(5)攻略対象3人目
俺の祖母はある屋敷のメイドとして働いていたのだが、その屋敷の主人と関係を持ってしまい、母が生まれてしまった。つまり母には貴族の、バレンタ侯爵家の血が流れていて、俺も例外ではなかった。
「だから、だからやめておけといったのだ。このバカが!」
葬式の日、初めてあった母の異母兄は静かに眠りについている母にそう怒鳴った。母は妾の子なのだ。それに、家の反対を押し切り、俺の父と共に飛びだってしまっていたということも聞いていた。
母の弔いにと何人か集まってくれたのだが、雰囲気は最悪だった。そして小さな母の葬式後、俺はこの伯父に連れられて、この大きな屋敷に来たのだ。
「あの。」
「なんだ。」
「俺、帰ります。」
「帰る場所などあるのか。」
帰る場所…何も言えなかった。母の弔いのために母の知り合いが何人か来て大人同士話していた。俺の事をどうするか、と。
皆困ったような顔をして悩んでいるのを俺は知っている。駆け落ちしてまで選んだ俺の父は借金だけ残して消えてしまい、今まで住んでいたあの家もきっと追い出されるだろう。
「大丈夫です、子供じゃないので、何とかできます。」
大丈夫なはずはない。この先のことで不安がいっぱいだ。でも借金まで返してもらって、これ以上迷惑をかけられない。ただでさえこの人は母と俺のことをよく思っていないだろうし。
「まだ12だろ、お前は。」
「借金も少しずつ返します。」
「何百年かけるつもりだ。借金のことはいい。その代わり仕事はしてもらう。」
「お父様~」
と現れたのは3人の女の子。伯父は自分の娘だと紹介してくれた。仕事とは娘の遊び相手になって欲しいということだった。従姉妹たちは、 素直で小さくて可愛くて、こんなの仕事にならないじゃないかと思うくらいで。特に末っ子のカルアラはよく俺に懐いてくれた。「お兄たまお兄たま」と後ろをついて来た時には優越感があったものだ。
居場所、可愛い従姉妹達、たくさんいろんなものを与えてくれた伯父には感謝している。その恩返しがしたくて騎士の道を選んだ。
けれど誘拐犯を捕まえる最中怪我をしてしまい、利き腕が使い物にならなくなった。迷った結果、騎士をやめ、学園の教師にならないかと誘いを受けた俺は教師になった。
教師というのは大変だけど、なかなかやりがいがあった。
※※※
「な、んで私がこんな目に…私はヒロインなのよ!」
全部全部あの女のせいよ。あの女のせいで私がこんな目に…
ここは国の端にある教会。毎日毎日掃除や農業、縫い物なんかやらされて手も足もボロボロ。夏はとても暑くて冬はとても寒い場所、監視がなければ外にも出られない状態だ。ホントだったら今頃攻略者の誰かと幸せで楽な生活を送っていたはずなのに。
「カティー=アルヘルド。」
「カルク先生!助けに来てくれたのですね!私はなにも悪いことなんてしていません!嵌められたのです!お願いです、助けてください!」
そうよ!私はヒロイン。こんな所で終わる訳がない!2年辛い思いをしたのだからこれからは幸せな生活が待ってるに決まってる!
あんまりすきじゃないけどこの際だれでもいいよね。
「分かってる、いくぞ。」
リードのおかげもあり、私は気付かれずに外にいくことができた。
やっと、やっと私は自由の身。
「ねぇ、リード、どこにいくの?」
リードが乗ってきた馬にのって、私達は教会を離れる。馬より馬車が良かったけど、バレずに早くここを離れないといけないから仕方ない。
「家を用意してあるんだ。そこにいこう。眠たければ眠ってもいい。俺が連れて行ってやる。」
「ありがとう。リード」
教会では朝5時に起きなければ行けないから、今も凄く眠たい。
(それに起きた時の楽しみもあるもんね。)
私はリードに支えられながら馬の目を閉じて眠りについた。
※※※
「ん、ん。」
「起きたか。」
「ここは、もしかしてリードの言っていた家?」
「そうだ。ここまでくればもう大丈夫だ。」
「ありがとう、リード。ねぇ、これ、何?」
ふと目に入ったのは右足首についている輪っか。鎖も付いていて、少し重い。
「俺は教師って職に満足していたんだ。満足していたんだが、少し考えたりもする。あの時君が余計なことをしなければ俺が君を庇うことも、怪我を負って騎士を辞めることもなかった。」
誘拐されていた女の子を助ける際、負ってしまった傷が原因で、リードは騎士をやめた。それは知ってるけど、余計なことって?てか、それがきっかけで2人はラブラブになるんじゃないの!
「いやまず君なんかに会わなければ、殺されずにすんだのにと。」
「ね、ねぇリード?何が言いたいのかわかんないよ。どうしたの?」
「本当に気づかないのか?丹羽愛奈。」
「な、んで、私の、もしかして。」
私が殺した…
「あぁそうだよ。まさかこうしてまた君に会えるなんて思いもしなかった。本当、神っているんだな。」
ニコッと歯を見せて笑う姿は爽やかな好青年そのものなんだが、なんだか少し怖い。
「遥、一。」
思い当たる名前をいうと、リードはまた歯を見せて笑った。
「好きだよ、愛奈。でもあの時は仕方なかったんだ。俺がやっていくためにはああするしかなかった。今だってその気持ちは変わらない。だが同じくらい酷い憎しみが俺の中に渦巻いてるんだ。愛したい、けどそれと同時に苦しむ顔がみたい。そうしたら俺のこの言いようのない気持ちも晴れると思うんだ。分かってくれるよな、愛奈。」
「よ、遥一、お願い、ちゃんと話し合って…」
「俺を殺すほど愛してくれたんだろ?だから俺も同じくらい君を愛すよ。」
※※※
「ねぇリー君。彼女でもできたの?」
「なんでだ?」
「なんだか楽しそうだから。」
「彼女なんていないさ。ただ最近調教中の馬がいて。ようやくいうこときいてくれるようになったから楽しくて。」
「なーんだ。やっぱりそういうことね。」
「安心したか?」
「うーん、少し。まだリー君は私のお兄ちゃんだなって。」
「例え俺が結婚しても、カルアラが結婚しても俺とカルアラの関係は何一つ変わらないから。カルアラは幾つになっても俺の可愛い妹だ。結婚おめでとう。」
「ふふ、ありがとう。リー君。」




