48.ヒロインは幸せになりたい
それからというもの、王子はことある事に、所謂愛の言葉を私に伝えるようになった。まるで自分に言い聞かせるように。
王家が認めた婚約。それも私を婚約者に選んだのは王子なのだ。だからこそ婚約を解消したいと言い出しにくいのも分かる。この国の王子は2人。別に王子が、グレンが絶対国王にならないといけない訳ではない。自分の行動次第では廃嫡という可能性も有りうるのだ。
そのため、必死で自分に言い聞かせているのかもしれない。
こっちとしてはたまったものじゃないが。だって、もしそれで結婚しても結局愛はない。もしかしたらヒロインを側妃にして、私は愛されることのない仕事だけ任される都合のいい王妃になるかもしれない。ラノベでよくありそうな展開だ。この世界は元はゲームだけど、ゲーム通りにいきていない。ということはこういう未来もあるのかもしれない。
前世では運命の人に出会わなかった。2度目の人生では、愛されたいし愛されたい。別に運命の人と出会わなくても、ゲームにはない世界を見てみたい。だから、都合のいい王妃はこっちからお断りだ。
私が求めているのは人並みの幸せなんだから。
「ノア、愛しています。」
何回目かの愛している発言。耐性もついてきて、顔を直視しなければ、顔を赤くすることもなくなった。だから、こういう時は傍目からは王子を見ているものの、実は遠くをみるという戦法をとっている。
いつもは「ありがとうございます」と続けていたけど、今日は戦法を変えてみる。
「ありがとうございます。嬉しいです。」
ニコッと笑いかける。予想外である反応にどう返すか様子をみていたのだけれど、一瞬呆気に取られていたが、次にはいつも通り優しく笑みを浮かべるだけだった。
まぁ呆気に取られていた姿がみれただけで満足だと思うようにしよう。
※※※
「もう!なんで上手くいかないのよ!!」
折角怖い思いをして、悪役令嬢が突き落とした風に階段から飛び降りたのに、グレン様と悪役令嬢の仲は深いという噂に重なり、悪い噂は消えてしまった。
私を擁護してくれる人も男爵家や子爵家やら貴族としては地位の低い令息ばかり。こんな筈じゃなかった。今回こそ好きな人と結ばれ、幸せな人生を歩むはずだった。
「ねぇ、どういうこと?」
「だから、別れてくれって。」
「な、なんでよ。いきなりすぎない?私に不満があるなら直すから言ってよ。だからいきなり別れるだなんて言わないで。」
「悪い。俺、結婚するんだ。」
「は、い?けっ、こんって。」
「いきなりで悪いって思ってる。でも上司の娘さんだから断れなくて。じゃそういう事だから。」
私より5つ離れている彼氏は、そうやって私から離れていった。悲しかった。でも悲しみより怒りが湧いてきた。
だから、私は…
「でもまさか、ゲームの世界にいくとは思わなかったけどね。」
人は死んだらただ無になるだけと思っていた。まさか来世というものが存在するとは。
(彼はこの世界にはいないのかな。)
そう思うことはあったけど、考えるのはやめた。今となってはなんであんなに彼に執着していたのかが分からない。実際どうでもいいのだ。この世界には私の理想の王子様がいるのだから。
「でも困ったわね。このまま行くとコンプできないかも。…アレを探してみようかしら。」
悪役令嬢はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、スキップをしながらその場を去った。




