30.悪役令嬢とグレンの気まずい帰り道
「やぁ、ノア。俺も久しぶりにマルベスに会いにきてたんだよ。そしたら、ノアも来てるっていうから。一緒に帰ろうかなと思って。」
突然のことに驚きつつも、大きく深呼吸を1回して、落ち着かせる。
「それならもっと早く教えてくれれば良かったのに。びっくりしたじゃない。グレン。」
「ごめんごめん、あまりに楽しそうな声が聞こえたから、後でいいっておばさんに言ったんだ。」
「そうなの。お気遣いありがとうね。」
マリちゃん家より少し離れた人気のないに馬車が来ているそうなので、その道を2人並んで歩く。確かにおかしいとは思ったのだ。いつもはユランが呼びにくるのに、今日はおば様だなんて。まさか、こういう理由があったとは。
「ノアも一言教えてくれれば、一緒に行けれたのに。」
「まさか、グレンがマルベスさんに会いに行くとは思わなかったから。ごめんね。」
「よぉ、ココノアちゃん。今日はもう帰るのかい?」
「そうなの。そろそろ帰らないと怒られちゃう。また遊びにくるから。」
「そりゃあ楽しみにしてるよ。隣の彼は、もしかしてもしかすると。」
「もうおじさんったら、同じ仕事仲間よ。前から気になってみたいだから、連れてきただけ。変な噂流さないでよね。」
「はいはい、じゃあまたね。」
「うん、また。」
八百屋のおじさんが立ち去ると、今の状態をどう説明しようかと考えていた。
「あ、あのね。私、あるお貴族様のメイドをやっているの。だから、えっと、その。」
「ココノアっていうのは?」
「えっと、マリベナさんからアドバイスもらって。でも馴染みないものだと自分の反応しにくいから。似た名前を持つ方から少し借りてて。」
そう、ココリアのリをノに変えることで、自分らしさを残しながら他の名前が出来るということを知った時はなんとも言えない嬉しさがあった。もし、ココリアと平民としてくる事があれば姉妹として振舞おうと思うくらい。
「凄く街に馴染んでるんだな。」
「マリベナさんが色々教えてくれるから。」
「俺もココノアって呼んでいい?」
「うん。」
「それなら、俺も少し変えたほうがいいかな。」
「いや、グレンはそれでいいと思うよ。」
何しろグレンは割と広く使われている。この国の英雄の名前だから、希望を込めて名付ける親が多いのだ。
「そうかなー。まぁ考えておくよ。」
そういいながら、さりげなく手を繋がれた。一瞬ドキッとしたものの、顔に出すのはなんか嫌だから、平静を装う。
「そういえばさぁ、なんで最近俺を避けてるの?」
「私が貴方を?そんな馬鹿なことある訳ないでしょ。色々用事が重なって断ることが多かっただけで、避けてなんかないわ。」
いや、嘘だ。歓迎パーティーの後から、私は王子を避けている。お昼や放課後に誘われることは何度かあったけど、全てやんわりと断った。
どうせ歓迎パーティーの日から、ヒロインとの距離はさらに縮まり、ヒロインへの関心も高まりつつあるのだ。一緒にいて、私とヒロインを比べられたりなんかしたら、たまったものじゃない。
「そう、僕の勘違いなら良かった。じゃあさ、もう1つ。最近、ココノアがカティー嬢とすれ違う度、足を引っ掛けてるっていう噂が流れているらしいんだけど。」
「あぁ…だってあの子気に入らないだもの。」
「どうして?」
「最近まで平民だったくせに一緒に通うなんてありえないわ。それに、みていて腹が立つのよ。礼儀も無さすぎるし。同じ貴族だと思いたくもない。」
さすがに、今の発言は音量を落とす。ここは街中なのだ。もし、知り合いにでも聞かれてしまったら、2度と仲良くしてもらえない気がする。それは嫌だ。せっかく慣れてきたのに。
「ココノア、カティーは、まだ慣れていないだけなんだ。今本人は、必死で努力してるし、もう少し長い目で見てあげてくれないかな。」
「…考えておくわ。」
やっぱりそうだ。王子はヒロインに惹かれ始めている!ちょいちょいゲームと違う部分があったからどうなるかと思ったけど、これなら大丈夫だ!
それにしてもイジメの内容をこんな初期で知ってるものなんだね。ヒロインが断罪前に泣きついてから全てを把握するのかと思ってたけど。
まぁ結構人通りのあるところで色々やってくれてるからしょうがないか。
あの会話のあと、気まずい雰囲気が漂い、王子も話しかけてくることもなく黙ったまま辺りの景色を眺めていた。でも繋いだ手は学園に着くまで離されることはなかった。




