51.グレン様の誕生日②
「ノア。」
ダンス後、私はバルコニーに向かい、空や遠くを眺めていた。辺りはもう薄暗く、街の方では王子の誕生日を祝うように明かりが輝く。
天気も良いみたいで、星がキラキラしている。
「王子。」
「探したんですよ。」
「それは、申し訳ございませんでした。」
「やっぱり外にでると少し肌寒い季節になりましたね。」
「そう、ですね。私はもう少し外の空気を吸いたいので王子は戻ってくださいまし。主役がこんなところにいたら困る方もいますでしょうし。」
「もう少ししたら戻りますよ。ねぇ、ノア。」
「はい。」
「貴方は勘違いをしているようなので、言わせていただきますが、アルヘルド嬢とは何もありませんし、何の思いも抱いていません。」
「…」
「僕が好きなのはノアだけなので婚約解消はしません。勿論妻にするのは生涯貴方1人だと誓います。」
馬鹿な王子だ。結婚とは国のために行うもの。一個人の感情ごときで出来ないなど普通はありえない。
まぁ現国王陛下の妻はカテリーヌ様だけだが。
「アルヘルド様は、王子の初恋の相手ではないのかしら?」
「マティスから聞いていましたが、どうしてそんな勘違いを?初恋だなんて。」
「アルヘルド様は、5年前の収穫祭、傷の手当てとしてハンカチを渡してくださった少女なのですよね?」
「知っていたんですか。僕も驚きました。まさか、5年前の少女がアルヘルド嬢だとは思いませんでしたから。」
「そのときその少女に恋をして、今でも忘れられないのでは?」
「そう思っていたのですか。なるほどこれで全て分かりました。僕は街に行く際、会えたらってハンカチをずっと持っていっていましたが、そこに恋愛感情は含まれていません。本当に改めてお礼が言いたかっただけです。王子たるもの借りたものは、きちんと返すのが筋だと思いますし。探させてはいたんですが、どうにも見つからなかったので、持ち歩く形になってしまいました。」
最初から私の勘違い?ゲーム通りに進まないとは分かって居たけど、ここまで違うものなの!
「僕の初恋も…ノアなん、ですよ?」
「ほん、とうに?」
「信じてないなら分からせるまでですよ。」
ニコッと笑い王子は私の髪を優しく触りながらキスをする。
「ノア…」
耳元で王子の吐息と声が直接響き、クラクラする。
なにせイチ推しだったグレン様がこんな至近距離にいて私の髪をクルクルさせ、耳元で私の名前を呼ぶのだ。
腰が抜けて倒れそうな私を王子は、抱きとめてくれた。
「調子にのり、過ぎましたね。すいません、まだパーティーの途中だというのに。こんな状態でパーティーにもどれそうにないので、控え室に案内しますね。」
「え、まっ、きゃぁー。」
「では行きましょう。」
と王子に、所謂お姫様抱っこで運ばれる私だった。
※※※
「お嬢様!」
「ココリア。」
「お嬢様が体調を崩したと聞いて…大丈夫、ですか?」
「えぇ、大丈夫。ごめんね、わざわざ呼びだしてしまって。」
「ココリアが居れば安心ですね。では僕は戻ります。後は頼みましたよ。」
「ご連絡ありがとうございました。殿下。」
「ノア、続きはまた今度。」
「お嬢様、続きとは?」
「な、なにもないから!」
「そうですか、お茶を用意致しましょうか。」
「お願いするわ。」
ハーブティーを飲み、心を落ち着かせる。
しかし、本当に王子は私のことを好きなのかしら。ということは断罪も起こらない?そうなると、ゆくゆくは王子と結婚をして、愛を育んて子供を産んで…
う、想像がつかない。というか私に王妃なんて務まるかしら。
「複雑そうな顔をして、どうされましたか?」
「なにも…」
「殿下に愛の言葉でも囁かれましたか?」
「な、なんでそれを!!」
「やっぱりそうでしたか。お2人を見れば何となく想像が着きました。」
「ココリアは知っていたの?」
「殿下がお嬢様のことを好いていらっしゃるということですか?それは随分前から。ですので、お嬢様が断罪されると仰った時は驚きました。そんなことを殿下がするはずないだろうと。」
「うそっ!全然驚いた顔していなかったじゃない!」
「本当に驚きましたが、訂正はしませんでした。お嬢様は私の言うことを信じてはくれなさそうでしたから。」
「そ、んなこと。」
いや、でも信じなかったかもしれない。だって、グレン様がヒロインではなく悪役令嬢に恋をするなんて、どうやっても考えられない。今でも信じられないくらいだし。
「お嬢様は殿下のことをどう思いですか?」
「どうって。今まで断罪されるって思ってから好きとか考えてこなかったし。いやでも憧れの好きは抱いていたのだけれど…王子と結婚だって。」
「では殿下から愛の言葉を頂いて、嫌な思いなどしましたか?」
「いや、うん、嫌な思いはしなかったけど。ドキドキしすぎて耐えられなかったわ。」
「なら、殿下自身をお嫌いではないのですね。それなら問題ないかと。」
「問題って。」
「大丈夫です、お嬢様は美しさと賢さを兼ね備えているのですから。そんなお嬢様に王妃が務まらないわけありません。」
「…ココリアはよく私のこと分かっているわね。」
「長年見てきましたから。」
「ねぇ、ココ、リアには、好き、な。」
あれ、なんだか瞼が重い。
「お疲れのようですね。少しの間、横にならしてもらってはいかがでしょうか。私が起こしますので。」
「あり、がとう。」
ココリアなら上手い具合になんとかしてくれるだろうと、睡眠欲に従いベッドに横になった。




