58.悪役令嬢と婚約解消
王子の生誕祭から2週間経った。通常なら学園に通うのだが、大した怪我はないといえど、縛られた痕や切り傷などが目立つ。それに父と兄が強く止めるので、この2週間私はパンドュース家に戻っていたのだった。問題ないと言ったけれど、心配だからとお兄様まで屋敷に帰ってきたし、お父様も仕事の調整をし、私たちとの時間を作ってくれている。その間は王妃教育もないし、自由に過ごせるので、楽しい毎日を送らせてもらっている。
「こんにちは、ノア。」
「…王子、なぜいらっしゃるのですか。」
「何故って、それは精神的に不安定になっているだろう愛しの婚約者を心配して。」
「それはそれはわざわざありがとうございます。来られるとは聞いていませんでしたので驚きました。」
「訪問の手紙を送っておいたのですが。」
「そうなのですね、まだ私には何も知らされていなかったので。」
「多分そろそろ手紙が着くと。」
「その手紙、いつ出したのですか。」
「出る直前ですね。」
「それでは手紙の役割を果たしてませんよ、王子。」
「僕もこちらを伺うという予定は今日なかったのですが、ノアに会いたくなってしまって。国王から命を承ったからと許可を貰い、抜け出してきました。」
「品行方正な王子らしくないですね。」
「だからこそ僕の言うことを皆信じてくれるんですよ。」
実際その通りになっているのだから、否定できないのであった。
「ココリア=アルセンのことですが。」
「もちろんココリアが罪に問われることはないのですよね。」
誘拐事件後、ココリアが起きる前から根回しはしていたのだ。お父様やお兄様、王子にはココリアが身を呈して守ってくれたと伝えた。ココリアが覚醒した時は、
「良かったココリア、目が覚めて。私を守ってくれた貴方が目を覚まさなかったらどうしょうかと心配したんだから。」
といった風に目力も加え、有無を言わせない雰囲気を作った。なのに、なのにココリアは…
「私は皆様にお話しなければいけないことがあります。」
と今までのことを話した。そして現在は、重要参考人として王宮で拘束されている。まぁ本人は逃げる気もないし、私からのお願いもあり、比較的自由に過ごせているみたいだから、拘束というのは語弊があるのかも。
「貴方の要望通り、父は今回の誘拐事件をなかったことにするそうです。そのためココリア=アルセンも無罪放免に。」
「陛下にはお礼を言わなきゃね。」
「喜びますよ。父も。ココリア=アルセンは2日後に解放します。ノアは会いにきますか?」
「…ココリアに会ったって何をいったら良いか分からないもの。幼子のしたことという理由で許される案件ではないことは理解しているわ。グレン殿下、どうかお願い致します。私との婚約を解消してください。」
「ノア。」
「この件が周りに知れたら、王妃失格だと批判され、貴族の反発の可能性が。そうなれば王子の立場も悪くなるかもしれない。それに、私は罰を受けなければいけない存在。生涯をかけて罪滅ぼしをしなければ。」
例え法的には処罰されないといえど、どこかで精算しないといけないのだ。だから私は学園を卒業、いや断罪された後貴族席を抜き、修道院に入るか、人のためになることをしていきたいと考えている。まだお兄様やお父様には話してないけど。
王妃には向いていないとずっと思っていたけど、まさか本当に王妃になる資格さえなかったとは。けれど、れっきとしたこの理由なら誰にも反対されない。王子が私のことを初恋やら好きと言ったことは気の迷いで勘違いに決まってる。小さい頃から一緒にいたからそうおもっているだけで、世界を知ればその迷いも跡形もなく消え去るに違いない。
「ノア以外に誰が次期王妃に相応しいと?」
「アルヘルド様は平民の気持ちも分かるから、民からの信頼も厚くなるんじゃないかしら。」
「彼女には教養がない。」
「そんなの今から始めればいいのよ。今まで彼女にしてきたこと悪いとは思ってるの。でも彼女は決して屈しなかった。彼女の真っ直ぐ強い心は王子や民の心の支えになるんじゃないかしら。」
なかなか次の声が上がらない王子を不思議に思って顔を覗くと、またこれはなかなかの作り笑いを浮かべていた。
「お、王子?どういたしましたか?」
恐い恐すぎる。一体どうしたというのだろうか。
「ノア、僕は王太子の座をおります。」
「はい?」
どういう思考回路でそうなったか全然理解出来なかった私は、それはそれは間抜けな声をあげたのだった。




