⑻分離
私、橋本奈緒は地味な陰キャ女子だった。そんな私が、公爵令嬢ノアとして自信げに今まで生きて来れたのは、やっぱりゲームの中のノアをイメージできたからだ。ノアはこんな態度とらない、ノアはこんなことで弱気にならない。だからこそ、グレンに婚約破棄され、お兄様に冷たい態度を取られ、トルカにも逃げられた時、私はまだ笑っていられたのだ。もし橋本奈緒だったら、きっと泣いて逃げることしかできなかったに違いない。
でもふとたまに、ジワジワくる不安に苛まれることがある。影でヒソヒソ噂され、笑われ、軽蔑され、皆離れていったのだ。心が不安定になっても仕方ない。
きちんと見えてはいるのだ。自分が今、何をしているか。必死にユランとココリアが止めてくれていることを。でも、止められない。
ノアと奈緒は別人格のようで、今の私は一切体を動かすことも声を発することもできないのだ。ただただ見るだけしかできない。笑っちゃうわ。ノアも奈緒も私だというのに。
「離して、離してよ!もう、死なせて…」
「お嬢様、おやめください!」
「ノア様!」
「ノアなんかじゃない、私は、私は…私なんかいなればよかったのよ、そうしたらお母さんも苦しまなかったのに、私が、いた、から。」
(やめてよ、きっとお母さんはそんなこと思ってないよ。
だって、毎日毎日大変そうに、していたけど、それでも私がいてくれて良かったって、笑っていってくれたもん。)
「あんたたちも、あんたたちも私のこと影でコソコソ笑ってるんでしょ。バカにしてるんでしょ。もう、出てってよ!1人に、してよ。」
(ユランもココリアもそんな人じゃないよ?2人とも私のことをいつも思ってくれて、大変なの分かっているくせに一緒にここまでついてきてくれたんだよ?そんな2人の気持ちを貶めるような発言はやめてよ…)
どれだけ叫んでも決して口から思いを伝えることは、できないし、奈緒にも届かない。そんなの今まで通りなのに、朝には収まるから、気が済むまでやらせたらいいと思って気にもしなかったくせに、2人に見つかって止められる度少しづつ胸が痛んできた。だって、傷を付ける私より痛そうな顔をするのだ。そんな2人の顔を見続けるのは辛かった。
「ノア。」
聞きなれた声が聞こえた気がした。そう思った瞬間、私は強い力で抱きしめられていて。
「僕のせいだって分かっています。僕のした事がどれほどノアを傷つけてしまったか。でも、でも、これだけは言わせてください。ここにいる皆、ノアのことが大好きで仕方ないんですよ。ノアの傍にいたくて、皆ここにいるんです。バカにするなんてとんでもない。何度だっていいます、皆あなたを心配していますし、大好きなんです。」
「わ、たしは、ここに、いて、いいの。」
「勿論です、むしろ居てくれないと困ります。」
「わ、たしは、悪くない?」
「なにも悪くはありません。」
奈緒はおもむくがまま泣いた。グレンの胸元で。
ずっとずっと、こうして欲しかったのだ。友達は離れていき、心配させたくなかったら母親には相談できなかった。母親に知られたら、知られたで突き放されてしまったのだ。甘えることもできず、結局死を選んでしまって…本当、バカなことをしたなぁと我ながら思う。
『ごめんね。』
謝る私の声が、心の内に響いていた。その次の瞬間には、人の温かさを感じ、体を動かすことも出来ていた。どうやら私は元に戻ることができたらしい。戸惑いながらも、グレンの腰に手を回した。
「ありがとう、グレン。」
結局その後、すぐユランとココリアに引き離され、私は手当て、グレンはユランに連れていかれていた。
次回更新は5月22日(土)0時です。
あともう少しお付き合いください。




