41.ヒロインの事情
「はぁー、大体あのゲームって曖昧なのよね。日付くらい正確に出しておきなさいよ!」
私は頭をかかえていた。夏イベの日が分からないからだ。ラノベによく出てくるゲームの強制力というやつを信じて街に出かけること3回目。結局今日も悪役令嬢に会うことはなかった。
それにゲームの展開が違うからか、思ったよりグレンの好感度も上がっていない気がする。
歓迎パーティーでのグレンの登場はどれだけ舞い上がったことか。お姫様抱っこされた時は『死んでもいいっ!』くらい思ってたけど、全てが筋書き通りにはいかなかった。
ゲームでのヒロインのセリフに沿って発言したものの真っ直ぐ保健室に向かうグレンを、こちらから踊り場にいかないかと誘った。けれど返ってきた言葉は…
『踊り場?何故?』
『え、いや、その。』
『ごめんね。早く戻らないと可愛い婚約者が待ってるから。』
『こ、んやくしゃ。』
『さっき会ったでしょ。カティー嬢が転んだすぐ近くにいた人ですよ。』
『あ、ぁあの方がパンドュース様でしたのね。本当に美しい方でした。』
(なんでなんでなんでなんで!ゲームと展開が違うじゃない?ここは悪役令嬢に転ばされた私を心配する所じゃないの。てか可愛い婚約者って!?グレンはノアのことなんとも思っていないはずじゃなかったっけ!!)
と悪役令嬢を褒めながら内心では戸惑っていた。
結局グレンは保健室に直行して、保健医に預けたあと、
『じゃあ僕はこれで失礼しますね。』
さっさと去ってしまった。
『カティーさん!足は大丈夫ですか!』
『俺もう心配で心配で。』
ゲームに全く関係ないモブ男子に心配されるだけで、その日のイライラは何とか解消された。けれど本当に納得いかない。一体どういうことなのか。
「やっぱり同じクラスになれなかったのがまずかったわね。」
前世の記憶と言うものだろうか。東京とか、大学のこと、ドキラブ学園のことを思い出したのは、入学試験が始まる前日だった。
ただでさえ1年しか勉強する時間もなく、明日が試験日だったということで焦っていた。机には少しのスペースもない程本が積み上げられており、床にも本が散らばっていた。父親に自分を認めてもらうために私は頑張っていたのだった。
確かその時も書斎から本を何冊も積み上げ、自室へと戻っていた。しかし、部屋に入る時そこらかしこに置いてある本につまづいて転んでしまったのだ。顔面から倒れ、運悪く積み上げられている本の角に額を直撃し、持ってた何冊もの本が両手から離れ、後頭部に落ちてくる。
ドサドサと鈍い音と共にくる痛み。睡眠時間を削って勉強していたことも関連してくる眠気。そして意識を無くした。
目が覚めた後には、全ての、前世の記憶が戻っていた。
そう、私はどこにでもいるただの大学生だったはずだ。なのに…
今までの記憶がないわけじゃなかった。自分の名前がカティーだということも、平民の母が死んで貴族の父に引き取られたことも何となく覚えていた。覚えてはいるけど、前世の自分のほうが強いのだ。伯爵に認められたいという思いも、今となってはなんでそんな風に思っていたかが分からない。
カティーの思いが小さくなるのはどうでもいい。でもカティーが必死で勉強していた内容が頭の中から消えていたのは納得出来ない!
「もっと思い出すタイミング他にあったでしょ。」
せめて入学式の時ならどれだけ良かったか。
結局テストはボロボロ。まぁ寄付金さえ払えばはいることはできるので入学はできた。しかし父であるアルヘルド伯爵は無駄な金を払いたくないのか、入学をやめて結婚しろと私に迫った。けれどここで、私が学園に入られなければゲームは始まらないし、幸せにもなれない。折角私が幸せになるためのストーリーが始まるのだ。いかない手はない。ということで、必ず伯爵が泣いて喜ぶ相手と結婚するから通わせてくれと、無理矢理頼み込み、通わせてもらっている。
勿論狙うはグレンルート。何せ私の推しなのだ。
もし伯爵が納得する相手を用意できなかったら、伯爵が決めたかなり年上の人と結婚させられるだろう。でも私はヒロインなのだ。グレンがダメでも他の攻略者がいるから問題ないと意気込んで入学したものの関わることが難しかった。
考えに考えた結果、グレンと同じクラブに入ることにした。元々ピアノは前世習っていたから助かった。予定通りグレンと接触ができ、ひっつき虫であるマティスとも知り合うことはできた。
けどマティスは好みじゃないし、なんかもう1人の悪役令嬢と仲良さそうだし。カルアラがマティスルートの悪役令嬢というのは知ってたけど、あんなに打ち解けているとは知らなかった。
結局生徒会加入が出来なかったから、ゲーム通りリュートとの出会いはできなかった。でも中庭で1人下を向いているリュートを見かけた時、これは大チャンスと声をかけたことがある。
『なにかお困り事ですか?私で良ければ聞かせて下さい。前から心配していたんです。パンドュース先輩はなんでも自分1人で抱え込んでしまうように見えたから。だから、何を言われてもあなたの力になりたいんです!』と。
『困ってることなんかなにもないから気にしないで。』
『そ、うですか。それならいいんです。』
『でもそうかぁ。まだ僕はそんな風にみえるんだね。だいぶ自分の考えを表現できるようになったと思ってたんだけど。』
『え!?』
ヒロインの言葉にリュートは救われるはずだった。言葉をかけたヒロインに、リュートは少し涙をみせながら『ありがとう』と伝えてくるはずだった。なのに、なぜ…
結局その日はリュートの好感度を、上げることには失敗してしまったのだ。そうなると、もうどう好感度を上げたらいいのかが分からないから、リュートと関わることは避けるようにしていた。
リードに関しては…うん範囲外だ。マティスよりは好きだけど、リードが相手だと絶対伯爵は、納得しないし。
「やっぱりグレンがいい。」
元々私のイチオシはグレン。逆ハーなんて狙ってないし、グレンさえ手に入れば、世界一の幸せ者だ。本当にこの世界にこれて良かった。
「絶対諦めないんだから!」
今度こそ幸せになってやる。いや幸せにならないといけないのだ。なんていったって私はヒロインなんだから。




