26.ー閑話ー悪役令嬢ともう1人の悪役令嬢
ヒロイン登場前に戻ります|ω`)
私の名前は、カルアラ=バレンタ。バレンタ侯爵家の3番目の娘である。私には好きな殿方がいる。それは…
「グレン様ー!」
「あのね、マティス。大きな声で呼ぶのはやめて欲しいんだ。他の皆も萎縮してしまうかもしれないし。」
「ん?何故だ?」
「はぁー、今言っただろう。もういいよ。で、何の用かな。」
「一緒にお昼をと思ったんだが、迷惑だっただろうか。」
「あぁ、ううん。食べようか。」
「はぁー、グレン様と同じクラスなら、手間要らずなんだがな。」
「勉強したら来年は同じクラスになれるんじゃないのか。」
「勉強は苦手だ。」
「知ってるよ、マティスの勉強嫌いは。」
マティス=クロノワール様。王宮騎士長のご子息であり、タリスミア様とも仲が良い。勉強は苦手なようだが、剣術の腕は大人顔負け。
(はぁ~すてきっ。)
あの真っ直ぐな瞳で見られたら、はぁ~もう、死んでもいい♡
見つめるだけで十分だけど、1回くらいお話してみたいわ。今年で、卒業だもの。卒業したら姿をみることも出来なくなるもの…
1つ下であるマティス様とは2年間同じ学園に通えるはずだった。なのに、マティス様はタリスミア様と同じ学年となるため1年遅れて入学してきた。友人思いのマティス様は、やっぱり素敵だけど…でもそのことを知った時は、1人泣いてしまうくらい悲しかった。
「クロノワール様。」
「ノア嬢、どうかしたか?」
「あら。王子もご一緒だったのですね。」
「これから昼食を取りにいくんだけど、ノアもどうですか?」
「申し訳ございません。トルカが待っていますので。」
「それは残念です。ではまたお誘いしましょう。」
「楽しみにしております。クロノワール様、カルク先生がクラブの事でお話があるそうなので、昼食後に来て欲しいと仰っていました。」
「うむ。分かった。わざわざすまないな。ノア嬢」
「いえ、急なご様子でしたので。ではこれで失礼致しますわ。」
(ノア=パンドュース!!!)
タリスミア様という素敵な殿方がいるくせに、放ったらかしにして、マティス様にちょっかいかけて!!!許さない。
※※※
「それでね、トルカ、実は。」
いつものように、トルカと学園内でお弁当を食べていた時のことだった。
「あーら、手が滑ってしまいましたわ。申し訳ございません。」
「きゃー、ノア様のドレスが。」
「トルカ、大丈夫ですわ。バレンタ先輩でいらっしゃいますよね。このくらい大したことはないですわ。気にしないでください。」
「そう言ってもらえると助かりますわ。」
水だし、黒色のドレスだからあまり目立たないし、すぐ乾く。しかし、手が滑るは絶対嘘だ。元々人通りがないところを選んでいるのに、そこに1人で現れるなんておかしいし。まぁ、大体原因は分かってるけど。
カルアラ=バレンタ。バレンタ侯爵家の3番目のご令嬢。そして、マティス=クロノワールとリード=カルクルートの悪役令嬢なのだ。
だから、マティスかカルク先生のことで私に嫉妬しているに違いない。いやー、まさか私に矛先が向かうとは思わなかった。私はそれほどその2人に親密な態度をとった覚えがないから。まぁ、マティスは同じクラブだし、カルク先生はクラブ担当教師だし、その前に担任教師なのだ。関わるなというほうが無理なのだ。
(私としては同じ悪役令嬢同士、仲良く慣れたらと思ってたんだけどな。)
それから、3日間。地味な嫌がらせが続いた。廊下でぶつかられたり、遠くから睨まれたり…
ゲームでは、周りの取り巻きに命令し、もっと過激なことをやるんだけど、こんなんでも私は侯爵令嬢。あからさまなことは出来ないからだろう。同じ階級同士なのだ。そんなことをすれば、お父様も出てきて貴族同士の争いとなる。さすがに、それは分かっているのだろう。
「そこまで分かっているなら、最初から手を出さなければいいのに。」
迷惑甚だしい。でも理屈と思いは比例ではないことは、悪役令嬢である私がよく知ってる。
※※※
「ノア、バレンタ先輩になにか、嫌なことされていませんか?」
「…心配してくれているのですね。ですがご心配無用ですわ。嫌なことなど何一つ。バレンタ先輩は不器用な方ですから。」
「そう、ですか。なにかあったら必ず教えてくださいね。」
「もちろんです。」
トルカも王子も心配症だな。どうせ大したことはできない…と思っていた馬鹿な自分を殴りたい!!
ある日の放課後、着替えて剣術クラブに向かう途中のこと。少し離れたところにある令嬢の更衣室に行き、動きやすい服に着替えたあと、クラブへと廊下を足早に向かう。その際、誰かに後ろからぶつかられ、拍子に階段から落ちてしまった。
「あっ!」
遠くで誰かの焦った声が聞こえたけど、顔や姿を見ることは出来ず、強い衝撃のもと意識はなくなった。
※※※
「んん、」
「ノ、ノア様!大丈夫ですか!!」
「ト、ルカ?う、いたっ。」
「あぁ、あまり無理をしないでください。覚えていますか?階段から落ちてしまって頭を…」
「階段?あぁ。」
だんだん思い出してきた。
「ノア様!本当に良かったです!!」
「ユラン、なんでここに。」
「お嬢様が階段から落ちたと聞いて、いても立っても居られなくなって。」
「そう、心配掛けたわね。私は大丈夫だわ。」
「ノア…ノアが言うから放っておいてきましたが、さすがにこれは許せません。バレンタ先輩を」
「バレンタ先輩がなにかしたとは。」
「青ざめ、足早にバレンタ先輩が去るところをトルカ嬢はみていました。バレンタ先輩に気を付けていたトルカ嬢が不審に思い、バレンタ先輩がきた道を戻ると貴方が倒れていたのです。これは証拠にはなりませんか?もし証拠にならなくても、同じ生徒が倒れていたことを見ておきながら無視したことになるんですよ。分かっていますか?」
「顔は見えてません。だからバレンタ先輩とは。」
「そのバレンタ侯爵令嬢が原因なのですね。わかりました、ノア様に知られることなく粛清を。」
「ユラン、聞こえちゃってるから。とりあえずなにもしないで。はぁ、なんでココリアじゃないのかしら。」
「ですが!」
「皆さんが心配してくれるのは嬉しいですが、本当に不注意ですので。なにもありませんから。」
トルカも王子もユランも不服そうな顔しているけど、なにもするなと皆に釘を刺しておいた。
私は、悪役令嬢。このまま黙っている訳がない!
それにしてもここに、マティスがいなくて良かった。
もしいたら、更にややこしいことになってたに違いない。もちろん、このことは誰にも口外しないようと伝えておいた。
※※※
「あら、ごきげんよう、バレンタ先輩。」
「パ、パンドュース様。」
目を合わせることはない。それに、いつもと違ってオドオドした態度だ。
「そう言えば、聞いてください。この前、階段から落ちてしまったのです。」
「そ、そうなのですね。それは不幸な。」
「誰かに後ろからぶつかられた覚えがありますの。勢い余って階段から落ちてしまいましたの。」
「へ、ぇー。」
「酷い方もいますわよね。謝罪の言葉ももらっておりませんの。バレンタ先輩も気をつけたほうがよろしいですわ。」
「えぇ、気を付けないとですね。」
「バレンタ先輩は、クロノワール様を好いていますよね。」
「な、な、なにを。」
「私、階段から落ちる前に誰かの声が聞こえましたの。あれはバレンタ先輩の声でしたわ。」
「ち、違います。」
「例え違うとしても、私はクロノワール様と仲がいい。今のことを伝えるだけで、クロノワール様はバレンタ先輩のことを最低なご令嬢と思いますわ。」
「そんな…」
「たとえ話しかけても笑いかけられることは2度とないでしょうね。むしろ、もう近づくなと冷たい目で見られるかも。クロノワール様は真っ直ぐな方ですから、非人道的なことを嫌いますし。」
まあこれは嘘である。非人道的なことを嫌う真っ直ぐなマティスだが、騎士として、男として、女性には紳士的に接しなければいけないという父親の言葉を忠実に守っている。いくら私がなんと言おうと冷たい目をするとは思わないし、第1自分の目を信じるマティスのことだ。王子ならともかく私がなにをいっても信じないに決まってる。
「…」
「で、なにか私にいうことは?」
「ほ、本当に申し訳ありませんでした。私がパンドュース様にわざとぶつかりました。今までのことも全てわざとです。婚約者がいるにも関わらず、クロノワール様に近づくのが許せなくて…許して、下さい、なんてことは言いません。パンドュース様が望むのであれば退学も貴族の名も返上致します。未来の王妃にする行動ではなかったと反省しております。ですが、最後にクロノワール様と1回、お話を…」
「退学や名の返上なんて、そんなことは望んでいません。謝っていただいただけで十分ですわ。」
「え?」
「例え身分の低いもの相手でも、2度としないでくださいね。貴方の行為は命に関わるものです。返事は?」
「は、はい。」
「では、一緒にお茶をしましょう。同じ剣術クラブでの話し合いもあるので、クロノワール様もご一緒ですがよろしいですか?」
「え!いや、あの…」
「さぁ行きましょう。」
バレンタ先輩は顔を真っ赤にして、しどろもどろの受け答えをしていたけど、マティスが気にしている様子は勿論ない。当の私は若いなぁと傍目に見ていた。




