43.ー閑話ー2人の出会い①
母は厳しい人だった。僕がどんなに頑張っても褒めてはくれなかったし、結果が悪ければ、「努力というのは実らなければしていないのと同じです。」と説教をされた。
母は僕に言う。貴方には立派な侯爵になって欲しいと。そのために厳しくしているけれど、僕を思ってのことだと。
父は忙しい人だったし、僕には兄弟もいなかったから、母と過ごす時間が圧倒的に多く、母は僕を大事にしてくれていることが分かっていたから、なんでも母の言う通りに行動していた。
だから学園に入学して、母という道標がいない僕は大丈夫なのかという不安はあったけど、別段困ることはなかった。授業に関しては全く問題なかったし、人付き合いに苦手意識を持っている僕だけど、母が知り合いの子供に頼んでいたこともあって、人間関係に困ることはなかった。僕が行く先々に勝手についてくるのだから。
「おい、そこのお前、席を開けろ。」
「あ?俺の方が先に座ってたんだけど。」
「この方を誰だと思ってる。パンドュース家のランド様だぞ!」
その日は学食が思っていたより混んでいて、着いた時には空いている席のほうが少なかった。
「はぁ。はいはい、侯爵坊ちゃんの言う通りに。」
同じ赤いネクタイをつけた男は渋々といった感じで席を譲ろうとしてくれた。まだ食べている最中だというのに。
いつも、僕が望んでいないことを周りの人は言葉にだす。それが上位貴族としての振る舞いだと言われればそうなのかもしれないが。
「おい、貴様!たかが男爵家の三男坊のくせにそんな言い方許されると思うのか!!もっと身分を弁えろ。」
あんなに騒がしかった食堂がシーンと静まり返っている。これ以上は、場の雰囲気を台無しにしてしまう。
いくら僕が人付き合いが苦手だといっても、人並みに空気を読む力はあったようだ。
「気分を害したのなら済まなかった。もしあなたさえ良ければ一緒に食事をとっても構わないだろうか。」
その男は3拍ほど間を開けて「お好きにどうぞ。」と答えた。
それが気をおける初めての友人、コーク=カロプルネとの出会いだった。
※※※
「おい、そんなキョロキョロすんなよ。田舎者みたいだぞ。」
「仕方ないだろ。初めてきたんだから。」
「まぁお坊ちゃんともなればそうなるか。」
コークは男爵家の三男坊で、上に2人いるから絶対に自分が跡を継ぐことはないということで、割と自由に生きられているらしい。
学園に入学してからは、頻繁に街にも外出しているそうだ。今までは話を聞いていただけだったが、「そんなに興味あんならお前も街にいってみればいいじゃん。」と誘われ、人生で初めて訪れたのだ。
「あらコーク、珍しいわね、貴方が男といるなんて。」
「妙な言い方はやめろよ。紹介するよ。友達のランドだ。で、こっちがコッティ。」
コッティは、赤毛の長い髪を後ろで三つ編みにした美人だった。コークとも気安さく話しているし、相当仲は良さそうだ。
「ランドです。よろしくお願いします。」
「コークのお友達にしては、やけに真面目ね。ふふ、そんな畏まらなくていいのに。私はコッティよ。向こうの通りにある羊の宿屋っていう店で働いているの。」
「そうなんですか。」
「ご利用の際は言ってくれれば、少しは安くしてあげるからご贔屓にね。短時間でもOKだから。」
「え?あ、ぁ。ありがとう。」
短時間でもって、どういうことだろうかと考えてると、また「ふふふ」と笑った。
「本当、コークの友達にしては真面目だね。」
「だろ?マザコンだからさ、親の言いつけきちんと守ってる純情君なんだよ。」
「なっ!マザコンじゃないから!」
「それは親孝行者の息子だね。」
人付き合いは苦手だけど、コッティもコークと同じで話しやすく、この2人といると居心地が良かった。
それから休日になるとコークと街に出かけては、色々な物を食べ歩いたり、コッティと3人で食事することが増えた。
「コーク、今日はどうかな?」
「あぁ、悪ぃ。今日はクラブの奴らとちょっとな。コッティも忙しいって言ってたから会えないかも。」
「そ、う。分かった。」
コークは人気者だ。僕でさえ好意的に感じるんだから大勢に好かれるのは至極当然のことで。でも僕にはコークしか友人と呼べる人はいないから、少し寂しくも思う。
「んな残念そうな顔するなよ。そうだ、お前まだコッティのバースデープレゼント用意してないだろ?ついでに選んできなよ。もう1人でも大丈夫だろ。」
「コークが一緒に選んでくれるんじゃ。僕、自分で考えた物女性に渡したことないんだけど。」
親の決めた婚約者はいる。けど、その婚約者に送るプレゼントは全て母に任せている。そんな生活だったからこそ、何を上げればいいのか分からないのだ。
「お前はな、母親に依存し過ぎなんだよ。いつまでも頼れるわけじゃいかないんだし、ちょっとくらい自分で考えて行動してみろよ。じゃあな。」
何も言えなかった。確かに僕は今まで母の言う通りに過ごしてきた。でも親は先に逝ってしまうものだ。なら、残された僕はどうなるのだろうか。残された僕は、母の望む侯爵になれるのだろうか。
「よし、行こうか。」
いつもと同じように、でも今日は1人で街に向かった。




