54.ココリア=アルセン
私は男爵の妾だった。父は他所に子供をたくさん作り、ある程度育った子供を母親から取り上げては婿や嫁としてあてがった。完全に子供を言いなりの道具としかみていなかったのだ。
私も本当は40歳くらいの金持ち商人の愛人にされるはずだった。いやされたのだが、そいつは暴力ばかり振ってきたので逃げ出しのだ。父のとこに戻れば、激怒し連れ戻されることはわかっていた。それだけは避けなければ。でなければ2度と外に出ることも叶わず、更なる暴力を振るわれることは分かっていた。
でも行くところなんかなかった。母は知らぬ間に引越しをしているらしく、頼れる人だって…
「大丈夫あなた!」
「…」
「酷い怪我!早く治療しないと。立てる?」
力尽きて道端で倒れ込んでいた私に、声を掛けてくれたのがサルパだった。
「そう、最低な夫ね!そんなの逃げて正解だわ。とりあえず今はゆっくり怪我を治しなさい。貴方、名前は言える?」
「コ、コリア、アルセン。」
「そう、ココリアね。私はサルパよろしくね。」
サルパは1週間ベッドを貸してくれるだけでなく、ご飯や傷薬、必要なものを与えてくれた。
「良かった、私明日から仕事に戻らないといけなかったから。これなら安心して仕事にいけるわ。」
「あの、本当にありがとう、ございました。サルパのおかげで、こんなに良くなって。なんとお礼をいっていいのか。」
「いいのよ。困った時はお互いさまでしょ?にしてもココリアは行く宛てはあるの?」
「いえ、これから探していきます。」
「そう、なんならこのまま住んでもいいわよ?」
「えっ?」
「私、住み込みで仕事しているからここにはお休みの日しか戻らないの。勿論男を連れ込むとかは辞めて欲しいんだけど、それ以外なら。」
「いや、でも、そんな、ここまでしてもらったのに。私、なにも返せなくて…」
「ココリアは真面目ね。真面目な貴方だから大丈夫だと信じてるんだけどね。」
「…住み込みなのに1人で住んでいるんですか?」
「あぁ、元々ここはお父さんとお母さんと住んでいたの。まぁ2人とも亡くなっちゃたんだけどね。でも思い出を手放せなくて…だからココリアがいてくれた方が助かるの。休みの日には帰るっていっても頻繁に帰れないから不用心だし、埃も溜まっちゃうでしょ?毎日でなくていいからたまに掃除してくれるだけで。」
「私、でいいんですか?」
「ココリアだから任せられるの。」
「わた、しなんかでよければ。」
「ありがとう、助かるわ。」
次の日サルパは言っていた通り家を離れ仕事に向かった。私はというと、完全に傷が癒えるまで甘えさせてもらって、それからは仕事先を見つけてそこで働かせてもらうようにした。サルパの紹介してくれた八百屋のオバサンは私に同情してくれたのか、凄く優しかった。
お金を貯めつつ、サルパの家でお世話になりながら生活していた。サルパは私の中で恩人兼友人になっていた。サルパが帰って来る時はオバサンに、頼み込み休みをいただき、サルパと過ごす日々を楽しんでいた。
1年半たった頃だろうか。雨が振る夜中、扉を叩く音に目を覚まし、用心をしながら開けるとサルパだった。
「どうしたの!こんな時間に。びしょびしょじゃないですか。ほら早く。」
「ココリア…」
暗くてよく見えなかったが、中の電気をつけると異変に気づいた。サルパは顔の右半分を包帯で覆っていたのだ。
「顔、どうしたの!」
「はは、起こしてごめん。ちょっと仕事でミスしちゃって…夜も遅いし疲れたから今日は寝るね。」
そんな中でも笑顔を向けるサルパに何も言えなかった。
「お、やすみなさい。」
納得出来るわけないけど、本人がそう言うのだ。もう何も言えなかったし、聞いていいかも分からなかった。
「ふふ、ありがとうココリア。」
次の日、昼過ぎになってもサルパが起きてこないので、部屋を覗くと、首を吊り既に生き絶えたサルパの姿があった。




