55.誘拐された悪役令嬢②
「自分が何をしたか思い出しましたか?」
「…いいえ。」
「私はサルパが命を絶った理由が分かりませんでした。なので、その1年後サルパが働いていたというパンドュース家にメイドとして働かせていただき、情報収集をすることにしました。原因がパンドュース家であろうとなかろうと、元同じ使用人なのですから、使用人の間で噂は流れるかとおもったからです。しかし、私の予想は外れ、話題に上がることはありませんでした。」
淡々と表情を変えることなく話すココリアは、いつも通りなのだが、内容が内容だけに静かな怒りが感じられる。
「お嬢様がお変わりになって、使用人も怯えることなく働くことができ、全体の雰囲気が軽くなった時、ようやく話題が上がりました。」
※※※
「ノアお嬢様の変わりようにはビックリよね。」
「そうですね。まぁ私は最近やってきたばかりですからそこまで詳しくはないんですが。」
「大変だったでしょ。歳が近いからって、最初からノアお嬢様付きのメイドって。」
「まぁ。確かに最初は大変でしたけど、慣れました。」
「なら良かった。心配してたのよ。貴方、平民でしょ?この屋敷は平民も多く雇ってるから、平民にとっては嬉しいんだけど、お嬢様は平民には当たり強いから。以前もね、若いお嬢様付きのメイドがお嬢様に酷く当てられて、見てられなかったのよ。」
「そう、なんですか。その方は今…」
「…ここだけの話なんだけど、お嬢様にお茶を持ってった時、ちょうど機嫌が悪かったお嬢様が手を払ってね。持っていた茶器とティーカップ落としちゃって。その際に、運悪く破片が目にはいっちゃって。お茶も手を払った時に中身が出ちゃって、顔に思い切りかかちゃったらしいの。騒ぎを聞き付けた旦那様がお医者様を呼んだんだけど、視力も顔の火傷の跡も回復は難しいって。辞職して、いまどうなっているかは…」
「酷いですね。」
「貴方も気をつけなさいね。今は丸くなったっていっても、いつ戻るか分からないんだから。確かにここはお給料はいいけど、世の中お金だけじゃないからね。」
「ご忠告ありがとうございます。」
※※※
「サルパには婚約者がいました。その方を本当に好いておられ、結婚後の生活を楽しみにしてました。なのに…なんでサルパのような良い方が死なないといけないんですか!」
「…そうね、貴方の言う通り間違ってるわ。イジメはいつの時代もあるし、結局損をするのは優しい人。」
私はなにも間違ったことはしなかった。なのに誰も信じてくれなくて、誰も信じられなかった。でも今回私は加害者なのだ。いくら記憶がなくともそれは変わらない。間違ってると思うなら、私のしないといけないことは。
ふふ、と笑みが零れる。結局シナリオなんかなくても私の人生は決まっていたのだ。
「ねぇ、ココリア。私はね、人の死とは自分の死で返すものと思ってる。誰かを殺したのならその人も同じような目に合わなきゃって。じゃないと不公平でしょ。」
「…」
「だから、殺すなら殺せばいいわ。思う存分痛めつけて貴方の手で殺しなさい。」
ようやく縄がほどけたので、私は自分が太ももに仕込んでいた短剣をココリアに握らせる。
「な、にを。」
「じゃないと気が済まないでしょ。私も流石に奴隷になるのは避けたいからこれが折衷案かしら。」
「わ、たし、は。」
カラン
「…分かったわ。」
無理矢理握らせるが、ココリアの手は震えて、短剣を落としてしまった。流石に自分で殺すということは考えていなかったみたいだ。
まぁ、それでいいならいい。ココリアに人殺しの罪なんて背負わせたら、もう元には戻れないだろうから。
落ちた短剣を拾い、喉にあてる。でもすぐ死んだらココリアの気もはれないだろうから、多少時間がかかった方がいいのかも。
「おやめください、お嬢様!」
「離して!」
必死にしがみついてくるココリアを振り払うと、鈍い音が直ぐに響く。
「あ、ごめんなさい。」
「ごめん、なさい、ご、めんなさい、ごめんなさい。」
泣きながら土下座をするココリア。でも何故ココリアがそこまでするかが分からない。泣きながら土下座をしなければいけないのは私の方なのに。そういえば、自分は誠心誠意を込めて謝罪したか、振り返るが記憶にない。私は悪役令嬢になることで、人としての最低限のマナーさえ忘れたみたいだ。
「ココリア。本当にごめんなさい。貴方の大事な人を傷つけてしまって。謝ってすむ問題ではないのは分かってるけど、本当にごめんなさい。サルパという方にも酷いことをしたと思っています。」
ココリアと同じように膝や手、頭を地面につける。再び顔をあげると、ココリアも顔を上げていた。
「予知夢みたいな変なことココリアが信じてくれて、すごく嬉しかった。本当にありがとう。これでココリアのやるべきことも終わったのだから今度は、ココリア自身の幸せを掴んでほしいと思ってるわ。」
そういえば前回は、ごめんなさいを残すことはあっても、ありがとうは無かったなぁとふと思い出しながら、2度目の死を迎えるため、大きく振りをつけ短剣をお腹に突き付ける。




