますできなくなりました!」

「それで?」

「神の干渉を乗り越えて!強くなる修行開始です!」


 正直、ネロがあの人型の靄についてどこまで知っているかは分からない。

 だけども、俺はこの瞬間から、逆境に立ち向かうための力を手に入れることになる。

 


 これが始まり。俺のこの長い旅の始まりに繋がっていたことは、まだ誰も知らない。

 あの人型の靄もきっと予想できなかったに違いない事なのだ。

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