40.悪役令嬢と王子の誘い
「王子は街にいくご予定はありますの?」
「いきなりですね。どうしてですか?」
「何となくです。」
「今のところ予定はありませんが。それはお誘いの言葉として受け取ってても?」
「ないのならいいのです。変なことを申しました。」
ノアとの付き合いはかれこれ8年ほどになるが、いまだにノアの考えていることは分からない。一緒に出かけようと言う遠回しな誘いかと思ったけど、反応的に違うようだ。
「では、これで失礼します。王子。」
「もう行くのですか?」
「えぇ。これから王妃教育ですもの。王妃様を待たせる訳にはいきませんし。」
結局15分程しか一緒に居られなかった。久しぶりにあったというのに。
「この前は王妃教育の後、妹や弟とお茶をしたらしいですね。今日は僕と一緒にお茶をしませんか?美味しいお菓子も用意しますし。」
「申し訳ありません。エミリー様にお誘いを受けておりまして。」
どうもノアは僕の家族から圧倒的人気を得ている。父上ですら、この前ノアと一緒に何とかしたのだと誇ったように自慢してくるのだ。母上もノアを相当気に入っていることは明らかだし。嫁姑問題は気にする必要はないし、結婚を反対されることも絶対ないから安心なのだが、たまに言いたくなる。いや既に1回言ったんだった。ノアは僕の婚約者なのだと。
なのに夏休みに入ってからは、僕が1番ノアに関わる時間が少ない気がする。僕も王太子としての勉強や色々すべきことがあり、お互いの時間が合わない時が多いことが原因だけど。でもたまに合う日くらい僕との時間を優先してくれても。
いやいやいやノアに断れる訳がないのはもちろん分かっている。相手は王族だ。いくら気に入られているとしても、ノアの方から王族への誘いを断れるはずがないのだ。いや、でもノアなら嫌ならハッキリ断りそうだな。
「エミリーには僕が話を付けておくから。ダメかな?」
「私が断る理由はございませんわ。王子。エミリー様方に納得していただければ私はいうことはございませんもの。」
「方というと?」
「お約束したのは、王妃様とエミリー様とルドガー様と陛下でいらっしゃいます。」
「…」
ノアが王妃教育を受けている間、エミリーとルドに今日のノアとの時間は譲れと言ったものの中々納得することはなく、結局王妃教育が終わったあと母上に泣きつくような形となってしまった。母上は母上で、僕の味方をすることもなく、『皆でお茶をすればいいじゃない』といい、結局その日はノアと二人で話すことは出来なかった。
「ん?お前は呼んでいないぞ?グレン。」
母上達とのお茶会から2時間後、父上の側近に呼ばれ客室に案内された。そこにはドカッと、国王でもある父上が既に座っていた。
「父上。ノアは僕の婚約者です。婚約者と一緒にいるのは当然でしょう。第1なぜ父上が…」
「ワシもそこまで暇じゃない。やりながら話そうか。」
「本日もよろしくお願い致します。」
机には盤が既に置かれており、2人で黒と白の駒?を持って何か初めていた。ノアにこれは何かと尋ねると「これはオセロというのだ。」と自慢げに何故か父上が答えた。
どうやら黒か白か、最初に互いの色を決め、相手の色を自分の色で挟めれば、駒を裏がえすことで自分の色に変えることができ、最終的に自分の色が多いものの勝利となるらしい。
「今回も私の勝ちですわね。」
「うーむ、参った。流石だな。ノアよ。」
「恐縮です。」
「初めて見ました。こんなゲームがあるだなんて。」
なにより表と裏で色が変わるというのが面白い。
「ノアが考えたそうだ。」
「それは…凄いね。今度僕にも教えてくれませんか?」
「勿論です。」
「このゲームは簡単なルールだが、頭を使うため奥が深い。新しいゲームとして流行るに違いない。いや流行らせてやる。ノアの名前も全国的に出してな。」
「陛下、ゲームが流行るのは嬉しいことですが私の名前を出すことは…」
「王太子妃の名が広がることはこの国の安泰を表す。そう思わんか?皆は優秀な王太子妃の存在に安心すると思うがな。」
「はぁー。」
「今度は、負けぬ。また勝負をするぞ?」
「私も全力を尽したいと思います。」
王妃教育もこなしながらいつの間にかノアは、こんな新しいことを考えて…やっぱりすごいな。
※※※
「申し訳ありませんでした。折角お誘いいただいたのに。」
「いやノアには僕の家族が迷惑をかけてばっかりで申し訳ないよ。」
「いえ、そんな。」
「ノア、今度街にお出かけしませんか?」
「…王子は、忙しいのですから私のために時間を割いてくださらないで結構です。」
「僕がノアとデートしたいんですよ。」
「デ、デ、デート!」
「ノアは嫌ですか?」
「嫌だなんて、そんな恐れ多い。」
「また手紙を送りますから。では気をつけて。」
「は、い。」
馬車はゆっくりと出発し王子の姿が見えなくなると、三角座りをした。前世では慣れ親しんだ、この格好。行儀が悪いので決して人前ではやらないが、この空間にいるのは1人、問題ないだろう。
「デートって言葉、存在するのね。」
前世では無縁だった言葉をかけられ、ドキドキが止まらないノアであった。




