47.悪役令嬢、ライフはゼロです。勘弁してください
「ノア、僕は君を愛しています。」
「な、な、なにを。」
私の瞳には王子の姿がはっきり映るくらい、私と王子の距離は近い。
そして、私と目線を逸らすことなく、愛の言葉を発する。
真剣な顔でそう告げる王子の顔がマトモに見れなくて顔を背ける。自分でも分かるくらい、顔が熱い。
(一体どういうことなのー!!)
心の中でそう叫ばすにはいられなかった。
※※※
ノアがカティー嬢を階段から突き落とした。その噂を聞いたのは、その日の放課後だった。確かに午後の授業にノアはいなかった。どうしたのか心配だったけど。結局その日にノアの姿をみることはなく、授業が終わってすぐ、慌てて特進クラスにやってきたマティスに話をきいた。
「ノアが?」
「あぁ、そういう噂が。実際、カティー嬢が先生方に運ばれて保健室にいく所を見た生徒がいる。」
「で、一緒にいたであろうノアが落としたと。」
「食堂で、カティー嬢とノア嬢が2人で話をするため席を外したという情報は確かだが…」
「ノアがそんなことするはずがないだろう!」
つい、言葉が荒くなってしまった。今この場にいるのが僕とマティスだけで良かった。他の人がいればさぞビックリさせていただろうから。
国王には冷静さと、客観的に物事をみる力が必要になってくる。そのために幼い頃から訓練してきた。敬語で接するのもその一環だ。王族は自分の身分故に、下の者を見下す傾向がある。王族だけとは限らないけど、そんな政治を続けていればいつか必ず不満が爆発する。だからこそそんな人物になるなと昔から両親に何度も言い聞かされていた。
だけどやっぱり抑えきれない思いはあるし、どうしようも出来ないみたいだ。
「俺もそう思っている。ノア嬢を信仰している人やカティー嬢への不信感を抱いている生徒も多いから全てが全て信じている訳ではないだろうが。しかし…」
「次期王妃に相応しくないって言う人が出てきそうだね。」
ノアは他の生徒からの信頼も厚い。賢く、優秀で、優しいから。でも全ての人間ではない。ノアに嫉妬している人も多いし、僕の婚約者という立場を望み、ノアを蹴落としたいという人もいる。
「うーん、困ったな。」
ノアが婚約解消を望んでいることは知っていた。だから、いつもノアに振り回されている僕は、逆にノアを振り回そうと考えていたのだ。僕がノアと距離を置くことで、ノアは婚約解消に近づいていると思うだろう。
そう油断したところで、僕は笑顔でノアに言うのだ。
『僕が婚約解消を持ち出すとでも思った?僕はノアを愛している。だからノアが嫌がろうが逃げ出そうが僕達は必ず結婚する運命なんだ。』
と。そしたら、滅多に見れないノアの悔し顔や泣き顔が見れるのではないかと。
この計画をマティスに話すと『グレン様を嫌いになる女性はいないとおもうが、程々にしないと嫌われるぞ。』
と言われてしまった。マティスに忠告されるのは何だか複雑だ。
しかし、この調子だと多分ノアはまた婚約解消の言葉を発するだろう。それだけだといいけど、ノアに変なことをする生徒がいないとも限らない。ノアを僕の婚約者から外そうとする生徒がいないとも限らない。牽制の意味を込めて、次の日のランチ、人の多い食堂で愛の言葉を伝えた。
(泣き顔や悔し顔も見たいけど、顔を真っ赤にして、慌てる君もやっぱり良い。)
当初の予定を変更したけれど、これでも満足のいく結果だった。
「だからノアとの結婚以外考えられない。君を愛しているから。」
「お、王子!やめてください!!こんな人前で。」
「なら2人だけの時間ならいいんだね?」
「いや、その、そういう意味じゃなくて、ですね。その…とにかくやめてください!」
「なぜ?僕達は婚約者なんですし仲良くしていても問題ないのでは?それに次期国王と王妃が仲良しだと知ってもらえば皆も安心するでしょ?」
「も、問題ないって。学園内の風紀が乱れます!それにいつもの王子ではないようです。しっかりしてください!!」
「ふふ、僕はいつも通りですよ。まぁ風紀と言われればそうかもしれませんが。でも愛の言葉を愛しの婚約者に囁くくらい問題ないと思いませんか?」
「い、愛しのって…」
「ノアは本当に可愛いですね。リンゴみたいに顔を真っ赤にしちゃって。僕以外にそんな顔みさせてはダメですよ?」
耳元で囁くと、いきなり立ち上がり、少しだけ目に涙を浮かべて僕を睨みつけると、急ぎ足でどこかにいってしまった。
マナーを守って急ぎ足というのがノアらしい。
「本当に可愛いんですから。」
カティー嬢をノアが突き落としたという噂は、仲良しすぎる王太子と王太子妃という噂(というか事実)に被り、あっという間に消えさっていった。




