25.悪役令嬢、注目を集めるのが苦手です
「ん、ん。よく寝たー!」
体のダルさもなくなったし、もう治ったかな。
「こんな気分のいい日はお散歩するのがいいんだけど、屋敷じゃないから出来ないか。残念」
トントン
「お嬢様、失礼致します。おや、お早いですね。」
「そうなの、目が覚めちゃって。体調はいいのよ。」
「そうですね、熱も下がったようですし。学園にも行けそうですね。そういえば、昨日タリスミア様が来られましたよ。」
「王子が?」
「はい、放課後のことです。ぐっすり眠っていらっしゃたので起こしませんでしたが。」
「そ、う。なんて?」
「お見舞いにお花と、お菓子を持ってこられました。こちらがそのお花です。」
「まぁ綺麗なお花。」
オレンジ色の小さなお花が、カゴの中に沢山入ってて可愛らしい。
「大したことない風邪なのに、申し訳ないわね。」
「婚約者なら心配するのは当然ですよ。」
「そういうものかしら。」
まぁ冷静沈着な王子のことだから、婚約破棄するまでは私のことを蔑ろにするなんていう愚行はしないと思ったけど。本当にそうっぽい。
「まぁいいわ。学園にいく準備をするわ。手伝いなさい、ココリア。」
「かしこまりました。」
※※※
「ノア様!体調は大丈夫ですか!」
「えぇ、問題ないわ。心配かけたかしら、トルカ。」
「ノア様が大丈夫なら良かったです。」
「元気そうで安心しましたよ。」
「あら、おはようございます王子。昨日はお見舞いありがとうございました。お花嬉しかったです。」
「喜んでいただけなら良かったです。ノア、今日のお昼は一緒に取りませんか?」
「お誘いありがとうございます。私でよければ。」
昼食の時間。トルカには申し訳ないけど王子とお昼を共にすることを伝えた。もちろん、その光景をみていたトルカは快く送り出してくれた。本当に良い友人を持ったものだ。
友人といえば結局昨日思い出せそうだった、プリンを持ってきてくれた女性のことは思い出せなかった。今となってはどんな女性だったか顔もうろぼえ。でも多分、前世で唯一私を味方をしてくれたのはあの子に違いない。もう少しで思い出せそうだったんだけどなぁ。
「ノア?」
「すいません、少しぼぅーとしていましたわ。」
「体調が悪いなら、早退を」
「そこまでではありませんから、お心配おかけしました。」
さすが貴族の通う学園の食堂。高い金額だが、それなりの美味しさはある。だけど、私はあまり食堂を利用することはない。あまり人が多いところが苦手なのだ。利用すれば、一応王子の婚約者だから人目を集めてしまうし、緊張して美味しさも半減してしまう。だからこそ、通常はトルカと共に学園のどこかでお弁当を食べている。
トルカは学園での費用を全てヒンドュー伯爵に払ってもらっているから、ヒンドュー伯爵がいいと言っても、迷惑は最小限に抑えたいという理由もあった。
ちなみにヒンドュー伯爵とは、トルカの婚約者である。
お互い利害が一致しているため、ユランに作ってもらっているお弁当を、トルカと一緒に食べているのだった。
もちろんユランの料理の腕は流石である。もう執事をやめてシェフとして働いても十分な程。
「そう言えば、いつもトルカ嬢とお昼はどこに行かれてるんですか?食堂でみたことがあまりないから気になっていたんですよ。」
「あら、私だって食堂を利用するんですよ。この前はクロノワール様とどこかのご令嬢と3人仲良くお食事していましたわよね?」
「あぁ、カティー嬢のことですか。妬いているのですか?」
「王子が愚行をしないか心配なのです。」
「そればかりですね。」
「次期王妃としては当然の心配ですわ。先程の質問ですけれど、私とトルカは、基本的に学園内の人気の少ないところで、お弁当を食べていますわ。」
「お弁当ですか。」
「えぇ、ユランは料理の才もありますの。」
「なんでも出来ますね、ユランは。今度僕も混ざっていいでしょうか。」
「王子に出せるほどではありませんよ。ですが優秀な執事を持って幸せです。王子には感謝もしてるのですよ。ユランを傍に置くことを許して下さって。」
本当はこの学園に連れてくるのはメイドだけだった。執事といえど男なのだ。年頃の男を年頃の女の近くに置くということは、普通なら有り得ない。父や兄に反対だってされた。でもあのユランが父に反論してまで、ついて行く事を願ったのだ。どうしてもとお願いするユランを見ていると、私もなにかせずには居られなかった。
『王子、一生のお願いがありますの。どうか、きいていただけないでしょうか。』
「今更ながら後悔していますよ。貴方とユランの間には、入り込むことができないのですから。どうせなら、初めて会ったときに僕の手元に置いていれば今頃優秀な執事を手に入れることが出来たんですがね。」
「ユランにとって私は命の恩人。それ以下でも以上でもありませんわ。第1、私が王妃になればもれなくユランもついて行きたいと望みそうですが。」
「それは盲点でした!なら僕は美しい妻と優秀な執事を手に入れることが出来るのですね。」
「ふふ、王子は本当に変わり者ですね。婚約者の近くに、例え執事でも男を傍に置きたくないのが世の常だと思っておりました。」
「僕でもその気持ちはあるんですよ、ノア。ただその気持ちと、この国を治めなければ行けない者としての義務を天秤にかけて選んでるだけです。それに婚約者のお願いは出来るだけ叶えてあげたいですしね。」
「そうですか。なら、この国を治める者としてどんな理由があっても私情を挟んだり、選択を間違えてはいけませんよ。」
「ノア?なにかありましたか?」
「なにもありませんわよ。さて、そろそろお昼時間も終わりです。戻りましょう、王子。楽しい時間でしたわ。」
「え、ぇ。」
入学してから、はや2ヶ月。色々と変わったことはあったけれど、大まかな流れに変更はない。そろそろイベントが始まる。そのイベントに向けて私も準備しなくては。
ここからが悪役令嬢ノアの見せどころよ!!




