59.悪役令嬢とマリベナ
「へぇー、意地悪されてね。」
今日はマリちゃんが我が家に来てくれたということなので、私は最近起こったことを全て話した。勿論前世の最後についても。
「意地悪…体感的にはそんな生優しいものじゃなかったと思うけど。」
「思い出したこと、後悔してない?…トラウマになったりしてない。」
「不思議な話なんだけど、今となってはどうして自分が死を選ぶほど追い込まれていたのか分からないの。ノアになっている自分をみると、悪役令嬢はこんなもので屈するはずがないって、そう、自信が湧いてくるような。それにね、よく思い出したら私にだって味方がいたんだよね。」
「へぇー。誰?」
「アパートの大家さん。優しくてのんびりとしたおじいちゃんだったの。大家さんは私が落ち込んでたらお菓子とか話を聞いてくれてね。色々励ましてくれたんだぁ。もしそういう人が誰も居なかったらまた違ったんだろうね。大家さんとなんだろう、雰囲気かな。纏う空気みたいなものが似ていたからマルベス様に惹かれたんだなぁって。」
「なおちゃん、その大家さんのこと好きだったの?」
「恋愛的な意味じゃないけど好きだったよ。結婚するならあんな人がいい!って思ってたもの。忘れちゃってたけど前の私は大家さんに救われたから。だから、マルベス様をみて安心してたのかも。マルベス様にとってはいい迷惑だったでしょうけど。」
「そんなことないよ。おじいちゃんはなおちゃんのこと孫のように思ってるよ。なおちゃんと出会う前にもおじいちゃん、なおちゃんのことちょっとだけ私に話してくれたし。喜んでたよ。」
「ふふ、それなら嬉しいなぁ。」
「なおちゃんは強いね。」ニコッと笑う私に対して、マリちゃんは苦笑しながら言葉を続ける。
「…マリね、夜道が怖いの。未だに昔のこと思い出しては恐怖が襲いかかってくるの。」
「昔って…」
「マリ、通り魔に殺されたんだ。ちょっと遊び過ぎちゃって。帰るのが10時過ぎてね。でも10時過ぎなんて普通じゃない?突然後ろから掴まれて、包丁を突きつけられてね。無理やり公園に連れていかれて、ちょっとエッチなことされてそれで…」
「もういいよ!」
「あは、いきなりこんなこと言われても困るよね。ごめんね。」
「困らない、私は困らない!辛いのはマリちゃんじゃん。」
「……7歳の頃に昔のことを思い出してから、暗いのが怖くなって、あの時のことまで夢に出て、怖くて眠れない日が続いて。だからあんまり男の子も苦手なんだよね。」
いつかマリちゃんは『結婚しないから』といった。不思議に思ってたけどそんな壮絶な理由があったなんて。
「なんでマリには昔の記憶なんかあるのかなーってずっと思ってた。もし無かったら今こんなに苦しまなくて良かったのに。」
「マリちゃん…」
「だからなおちゃんのことほんとに凄いなって思ってるんだ。マリだったら絶対人間不信になってるもん。」
「辛かった思い出を人に話せるようになることも、なかなか出来ないはずだよ。だからマリちゃんは少しづつかもしれないけど、過去を過去として、受け入れ始めてると思うよ。だからマリちゃんも強いんだよ。今は無理でももう少し時間がたったら、そんなことあったなーって思い出すようになるよ。」
「えぇー本当かな。」
「絶対、いやきっと、多分…」
「はは、自信なさすぎ。まぁありがとうね。今の言葉で少し救われた気がしないこともないよ。」
「ん?マリちゃん夜道が怖いんなら早めに帰らないと!そうだ!私が家まで送ればいいんだ!!」
「えぇ、いいよぉ。二度手間じゃんか。それになおちゃんのほうが危なくない?」
「大丈夫大丈夫!そうと決まれば今すぐ帰ろう!だいぶ日も落ちてきたし。」
とマリちゃんを送ろうとするけれど、当然お父様とお兄様に反対された。ユランがきっちりいるんだし、大丈夫なのに。
「なら僕が行くよ。だからノアはここにいなさい。」
そして何故かお兄様がいくことになった。お兄様は次期公爵。私よりお兄様の身になにかあったほうがヤバいはずなのに。しかし何をいっても望む答えは帰ってこず、なぜかお父様も了承していて。
「マリベナさんにはノアがいつもお世話になっているからね。常々ゆっくりお礼とお話がしたいと思ってたんだ。」
という訳でお兄様とマリちゃんが一緒の馬車に乗ることになりました。ちなみにこのことを知ったマリちゃんは「はぁ〜、リュートまじイケメン!」と感動していたのであった。
「ではまたお会いしましょう。マリベナさん。」
「はい、では失礼いたします。あ、1つ思い出しました。」
『年の差があるから結婚したくないって理由はもう通用しないんじゃないかな。』
「なっ!」
「ではまた。」
にこやか且つ他の人に聞こえないようにこっそりと、爆弾のような発言を残してマリちゃんは去っていった。




