⑵国王陛下は悩ましい
今回は国王視点になります。
「お前は本当にそれでいいのか。」
「はい、もう決めました。」
「お前の心はかわらんようじゃな。ではグレンよ。お前の王太子という地位、剥奪する。謀られたといえ、儂が決めた婚約に逆らい、尚勝手に破棄するとは言語道断。その罪は重い。して王太子の地位は一時的に空席とする。場合によってはルドガーがつかんとも限らん。己の罪を心に刻み精進しろ。」
「ありがとうございます、父上。」
息子が立ち去った後は、ため息しかでなかった。いきなり息子からパンドュース家との婚約を破棄したと言いだされ、それはそれは驚いたが、更に驚いたのは、とある女学生が学園の生徒共を魅了した結果だという。グレンが我を取り戻した時、パンドュース家の令嬢、ノアは既に学園には居らず、捜索をさせてもめぼしい結果は得られなかった。
グレンは己を責め、パンドュース侯爵もいきなりの娘の失踪。中々みていられない状態だった。だからこそより申し訳なさを感じた。ノアが、グレンに言いよる女学生にちょっかいをかけているとは聞いていた。しかし、ノアが行ったことといえば、足を引っ掛けることや、事実を述べた悪口など可愛いものだった。それなのに、あらぬ罪を色々被せられたり、最終的には自分が親しみを感じていたものにさえ裏切られる始末り余程堪えたに違いない。
「はぁー。ノアよ、もう2度とオセロはできぬか。」
ノアに仕えていたメイドと執事の姿も見られないことから、一緒にいると予測されているため、そこまで心配はしていない。もし居なくなったのがノア1人の場合だと、グレンも侯爵も今よりさらに取り乱していただろうからな。それについては本当に良かったと考える。グレンに婚約を破棄されたことに消沈して自殺なんてしまったら…まぁあの令嬢に限ってそれは無いと思うが。しかし、もしそうなった場合2人はおろか、多くの人間が使い物にならなくなっていただろう。それは王妃や儂だって例外ではない。あの令嬢は人に好かれやすいタイプだから。
それから2年が経過したのち、ようやくノアの居場所が判明したという報告を受けた。
「隣国か。」
残された手紙に国を出ると書いていたが、本当に国を出るとは思わなかった。いくら使用人がついていても、誰の助けも得られないような国外に出ることは余程の不安があっただろう。
そして国を出たノアはどうやら隣国、エイトリアル帝国にて冒険者として動いてらしい。そのことにも驚きだ。剣を嗜んでいるとは知っていたが、それでもただの、しかも貴族の令嬢が冒険者になんてなるなど誰も思わなかっただろう。
「そうですか、ノアが冒険者に…父上、エイトリアル帝国に僕を行かせてください。」
「はぁ、その為に王太子の座を降りたのだろう?」
王太子という地位のままでは、普通の王族より行動制限がされてしまう。その理由により、グレンは王太子の座を降ろさせて欲しいと、儂に頭を下げてきたのは今となっては懐かしい出来事だった。勿論その件で貴族共の中には大騒ぎになり、少し国はゆれた。第2王子であるルドガーを支持するものも多数現れ、いざこざがおきるところだったが。ルドガーが、王位を狙うつもりはないと断言したり、兄であるグレンを慕うような姿を見せることもあり、活発的にルドガー支持者は動けないことが幸いした。まぁ、グレンはルドガーが次期国王になってもよい、いやなってくれた方が嬉しいとさえ言っていたが。
「まぁ、お前は卒業する資格は十分得ている。が、ノアがお前を選ぶとは限らんぞ?既に新たなパートナーを見つけているかもしれん。そうだとしてもお前はゆくのか?」
「もしそうだとしたら…素直に喜べないと思いますが、おめでとうといいますよ。そして謝ります。諦めたくはありませんが、最悪の場合それだけでもいいんです。今はただ会いたいだけですから。その後のことはその後考えます。」
影を落とし、笑みを浮かべる息子。
なんとまぁいじらしい。昔は自分の意見なんかいうことはほとんど無くニコニコ笑うだけだったが…本当にノアはいい意味で息子を変えてくれたものだ。
「まぁ、エイトリアル帝国に滞在願いの手紙を書いておく。少し待っておれ。」
「畏まりました。父上、本当にありがとうございます。」
なんだかんだで事が進み、エイトリアル帝国への滞在が許可された息子は、影を2名、そしてパンドュース家の次期侯爵を連れて出航した。側近であるクロノワールの倅との2人を考えていたそうなのだが、なにしろその倅は卒業できるか危ういそうなので、連れていくにいけず、その代わり強い意志のもと志願したという次期侯爵になったという訳だ。
「はぁー、無事に帰ってきてくれればいいが。」
「失礼します陛下。」
「侯爵よ。」
「息子への同行の許可、ありがとうございます。」
「構わん。此度の件は、我が王家の失態だからな。本当に侯爵には申し訳ないことをした。」
「いいえ…しかし本当にそう思っているのならこの紙にサインをお願いしたく、参りました。」
「ん、なんだこれは?」
「陛下の悪いようにはしません。私のことを信じてくださいませ。」
なんだか嫌な含みだが、実際頭が上がらないのも事実。儂はその紙を受けとり、内容を見た。
「な、なんだこれは!」
その紙には王命によりパンドュース領を王家が管理する。また、貴族返上を行うといった内容の紙が書かれていた。
「どういう事だ侯爵。」
「陛下にとって悪いようにはなりません。これはパンドュース侯爵家は解体され、パンドュース領は王家に返上されるといった王家が得をする制約書ですから。」
「いや、なぜいきなり…まさか。お主。」
「息子と、母と父とも話しあった結果です。もしノアがエイトリアル帝国に残るというのならば、私たちがあちらに行くことにします。」
「向こうに行ったところで貴族の地位は得られぬぞ、それでも行くのか。」
「はい、貴族だというプライドなど私にとってどうでもいいのです。ただ来たるその日まで家族と居られれば、それで。古い友人がそちらにいますので、頼らせていただこうと思っております。それにエルセーヌが、妻がみた景色や苦労を経験できるのかと思うと、それはそれで楽しみですから。」
「ノアがこっちに戻って来た場合は?」
「ノアが貴族に戻りたくないというのならば、書面に書いてある通りパンドュース侯爵の地位を返上しますし、貴族でありたいと思っている場合は、この話はなかったことに。条件についても、そのように記載しております。」
よく見てみるとそのような事が書いてあった。さすがは侯爵。抜け目がない。
「儂が受け取らんと言った場合どうなる。」
「私の親戚にあたるブレイデン子爵にでも譲ろうと考えています。が、ブレイデン子爵は広大な領地を治める手腕も頭も品性もないと思っておりますので、それならば一旦国に返し、相応しい人物を手配してもらった方がよいかと。」
「うむ、それはそうだが。」
ブレイデン子爵の悪い噂は嫌でも耳に入るので、彼に任せると嫌な予感しかしない。
「はぁ、わかった、そのような事態になれば許可しよう。」
「ありがとうございます。陛下。」
「エルセーヌ殿の、墓はいいのか?」
「もし妻に会えたとして、話せない触れない自分より子供を大事にしろと言われるに決まってますから。彼女は子供たちのことを愛していましたから。例えほんの少ししか関われなくても。」
「そうか。それはいい女性だったのだな。」
パンドュース侯爵の奥方とは、1度だけ会ったことがある。平民だというが、真っ直ぐで愛嬌があり、礼儀がきちんとなっている女性だったことは記憶している。
「しかしお主に居なくなられるのは困る。ノアにはやはり帰ってきて欲しいものだなぁ。」
「娘のこと気にかけてくれてありがとうございます。では失礼させていただきます。」
侯爵の姿が見えなくなったとき、誰もいないこの執務室に大きなため息が漏れた。




