57.誘拐された悪役令嬢④
「ノア様ー!!」
「ユランっ?!」
何故か天井を突き破って上からやってきたユランは、懐から丸いものをだし、ライターで火をつけた後狼に向かって投げた。なにか察知したのか、狼は全てここから逃げ出した。
状況が分からず「え、え。」と戸惑う私の耳をユランは自分の手で塞ぎ、伏せさせた。そしてその2秒後には「ドカーン」と大きな音が辺りを駆け巡る。
耳を塞がれても音と振動が伝わったのに、なにもしていないユランは大丈夫なのだろうか。
「ノア様、大丈夫でしょうか。」
「あ、うん。ユランこそ大丈夫?」
「はい、ノア様がご無事で良かったです。怖い思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。」
「ううん、来てくれてありがとう。そうだ!ココリア!!この下にココリアがいるの!早く助けなきゃ。」
ユランと手分けをして、荷物の山を少しづつどかせる。幸い量が多いものの、1個1個の重量は比較的軽いため、ダメージはまだ少なさそうだ。ただ頭を強く打ったのだろう。出血がみられた。また気を失っているのか返事はなかったが、呼吸・脈ともに問題はなさそうなのでひとまず大丈夫だと思う。でも早めに診てもらったほうが安心できる。
「ユラン、貴方は何でここまで来たの?」
「俺は…」
「ノア、大丈夫ですか!」
「おう、じ。」
肩を掴まれ、ユラユラさせられる。
「怪我はありませんか?痛いところは!」
強いて言うなら、今加えられている力が強すぎて痛いです。なんていうこともタイミング的に言えなかった。
「私は大丈夫、ですが、ココリアが頭を強く打ってしまったようで早く診てもらいたいです。」
「もう少ししたら侍医も着くと思うので、あと5分ほど待ってください。」
「わ、かりました。」
大量の汗をかき、すこし息が荒れている。余程急いでくれていたのだろう。
「殿下、力が強すぎます。あとノア様をそんなユラユラさせないでください。ノア様が困っています。」
さすがユランだ。顔にもだしていない私の心をよく読み取ってくれた。
「え、あぁ、すみません。僕とした事がつい…ノア、1回だけ抱きしめさせてもらえませんか?」
「あ、えっと、はい。」
「ありがとうございます。」
と同時に抱きしめられる。もちろん力加減は考えてくれているようだ。
「本当に無事で良かった。」
(ううっー。耳元で囁かないで欲しい。本当にいい声なんだから。)
「ご心配、お掛けしました。」
「僕の方こそ怖い目に合わせてしまい申し訳ありません。」
「いえ。それにしても何故王子が。」
「殿下。」
「あぁ、来ましたか。ノア、侍医が来たようなので行きましょう。貴方も見てもらった方がいい。」
「分かりました。」
王宮騎士の1人に、ある馬車に案内される。
紐の後やら擦り傷やらが多少あるものの特に問題はなさそうだった。というか王宮に仕える侍医をこんなところまで連れてきて大丈夫なのだろうか。私は一介の侯爵令嬢なのに。
ココリアも頭を強く打って気絶しているが、命に別状はないようだ。本当に良かった。
「ノア!」
「お兄様!」
侍医の診察後、馬車を降りるとお兄様に抱きしめられた。
「怪我はない?」
「はい、ココリアが守ってくれましたから。」
「無事でよかった。ノアになにかあったらもう…」
お兄様の目は赤くなっていて、既にうるうるしている。その姿も見て私も涙が溢れてきて、まっすぐ見ることができない。
「ご、めん、なさい。ごめんなさい、お兄様。」
最低だ、私。お兄様もお父様も私のことを愛してるいることなんて分かっていたのに。私は簡単に命を捨てようとした。
前世でも私は置いていく側だったから、残された者の気持ちなんか分からないけど、でもお兄様が死んじゃったらそれこそ胸が張り裂けるんじゃないかなって思う。
(お母さんにもこんな思いさせちゃったのかな。)
そう思うと凄く胸が痛い。あの時の私はあれしか選ぶ道がなかったのしれない。でも今思えば、他に道はあったに違いない。今回は間違えないようにしないと。そう思わせてくれたお兄様、王子の思いを無駄にしないように。
「おかえり、おかえりノア。」
「は、い。ただいま、帰りました。」
「なんだか僕より感動的な再開をして妬けますねぇ。そう思いませんか?ユラン。」
「ま、まぁ兄妹なんですから、それくらい目を瞑りましょうよ。殿下、心を広く持ちましょう。もう大人なんですから」
「言いますねー、この僕相手に。」
「それほどでも。」
後方で言い合う2人の会話は、私達には聞こえていなかった。




