⑼卒業パーティー
今日は卒業パーティー。私は今日学園を卒業した。そして、これが学生最後のパーティーだ。このパーティーが終われば、婚約者の元にいくことになっている。いつか、いつかノア様が帰って来られることを願って、学園生活を送ってきたが、それも今日で終わり。私だって殿下みたいにノア様に会いにいきたいけれど、女の私が国を出る理由がない。本当、殿方が羨ましい。
でも、それで良かったのかもしれない。もし会いにいって、ノア様から「会いたくなかった、帰って。」なんて言われたら、もう生きていけないかもしれなかったから。それぐらい私にとって、ノア様は大きな存在だった。
「そこのレディー。1曲踊ってくれませんか?」
「すいません、私は…ノア、様!?」
夢かもしれない。私の願望が遂に幻覚まで作りだしてしまったのかも。
「久しぶりね、トルカ。」
淡い緑のドレスを身にまとったノア様が目の前にいた。昔と変わらず美しく、いや、前よりさらに綺麗になったノア様がいた。
「ノア、様、本当の、本当に?」
「本当よ。会いたかったわ、トルカ。それでお返事は?」
「お、お願いします!」
「ふふ、最後の学生生活楽しみましょ?」
「はい!」
私は3年前、ノア様に酷い態度をとってしまった。もし、ノア様に会えたら誠心誠意謝ろう。例え許してくれなくてもいい。それくらいのことをしてしまったのだから。だからその時は影から見守ろうって。でもノア様に会えた時、そんなことはすっかり忘れてしまっていた。ノア様に会えたことが嬉しくて、ノア様が会いたかったって言ってくれて、また名前を呼んでもらって嬉しくて、嬉しくて。
後で必ず謝ろう。気分を害されたとしても謝らなければいけない。でも今は、今だけは過去の誤ちを忘れ、ノア様との時間を楽しもう。
※※※
「ふぅ、少し疲れたわね。」
3年ぶりの学園。顔見知りの人には謝られ、そしてこれまでのことを代わる代わる尋ねられた。流石に疲れてもくるだろう。
第1、ほぼ学園に出席していない私がこの卒業パーティーに参加していいのか、本当に迷った。退学になってもおかしくなかったから。でも、学園は籍を残してくれて、卒業試験さえ合格できれば卒業判定をくれた。勿論、久しぶりだから勉強はしなければいけなかったけれど、お兄様と王子が2週間きっちり、それはもうスパルタに教えて下さったおかげで、無事合格することはできたのだ。
「ノア、お疲れのようですね。」
「王子。」
「そのドレスとてもよく似合ってます。」
「王子が私のために贈ってくれたドレスですもの。似合わないはずありませんわ。」
そう、このドレスは実は王子が贈ってくれたものなのだ。試験に合格した時、勉強でお世話になったお礼をすると言ったら、お礼はいいからドレスを贈らせて欲しいと言われた。それがお礼になるのかと疑問だったが、世話になった手前、断わることができなかったのだ。ドレスは素晴らしいものだった。生地は最高級らしく、触り心地最高で、デザインもいいし、金に糸目を付けず余程腕のいいものが作ってくれたのだろう。ただ、気になる点が1つだけ。
「当然でしょ?」
「ただ、何故この色だったのかというのが気になりますね。」
そう、この世界では自分の瞳や髪の色の物を相手に贈るという風習がある。婚約者や想い人にだ。そして、このドレスは淡い緑。アクセサリーも緑系統の物だ。濃さは少々違うもの、王子に贈られたものは、王子の瞳の色と似ている。
それが意味することは…
「他の虫がくっつかないようにです。」
「虫って。」
「ノア、僕と1曲踊ってくれますか?」
「え!い、や、今は…」
最近の私は近頃おかしい。王子との距離が近くなると、体全体が熱くなって鼓動が早くなっている、気がする。
勉強を教えてもらう時もどれだけ平静が保てるように苦労したか。
「そう言わずに、最後の学生生活なんですから、楽しみましょうでしょ?」
結局、王子の熱意に負け、踊ることになった。ダンスホールの真ん中で、王子、そのパートナーは元婚約者の出戻り令嬢が踊っているのだ。他の学生からの視線を一点に集めてしまっている。久しぶりのダンスというのに、こうも見られていてはミスをしないように気をつけないと。と思ってるのに、私の気持ちなんか全く考えず王子は話しかけてくる。
「ノア。」
「なんでしょう。」
「やっぱり僕は貴方でなければダメなんです。僕と結婚してくれませんか?」
…私が消えてから3年。その3年あれば新しい候補者を立てて、妃教育をさせれば、この時期には教育は終わっていてもおかしくない。それなのに、この3年間、婚約者を立てず、挙句には王太子の地位を返上したなんて。馬鹿げているとしか言えない。馬鹿げているけれど、それほどまでに私を思ってくれているなんて。
「…父が許してくれれば。」
「え?」
私の言うことが予想外だったのか、グレンは大きく目を見開いて、こちらをみてきた。
「その言葉、簡単に撤回させませんからね?」
「父が許してくれればですよ。」
「ノアが了承してくれたのなら、侯爵は必ず許してくれますよ。まぁ反対された所で、引き下がる僕ではありませんけど。ノア、愛してます。」
「私も、お慕いしております。」
笑顔でそう応えると、王子は顔を真っ赤にして、俯いてしまった。ダンス中だというのに。本当、可愛らしい1面があることだ。でも俯いていても、リードは完璧でした。
次が本当の本当の最終話になります。5月23日(日)0時より予約投稿しております。最後までお楽しみいただければと思います!




