31.ー閑話ーユランの決意
『偉いわねーーーちゃん。』
『どう、美味しい?そう、ならよかった。』
『よしよーし、怖いことなんてなにもないからね。』
ご飯もくれたし、暴力なんて振るわれたことはなかった。怖い夢を見たら頭を撫でてくれて傍にいてくれたし、褒めてくれた。だから、愛されてるのだと思っていた。自分は望まれていた子のだと。
『たったこれだけなの?はぁー、まぁ仕方ないわね。じゃあこれでいいわよ。じゃあ元気でね。ーーーちゃん。』
まさか、売られるとは思わなかった。それも8歳の誕生日に。だって売られる直前でもあの人はいつものように笑っていたのだ。だからこれは悪い夢だと思っていた。
早く起きないと。起きたら、また頭を撫でながらあの人は抱きしめてくれる。
結局それは現実で、あの人は僕を捨てたということに気づくのはだいぶ時間が経ってからだった。
※※※
「はっ!」
またあの時の夢をみていたようだ。最近はみることはなかったんだけど。
「バカみたい、だよな。俺。」
俺は捨てられた。その事実を受け入れられず、あの人をずっと思っていた自分は、愚かで殺したいくらいだ。
「大丈夫?」
「ノア、様。なん、でここに。」
ここは使用人である俺に貸してくれた部屋。まさかノア様がいるとは思わなかった。
「お見舞い。こんな時間じゃないとメイド達は絶対入れてくれないもの。体調はどう?」
体調、そういえば風邪を引いてたんだっけ。今朝の体調は最悪で、体が怠く気分が悪かったことを思い出した。窓の外は暗く、部屋からは月が見える。となるともう夜も遅い時間帯だろう。結構長いこと眠っていたようだ。
「だいぶ、良くなりました。ご心配かけてすいません。」
「ううん、ユランが元気になればそれでいいの。今日ね、お庭の綺麗なお花を貰ってきたの。だからこれユランにと思って。」
小さい瓶の中いっぱいに黄色や赤、ピンク色の小さな花が咲き誇っていた。確かに綺麗だ。
「ありがとうございます。でもうつると危ないのでそろそろ部屋に、」
ノア様はベッドに上がってきて、そして、頭を優しく撫でてくれた。
「ユランは本当に頑張っているわ。」
「ノア様。」
「もしまた怖い夢をみたら私が起こしてあげる。だからもう大丈夫よ。」
一筋ポロッと零れたかと思うと、次から次へと涙が溢れでて、止めようとしても止められない。
「そんなに嫌だった?」
「いえ、、す、ごくうれ、しくて。あれ、おかしいです。なみだ、が、とま、んない。」
結局涙は止まらず鼻水もでて、顔はグチャグチャになってしまったけど、その間ノア様はずっと、優しく笑いながら頭を撫でてくれた。
最初は仕事に困らないようにするためだった。孤児で学力もないやつなんてなかなかいい職につくことは難しい。侯爵家で執事としての仕事を覚えたら、箔も付いてどこへでもやってけれるだろうと。でも…
「俺、ノア様を守れるような執事になります。ノア様と傍に居られる期間ギリギリまで俺がノア様を守ります。」
ノア様に助けて貰ったことはあんまり詳しく覚えていない。でも自分より2つも下の女の子が大の大人2人に対し、剣を向けてでも俺を守ろうとしたことだけは覚えている。忘れられるわけがないのだ。
ノア様が王子の婚約者で、次期王妃になることは知っていた。いずれ手に届かなくなる存在だということも。けれどそれまでは…
「ありがとう、ユラン。ユランが居れば心強いわ。でも無理はしちゃダメよ?」
「は、い。」
結局その日は俺が眠るまで手を握ってくれた。しかも、ノア様もそのまま眠ってしまい、翌日俺の様子を見に来たメイドに見つかってしまい、メイド長と旦那様に怒られてしまったことは言うまでもない。まぁ旦那様の方は、ノア様が涙目で「反省している」といえば「ならいい」とすぐ終わったのだがメイド長にはその手は通じなかったらしく、2時間たっぷりお説教を食らっていた。




