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4節




         ――揚星艦<ヴェルダンディ>底部――




「十年前に君が見つけた器具は、見立て通り、物資を輸送するための揺り籠(ケージ)だった。流れ着いたそれをシエラくんに使い、君は彼女をこの星の外へと飛ばした」



 スウィニーが首を傾げ、確認するようにこちらの反応を伺ってくる。

 糾弾は既に始まっていた。弁明するための言葉に、想像以上の重みがのし掛かる。



「……娘を想ってやった事だ」

「そうかい? それなら早速の凶報だ。君が送り込んだ場所は、ここ(イル=グゥ)より遙かに酷い星だったよ」



 さも愉しげに、スウィニーは事実を突きつける。父親の無知を冷笑するように。



「『ゴダール三四星雲』――ゴダールというのは、その昔宇宙狭しと暴れ回ったギャングスタの名前でね。全宇宙にも名を轟かせる治安の悪い星雲だ。窃盗、殺人、人身売買なんでもござれ。カジノやドラッグの類も銀河一で、人気もそこそこあるんだけどね……シエラくんが飛ばされたのは、そのゴダール三四星雲の中で『ゴミ箱』と呼ばれる星だった」



 スウィニーの言葉に嘘ではない。比喩ではなく、その星は本当にゴミ箱だった。

 資源のない寂れた星に、稼働できなくなった船や腐りきったゴミなどの不要な物を投棄する。星雲規模で発展した文明においては珍しい物ではなかったが、ゴダール三四星雲のそれは、他と一線を画するものだった。



「地表の八十%を砂漠が占めるような土地に、銀河中の廃棄物が次々と投下される……そこには文明の汚い所が全て詰まっていた。様々な投棄物に紛れて、手に負えないほど凶暴なペットや、果てはどこにも居住を許されない罪人までが捨てられた」



 何もない惑星に、ゴミと一緒にまとめて捨てられる。それは星雲における死刑だった。

 ところが、そんな場所でも文明は育った。寄り集まった犯罪者達は、ゴミで街を作り、残飯で食事を作り、ゴミ山から使える物を探し出してバザールを作った。

 やがて『ゴミ箱』は、数々の犯罪組織の格好の隠れ蓑となった。

 何を売っても、誰をどう扱っても、取り締まる法は存在しない、銀河でも有数の『汚い宝の山』となった。



「『ゴミ箱』の一番の商品は人だった。生きた生物は、奴隷でも、食料としても使える。珍しかったり美しかったりすれば、観賞用、愛玩用として壊れるまで金を搾り取れる……彼等ギャングは、銀河中から商品を掻き集めた。様々な種族を攫っては、専用の籠に入れて市場へと配送した――君が拾ったのは、その便箋だったのさ」



 オルトの目の色が変わる。

 その時の衝撃の大きさを、表現できる言葉がない。彼は送り届けた後を、全く考える事ができなかった。狭い辺境の星で生きた彼にとって、別の惑星など想像もできなかった。

 けれど。だからといって、そんな……。



「宇宙を漂う中で壊れたのか、あるいは君が分からないままにいじくったのか……幸いにも座標はズレていて、シエラくんは直接市場送りとはならなかった。それでもシエラくんにとって、目覚めた時の衝撃は凄まじかったろうね」



 オルトは娘と過ごした最後の日を思い出す。

 また、一緒に夜明けの空を見ようと約束した。愛する父親の腕に抱かれ、八歳のシエラは安らかな眠りについたのだ。

 それが、目覚めたシエラを出迎えたのは、汚く、劣悪なゴミの星。

 穏やかに過ごした森の緑も、動物のささやきもない。

 どれほど衝撃だったことだろう。夢だと信じたかった事だろう。



「ほどなくシエラくんは、格好の商品として追われる身になった。自らを売り物と、あるいは食料として扱う、怪物としか思えない異星の悪漢達にね」



 立ち向かう心構えなど知らなかった。生きていく方法なんて考えたこともなかった。

 八歳の少女は、ただ恐怖に駆られて、ゴミの山へと飛び込んだ。

 目覚めて数分で、少女は親を失い、一人ぼっちの『被食者』になった。



 地獄の生活が始まった。

 強烈な飢えに苛まれ、柔らかい物は何でも口に入れた。

 腐りかけの生ゴミを野良の獣と奪い合い、腹を下しながら貪った。

 物音一つ聞かれれば、たちまち人売りが押し寄せ、彼女を捕らえようと襲いかかった。

 泣いてもわめいても、誰も助けてくれない。

 大好きな父も兄も、ここにはいない。



 シエラは九歳で殺しを経験した。

 死んだばかりの肉が、一番のごちそうであることを知った。

 シエラは戦う事を選んだ。選ぶことができた。幸か不幸か、彼女もまた紛れもない旧世界の支配者<古き者>の血を受け継いだ超人だったのだ。



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